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マーケット・インの事業開発では「顧客ニーズの理解」が必須
プロダクトアウト vs マーケット・インの対比軸は長年議論されています。
プロダクトアウトでは作り手側の意向が優先され、マーケット・インでは顧客のニーズを起点として製品開発が行われます。現代では、大量消費の「良いものをつくれば売れるプロダクトアウトは限界となり、日本ではマーケット・イン型の重要性が語られるようになりました。先が見通せないVUCA時代が到来したと言われる中で、各社では新規市場の開拓や新規事業の創出が求められています。
そのような時代において、新しいビジネスの確度をあげるために重要となるのが「顧客ニーズの把握」です。
コトラー・ケラー共著の『マーケティング・マネジメント』ではマーケティングは「ニーズ (必要性)」「ウォンツ (欲求)」「デマンド (需要)」の3要素から成り立つと説明されています。同著内のニーズの解説では、「マーケターがニーズを作り出すのではない。ニーズはマーケターより先に存在するのである」との文言が存在します。つまり、顧客ニーズは作り出すものではなく、把握・理解するものであると言えます。
一方で、同著では「顧客のニーズや欲求を理解することは必ずしも簡単ではない。ニーズがあってもそれをはっきり自覚していない顧客もいる。あるいはそのニーズを顧客が具体的に体現できない場合もあれば、顧客の言葉をうまく汲み取らなければならない場合もある」ともあり、それが容易ではない側面もうかがえます。
以上をまとめると「マーケティング活動の起点はニーズから始まる。一方でニーズを理解することは難しい」と言えるでしょう。
全社を挙げた「マーケティングへの取り組み」で課題解決を図る
市場ニーズを起点にして新規事業の開発を目指すのであれば、前述の“ニーズ把握の難しさ”を乗り越える必要があります。そのためにはマーケティング部門だけでなく、営業、製品開発など様々な部門が「マーケティング」への取り組みをすることが求められます。
“マーケット”の冠がつくマーケティングはもちろん、顧客と対峙する最前線の営業に加え、製品開発部門もニーズ起点の思考がなければ、ニーズ情報を取得したとしてもプロダクトアウト型の事業開発となってしまいます。つまり、会社を挙げた総力戦が必要なのです。
企業によっては、顧客情報に関するインテリジェンスが営業部門・営業担当内で完結して、部門間で共有されていないこともあります。CRMの普及でこのような状況が見直されつつありますが、顧客接点の情報の共有は非常に重要です。
開発品など事業化されていない製品に関しては、営業がつかない場合もあるため、製品企画や開発部門が直接接点を持つ必要も出て来るでしょう。
複数部門での顧客接点を機能させて、集めてきたニーズ情報などを共有する仕組みが必要となりますが、このような社内の活動も、広義の意味では「マーケティング」と言えるのではないでしょうか。
組織内マーケティングで重要な「インターナル・マーケティング」
マーケティングの取り組みの定義は広範囲に渡ります。それを理解する上で役立つのが「ホリスティック・マーケティング」の考え方です。これは“包括的なマーケティング”を意味し、マーケティング活動の範囲の広さと複雑さを認識した上で、融和を図るためのアプローチとして扱われています。
上図の内、全社を挙げて取り組むとの観点からは「インターナル・マーケティング」が重要です。この取り組みは、社内営業ならぬ「社内マーケティング」と言えるでしょう。
前述のマーケティング・マネジメントには「組織内のすべての人、特に経営幹部に、適切なマーケティング原理を理解させることである」と記載されており、インターナル・マーケティングを機能させるためには下記の2つの条件が求められるとのことです。
- 営業・製品部門・カスタマーサービスなどのマーケティング機能を内包する部門が協力し合い、顧客の視点から連携すること
- 他の部門もマーケティングに取り組み顧客視点に立つこと
とは言え、すぐに理想的な形でインターナル・マーケティングが成立するわけではなく、企業内でそのような文化を醸成させるためには、時間がかかるのも事実です。
