2024年現在、世界的に市場の不確実性が増すなかで、多くの企業でマーケティングの強化が命題となっています。
とりわけ、BtoB領域においてはこれまで得意としてきたコールドコールをはじめとするアウトバウンドマーケティングから脱却した、インバウンドの取り組みの重要性が認識されつつあります。
近年は、MA(マーケティング・オートメーション)をはじめとするデジタルツールの発展に伴い、インバウンドの引き合いに繋がるコンテンツ配信の効率性も大きく向上しています。
しかし、インバウンドマーケティングは一朝一夕で成果に繋がるものではなく、多くの企業で「リソース・ノウハウが足りない」「思ったよりもリードを獲得できない」などの理由から、コンテンツ配信が続かないケースが散見されます。
そこで今回は、当社マーケットワン・ジャパンが2021年から3年以上にわたり毎週のブログ記事配信のための「新規コンテンツ作成」「メルマガでの配信」を続けたなかで得た知見も活かし、コンテンツ配信を成果に繋げるための重要ポイントを解説します。
目次
コンテンツ配信は「継続がすべて」
アウトバウンド vs インバウンド – 両利きのBtoBマーケティング施策の考え方で解説したように、インバウンドマーケティングは、有益コンテンツを継続的に提供することで自社への問い合わせを増加させる施策です。
インバウンドマーケティングを効果的に展開するには、見込み顧客に対する「質の高いコンテンツ」の継続的な提供が求められます。例えば、当社では「インサイト記事の作成→メルマガでの既存顧客へ提供」という形で配信しており、配信日自体は「毎週木曜」と明確にルール化しています。
これは短期での商談化を目指す取り組みではなく、 “keep in touch”で顧客と長期的な関係を築くことが目標となります。
BtoBビジネスで必要な「ナーチャリング」の2つの目的思考でも解説したように、BtoBビジネスでは顧客のニーズが高まった際に「自社を1番に想起してもらう」ことも大切です。
質の高いコンテンツを定期的に、ブランディングに繋げつつ、想起してもらえる可能性を高められます。
しかし、コンテンツごとの質にこだわり過ぎると「コンテンツを作成して、配信に至るまでの期間が長期化してしまう」という状態に陥ります。
そこで有効なのが、「Quick and Dirty」のアプローチを採用し、既存のブログプラットフォームを活用しながら、迅速な情報発信と市場ニーズの把握を並行して行う戦略です。この方法なら、市場からのフィードバックを基に継続的な改善を図れます。
どのようにコンテンツを生み出し続けるかでも述べていますが、コンテンツ発信において「最初の一歩」を踏み出せない企業は少なくありません。
筆者の経験上、初期段階では「コンテンツの質を追求しつつも、過度に高いハードルを設定せず、機動力を重視した発信を行うこと」が求められます。
その上で持つべきなのが「継続がすべて」という意識です。成果は一朝一夕には現れません。たとえ短期的な成功があったとしても、それは偶発的なものに過ぎない可能性が高いのです。
真の成功を収めるには、定期的かつ一定の頻度でコンテンツを“配信し続けること”が求められます。習慣化することで「配信を落としてはいけない」という組織文化も醸成されるものです。
「今回は省略しても大丈夫」という考えは、マーケティング活動において致命的です。一度中断してしまうと、開始前の状態に逆戻りしてしまいかねません。
「全てをやる」のではなく「継続可能なことをやる」
一方で、継続的なコンテンツ配信の計画を立てたものの、途中で挫折してしまい、施策がストップするケースは多々あります。
それを踏まえると、継続を実現するためのコツは「継続可能な活動を選択する」ことといえます。
製造業で「メルマガ配信」が有用な理由と、踏まえておくべき前提意識とはでも言及しましたが、たとえ顧客の興味に完全に合致しないコンテンツであっても、配信を続けなければ顧客の反応を得られず、成果にも繋がりません。
そのため、「何なら継続できるか」を見極め、それを戦略的に選択することが肝になります。 言い換えると、ここでは「継続できることは何かを見極める」こと自体が戦略です。
