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MAを使ったナーチャリングの自動化を実現するフレームワークを解説

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BtoBビジネスで必要な「ナーチャリング」の2つの目的思考では、「ナーチャリング」を関係性・興味関心の二軸の目的に沿って分類する考え方を論考しました。

BtoBビジネスでナーチャリングを実施していく上では、当該記事で解説されている内容を踏まえつつ、ナーチャリングキャンペーンの設計を進めていくのが有効です。 

デジタル化が進んだ2024年現在は、オフラインでの営業接点だけではなく、インサイドセールスやデジタルを活用したナーチャリングの頻度も増えています。 

デジタルを介したアプローチにおいて、MA(マーケティングオートメーション)は非常に有力なツールです。 

MA(マーケティングオートメーション)の全体像とは?でも述べたように、自動化を成功させるための知識は求められるものの、各プログラムやフォロープロセスを自動化させればまさに“活動量と成果の総和を増やす”ことができます。 

本記事では、これらを踏まえた上でもう一歩踏み込み、ナーチャリングプログラムの自動化をどのように設計していくべきか、当社で活用しているフレームワークに沿って解説します。 

MAを使ったナーチャリング自動化で踏まえておくべき前提条件 

Oracle社やAdobe社、Salesforce社といった各ベンダーが提供しているMAツールは、さまざまなキャンペーンシナリオをプログラムすることで、効率的に顧客とのエンゲージメントを高めてくれます。 

例えば、メール配信をし「反応がなかった人に対しては再送する」「特定のソリューションを閲覧しているコンタクトには関連するコンテンツを送る」といったシナリオを事前にプログラムすることによる自動化です。シナリオを一度構築すれば、マーケティング担当者が毎回手作業で配信業務をすることなく、プログラムを“常に”稼働させ続けられます。 

これにより、デジタルテクノロジーを使いながら顧客接点を持ちつつ、常に自社で顧客対応ができる「Always On」のマーケティングプログラムを実現可能です。 

一方で、そのようなプログラムを組んでいく上では「プログラムを組むこと」自体が目的になってしまう可能性も懸念されます。 

具体例を挙げると、メール配信において複雑なフローチャートを組み、配信シナリオを設計する際、目先のプログラムは豪華(あるいは派手)で、効果がありそうにみえるかもしれません。しかし、それはあくまでプログラム構築者のシナリオであり、プログラミング自体が目的化してしまっている可能性があります。 

結果として、顧客のニーズを捉え、顧客が興味を持っているコンテンツを配信するという本来のナーチャリングの目的から、徐々に乖離していく可能性があります。 

だからこそ、MAを活用する際には、カスタマージャーニーに沿った顧客中心のアプローチを忘れず、顧客にとって価値のあるコンテンツ提供に注力することが重要なのです。 

ナーチャリング自動化フレームワークを解説 

とはいえ、これらを加味した自動化プログラムを構築する場合、「どこから手を付けていいかわからない」ことも事実でしょう。 

そのため、マーケットワンではナーチャリングの自動化プログラムを考える上で、Entry (エントリー)/ Treatment(トリートメント) / Exit(エグジット) / Progression(プログレッション)/ Hierarchy(ヒエラルキー)」のフレームワークで整理しています。 

以下より、フレームワークの各要素について解説します。 

Entry:該当リードのプログラムへの組み込み方法 

Entryとは「どのようなセグメントに対して配信をしていくか」についての設定を指します。 

「自動化キャンペーン」で一番重要な点は「メールの配信先をどのように設定するか」です。 

特定のリードに対して配信する条件が合致した際に、“自動で”配信が行われる必要があるため、「シナリオ設計」「条件となるデータの抽出」の両方が必要ですが、いずれも難易度が高い作業といえます。 

配信先となるセグメントの特性を考える上では、「静的(スタティック)」「動的(ダイナミック)」の2つの切り口があります。 

静的セグメントとは、多くの場合、手動でデータを整備し配信していく分類方法です。例えば、受注履歴のあるコンタクトに対して配信をしていく層をSFAなどから抽出した上で、配信条件にマッチするグループをスプレッドシートなどで集計し、配信セグメントとして取り扱います。 

とはいえ、自動化された配信セグメントを設計する上では、そのような手作業での対応は難しいのが実情です。そのため「その基準に適合するか」について、データを基にして動的(ダイナミック)に評価していくことが求められます。 

そこで重要になるのがデータ整備です。 

一例を挙げると、過去の受注履歴から自動的に配信先をセグメントしていく場合、SFAに入っているデータがMA側に連携され、それが受注したコンタクトに紐付いていることをデータで識別できる必要があるでしょう。 

さらに、ABMプログラムをMA上で実現したい場合、ターゲットアカウントに紐付いたコンタクト一覧を抽出できることも必須です。 

企業名や取引先データの揺れが問題になる場合、それに伴う関連コンタクトを抽出するのが難しくなりますので、取引先のデータから“ユニークID”でデータを抽出できるように整備していくことが大切なのです。 

