BtoBマーケティング関連テクノロジーが先行する欧米にて、人工知能(AI)はBtoBマーケティングにおけるマーケティングオートメーション(MA)の高度化に貢献しています。
AIを活用することによって、MAでは「高度なハイパー・パーソナライゼーション」「高解像度の顧客理解」「データドリブンの意思決定の迅速化」が可能になりました。
MAでのAI活用が当たり前になりつつあるなかで、BtoBマーケターはトレンドの変化をしっかりと理解し、自社で有効活用できるようにしなければなりません。
今回はMarketOne Internationalでリリースされた5 ways to leverage AI in B2B marketing automation for transformative resultsをベースとして翻訳と一部加筆を加え、BtoBマーケティングにおけるAI活用事例を紹介します。
目次
2024年現在、BtoBマーケティング担当者がAIを学ぶべき理由
2023年に米Open AIによってリリースされたChatGPTの台頭により、AI活用がビジネスシーンでも浸透しつつあります。
実際に生成AIツールのアカウントを自身で所有していなくとも、間接的にAIを利用しているケースも多々あり、気づかぬ間に恩恵を受けているのが現状です。
例えば以下のようなシーンにAIが組み込まれています。
- Webサイトに埋め込まれたチャットボットでのやり取り
- iPhoneでのSiriとの自然な会話
- Gmail記述中に文脈に沿った次の文章の提案
ほかにもMicrosoft社の「Copilot」やGoogle社の「Gemini」など、IT二大巨頭が生成AIの質を競い合っており、さらなるAIの進化が見込まれています(※ChatGPTを提供しているOpenAI社は2024年現在はMicrosoft社の傘下となる)。
さらに、米Forresterの2022年第2四半期のグローバルAI in BtoBマーケティング調査によると、回答者の70%以上がマーケティングプロセスでのAIの使用計画を「中程度」「大幅に」増やす予定であるとわかりました1。
既にマーケティングにAIを導入している組織でも、60%がAIの導入に肯定的であり、28%が中立的に感じているとのことです。すでにAIを活用している調査回答者には、否定的な意見を述べた人はいませんでした。
BtoBマーケティングにおけるAI活用について、AON社の前CMO Phil Clement氏は以下のように述べています2。
“AIの活用度合こそが企業間競争の勝敗を決めるだろう”
BtoBマーケティングでは、データドリブンな意思決定のため、さまざまなツールやシステムから収集される大量なデータを処理していく必要があります。まさしくAIが得意とする機械学習による業務効率化、あるいは高度なデータ処理能力によるインサイトの発掘が活かせる領域です。
だからこそ、BtoBマーケティング担当者として「AIをマーケティング活動にどう活かし、効率化を図れるのか」を明確化するため、AIの機会学習のアルゴリズムやデータ処理能力についての学ぶ必要があります。
AIの恩恵について正しく理解することにより、「BtoBマーケティングに割くリソース」と「顧客理解の深化による顧客接点」の最適化に繋げ、顧客の意思決定のスピードを加速できます。
AIはビッグデータから、顧客の行動データを特定するといった膨大な解析が可能です。他にも人が見過ごしがちなデータソースまでもれなく分析し、顧客セグメントの幅を広げられます。なによりも、このような人間が対応するよりもはるかに速く高難易度の分析を完了できるのです。
AIをMAに統合すれば、「顧客の属性・行動データに根差した高度なパーソナライゼーション」「コミュニケーション頻度の最適化」「顧客体験の向上」といった、BtoBマーケティングにおける顧客ニーズの向上に繋げられるでしょう。
そもそもAIと「オートメーション(=自動化)」はどう違うのか?
