マーケティングのデジタル化が進み、日本でも多くの企業においてMA(マーケティングオートメーション)の導入が進められています。
マーケットワンでは、MAが日本に上陸する以前からグローバル規模でMA導入・活用のサポートを実施しており、マーケットワン・ジャパンでも日本のデジタル化黎明期から支援を行ってきました。
さて、今日ではさまざまなコンテンツでMAの解説がなされておりますが、結局のところ「メールマーケティング以外で何をするのか?」「そもそも自動化とは何か?」がわからないまま導入を検討したり、実際に運用したりしているケースも多いのではないでしょうか。
そもそも、MAとは米国のマーケティング文化に合わせられた製品であり、それを日本固有の営業・マーケティングの文化やプロセスに無理やり当てはめた結果、日本におけるMAに関する論調が「ガラパゴス化」しているようにも思われます。
そこで今回は、複数の海外拠点をもつためグローバルな知見を持ち、日本におけるローカライズも経験しているマーケットワン・ジャパンが考えるMAについて解説します。
なお、本記事で解説するのは特定のベンダーのツールや機能ではなく、「MA全体の概論」となるため、特定製品の機能詳細は各社の公式情報をご確認ください。
目次
MAは「ROMIを可視化・最大化するためのプラットフォーム」
筆者がマーケットワン・ジャパンに入社後の社内のレーニングで、海外出身のメンバーから教わったのは、「MAとはROMIを可視化・最大化するためのプラットフォームである」ということでした。
MAは主にメールマーケティングのイメージが強いなかで、初めてこのフレーズを聞いたとき、筆者自身もその内容が腹落ちしませんでした。ただし、今となっては重要な要素が多数含まれたキーワードだと実感しています。
そもそも「ROMI」とはReturn On Marketing Investmentの略で、マーケティングの「費用対効果」を指します。
費用対効果、すなわち「投資対効果」については多くのビジネスシーンで唱えられ、事業を営む以上は「その施策でどれくらい売上があがるのか?」との問いかけはマーケティングの現場でもよく耳にする言葉です。
一方で、ガートナー社の資料1でも述べられている通り、顧客の購買活動は複雑化しているため、オンライン・オフライン問わず情報が溢れかえる現代においては、「単一施策での効果検証がしづらい」ことが課題となります。
例えば、MA導入後はCookieと個人情報が紐づいた見込み顧客であれば、オンラインの顧客接点(タッチポイント)に関する情報を閲覧できます。見込み顧客が単一のコンテンツだけ確認していることは稀で、さまざまなサイトや資料を確認するのが一般的です。それが購買に結びつく見込み顧客であればなおさらでしょう。
そのような状況の中で、「単一のコンテンツ・キャンペーンの成果」を役職者から問われても回答に窮してしまいます。一方で、それに答えられないと、いま以上の投資の必要性について経営層に理解してもらえなくなってしまうジレンマがあります。
そこで、多くのMAツールでは、各キャンペーンに「キャンペーンコスト」を入力できるようになっています。これによりまずは施策の「投資」部分を確認することができます。
では費用に対する「効果」はどのように考えればよいでしょうか。
例えばMQL(マーケティングクオリファイドリード=マーケティングが生み出した見込み顧客)の数で効果部分を図ることも多いでしょう。
しかしながら、特にマーケティングだけでなく、部門横断で成果をとらえている経営層は、多くの場合「どれだけ売り上げを創出したかで判断したい」とも考えるものです。
その場合、マーケティング投資に対して、少なくとも経営層から期待される効果は「受注への貢献」となるでしょう。
一方で、BtoBにおいてのほとんどの場合では、商談や受注に関する情報は営業で管理します。
こういったケースでは、多くの場合は商談の進捗状況・パイプラインの管理は、マーケティングがオーナーとなるMAでは管理をせず、営業がオーナーのCRM/SFA上で商談を管理する過程で行われます。
そこで、各社のツールは、APIなどを活用してMAとCRM/SFAを連携することが前提として作られていることは特筆すべきことです。
詳細は割愛しますが、MA側で入れたキャンペーンとそのコスト情報を、CRM/SFA側に送り、商談管理の情報と統合することで投資対効果を測る。これがMAを運用するうえでの最終目標になります。
それにより「可視化したROMIに応じた意思決定をすることで、最大化を図る」ことが可能になります。
MAの主要機能
前述した投資対効果を最大化する施策を行うために、MAに備わっている主要機能としては以下のようなものがあげられます。
まずは「メール配信」機能です。コミュニケーションツールがあふれる現代でも、ビジネスシーンではメールが依然活用されています。
「MA=メルマガ」のイメージが強い方も多いと思いますが、事実として作成したコンテンツを届けるチャネルとして一番強力なものがメールです。
MAを活用したメール配信においては、オープン・クリックなど顧客接点で起きた行動情報をすべてデータベースに蓄積することで、興味関心の暗示データを取得できます。
