2024年を迎えた現在、テクノロジーの活性化などにより、マーケティング運用が各所で高度化されています。
それはまさに「データを軸にしたマーケティング」の実施です。MA(マーケティングオートメーション)やSFA(セールス・フォース・オートメーションの導入と運用をはじめとして、さまざまなプロセスでデジタル化がなされています。
そのなかで、多くの日本企業は知識・ノウハウの内部蓄積を図るために「内製化」を求める傾向があるように見受けられます。
内製化自体は、自社にノウハウを貯めるという観点からは非常に重要です。しかし、それを実現する為には莫大な工数がかかってしまいます。
そこで本記事では、マーケティングの運用を内製化する上で求められる考え方について論考します。
マーケティングを内製化するメリット
まず大前提として、コンサルティング企業やベンダー企業に対してアウトソースしている作業を、自社で内製化することには、多くのメリットがあります。
いくつか代表的なものを挙げていきます。
そもそもとして、業務委託などの契約でアウトソースしている業務を社員で対応できれば、外注にかかるコストが削減されます。これにより、「自社→他社」へのキャッシュアウトがなくなります。 外部企業に委託すると、納期の調整やタイミングによって対応の可否が分かれることも珍しくありません。自社で対応できる領域が増えれば、システムのフレキシブルな変更やカスタマイズが容易になるでしょう。
加えて、コンサルティング企業やベンダー企業がどれだけユーザー企業の内情を把握し、長い関係性を持っていても、最終的な決断や社内での検討はユーザー企業の手に委ねられます。 マーケティングプロセスをすべて内製化できた場合では、自社の状況に合わせた柔軟な対応が可能になります。
そのようにして内製状態を維持し続ければ、やがてノウハウやデータを自社で一元管理することが可能です。 委託先の第三者側に蓄積される情報も含めて自社でセントライズ(集約)することで、各施策に対してよりデータドリブンで対応ができるようになるでしょう。
マーケティングノウハウに関しても自社内で横展開しやすくなりますので、マーケティング部隊の機動性・柔軟性がより向上していきます。
内製化の際に発生するハードルとは
一方で、より高度化された運用や施策を行おうと思えば、自社のみで内製化しつつ、専門的な作業を完結させる難しさも存在します。
現代の高度化されたマーケティングプロセスの内製化では多くの課題が存在しますが、特に「スキルを持った人材の獲得」が大きな争点となります。 多くのベンダーやコンサルティング企業は、各専門分野における事例やベストプラクティスを持ち合わせており、専門の人材をリソースとして抱えています。
これにより、用途に応じたプロジェクトの設計が可能です。
一方、多くの日本企業にとって、新しいマーケティングの取り組みは「これから進めていく領域」であり、自社での成功経験がない状況下でスタートするのが一般的でしょう。
確かに、グローバル規模で考えると、海外では雇用の流動性が高く、新しいプロジェクトに成功経験を持つリーダーやチームが他社に移籍することもあります。しかし、日本では雇用の流動性が低く、雇用規制が厳しいため、一度始めたプロジェクトに専門リソースを割くことのハードルが高くなりがちです。
このような背景から、人材不足が大きな課題となり、採用(あるいは育成)の面で追いつかないことが多くの企業で問題となっています。 実際、当社マーケットワン・ジャパンでも、マーケティング人材の確保に関する相談が多く寄せられています。
システム運用の側面で述べると、経済産業省の『DXレポート』でも、「システムに精通した人やプロジェクト・マネジメントできる人材が不足している」と指摘されています1。 例えばMAツール1つとっても、MA担当者がツール運用の“前提として”知っておくべき知識とは?で解説したように膨大な知識が必要です。
この必要となる知識量から、「新規採用」「自社社員の育成」のどちらも難しくなっているのが現状といえます。
マーケティングプロセスの内製化の勘所
結論をいえば、マーケティングプロセスは「一気に全てを内製化する」のではなく、徐々に進めていくことが重要です。
現代のマーケティングは踏まえておくべき事柄が多岐にわたり、プロジェクトごとの難易度や必要な工数に大きな違いがあります。そのため、全てを一度に手掛けると、維持管理の負担が増大しかねません。 その結果、当初の内製化の前提として、これまで問題なく出せていた「BAU(Business As Usual)」の成果ですら、創出できなくなる可能性があります。
そもそもとして、内製化それ自体が目的となってしまうケースもあるでしょう。
多くの日本企業で「内製化」をキーワードとして掲げている企業が存在しますが、その背景はさまざまです(例:「社内の育成の側面で知識を貯めたい」「アウトソースを削減しているコストを削減したい」など)。
