2024年現在、OpenAIの「ChatGPT」やGoogleの「Gemini」をはじめとするAIツールはBtoBマーケティングでも活用されるようになっており、活用方法は枚挙にいとまがありません。
とはいえ、ChatGPTはBtoBマーケティングにどのような影響を与えるのか?でも解説したように、AIツールを有効活用する上では人間側のビジネススキルも高くなければなりません。
さらに、AIツールには「ハルシネーション(事実に基づかない生成内容)」を代表にさまざまなリスクが存在します。自社での活用については、慎重になっている企業も多いはずです。
そこで今回はMarketOne InternationalでリリースされたThe transformative edge of AI in content writing for B2B successを翻訳して紹介します。
AIを活用したコンテンツ制作が、「適切に」運用されれば将来的な売上の形成に向けた投資となる理由について掘り下げるとともに、そのリスクも考察します。
(※本稿では欧米で使用されているAIツール例もご紹介していますが、必ずしも日本語圏内にとって最適な選択肢ではない点はあらかじめご了承ください)
AI活用におけるコンテンツ品質維持の重要性
現代のBtoB市場は急速に進化しており、それに伴いマーケターが活用するツール/テクノロジーも大きく変化しています。
なかでも、コンテンツ制作における 「AI(人工知能)」がもたらす可能性は、まさに“ゲームチェンジャー”と呼ぶにふさわしいものです。ただし、AIツールは確かに強力であるものの一定のリスクも伴いますので、慎重な管理運用を行わなければなりません。
現代では、デジタルを介して顧客や見込み客に「高品質なコンテンツ」を提供する必要性が高まり続けています。
そのような時代では「人間の戦略的思考・創造性」「AIがもたらす革新」の相乗効果(シナジー)が、BtoB分野におけるビジネス的成長を促進する鍵となるでしょう。
ただし、「人間×AI」のアプローチでは「コンテンツの質」を維持し続ける意識が求められます。
それもそのはずで、AIを使って大量の凡庸なコンテンツを生産してしまう企業が増える危険性があるのです。
BtoBコンテンツ制作でAIを活用するメリット
では、BtoBマーケティングにおけるコンテンツ制作において、AIツールはどのような恩恵をもたらすのでしょうか。代表的なものは以下が挙げられます。
- ①:効率とスピード
- ②:データドリブンなSEO強化
- ③:パーソナライゼーション戦略の拡大
- ④:一貫性のあるブランドボイスの作成
- ⑤:トレンド予測と市場競争力の維持
- ⑥:創造性と分析力の融合
それぞれ個別に解説します。
①:効率とスピード
AIツールの登場により、コンテンツの質が人間の「作業スピード」「勤務時間」の制約を受けていた時代は終わりました。
AIの持つ圧倒的な処理能力は、生産性を飛躍的に向上させ、人力のみでは再現不可能な速度でコンテンツを制作できるようになっています。
これにより、マーケターやコンテンツ制作者は「戦略立案」「クリエイティブなストーリーテリング」といった「人間だからこそ担える業務」に専念できます。
AI時代において、人間はコンテンツ制作の前段階となる「ターゲット層の特定」「メッセージの定義」「生産的なプロンプト(AIに入力する指示内容)作成」により多くの時間を割くことが可能です。
その上で、このプロセスが完了すれば、AIが迅速なコンテンツ制作をサポートしてくれます。
ただし、最終的な仕上げを行い「いかにもAIが生成した」という印象を与えないほどの品質を担保するためには、コンテンツ制作者自身のスキルが高くなければなりません。
AIツールに関するよくある誤解として「簡単な指示だけで高品質で魅力的なコンテンツを生み出せる」というものがあります。
しかし「Garbage in, garbage out(ゴミからはゴミしか生まれない)」という諺もあるように、「戦略的な思考」「適切なプロンプト」が伴わなければ、質の高いアウトプットは期待できないのです。
<効率アップに繋がるAIツール例>
- ライティングアシスタント:Jasper.ai、Copy.ai、Writesonic
- コンテンツジェネレーター:ArticleForge、Kafkai
②:データドリブンなSEO強化
BtoBビジネスにおいても「SEO(検索エンジン対策)」による検索経由のリード獲得は重要な取り組みです。
SEOの領域で成果を上げるには「コンテンツの質(=関連性)」「検索結果での順位」を両立させる必要があります。