MAではキャンペーン用のマイクロサイトとして、LP(ランディングページ)の作成もできます。多くの場合はフォームを「ゲート」として設けることで、見込み顧客は自身の情報入力と引き換えに、無料でホワイトペーパーやeBookなどの資料を取得できます。
このようにすることで、見込み顧客のメールアドレスや会社名などの静的な情報に加え、「そのホワイトペーパーに興味がある」といった興味関心情報も獲得できます。
MAのトラッキングスクリプトを企業のコーポレートサイトに埋め込めば、MAにCookieデータを送れるようになるため、個人がどのサイトを閲覧しているかを判断可能です。
さらに、一番重要な要素として、MAが本質的にはマーケティングの「データベース」であることがあげられます。
SanSanに代表される名刺管理ツールの台頭により、「名刺情報は会社の資産」との認知も広まりつつありますが、MAではそういった情報を集約できるのです。
社内に散らばったデータを集約することで、各顧客のオンライン上の動きから顧客の興味関心を取得できれば、仮に短期で商談化しない見込み顧客であったとしても、重要なマーケティングインサイトになり得ます。
加えて、GDPRを筆頭に各国・各地域で個人情報保護が強化されています。これらは個人情報を取得してはいけないのではなく、取得した個人情報を適切に管理することが求められていることを意味します。
例えば、顧客情報を管理するうえで、顧客の個人情報が社内にバラバラに散らばっていれば、顧客から自身の情報の削除要請が来た場合に「まず情報を探しに行く」ことから対応しなければなりません。
一方で、MAを活用してデータを集約しつつ、データのソース元(リードソース)をきちんと取得する。その上で適切なプラットフォーム設定をしていれば、「必要な場面で必要に応じて情報を取り出せる」状態を築けます。
さらに「マーケティングツールのハブ」として、様々なマーケティングテクノロジー(マーテック)と連携することも、MAに求められる重要な役割のひとつです。それにより、例えば「LINEやWeChatといったメッセージングアプリとの連動」「BIでの分析」など幅広い可能性が生まれます。
マーケティングの“自動化”で何が実現されるのか?
“オートメーション”の冠がついたMAですので、導入を検討する際には「自動化」に対する期待も高いと思います。その反面、「何が自動化するのか」についてイメージが漠然としているケースも多いのではないでしょうか。
本章ではMAがもたらす自動化について理解するために必要な要素について、3つのポイントに絞りながら具体例も交えて解説します。
1. キャンペーン・プログラムの自動化
まず一番イメージがつきやすいのが、ステップメールに代表される「シナリオに沿ったメール配信」です。
メール配信におけるシナリオ作成について、ここ数年で開催されることも多くなってきた「ウェビナー」を題材にして例示します。
例えば、集客の告知は数週間前から始まりますので、仮に2週間前から開始し、1週間後に全員に対して再送告知します。そこから参加申し込みをいただいた方にのみ絞り、前日にリマインドを兼ねてメールを送る流れです。
このように、事前にメール配信のシナリオを組んでおけば、メール送信の自動化が可能になります。もちろん、集客状況によってシナリオ変更を余儀なくされるケースもありますが、そのような場合でも即時にデータを取得し、対応できるデジタルの強みが活かされます。
一方で、さまざまなシナリオを組める分、複雑なことをしたくなったり、情報を詰めすぎたりしがちになります。
大切なのは「送りたい情報を送る」のではなく、顧客の認知プロセスや購買活動の仮説、顧客のインサイトに基づいた「顧客が欲しい情報」に即したキャンペーンを行うことです。
例えば、自分が顧客にプレゼンテーションをする前に、いきなり商品の細かい説明をしてから、商品の概要に戻って説明することは稀であり、「会社の概要→ソリューションの概要→製品の概要→製品の詳細」といった認知プロセスが一般的でしょう。
加えて、顧客の購買フェーズによって必要な情報は変わってくる点にも留意が必要です。例えば、具体的な製品の検討をする段階では、概要よりもまずは詳細な資料が必要になるでしょう。
このように、メールの配信シナリオを作り上げるうえでは、自社データや顧客の行動データと照らし合わせながら、少しずつその内容を洗練させていくことが求められます。
2. リードマネジメントの自動化
MAを活用する上で重要になるのが、「リード情報をどのように取り扱うか」です。リード情報の取り扱いについては、BtoBの購買プロセスではマーケティングだけで完結しない場面も多く、他部門と連動しながら進める必要があります。
そのうえで重要になるのが「リードマネジメント」です。マーケットワン・ジャパンのTwitterアカウントでは、全体像を図解しつつ取りまとめています
BtoBマーケティングの施策は、
1. リードジェネレーション
2. リードナーチャリング
3. リードクオリフィケーションの3レイヤーで考えると整理がしやすくなります。