しかし、「内製化で何を実現したいのか」自体を見失っている企業も少なくありません。
この場合、内製化にこだわることで、変化の激しいデジタル環境への適応が遅れる。あるいは、新しい技術やトレンドへの対応が困難な状況に陥ってしまいます。
そのため、内製化の領域をどう設定するかは、慎重に考慮する必要があるのです。
例えば、「データ運用」を自社内で完結させたいとします。その場合、データ整理の工数は相当なものになります。しかし、マーケティングデータの分析による示唆を得たいなら、分析自体をコア業務としてフォーカスし、一部の運用をアウトソースすることが効率的なアプローチになり得ます。
海外企業では、内製化が可能な領域で知識を持ちながら、工数のかかる業務はアウトソースするという戦略も採られています。
これは、人件費を含む総コストを勘定した上で、アウトソースと内製化のどちらがコストパフォーマンスに優れるかを評価するという狙いがあります。
例えば、 MarketOne International で公開されている事例をみると、シュナイダーエレクトリック社では、グローバルに年間約1万件のアセットを作成し納品する業務に対し、両社でプロセスを高度化しながら「ノンエラー率」が99.95%という高レベルでアウトソースしています。これにより、正確性を担保しつつ、効率的なプロダクションプロセスを実現しています。
アウトソーシングの大きな利点の1つは、ピーク時と閑散期の業務量に応じて稼働量を柔軟にコントロールできることです。
自社で人材を固定費として抱えるリスクには、閑散期に業務が少ないと、コスト面での無駄が生じてしまいます。これに対して、アウトソースを利用することで、稼働量を調整し、必要な時にのみリソースを活用できます。
「固定費ではなく変動費」として業務を管理できるため、柔軟なコスト管理ができるのです。特に変動が激しい業界やプロジェクトベースでの作業が多い企業にとって、この柔軟性は大きなアドバンテージとなるでしょう。
例えば、インサイドセールス業務で述べると、営業リソースが不足している際に、インサイドセールス側からリードを供給しても対応できる余裕が営業側になければ、投資対効果が下がってしまいます。 一方で、大規模イベントの後などは一時的にフォローが必要な顧客が増えるため、フォローが手薄になる可能性があります。この際、固定のリソースではなく、アウトソースを活用することは有効な選択肢といえます。
このように、「内製化のみ」にこだわるのでなく、効率的なリソース管理とコスト削減のため、アウトソースを適宜活用することも重要です。 このことからもわかるように、内製化の議論では「どの業務を自社で行い、どの業務を外部に依頼するか」のバランスを見極めて、必要な部分から進めていきましょう。
内製化において考えるべき要件定義
最後に、経済産業省の『DXレポート』においても強調されている要件定義の重要性について考えます1。
そもそもマーケティングにおける要件定義とは「ビジネス要件からシステム要件に具体化するプロセス」であり、プロジェクト成功の鍵を握る重要なステップです。
この段階ですでに高いレベルのビジネス理解と具体的なシステム知識が求められ、暗黙知を言語化する作業が不可欠です。 これは、システムだけでなく上記の通り、目的に応じて達成すべきことを洗い出す作業ともいえます。
あくまで、達成すべきことは当初の目的であって、それが叶うのであれば手段は何でもよいのです。
多くの企業が要件定義の段階で苦労しており、ここを内製化することの重要性が増しています。内製化の第一歩としては、自社のビジネス要件を明確に言語化し、意思決定に必要な情報を提供することが求められているのではないでしょうか。
最終的な目的を達成するために、手段は問われません。システムやプロセスを問う前に、達成したい具体的なゴールを設定し、それに向けた要件を明確にすることが大切です。 例えば、MAのシステムを導入や運用において「そもそもどんなことができるのか」「どこまでできるのか」などの知見がなければ「要件出し」をすることは難しいでしょう。
インサイドセールスの領域に目を向けても、BtoB企業におけるインサイドセールスの役割とは?機能や運用にあたって必要な考え方を詳しく解説で述べているとおり、複数の役割や機能があります。
そのため、メリットとデメリットを理解し、どのような要件が必要かを具体的に定義することが求められます。 こういった形で各施策に対する理解が深まれば、「自社で取り組むべき領域」と「外部に依頼すべき領域」を適切に判断できるようになります。
内製化のプロセスでは、初期段階で外部に委託することがあっても、その内容をしっかりと理解し進めることが内製化へのステップとなるでしょう。
- 経済産業省「DX レポート~ITシステム「2025年の崖」の克服とDXの本格的な展開~」 [↩] [↩]