オートメーション(=自動化)とAIは時折混同されるケースがありますが、それぞれの用途目的は異なります。
オートメーションは「従来は手動で対応していた一連のタスク」を、厳格なルール(つまり、事前に定義した要件)に基づき実行を自動化することです。
一方、AIは「パラメーター」という変数が機械学習に用いられており、「解」に到達するまでの情報処理方法をチューニングし続けます。
つまり、繰り返し実行する必要がある作業、すなわち「型化された作業」の代替はオートメーションの担当領域といえます。
対して、試行を重ねることによるパフォーマンスの改善や、次に何をすべきかといった予測・提案の精緻化を目的とした機械学習はAIが担います。
確かに、AIの機械学習の最適化にはある程度の時間が必要になります。しかし、単純作業の代替に留まらず、示唆に富んだ提案まで可能にするAIは、MAツールを利用するBtoBマーケティング担当者にとっても必須ツールといえるでしょう。
AIがMAにもたらす付加価値
MAはBtoBマーケティングの成果を最大化する便利なツールである反面、有効活用するには多様な機能やデータ構造などに対する理解が必要であり、高度なスキルが求められます。
MAはただ“マーケティングをオートメーションする”という理解の範疇に留まりません。
以下のような機能が多岐にわたりますので、使いこなすためには膨大な知識が必要です。
<メールキャンペーンの運用>
- データ選定・セグメンテーション
- コンテンツ企画・制作
- メール配信プロダクション
- A/Bテスト
<キャンペーン結果のレポーティング>
- レポート分析
- レポートの最適化
加えて、過去にMA担当者がツール運用の“前提として”知っておくべき知識とは?で解説したとおり、活用の前提となる、Web・IT・データに関する基礎知識も求められます。
MA活用に必要な膨大な知識やスキルをすべてAIに置き換えることは現実的ではありません。
しかし、AIのインテリジェンスを部分的でも業務に取り入れることで、各領域におけるプロセスの加速化やバグやエラーの削減に繋げることは可能です。
これこそAIがMAにもたらす付加価値だといえるでしょう。
BtoBのMA活用におけるAI使用例
BtoBマーケティングにおける課題として、「いかに複雑なBtoBビジネスの顧客接点をカバーし、マーケティングリソースの負荷軽減に繋げるのか?」といったことが挙げられます。
ここからは、AIをMAに統合することによって、マーケティング上の課題を解決し、より正確で効果的なマーケティング活動を推進するための方法を5つ紹介します。
①AIのデータ分析機能
⇒高度にパーソナライズされたキャンペーンの展開
BtoCビジネスでは、リピートに繋げるために高度で洗練された顧客体験が求められますが、BtoBビジネスでも顧客は同等程度の期待値を持っています。
大手コンサルファームのアクセンチュアが実施した調査によると、実際に73%の購入検討者がパーソナライズされた体験を望んでいるものの、直近のオンラインでの経験が完全にパーソナライズされていたと答えたのは27%のみでした3。
同調査からは、まだまだBtoBビジネスにおける顧客接点や顧客体験のパーソナライゼーションには改善の余地があるとわかります。
ここでMAに搭載されたAIのデータ分析機能を活用することで、過去の購入履歴などの行動データや属性情報に基づいた情報提供が可能になります。これにより、見込み顧客の状況に合わせた提案が可能になるのです。
AI分析機能の活用により、パーソナライゼーションの精度を従来以上のスピードに早められるため、顧客のエンゲージメントやロイヤリティの向上が期待できます。
実際にGoogle社 Google Cloud部門のバイスプレジデントであるGiusy Buonfantinoはこのように述べています4。
“BtoBビジネスでは、データもある意味では自社製品と同じ位置づけです。自社の製品開発と同様、データのクオリティと整合性の担保に継続的に投資する意識を持ちましょう。
データのクオリティを保つのみならず、より良いデータが取得し続ける方法を模索していかなければなりません。
AIと機械学習を駆使した高度な分析を実現する上では、分析元となるデータの質も重要です。
大量かつ分析可能なデータから有効なパターンを特定し、顧客の意思決定プロセスに役立つインサイトを得ることで、以下のような恩恵を得られます。
- 顧客ロイヤリティの維持
- 顧客体験をパーソナライズした上での満足度向上
- 顧客の意思決定プロセスの効果的な介入による収益の増加
