米Gartner社のレポートによると「BtoBにおける購買活動の複雑性は増しており、購買者自身もその購買活動を煩雑に感じている」とのことです1。
特に高額な商材の場合、意思決定に関わる難しさが増します。社内にとって高額な投資案件になるため、各社は意思決定に対して慎重になるのは当然でしょう。
それに伴って、導入を選定する部門や利用を促進する部門、意思決定に関わるステアリングコミッティなど、関係者が多岐にわたるのが一般的です。
このような顧客側の状況を踏まえると、マーケティングや営業、事業開発などの各部門は、それらの購買活動を後押ししていく必要があるといえます。
自社の販売プロセスを起点にして考えてみると、新規の顧客との接点を持った後、それらの意思決定に関わるプロセスを経ていく過程が生じ、そこから受注につながるということです。
この顧客接点構築から受注に至るまでのプロセスに必要な取り組みは、マーケティング文脈では「リードナーチャリング」が該当します。
過去にもリードナーチャリングのあるべき姿 – 顧客は“育成”するものなのか?で論考したとおり、筆者はナーチャリングを「顧客ニーズに沿った有益な情報の提供を通じて、顧客の発展に寄与すること」だと捉えています。
一方で、そのプロセスが長ければ長いほど、自社も顧客に対して費やす工数が相対的に増えていきます。2030年問題に代表されるように、今後は人材不足がさらに顕著になることが確定していますので、より効率的に顧客の購買活動を支援する活動が重要になります。
それを受けて、2024年現在はデジタルテクノロジーを活用したナーチャリングが注目を浴びています。その中心になるのが、MA(マーケティングオートメーション)を活用したリードナーチャリングです。
本記事では、MAを活用したナーチャリングの考え方について解説します。
ナーチャリングの2分類
「ナーチャリングしよう」と一言でいっても、その目的や意図は非常に多岐にわたります。BtoBのビジネスシーンでは「すぐに自社の顧客になるとは限らないが、中長期での関係性を強化していきたい」ケースがしばしば存在します。
これは、英語で言う“keep in touch”の状況といえるでしょう。このような目的がある際に、短期で購買ステージを前に進めるためのコンテンツや施策を組んでも、アプローチ対象には響かない可能性があります。
一方で、短期的に自社製品をナーチャリングすることで売り上げに貢献したいという状況では、長期目線での情報発信。つまり、自社が考えるビジョンや姿勢を伝えるコンテンツは購買にポジティブな影響を与えないものです。
このように、ナーチャリングの目的と取るべき施策は異なってきますし、その目的と施策の一貫性が重要になります。
そこで、当社(マーケットワン・ジャパン)ではナーチャリングを「①:関係性(リレーションシップ)のナーチャリング」「②:興味関心(インタレスト)のナーチャリング」の2軸で整理しています。
①:関係性(リレーションシップ)のナーチャリング
関係性(リレーションシップ)のナーチャリングは、各顧客や顧客企業に対して、購買意欲の有無にかかわらず関係性を強化していく活動です。これは、前述した「意思決定のプロセスが非常に複雑になる」状況に対応する上で必要となります。
自社がどれだけ提案をしていっても、顧客側が意思決定をする上では時間が必要になり、ときには、プロジェクトが一時中断されることもあるでしょう。この場合、中期経営計画が変わるタイミングで再び動き出すなど、「時間が解決する」可能性も珍しくありません。
そのようなケースも存在するBtoBビジネスでは、プロジェクトが再開した際に「自社を1番に想起してもらう」ことが重要になのです。そのためには、接点を維持し続け、定期的なコミュニケーションを持たなければなりません。
もちろん、それはコンテンツ提供ではなく、会食や定期的な営業活動という形で行われることもあります。
一方で、すぐに購買意志が高くない顧客に対してひたすら営業し、アポイントをとり続けることは、直近の数字には貢献しづらく、リソースの観点から難しい場合もあります。そのため、マーケティングが関係性構築のサポート役となることが求められます。