AIツールを使えば膨大なSEOデータを分析し、トレンドを把握した上で、検索順位の向上につながるキーワードを導き出すことが可能です。
この戦略的AI活用により、コンテンツは適切な自社がアプローチすべき層の目に触れ、メッセージも届きやすくなるでしょう。
ただし、やみくもにAIツールを使うだけでは、適切なSEOデータの分析・提案をしてはくれません。前提として、自社のSEO戦略を定義し、注意深く対策キーワードを選定できる専門人材の存在が不可欠です。
ここでいう「キーワードの選定」とは、単にキーワードをリストアップするだけではありません。選定したキーワードの順位を上げるためのコンテンツが、適切で、有用で、(ユーザーにとって)魅力的で、かつ差別化されているかを確認する必要があります。
AIに任せきりにして戦略が曖昧になり、質の高いコンテンツによる重要キーワードの徹底対策よりも、量的なアプローチを重視してしまわないようにしましょう。検索エンジンは適切なキーワードを含むだけでなく、実際にユーザーに読まれるコンテンツを評価します。
検索エンジンに「クロール(ロボットによるWebページの情報収集)」はされても、評価はされないありふれた内容のコンテンツでは、一時的な効果しか得られません。
<SEO強化を図れるAIツール例>
- SEO特化ツール:MarketMuse、Frase、Clearscope
- キーワードリサーチツール:Ahrefs、SEMrush
③:パーソナライゼーション戦略の拡大
現代のユーザーは単に商品やサービスを購買するだけでなく、自分の嗜好に合った「体験」を求めています。こういったユーザーの期待に応えることで、購買へのコンバージョン率を劇的に高められることは明白です。
AIはユーザーのWeb上での行動データを分析し、パーソナライズされたコンテンツを生成することが可能ですので、「1:1レベル」の非常に高度なターゲティングを行えます。
ただし、AIツールを導入して即実現できるほど安易なものではなく、慎重に実施しないとリスクが利点を上回る可能性があります。
AIを活用した大規模なパーソナライゼーションを効果的に実現するには、人間がきちんと管理しつつ、以下の取り組みを行うことが必要です。
【戦略作成】
- 詳細な戦略を立案し、ターゲットとなるオーディエンス、その具体的なニーズ、そしてパーソナライズすべきコンテンツ領域を特定する必要がある。AIの持つ多大な可能性を考慮すると全領域で対応したくなるが、精度を固める上では絞り込みが必要である。
【データ統合】
- AIに関連データやデータポイントへのリアルタイムアクセスを提供するため、システム統合を行う必要がある。理想的には、これらのデータはCDP(Customer Data Platform)に集約されるのが望ましい。
【データポイントのタグ付け】
- 特定のデータポイントにはタグ付けを行い、それらが正確に識別され、AIによって適切に活用されるようにする必要がある。
【メッセージングガイドラインの作成】
- メッセージングガイドを作成し、関係者に共有することが求められる。
【商品情報の整理とタグ付け】
- 商品情報についても整理し、関連するデータポイントに基づいてタグ付けを行う必要がある。
【テストとプロンプトの洗練化】
- 徹底的なテストを実施し、AIに指示を与えるための非常に詳細なプロンプトを作成し、それを洗練させることが重要である。
十分な指示やモニタリングがない場合、誤った方向にパーソナライズされたメッセージが生成されるリスクがあります。このアプローチでのアウトプットの質は、人間が入力するプロンプトとユーザーに対する理解度により依存すると認識しましょう。
<パーソナライゼーション強化に繋がるAIツール例>
- コンテンツパーソナライゼーションプラットフォーム:Personyze、Omniconvert、RichRelevance
- MA(マーケティングオートメーション):Marketo、Hubspot、Oracle Eloqua
④:一貫性のあるブランドボイスの作成
多岐にわたるコンテンツを制作する場合、統一されたブランドボイスを維持することは不可欠です。ブランドボイスとは、企業がターゲットオーディエンスとさまざまな媒体でコミュニケーションをとるために作り上げる、独自の価値観と表現の個性のことです。
AIを活用することで、ブログ記事やSNS、広告といったさまざまなコンテンツのトーンを一貫させ、ブランドのアイデンティティやメッセージを維持しやすくなります。