例えば、これから自社マーケティングを行っていこうとしている企業が「週に1回のブログ投稿」「月に1回のウェビナー開催」の両方を検討している場合、リソースの制約を考慮し「当面は週1回のブログ投稿に絞る」と選択するといった形です。
継続可能な活動を選択する際は、運営メンバーの知見やスキルを活かせるコンテンツを検討することも大切です。実際に、マーケットワン・ジャパンのブログ記事は顧客ニーズに寄せつつも、各メンバーのノウハウを活かせる選定しています。
「まずは続けられるやり方をみつけること」に軸足を置く場合、施策の着手直後から内部できちんとした運用体制が整っている必要もありません。
マーケティングの内製化はどのように進めるべきか?にもあるように、マーケティングの内製化では、「自社で取り組むべき領域」と「外部に依頼すべき領域」を適切に判断し、ときにはアウトソースを頼るのも手段の1つです。
自社リソースのみで対応できない場合は、記事の推敲、編集などを外注することも有用です。これにより、社内リソースが乏しい状況でも、一定のペースでのコンテンツ作成が可能となります。
さらに、外部人材の持つ知識やインサイトが加わることで、自社内にマーケティングノウハウも溜まっていくという恩恵もあります。
このように「まずはコンテンツ発信を継続すべき→そのためにはどのような戦略を採ればよいか?」という思考を持つのが大切なのです。
継続は「顧客ニーズの検証」とセットであることが重要
数年単位の長期スパンでコンスタントに活動する施策の場合、「できることを全てやる」のではなく、「求める成果 ×続けられるライン」の折衷案を初期に定義して、将来的な社内リソースの変動も視野に入れた上で戦略を決定することが大切です。
ただし、闇雲に「ただ続ける」だけでは成果に繋がりません。「インターナル・マーケティング」がマーケット・イン型の事業開発を加速させるでも解説しているように、ニーズはマーケティング活動よりも先に存在します。
自社マーケティングにおいても、長期的な取り組みのなかで常に顧客ニーズを仮説立てて、反応を検証し続ける。その上で、得られたインサイトをこれから作成するコンテンツに反映させていく必要があります。
つまり「顧客が知りたいこと」よりも「顧客が知るべきこと」の発信に注力することです。結果的に、自社のスタンスを明確にすることで、オファリングの差別化にも繋がります。
そのため、新規リードではなくまずは社内のコンタクト情報を集めるのも選択肢の1つです。これにより、既存の関係性を基盤としつつも、新たな価値を提供していけます。
加えて、「営業に手渡すリードを創出するためだけ」の施策やコンテンツ活用を避けることも大切です。もちろん、マーケティングとして営業に貢献しているという「納得感」を社内ステークホルダー向けに醸成させること必要でしょう。
ただし、こういったアプローチは既存の顧客にとっては「新しいやり方」であるため、短期受注は発生しづらいのが懸念点です。しかし、長期視点でみればBtoBマーケティングの専門家集団というブランディングに繋がります。
オファリングの差別化のために「とがったコンテンツ」を配信することは、マス受けせず「ターゲット層から読まれない」リスクも孕んでいます。そもそも新規の顧客層を獲得していきたいと考えていたため、そういった企業群からは「自社自体を知られていない」という状況にあることでしょう。
とはいえ、あえてマス受けを狙った「わかりやすい記事」にシフトしてしまうと、施策を継続したとしても大きな成果には繋がらない可能性があります。
新たな領域の顧客群を開拓していく上で、ある一定の顧客において「そのときは理解されないこともある」と割り切り、自社のスタンスを貫くことも大切なのです。
コンテンツ配信続けるとファンがついていくことは理解しつつも、自社・自身の伝えたいことが受けるとは限りません。
コンテンツ配信でMA導入が果たす意義とは
BtoBマーケティングではMA活用が主流になりつつありますが、MA導入はコンテンツ配信においても大きく貢献するものです。当社でも作成されたインサイト記事はメルマガで配信していますので、MAによる自動化・効率化を行なっています。
MA(マーケティングオートメーション)の全体像とは?自動化を成功させるための必要知識でも詳しく述べているように、MAでは「メルマガ配信」以外にも、「顧客データの分析」「他ツール」との連携により、煩雑なマーケティング業務の多くを自動化できます。