つまり、マーケティングに求められるのはMAも活用しながら情報を発信“し続ける”ことです。情報発信を行うことで、ブランディングにも繋がり、メール配信などを通じて「目に留まる」ことも多いため、想起に至る可能性が飛躍的に高まります。
②:興味関心(インタレスト)のナーチャリング
興味関心(インタレスト)のナーチャリングは、自社に関する各種トピックやソリューションに対する顧客の興味関心を深めていく活動を指します。
例えば、製造業の方が「製造業のDX用システム について初めて知って、問い合わせがあったという状況を想定してみましょう。その場合、システムの提供企業は、コンタクト対象者が「どのようにして商材を自社に適用できるかどうかを検討するのか」を踏まえ、自社が理想とするアクションを促すように活動することになります。
このプロセスでは、自社のソリューションの導入を検討しているコンタクトに対して、その人が興味を持っていそうなコンテンツを継続的に供給することが重要です(この場合、「製造業におけるDX関連のコンテンツ」「導入事例」など)。
ここでMAを活用すると、「デジタルボディランゲージ」といわれる情報を取得できます。
例えば「各コンタクトが閲覧しているコンテンツ」「メールの開封状況」などのオンラインアクティビティです。これらの情報を用いて、興味関心が高いと想定されるタイミングで、関連するコンテンツを提供していくのが効果的でしょう。
このアプローチにより、顧客が自社の商材やサービスにより深い興味を持ってくれるように促しつつ、購買プロセスを前に進められる確度を高めることが可能です。
近年は、Web上にポータルサイトを構築し、自社の技術情報を提供しているBtoB製造業の企業も増えています。こういった企業が、技術情報をダウンロードした方に、メールでサンプルの問い合わせを促すことで、顧客を次のフェーズに後押しできるかもしれません。
ナーチャリングにふさわしい「コンテンツ」とは?
冒頭でも述べたように、マーケティングが「ナーチャリング」でできること、すべきことは、あくまで顧客ニーズにあう有益な情報の提供を通じて、顧客の発展に寄与することです。
つまり「ナーチャリングに適したコンテンツ」の定義は、「顧客ニーズに応え、彼らの発展に寄与する有益な情報」といえます。具体的には、以下のような特徴を持つコンテンツです。
顧客を啓蒙するコンテンツ:
自分が気づいていなかったニーズや問題を言語化し、顧客の理解を深められるコンテンツ。顧客は自身の状況や課題に対する新たな視点を得られる。
顧客が日々の業務で役立つコンテンツ:
実務で直ちに活用可能な情報やノウハウを提供することで、顧客の日常業務をサポートする。顧客にとって直接的な価値を提供できるため、ナーチャリングの効果を高められる。
自社の事業やビジネス目的に沿っているコンテンツ:
顧客の利益を支援するだけでなく、自社の事業や戦略的な目的にも一致するもの。
顧客のネクストアクションに繋がるコンテンツ:
顧客を次の購買フェーズへ進めるための行動変化を促すもの。たとえば、当社マーケットワン内では「読後感」という言葉を大事にしており、それを読んだ後「上司に報告する」「関係者に共有する」など、次のアクションを具体化しています。
このように、ナーチャリングコンテンツの作成は顧客のために行われるべきであり、同時に自社のビジネス目的や戦略にも即している必要があります。 一方で、マーケティングとしては社内向けに「成果」をみせていく必要もあるため、「購買フェーズの押し進めに貢献しているか否か」は、定期的に振り返らなければなりません。
そのため、ナーチャリングの目的を整理したうえで、顧客のニーズと自社の戦略に深い理解を持ちつつ、それらを結びつけるコンテンツを提供することが求められます。
ナーチャリングは顧客理解を前提とし、それを基に自社の戦略と顧客のニーズをつなぐ橋渡しとなるものです。「自社が発信したい情報」ではなく、「顧客が必要とする情報 × 自社が発信するべき情報」の落とし所を探りましょう。