マーケティング施策で取得したデータを蓄積するプラットフォーム・データ管理の運用ルール (リードマネジメント)も重要です。 pic.twitter.com/FSNOlQo2yd
— マーケットワン・ジャパン (@marketone_japan) April 27, 2022
前述の通り、営業と連携する場合、営業側が活用しているCRM/SFAとデータ連携をする必要があります。
この作業に対して、マーケティングが抱えているすべてのリード情報を渡すと取りまとめ作業が膨大なものになってしまいます。例えば、グローバルで運用をしているMAの環境では、登録総数が100万を超えるケースも珍しくありません。
そこで重要なのが、トリガーとなるイベントや条件などを設定し、その条件を満たすリードの情報のみを渡すことです。
そのためにはMQLについてあらかじめ定義し、営業部門と事前に合意をしておくなど、MA設定の外側にあたる、ビジネス要件の整理も求められます。
こういった運用ルールについて事前に関連部門の合意を取ったうえで、システム要件に落とし、受け渡すデータを定義する。その後、全体フローが自動で実施されるようにすれば、部門間で合意がとれた条件に基づいた対応を、文字通り「自動化」できます。
これらを実施しないと、マーケターが目検ですべての情報を確認し、エクセルファイル等を営業に渡す作業を行い続ける必要が出てきてしまいます。
この際によく使われる機能がリードスコアリングであり、その概要に関しては、同ブログ内の以下の2記事でそれぞれ「リードスコアリングの概要」「リードスコアリングを機能させるための部門間連携・データ戦略」を解説しています。
リードスコアリングとは何か?基礎知識や方法論を解説
リードスコアリングを機能させるための部門間連携・データ戦略とは?
3. マーケティング業務自体の自動化
MAのようなデジタルツールを活用すると、経営視点ではメンバーの工数が減る、あるいはなくなるような印象を受けるかもしれません。
しかし、実際は“新しい取り組み”を実施する結果として、業務工数が増加することも事実です。
デジタルツール活用のポイントは、“業務負担を減らす”ことだけではなく、投入する人的リソースに対してツールのレバレッジを効かせることで、“活動量とその成果の総和を増やす”ことにあります。
MAの活用やデータ分析をするうえで、「日常の業務運用」「データのメンテナンス」は非常に重要です。
一方で、重要度の高いコア業務に集中するためには、このようなルーティン業務はできるだけ最小にする必要があります。
そこで有効なのが、MAツールを使った「業務運用の自動化」です。
例えば、事前にMAを使ってロジックを組んでおけば、データのクレンジングが可能です。さらに、SQLの機能も各ツールに備わっているため、MA側で条件指定をすることで特定のデータのみを抽出でき、ルーティン業務を大幅に自動化できます。
ここでマーケットワン社内の事例を挙げてみます。
弊社では先日マーケティング活動の一環で、ホワイトペーパーを配布するため、外部の媒体を活用してプロモーションしました。
その際、ソーシャルメディアの広告もチャネルとして活用し、FacebookとLinkedInに関しては、各プラットフォームの埋め込みフォームを使用しました。
この場合、各プラットフォーム内にフォーム送信者の情報が蓄積されるため、自社で活用しているMAツールにデータは入ってきません。本来であれば、それらのデータをMAに手動でアップロードする必要があります。
しかし、この事例ではMAのAPI連携ツールを使い、顧客データを自動連携したうえで、必要なフィールドにデータを自動でマッピングするプログラムを作成し、アップロード作業の自動化を実施しました。
その結果、必要な工数は大幅に削減され、加えてリアルタイムでリード情報を営業に通知できるため、リードタイムの削減にも効果がありました。
これはあくまで一例に過ぎず、「いま当たり前のように人力で行っている業務」ならば、MAの機能を活用することでその多くを自動化できます。
まとめ
以上の通り、MAを有効に活用できれば煩雑な業務の多くを自動化できるため、非常に強力なツールと言えます。
一方で、自動化の実現は一筋縄ではいきません。
本記事の読者のなかには、組織で管理職やリーダー職を務める方も多いと思いますが、「自分でやる」ことと「人に指示してやってもらう」ことの難易度は大きな隔たりがあると痛感していることでしょう。
MAで自動化するうえでは、まさに、自分の頭の中で行っていることを言語化し、「ツールに指示出しをする」ことが求められるのです。
今回は「そもそもMAとは何か、何ができるのか?」を解説しました。これを踏まえて、「では、どのように自動化していくのか?」については、「MA(マーケティングオートメーション)で自動化を果たすための3つのポイント」で深掘りしていますので、ぜひご覧ください。
■注釈
- Gartner『New B2B Buying Journey & its Implication for Sales』https://www.gartner.co.uk/en/sales/insights/b2b-buying-journey [↩]