MAのアナリティクスを活用することで、個人名レベルで読者のニーズを推察できるようになり「読み手の顔が見える」状態が実現します。
顧客との距離もさらに近づき、よりリアルタイムに顧客ニーズを把握し、コンテンツ配信以外のマーケティング施策にも反映できます。
つまり、自身で「体感」した顧客からの反応や経験そのものをコンテンツとして発信できる土台を構築できるようになるのです。
インサイドセールスの成功率を上げるための仮説構築とは?では、深い関わりを持っていない顧客にアプローチする際には「顧客が何について興味があるのか?」「どこに課題を抱えているのか?」についての仮説構築が重要であると解説しました。
ことコンテンツ配信においてもそれは同様です。「とがった内容」を発信するとしても、それは決して顧客ニーズを捨てさるというわけではありません。
「顧客は◯◯について課題を抱えていて、◯◯の情報を必要としているはず」との仮説立てを行なった上で扱うトピックを厳選する必要があります。
MAで配信し続けることで、自ずとコンテンツ作成のペルソナに関する仮説に対する答え合わせができるようになります。このサイクルにより、よりよいコンテンツの追求が可能にもなっています。
加えて、直接的なリード創出だけでなく、間接的な貢献として顧客の意思決定を後押しする役割も果たし出します。
以上を踏まえて、「創出できたリードの数」「商談化数」といった定量的な評価だけでなく、顧客にとってのコンテンツの価値や位置づけも意識しましょう。
コンテンツ配信を継続する上では「型化」も有効
MAを使ったコンテンツ配信は目にみえる業務以外にも、会社が動けば動くほど他部門から「あれやって、これやって」の依頼が増えるものです。MA運用では、実務者しかわからない大変さ・設定の複雑さもあります。
そのため、専任者を設けて、リソースを集中させるというやり方では、どこかで運用体制そのものが破綻しかねません。
マーケットワン・ジャパンでは自社マーケティングに関わる業務全般を高度に「型化」しています。これにより、設定工数を減らしたり、入社後のメンバーも配信に携われたりするようになるため、属人的な運用を排除可能です。
例えば、MAで使う「テンプレート」「設定項目」を型として設定し、独自の運用マニュアルを作成することで、メンバーの入れ替わりがあっても対応しやすい体制を作っています。
型化で「適度な制約下で事業を推進する体制」を整えることで、リソースに限りがある状況下でも、創造性やイノベーションを促進できます。これは単なる効率性の向上に留まらないメリットといえるでしょう。
ただし、企業組織における「型化」は何を意味するのかでも解説したように、「型」は常にアップデートし続ける必要があります。
一度できた型は、あくまで「現状のベストプラクティス」に過ぎません。そのため、「自由に物事を行うためにある程度の型が必要」との思想のもと、時勢や自社の状況に応じて、よりよい方法に改善していくことが求められます。
2023年は、ChatGPTの登場でBtoBマーケティングの有り様が大きく変わったことも記憶に新しいですが、このようにマーケティング手法の有り様を見直すべきマクロレベルでの変化は往々にして起こるものです。
そういった環境変化に対応して、(そのほかの事業活動がそうであるように)マーケティング戦略のあり方も見直していかなければならないのです。
長期的な取り組みでは小さな改善、小さな成功体験を重ねていくことが大切
コンテンツ配信を続ける上で最重要な考えを整理すると「継続できるやり方を戦略的に選択すること」「顧客ニーズと向き合い続けること」の2点です。
特に、MAを通じて得られるデータは、「読者のニーズに関する仮説」を検証し、コンテンツを継続的に改善していくサイクルを確立しました。
同時に、MAの機能は「型化」とも相性がよく、これによりメンバーやリソースの変動があるなかでも一定のクオリティを保ちつつ、配信を続けられる体制も実現できます。
ゴールがみえず、社内向けに腹落ち感も醸成させなければならない長期的なマーケティングアプローチは、根気がいる取り組みです。
しかし、確固たる方針をベースに継続的に小さな改善、小さな成功体験を積み重ねていくことで、着実に成果は上がっていくでしょう。