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MA運用では「属人性の解消」がAI活用のカギとなる

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MA(マーケティングオートメーション)ツールは、BtoB領域におけるマーケティング活動の高度化・効率化を支える基盤として、多くの企業で導入が進んでいます。 

しかし、実際の運用現場では、「設定や運用が特定の担当者に属人化し、引き継ぎがうまくいかない」「意図やルールが言語化されておらず、過去の施策がブラックボックス化している」といった課題が後を絶ちません。 

そのなかで、2025年現在はAIツールの急速な進化により、MA運用における属人化の原因となっていた初期設計やナレッジの可視化、パターン抽出といった作業の一部を効率化・標準化できる環境が整いつつあります。 

従来は熟練担当者の“経験”や“勘”に依存していた部分にも、AIが一定の役割を果たせるようになってきました。 

一方で、AIを十分に活用するためには、属人化した業務構造そのものをあらかじめ整理・明文化しておく必要があります。属人性を前提としたままでは、AIの出力も再現性を欠き、かえって運用の混乱を招くリスクもあるのです。  

つまり、AI活用は属人性の解消を後押しする一方で、導入に先立って一定の「型」や「判断の基準」を整えておかなければ、真価を発揮しないという両面の構造にあるといえます。 

そこで本記事では、MA運用における属人性を解消し、成果につながるAI導入を実現する方法を論考します。  

なぜMA運用は属人化しやすいのか? 

MAツールは、業務の自動化やマーケティングの高度化を目的に導入されることが多くなっていますが、実際の運用フェーズでは「運用の属人化」が深刻な課題として浮上します。 

MA運用が属人化してしまう理由の1つとして「ツール自体の複雑さ」が挙げられます。 

例えば、MA担当者がツール運用の“前提として”知っておくべき知識とはでも解説しているように、MA運用担当者にはWebIT、データベースに関する知識をはじめ、「広い範囲の知識を包括的に把握し、全体像を把握しておく」ことが必要です。 

配信ロジック、シナリオ設計、スコアリング条件など、設定項目が多岐にわたり、体系的なドキュメントが整備されていないケースも多いため、知識が一部の担当者に集中しやすくなってしまいます。 

特に、MAツール運用の初期段階で社内ナレッジも乏しい状況だと、そのまま少数の社内担当者にノウハウが蓄積され、そのまま属人的な運用になっていくのが通例です。 

そもそもMA運用における意思決定は、多くの場合、担当者の過去の経験や勘に依存しており、ブラックボックス化が進みやすい傾向にあります。 

このような状況で担当者が異動や退職をすれば、設定の意図や改善履歴が失われてしまいますし、次の担当者がゼロから構築し直さなければならなくなるケースも少なくありません。これは、運用の再現性や持続性を著しく損なう原因になります。  

つまり、属人化とは、単に「特定の人が詳しい」という状態を指すのではなく、ナレッジが組織内に蓄積されず、共通の理解に基づいた運用が困難な状況そのものを意味します。 

MAツールを導入しても、その運用基盤が脆弱であれば、むしろ業務の不透明性を増幅させてしまう可能性すらあるのです。 

MA運用で属人性を解消するには「型化」が必須 

MA運用における属人性の本質は、「誰がやるか」によって業務の内容や成果が変わってしまう状態にあることです。 

この状況を解消するためには、「型化」が不可欠です。 

企業組織における「型化」は何を意味するのかでも解説したように、型化とは「単にマニュアルを作ること」ではありません。業務を分解、判断の基準やプロセスの前提となるルールを明文化し、誰が担当しても同じ水準で成果を出せるようにするための「組織的な知の設計」を指します。 

特にBtoB企業では、属人化を前提とした“職人技”によって業務が進められているケースがありますが、それではスケーラビリティを確保できないままです。  

MA運用も同様であり、「キャンペーン設計の考え方」「ターゲティングの優先順位づけ」「スコアリングの調整方針」など、形式知化されていない暗黙の判断が数多く存在しています。 