- 成果が出やすいマーケティングチャネルの特定、および顧客獲得コストの最適化 ”
②AI によるリードナーチャリング・リードジェネレーション
⇒大規模かつ高品質なリードの獲得
Ruler Analyticsの調査によると「新規リード獲得数が少ない」といった課題は、BtoBマーケティングで発生する5つの大きな課題の1つとして挙げられています。
データの収集、成型、分析は時間とリソースを要します。
AIがリードジェネレーションの過程に組み込まれる場合、非常に正確なデータをリアルタイムで捉えられます。これによりセールスファネルにおけるデータはより正確かつ動的で、可視性が向上したものになるでしょう。
③AIの理にかなったリードスコアリング機能
⇒高確度なリードの優先順位付け
AIのアルゴリズムに従って、リードが顧客になる見込み度合を評価することで、リードの確度をランク付けできます。
リードの属性情報や行動データ、エンゲージメントレベル、確度の高さでランク付けを実施し、リードスコアを算出します。
従来のリードスコアリングはあくまで「マニュアルで設定したルール」に基づいて計算されていましたが、AIでは素早く正確にスコアリング可能です。ほかにもスコアリングに影響をおよぼす項目の洗い出しなど、AIによる深いインサイトを得られます。
Travelport社の Chief Product and Technology OfficerのTom KershawはAI活用に対し以下のようにコメントしています5。
“AIが統合されたMAの活用は、想像よりもずっと簡単です。放っておいてもAIが取得したデータにアクセスし、迅速なデータ分析手法を確立してくれますので、人間の意思決定に使える形でアウトプットしてくれるのを待てばいいのです”
④AIの予測分析機能
⇒顧客像の明確化・それに伴う深い顧客理解
データから明確に顧客像を形づくり、深い顧客インサイトに繋げることも多大な時間と労力を要します。
しかし、従来は顧客理解を深めるために適切なアプローチができていなかった分野にAIを活用することで、蓄積されたデータを迅速に参照し、そのデータをもとに「将来的に顧客が取り得る行動」を予測できます。
特に顧客の行動の裏にある意図をAIによって推測することで、「チャーンレート(解約率)」「ライフタイムバリュー(LTV:顧客生涯価値)」などを推定可能です。
ほかにも、AIはオンライン・オフライン接点で得られた行動データから、総合的に顧客の行動を把握した上での鮮明な顧客像を導き出せます。
例えば、顧客の行動に基づいて配信されたメールキャンペーンに対し、「実際にメールの反応があったのか」「そのメールで案内した展示会などに実際に参加したのか」など、オンラインからオフラインまで顧客接点を一気通貫で評価できるのです。
これにより360度全方位で顧客理解を深められるでしょう。
このような予測分析機能はアカウントベースマーケティング(ABM)の実施に有用です。特にABMのターゲット企業におけるリードを企業アカウントにマッピングし、その中で新規コンタクトを特定するなど、ターゲット企業のアクティビティを精緻に追えるようになります。
ほかにもABMにおける最重要企業アカウント情報を加味した上で、同様の戦略が当てはまりそうな類似企業候補や、効果的な施策実施時期やメールの送信タイミングなどの提案も期待できます。
⑤AIのセグメンテーション機能
⇒エンゲージメントとコンバージョン率の向上
時間がかかるセグメンテーション作業も、AIを活用して自動化できます。Ingersoll Rand社の元デジタルエンゲージメントリーダーであるMelanie Fox氏は、BtoBマーケティングではニーズに即した情報提供が必要と述べています。
つまり、従来型のハウスリストに対する“batch and blast(一斉送信)”のコミュニケーションではなく、特定のニーズごとにセグメンテーションされたターゲットに対し、それぞれの興味関心に則した情報提供を行う必要があるということです。
Ingersoll Rand社は、その答えをIBM社のWatson AIプラットフォームの自社MAへの統合に見出し、高度なセグメンテーションを実現しています2。
“IBMのソリューションについて最も印象的だったのは、セグメンテーションのような時間のかかるプロセスを自動化する能力です。これによりパーソナライズされたキャンペーンを迅速かつ大規模に展開できるようになりました。
今では、役職別に訴求軸を変えたキャンペーンを気軽に展開するといったことが可能です。