つまり、Entryの取り組みに向けた最重要ポイントの一つは、自社のビジネス要件から逆算した必要条件をデータで判別し、動的なセグメントができるようになることだといえます。 

Treatment:タッチポイントの条件・頻度の整理 

Treatmentとは、「メール配信などでどれくらいの頻度でナーチャリング対象にアプローチし、何通のメールを配信するか」についての設定です。 

メールを使ったナーチャリングキャンペーンにおいては、「1キャンペーンで何通の関連するメールアセットを用意するか」が主要な論点となります。 

例えば、ある製品に関して興味関心のナーチャリングのプログラムを設計するとしましょう。 

この場合、「該当製品の業界トレンド」「自社のソリューションラインナップ」「製品概要」など、情報内容が絞り込まれる形で順次メールを送っていくシナリオが考えられます。セオリーに従えば、顧客の潜在ニーズ・顕在ニーズから逆算した有益なコンテンツを提供していくことになるでしょう。 

一方で、顧客が「購買ステージごとに欲しい情報」を揃えようと思っても、自社で提供できるコンテンツが限られている。あるいは制作までにリードタイムがかかるケースも多々あります。 

その際には、「顧客が求める情報」「自社が提供したい情報」「自社で提供可能なコンテンツ」のなかでの最大公約数的な落とし所を狙っていくことになります。 

Exit:リードがナーチャリングプロセスから抜ける条件 

Exitは「どのタイミングで、どのような条件を満たしたコンタクトをナーチャリングプログラムから除外するか」についての設定を指します。 

例えば、「3通のメールを配信して一度も反応がなかったコンタクト」に対しては、「今後のメール配信を停止する」という戦略が考えられます。 

これは特定のナーチャリングキャンペーンに限定される場合もあれば、すべてのキャンペーンに適用されるときもあります。重要なのは、「反応がない。あるいは興味が薄れていると判断されるコンタクト」に対しては、それ以上の労力をかけずにプログラムから除外する明確な基準を設けることです。 

多くのMA担当者は、反応数を増やそうとして何度もメールを配信してしまうことでしょう。 

しかし、興味のないコンタクトに対して配信を続けると、配信停止を選択されるリスクが高まります。最悪の場合、スパムフィルターに引っかかってしまうこともあります。 

つまり、質の悪い配信を繰り返すほど、マーケティング可能なコンタクトが減少してしまいかねないのです。 

このような状況を避けるためには、一定の配信をした時点で興味がないと判断されるコンタクトに対しては、ある程度割り切りを持って対応する勇気も必要です。 

その上では、配信のバランスを適切に考え、過剰なタッチを避けることが大切になります。前項のTreatmentにあたる配信頻度・量を慎重に設計し、コンタクトの興味や反応を定期的に分析することが、適切な「除外ライン」を定義する取り組みにつながります。

Exit要素を適切に設定することで、エンゲージメントの低いコンタクトに対する無駄な努力を減らし、より反応が良い、興味を持っているコンタクトに集中できるようになります。 

これにより、マーケティングの効率性が高まり、全体的なキャンペーンのパフォーマンスの向上が見込めます。 

Progression:次のナーチャリングプログラムへの遷移 

Progressionでは、ナーチャリングキャンペーンを経過した後のコンタクトに対して、「次にどのような対応をしていくか」について設定します。 

例えば、あるソリューションのナーチャリングプログラムで3通のメールを配信した後、関連する別のプログラムに移行させるという戦略が考えられます。 

ナーチャリングプログラムは、主にオンラインコミュニケーションを通じて行われますが、オンラインだけでは具体的なニーズを完全には把握できない場合があります。 

そのため、テレマーケティングによる確認(テレクオリフィケーション)や営業によるフォローアップなどの活動が、特に高額で検討サイクルが長い商材ほど重要になります。 

そういった部門間連携では、ナーチャリングプログラムを経た後、「いつ、誰が、どのように対応していくか」というシナリオを設計することが求められます。 

Progression戦略の設計には、オンライン活動だけではなく、営業活動やその他のオフライン活動との組み合わせも必須です。 

この取り組みにより、コンタクトがナーチャリングプログラムを通過する各フェーズで、最適な体験価値を提供し、最終的には購入や他の具体的なアクションにつなげることを目指します。 

リードに関するデータを「どのようなプロセスで扱うか」の定義をリードマネジメントと呼びますが、Progressionはその設計と連動して検討することが重要です。 

例えば、ナーチャリングの該当コンタクトを絞り込む過程で活用されるMAの主要機能として、リードスコアリングが挙げられます。 

MAはこのように有用な機能が実装させているため、ともすれば“MAで閉じた施策”を検討してしまいがちでしょう。しかし、BtoBのナーチャリングキャンペーンでは、自社の営業プロセスを加味しつつ、他部門・ツールとの連動性を持たせた設計が求められるのです。 