これらを言語化し、構造化することこそが、属人化を排除する上では不可欠なのです。 

実際に、当社マーケットワン・ジャパンではクライアント企業の支援プロジェクトにおいて、最初に「型」を構築する。その上で、段階的にナレッジをクライアントに移管していくというアプローチを採用しています。 

型化による恩恵は、単に再現性のある運用が可能になるという点にとどまりません。業務プロセスが「見える化」されることで、関係者間の認識ギャップが解消され、属人的なトラブルやミスの削減にもつながります。 

また、運用の意図や判断軸が明文化されていれば、新しい担当者への引き継ぎも円滑に行えるようになり、チーム全体でのナレッジ蓄積が進んでいきます。 

ただし、実際の現場では、型化が容易に進むわけではないのも事実です。 

「そもそも何を定義すべきなのか」が見えにくく、定義作業そのものが属人的になってしまうこともあります。加えて、既存の設定がそのまま放置されていたり、知識が個人単位で断片的に存在していたりといった状況が、知の整理・棚卸しを大きく阻むのです。 

MA運用におけるAIの活用モデル 

近年は米OpenAI社のChatGPTをはじめとするAIツールが目覚ましい発展を遂げています。 

MA運用の領域においても、属人性の排除に向けたAIの活用は今や現実的な選択肢となりつつあります。 

AI活用によるコンテンツ制作がBtoBマーケティングにもたらす革新でも述べられているように、マーケティング業務とAIは非常に相性が良く、「単なる効率化」にとどまらず、パーソナライゼーション戦略を加速させる力も備えています。 

例えば「キャンペーン設計」「セグメント分類」といった高度な判断が求められる作業でも、生成AIを用いれば仮説やたたき台の作成が瞬時に可能になります。 

これは、ゼロから作り上げる工程において最も属人性が出やすい“初動”を、劇的に効率化できるということです。 

前述のとおり、MA運用には経験値や属人的なノウハウに依存する場面が多く、判断や作業の再現性を確保することが難しいのが課題でした。 

しかし、AIを適切に導入すれば、属人化の温床となっていた多くの業務領域において、標準化と効率化の両立が可能になります。 

また、過去の設定やレポートをAIに読み込ませてナレッジを抽出させることで、これまで暗黙知だったものを可視化し、組織内に知見として蓄積させられます。こうしたプロセスは、従来の担当者任せだった運用体制から脱却するうえで、極めて有効です。 

ただし、このようなAI活用を真に機能させるためには、いわゆる「マチュリティモデル」に則って段階的に行なっていく必要があります。 

当社では、MA運用におけるAIツールの活用レベルを、以下の5段階に整理しています。  

MA運用では「属人性の解消」がAI活用のカギとなる

MA運用は、担当者への依存が大きい「初期」レベルからスタートし、リアルタイム最適化や完全自動化が実現される「最適化」レベルへと、段階的に成熟していきます。 

このなかで、AIが真価を発揮するのは、少なくとも「定義済み(レベル3)」以降となります。すなわち、業務フローや判断基準が言語化されており、AIが自然言語や構造化データとして理解・処理できる状態まで持っていく必要があるのです。 

幸いにも、レベル3段階を実現するためのハードルは下がってきています。  

かつてはAIの活用にあたって「構造化されたデータ」が求められました。しかし、近年は生成AIの進化によって、自然言語であっても十分に処理・活用できる環境が整ってきているため、業務フローや判断基準を自然言語レベルで言語化しておくだけでも、十分可能です。 

逆にいえば、そのような整理ができていない運用環境にAIを導入しても、期待する効果は得られにくいということです。 

MA運用では「属人性の解消」がAI活用のカギとなる 

とはいえ、「レベル3」の状態に到達しなければAIは真価を発揮しないというわけではなく、そこに至るための支援役としても、AIは大きな効果を発揮します。 

例えば、過去のキャンペーンデータをもとにパターンを抽出したり、属人化した設計思想を下書きベースで言語化したりといったプロセスにおいて、AIは現場の初動を軽くし、「型化」の定着を後押しする役割を担います。 

AIは、属人性を単に“置き換える”ためのものではなく、“橋渡し”として活用することで、組織全体の再現性を底上げする手段になるのです。 

MA運用におけるAI活用は、単に業務を自動化するためのツールとして捉えるべきではありません。 

それは、「型化された業務」に再現性をもたらし、属人的な知識に依存しない運用体制を構築していくための、「組織づくりの土台」として機能し得ると捉えましょう。 

AI導入後のMA運用で「人が介在すべき領域」はどこか? 