ダイナミックコンテンツ(個人の興味に従い動的にコンテンツを切り分ける設定)を用いることで、キャンペーン用メールテンプレートを再利用しつつも、役職やその他顧客データに基づいた条件に応じて、受信者ごとに異なるクリエイティブ、情報、画像を表示できるようになりました”
MAに統合されたAIでは、指定した条件や要件に基づき、アクセスできる限りのあらゆるデータから機械学習を行い、自動的にリードや顧客をセグメンテーションします。
このような強力な性能を活かすことで、より正確なペルソナの構築や、顧客エンゲージメントの向上、さらにはROIの改善が可能になるのです。
実際にIBM社のシニアバイスプレジデントであるBob Lordは注目すべきAI機能を以下のように紹介しています5。
“AIで特筆すべき機能は、オーディエンスが何に反応するかをリアルタイムで予測し、学習できる点にあります。これにより、ブランド(及び企業)と消費者の間で、以前では不可能だった方法、すなわち高度にパーソナライズしたコミュニケーションが可能になりました。このような新たな手法を活用することで、ブランドと顧客の双方にとって価値ある体験の創出や情報提供、関係強化が期待できます”
主要なMAベンダーにおけるAI機能搭載の見通し
今までは、MAにAIを統合する場合、活用中のMAプラットフォームに別途AIを組み込む一手間が必要でした。
今後はそのような手間をかける必要がなくなると考えられます。主要なMAの提供企業でも、本稿で解説したAIの機能をMAにデフォルトで搭載しようという動きがでてきています。
特に、パフォーマンスと生産性を高める目的で、既存のオートメーションプラットフォーム内に生成AIの搭載や開発に注力している企業が多く存在します。
先述の活用事例のとおり、BtoBマーケティングに活かせる機能を標準搭載したAIが各ベンダーにて近日提供される可能性が高いとのことです。
Eloquaを提供するオラクル社はCohere社とのパートナーシップで、「データセキュリティ、モデルのカスタマイゼーション、および企業がビジネス価値を創出することを可能にする」ことに焦点を当てたエンドツーエンドの生成AIを搭載することを公表しています。
Marketoを提供するAdobe社は、同社製の生成AIである「Sensei GenAI」の開発を強化しています。
特に「リードジェネレーション」「クオリフィケーションの自動化」「シミュレーションされたカスタマージャーニー」「高度なセグメンテーションを活かしたプレイブック(戦略策定で役立つマニュアル)」の生成に向けた機能強化を図っています。
一方、Account Engagementを提供するSalesforce社は最新の生成AI製品オファリングであるCommerce GPTとMarketing GPTを導入しました。Marketing GPTでは、マーケターが「パーソナライズされたメール、より賢いオーディエンスセグメント、およびマーケティングジャーニーを自動的に生成する」ことを可能にします。
各社特色の異なるMAの機能を強化するような生成AIを発表しており、いずれのMAにおいてもAI機能の活用は進んでいくことでしょう。
おわりに
AIを搭載したMAは、すでにBtoBマーケティングでも重要なツールになりつつあります。
しかし、AIの機能の実装に急ぐ前に、「検討中のAIおよびMAプラットフォームが組織とマーケティングのニーズに合っているか」を十分に考慮し、確認する必要があります。
前章のとおり、各AI、MAプラットフォームにはそれぞれ特色があり、一長一短である側面もあるのも実情です。
MAにAIを統合する際には、以下のような選択肢が考えられます。
- MAに内蔵されたAIを利用する
- マーケティング戦略の要件に合わせて自社でAIを構築する
- サードパーティーで事前にモデルが組まれているのサービスやプラットフォームを利用する
マーケティング戦略を明確に策定した上で、自社のニーズに合ったテクノロジーを導入しましょう。
- Forrester「The State Of AI In B2B Marketing, 2022」 [↩]
- Linked in「AI in B2B:Going beyond the hype」 [↩] [↩]
- Accenture「MAKING IT PERSONAL」 [↩]
- commercetools「3 predictions shaping B2B digital commerce in 2023」 [↩]
- ADWEEK「Leaders From GroupM, MediaLink and More Discuss Using AI to Better」 [↩] [↩]