はじめに
昨今、多くのBtoB企業でMA(マーケティングオートメーション)の導入・運用が進んでいます。MA導入にあたって、最も期待される主要機能のひとつに「リードスコアリング」が挙げられます。
DX推進の際には、最初に全体構想から取り組む場合も多々ありますが、マーケティング領域DXではプロジェクト全体の設計図(ブループリント)でリードスコアリングを中核に据えているケースも増えています。
しかし、リードスコアリングについては期待値が高い反面、正しい考え方が浸透していないようにも思われます。本稿では、リードスコアリングとはそもそも何かについて論考しますので、ぜひお役立てください。
リードスコアリングとは何か
MAツールであるオラクル(Oracle)社のエロクア( Eloqua)のマニュアルには以下のように記載されています。1
“Lead scoring is an objective ranking of one sales lead against another. Lead scoring helps your marketing and sales teams identify where a prospect is in the buying process and the right follow-up.”
訳:リードスコアリングとは、営業リード(見込み顧客)を比較するための客観的な順位付けのことです。リードスコアリングはマーケティング部門と営業部門が、リードが購買サイクルのどこに位置をしているのか、そして適切なフォローの方法は何かを特定するのに役立ちます
リードスコアリングの目的は「見込み顧客をあぶりだす」「ホットなリードを抽出する」と捉えられているケースが散見されます。しかし、それは副次的な結果に過ぎず、上記説明で“客観的な順位付け”とある通り「登録されているコンタクト情報を総数として順位付けすること」がリードスコアリングのポイントと言えるでしょう。
順位付けさえできれば、優先順位の高いものが“ホット”と言えるため、前述のような目的を副次的に達成可能となります。
リードスコアリングの方法論
各社でリードスコアリングの機能は異なりますが、コンセプトは大きく変わりません。以下より、オラクル社のエロクアのフレームワークをベースに解説します。
エロクアのスコアリングで重要な概念が「プロファイル」「エンゲージメント」です。
- プロファイル…リードに関する明示的(Explicit)データで「業界・会社規模などの企業情報」「役職や役割などの個人レベルのデータ」といった、MAに登録されている情報
- エンゲージメント…暗示的(Implicit)データで「ウェブサイト訪問記録」「メールクリック」などの主にオンラインでの顧客接点の情報
アドビ(Adobe)社のマルケトを例にとっても、リードスコアリングは、明示的(Explicit)・暗示的(Implicit)に分解し、「属性スコア」「行動スコア」で分けられていますが、仕組みとしては大きく変わらないことがわかります。2
なお、日本だとあまり使われませんが、海外の文献や記事では、この明示的(Explicit)・暗示的(Implicit)という単語がよく使われるため補足します。
明示的(Explicit)と言われるのは、フォーム提出などで顧客が入力した情報といった、その名の通り「明示」されている明らかなデータのことを言います。
暗示的(Implicit)は、直接的に何かに興味があるかはわからないものの、Webの行動動態などから興味度合いを想起することができるデータです。例えば「A製品のサイトにアクセスがあった」とのデータは、裏返すと「A製品に興味があると思われる」と導き出せます。
以上を踏まえると、明示的(Explicit)データの方が信頼性は高いと思われがちですが、「顧客が常にフォーム提出の際に正しい情報を入力するとは限らない」とも留意しましょう。実際に、海外企業のデータベースでは、最も多い名前がジョン・スミスだった(日本でいう“山田太郎”)との話もあるくらいです。
これにより、暗示的(Implicit)データの方が「こういう情報にアクセスしたい」という個人的なインサイトから来ているため、信頼性が高いと言われます。一方で「暗示的」と言われるくらいですので、そこから示唆を導き出すことが難しいという側面があります。
リードスコアリングにおける優先順位の考え方
リードスコアリングは優先順位付けであると前述しましたが、その見方を解説していきます。
エロクアではプロファイルをA~D、エンゲージメントを1~4の4段階に区切り、4象限で可視化します。
例えば、上図の中ではA1はプロファイルもエンゲージメントも最高評価で、D4が最低評価です。A1に分類されるリードでは、「自社にとってターゲット顧客内のキーマンで、自社イベントに参加してもらったりWebでいろいろな資料を見てくれていたりする」などの状況が考えられます。こういった顧客は、すぐに営業がフォローすべきリードです。
A4になると、プロファイルは良いものの、エンゲージメントがないため、「顧客キーマンであるものの、特に自社に対して興味を持っていない」と言えます。短期では案件化しないため、MAでナーチャリングするシナリオも考えられるでしょう。一方で、ABMなどを実施している場合は、エンゲージメントが低くても営業がアウトバウンドアプローチをしたい場合も多いため、営業と相談の上でフォローすることも考えられます。
プロファイルスコアが低いD領域においても、D1は顧客属性が自社の狙いにあわないが反応が良いリードです。例えば、D1に分類されるのは「販売店やディストリビューターがフォローするため直接自社でフォローしない企業属性のリード」が積極的に情報収集している場合などが挙げられるでしょう。この場合、チャネルを交えたリード対応の方法(リードマネジメント)の検討する必要が出てくる可能性があります。
D4に関しては、自社のフォロー対象外で、リードも自社に興味がない状況なので、特にアプローチする必要がありません。
エロクアでは、各リードのスコアリングを行う際、「項目(フィールド)」「含まれる値(データ)」で重み付けをします。
例えば、プロファイルにおいてフィールドの役職が重要な場合、役職を全体の中で50%の重み付けとします。その中で、役員が100点、部長が50点と役職の中で点数付けをします。リードが部長の場合「50% (フィールドの重み) x 50点= 25点」が付与される仕組みです。
残りの50%がリードの役割とします。自社のターゲットが研究開発部門で、次点で調達部門だとした場合、開発部門が100点、調達部門が50点とします。上記のリードが開発部門である場合「50% (フィールドの重み) x 100点 = 50点」が付与されます。
これらを加算した75点がこのリードのプロファイル評価です。Aを上位25%とすると75点以上がA評価となるため、このリードはAにカテゴライズされます。
エンゲージメントに関しても同様で、Form提出やメールクリックなどで加重平均をしていき、1~4のスコアを決定します。
前述のマルケトのマニュアルでは、4象限で表すのではなく、属性や行動を合わせてスコア加算する形式を採ります。例えば「部長なら+10点」「メールをクリックしたら+3点」などです。そのため“ホットリード”であるほど高いスコアになります。
これらは自社で使用しているツールの仕様に応じて設定の仕方が変わりますので、適宜対応していく必要があります。ただし、基本的な思想や考え方がツール間で変わることはありません。
スコアリングは「自社に興味があるリード vs 自社が興味のあるリード」で考える
プロファイルとエンゲージメントについて、さらに違う切り口から解説します。
プロファイルは顧客属性を指しますが、言い換えると「自社が攻めたいリードの条件」をランク付けしたものと捉えられます。
一方で、エンゲージメントは自社との接点になりますので、自社への興味具合と言えるでしょう。
結局、「自社が興味ある見込み顧客に振り向いてもらうようアプローチする」もしくは「自社に対して興味のある顧客から自社の製品・サービスがマッチする顧客を絞り込む」との大枠は変わりません。
リードスコアリング機能については、データを活用して、上図の重なっている部分を効率よく可視化することであると理解しておくとわかりやすいでしょう。
■注釈