以上のようなMAやAIによって自動化できる範囲は、テクノロジーの進化とともに加速度的に急速に広がっています。 

しかし、だからといってMA運用のすべての業務をAIに委ねられるわけではありません 

ChatGPTはBtoBマーケティングにどのような影響を与えるのか?でも述べたとおり、AIは誤った情報を出力する可能性があるうえ、インプットされる情報の質によってアウトプットの精度が大きく左右されるという性質を持っています。 

そのため、AIを活用する際には、人間側にも一定以上の理解力や判断力が求められるのです。 

特に、目的の設計や施策の選定といった上流工程では、AIによる自動処理では不十分であり、人間による解釈と意思が不可欠です。 

一例を挙げると、「今このタイミングで、どの顧客層に、どの情報を届けるべきか」といった判断には「組織の方針」「営業現場の声」「市場の温度感」など、複数の文脈を踏まえた戦略的判断が求められます。 

こうした判断をAIが一貫して担うのは、現実的ではないでしょう。 

当社では、そのような背景を踏まえ、AIを導入した後のMA運用においても、人間の判断が必要な領域を次のように整理しています。 

MA運用では「属人性の解消」がAI活用のカギとなる 

この図からも明らかなように、AIやMAツールが担える業務は確実に増えていますが、「仮説出し・クリエイティブ」「AIの監督・ファクトチェック」「意思決定・説明責任」といった領域は、依然として人にしか担えない役割として残されています。 

例えば、キャンペーンの目的設定やターゲットの選定においては、単に定量的なデータを読み解くだけでは不十分であり、営業部門との連携や市場環境の把握など、より複雑な文脈を総合的に考慮した判断が求められます。 

また、「生成されたコンテンツがブランドトーンに合っているか」「誤解を招く表現が含まれていないか」といった最終確認も、現時点では人の目によるチェックが不可欠です。 

さらに重要なのが、ツールが提示したアウトプットをもとに「何を選び、何をやめるか」を決める意思決定と説明責任の所在です。 

AIは複数の選択肢を示すことはできても、組織の方針や事業目標との整合性を踏まえたうえで、最終的に“決断”までは下せません。この最終判断と責任を担うのは、やはり人間にほかならないのです。 

つまり、AIの発展によって「人がやるべきこと」は、むしろ洗練されていくといえます。ルーティンワークを手放す代わりに、人は「考える」「正す」「決める」という本質的な役割に集中していく必要があります。 

MA運用の属人性を本質的に解消するためには、「人がどの工程に、どのスタンスで関与するのか」をあらためて定義し直していかなければならないでしょう。 

AIとは「付加価値を上げるため」に向き合っていくことが大切 

以上の内容を踏まえると、属人化したMA運用から脱却するために、人間の私たちがまず着手すべきは「マーケティング組織内に判断する文化を醸成させること」ではないでしょうか。 

AIの進化によって業務の“実行”が自動化されていくなかで、“判断”の質こそが組織の競争力を左右する時代が到来しています。 

属人化の本質は「誰がやるかで成果が変わる」状態にあるといえます。 

この課題を根本的に解消するには「運用の型化」に加え、「型」を現場で機能させるため人とAIがそれぞれの得意領域を活かして補完し合う「“共創”関係」が不可欠です。 

個人レベルでいえば、AIを「作業を代替してくれる便利なツール」として扱うのではなく、「自身の付加価値をさらに上げるためのパートナー」として捉え直す必要があります。  

これは方々で議論されていることではありますが、MA運用でもAIを「効率化のための導入」で終わらせるのではなく、常に「付加価値をどう上げていくのか」という意識が求められるでしょう。 

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