Hierarchy:複数ナーチャリングプログラムの優先順位付け 

Hierarchyとは、「階層、階級」の訳のとおり、複数のナーチャリングプログラムが動いている際の、各プログラムの優先順位付けです。 

例えば、「3通のメールを配信するプログラム」を計画している場合について考えます。この際、「定期的に配信しているイベントに関する告知メールの配信」も予定されているとしたら、自動化されたプログラムによる配信間隔とイベントの告知配信が重なってしまい、1日に2通のメールが配信される可能性が出てきます。 

このような状況を考慮すると、イベントの集客メールがタイムセンシティブで優先度が高い場合は、その配信を優先する必要があります。 

あるいは別の例では、A/B/Cの3つのソリューションに関して、Webサイトを閲覧したコンタクトにメール配信をする3つのプログラムを稼働させるとします。 

一見すると、これは「ライトタイミング・ライトコンテンツ」の実装にみえますが、仮に同一人物がこれらすべてのWebサイトを閲覧した場合、3つのキャンペーンに同時に入ってしまい、最悪のケースはA/B/Cの紹介メールが3通同時に送られてしまいます。 

これではナーチャリングのシナリオが混乱してしまうため、優先順位を決め、「Aのキャンペーンが終了するまでBのナーチャリングプログラムには入れないように制御する」といった対応が必要になります。 

こういったキャンペーン制御に関しては、事前にシナリオを組んだ上で、MA上でプログラムの優先順位を設定するのが有効です。 

マーケットワンではこのような「交通整理」を「ATC(Air Traffic Control)」というプログラムで対応することを推奨しています。 

ATCは、交通管制官のように、複数のプログラムの優先順位を管理し、適切に案内するオーケストレーション機能をMAに実装することで、各キャンペーン間での衝突を避け、効率的なコミュニケーションを実現する体制です。 

【翻訳記事】BtoBマーケティングの自動化で変革的な結果を生み出すための5つのAI活用方法でも解説しているとおり、AIによってナーチャリングキャンペーンが代替可能になる可能性も今後は想定されます。 

しかし、MA単独の機能ではあくまで事前にシナリオを検討し、プログラムを構築することです。 

つまり、どこまで機能が高度化しようと、自社で常時動いているプログラムを把握した上で、各プログラム構築における作用・副作用を加味したシナリオ構築は必須であり、それは人間が担っていくべきといえます。 

ナーチャリング自動化フレームワークのケーススタディ 

では、このフレームワークを用いてどのようにナーチャリングプログラムを考えればよいのでしょうか。 

例えば、【セミナー記事】製造業がデジタルマーケティングで目指すべき姿とAlways On Programとは?でも解説しているような、新規コンタクトに対してWelcomeメールを送るケースで考えてみましょう。 

このプログラムでは、MAのデータベースに入ってきた新規リードに対して、すぐにフォローのメールを送る計画です。 

その前提で、前述した自動化フレームワークを落とし込んでみましょう。 

Entry 

MAに登録された新規リードを特定し、そのなかでマーケタブル(購読停止になっていない有効コンタクト)に対して送る。ただし、何かしらの形で複数回、同一のリードが作成された場合、過去一度でも送った場合には配信対象外とする。 

Treatment 

新規コンタクト作成後24時間以内の「営業日の営業時間」にメールを配信する。ただし、展示会参加者に対しては、別で来場の御礼メール(Thanksメール)を送るため、パーソナライズされた別アセットのメールを送る。 

Exit 

オプトインが取れていないコンタクトは今後のメールコミュニケーションから除外する。その際、購読停止のフラグを立てる。 

Progression 

メールが送られ、マーケタブルが確保されたコンタクトに関しては、Welcome後のナーチャリングプログラムへ移行。 

Hierarchy 

すべてメールのなかで「必ず最初」に送られるように制御する。そのため、Welcomeメールが送られていないリードは他のメールコミュニケーションから除外する 

このように、BtoBでナーチャリングキャンペーンを自動化する際には、ビジネス要件からシステム要件への落とし込みが重要になります。 

この際に、フローチャートはメール配信の順序などを可視化するだけでなく、特にデータによる分岐を想定している場合は、「どのようなデータなら分岐可能であるか」を想定しながら構築していきましょう。 

MAを使ったナーチャリングの自動化を実現するフレームワークを解説  

ナーチャリングの自動化では「高度なコア業務」にリソースを割いていくことが重要 

ナーチャリングの自動化キャンペーンは「①:ビジネス要件」「②:顧客体験」「③:システム設定」 を三位一体で捉え、全方位的にナレッジを活用する側面が強くなります。

このような高度化されたプログラムにリソースをシフトさせていく上では、逆説的ですが通常運用を型化していくことも重要です。企業組織における「型化」は何を意味するのかでも解説しましたが、型に当てはめて標準化されたプロセスやフレームワークをベースにすることで、異なる状況や要求にも最小限のリソースで対応できるようになります。 

そうすることで、マーケティング担当者が本来すべき「コア業務」に注力できるようになり、見込み顧客に対するナーチャリング効果を最大化できるでしょう。 

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