インターナル・マーケティングを成立させるために必要な要素について、マーケティング“部門”の視点で考えると、取り組みを自部門で完結させるのではなく、他部門も巻き込んで推進していく必要があります。
同ブログ内の『BtoB マーケティングの理想と現実のジレンマ – 顧客視点 vs 自社視点 –』にも記載していますが、従来は営業だけが持っていた顧客接点の機能を見直し、分業体制に移行していく動きが昨今の日本企業には見られます。
分業体制に移行しようと考えている企業では、特に全社を挙げてマーケティングに取り組む必要があるでしょう。「社員全員がマーケティング思考を持つ」という言い方もできるかもしれません。
インターナル・マーケティングでは「特に経営層の啓蒙が重要である」とマーケティング・マネジメントでも述べられています。一部門のマーケティング活動を超えて、全社の取り組みとなる以上、現場レベルの改善ではやがて限界が来ます。その際に、取り組みを引き続き推進するためには、経営層のリーダーシップは必要不可欠なのです。
「トップがわかってくれない」との悩みは多くの担当者が抱えていると思われますが、「トップに理解してもらえるように努める」ことも立派なマーケティング活動と言えます。
日本企業では社内説明に時間をかける必要がある
インターナル・マーケティング推進では、まずは取り組みを社内で認知してもらう必要がありますが、その際に日本企業特有の文化がネックとなります。
一橋大学大学院の教授である山下裕子氏ら共著の『日本企業のマーケティング力』では「日本企業は組織プロセスを重視するため、事業部門などの機能部門にマーケティングの役割が分散されている傾向がある」と書かれています。つまり、会社によってマーケティングを担う部門がバラバラであり、求められる機能も各社で異なるのが現実です。
このように機能が各部門で分散されている状況では、そもそも「誰がどのようなマーケティング活動に取り組んでいるか」が認知されていないケースも多くなるでしょう。
社内マーケティングの取り組みをする上では、多くの部門の協力が必要になるため、そもそも認知されていないという状況は致命的です。
この問題を解決するためには、トップダウンでの発信が有効ですが、現場レベルでも取り組みをしっかりと社内ステークホルダーに説明し、理解してもらうよう努めなければなりません。「どんな活動をしているか」「それが自社ビジネスとどのように接続しているか」について丁寧に説明する必要があります。
さらに、取り組み内容だけでなく、作成したコンテンツそのものを顧客や実際に活用する営業に説明することにも時間をかけるなどの取り組みも有効です。インターナル・マーケティングは、こうした積み重ねによって、時間をかけながらも徐々に浸透していくものと言えます。
地道な活動がインターナル・マーケティング成功のカギ
さて、我々がこのような記事をブログに投稿しているのも「マーケットワンのマーケティング活動」と言えます。
弊社は無形商材を扱うため、その進行方法に属人性が生まれやすい傾向があります。顧客への提案内容やデリバリーにある程度の属人性が存在するのは前提としつつも、自社の更なる拡大を見据えるのであれば、そのコアとなる考えを言語化しておくマーケティング活動は重要な取り組みになります。
実際に、マーケットワンで社内マーケティングに取り組むために明文化したミッションステートメントには以下の文言があります。
“我々のサービスやそのもとになる価値観を社内に浸透させることも、サービス提供する上で重要になります。我々のメッセージやマーケティング活動内容を各チームに浸透させ、組織全体のマーケティングの理解を深めることも重要なマーケティング活動となります”
前述の通り、マーケティングはBtoBの文脈では「リード創出」「リードのナーチャリング」の軸をメインとして語られることも多いのが実情です。
しかし、顧客接点の構築だけがマーケティングの役割ではありません。社内でマーケティングに対する熱量が増していけば、結果的に顧客との向き合い方も変わり、顧客満足度や関係性の向上に繋がります。
こういった地道な活動を続けていき「社内をナーチャリングする」こともマーケティングの重要な役割です。インターナル・マーケティングでは、短期間で劇的に変化が実感できるというよりも、じわじわと文化として醸成されることの方が多いため、関係者の成果に対する期待値を調整することも重要になります。