統一されたブランドボイスは、企業にとって必要不可欠ともいえる「ブランド認知」「信頼性」の醸成に繋がります。
しかし、ここでもやはり人間の関与が必須です。まず自社メッセージを明確に定義し、製品やペルソナに応じたバリエーションを特定することが求められます。
その上で、AIを適切なコンテンツでトレーニングする必要があります。ただ単に自社サイトを読み込ませるだけでは不十分で、さまざまな種類のコンテンツ・メッセージングでテストを行い、フィードバックを提供することで、すべての制作物で一貫したブランドボイスを担保しなければなりません。
なお、AIに指示を出す際には不適切なコンテンツを使用しないようにしましょう。
例えば、自社サイトのブログ記事を活用するにしても、数年前に作成された記事があるとすると、現在の自社のトンマナやメッセージは変化している可能性があります。この場合、適切なブランドボイスをアウトプットする上での妨げになります。
そのため、「現在のブランドボイスを最もよく表すコンテンツ」を選び、それを基にAIにテスト用の文章を生成させる。その上で、本当に意図したとおりのトーンやメッセージが再現できているか確認する時間を十分に確保する必要があります。
<メッセージングで役立つAIツール例>
- AIライティングアシスタント: Persado、Phrasee、Jasper
(ブランドガイドラインや言語を読み込ませ、ブランドボイスを理解させることが可能) - スタイルガイド・ブランド管理プラットフォーム: Frontify、Lucidpress
⑤:トレンド予測と市場競争力の維持
コンテンツが次々と配信される現代の市場では、競争力を保つためには、常にトレンドの変化を踏まえて先手を打つことが求められます。AIは、コンテンツトレンドに対応し、さらにそれを予測して行動に移すためのインサイトやツールを提供してくれます。
ただし、トレンドをモニタリングし、効果的な予測を行うためには、人間の関与が欠かせません。
マーケティングのプランナーや戦略担当者は「AIによる予測や提案が、はたして自社の目標達成に対しての実現性や関連性を持っているのか」を確認する必要があります。
加えて、AIを活用したトレンド予測では「ハルシネーション(信頼性の低い情報ソースに基づいたトレンド予測)」には注意しましょう。
AIは優れたリサーチパートナーになり得ますが、適切に事実確認を行う人間の存在が不可欠なのです。
< トレンド予測・市場分析ができるAIツール例>
- コンテンツインテリジェンス&分析ツール: BuzzSumo、Concured、Ceralytics
- ソーシャルリスニング&消費者インサイトツール: Sprout Social、Brandwatch
⑥:創造性と分析力の融合
AIがもたらす大きな価値のひとつは、分析業務と創造的な業務を両立できることです。面倒な分析作業をAIに任せることで、コンテンツクリエイターは本来の強みである創造的な企画立案や表現に集中できます。
ただし、これらの作業を監督することは必須の取り組みです。マーケティングの戦略担当者やデータ分析の専門家、コンテンツの専門家が、戦略的なアプローチを定義し、詳細な指示やフィードバックを提供することで、AIツールの学習を促進できるでしょう。
また、ツールを適切な分析プラットフォームに接続し、分析結果を理解する。その上で、次のアクションを提案できるよう、適切な設定を行う必要もあります。
単にAIツールをGoogle Analyticsにリンクさせて「最も成果の良いコンテンツを特定し、それに基づくアクションを提示してください」と入力するだけでは不十分です。
どのデータポイントが最も重要なのか。また、それぞれのコンテンツにどのような目的があるのかをAIに理解させることが、有用な分析結果を得るために必要です。
ただし、AIが間違ったデータポイントを測定することで、的外れなコンテンツトレンドを特定してしまうリスクもある点には留意しましょう。
<創造力アップに繋がるAIツール例>
- コンテンツ最適化&分析ツール: Atomic Reach、Acrolynx
- AIによるアート&デザインツール: Artbreeder、Adobe Sensei
今こそコンテンツ制作でAI投資を行うタイミング
人間の創造性とAIの精緻な処理能力を組み合わせることで、コンテンツ制作の未来が切り開かれます。
しかし、人間のコンテンツ製作者ならではの「独自の視点」「感情表現」は、AIでは決して真似できない価値を持ち続けると考えられます。当然、一部のコンテンツは今後も人間の手によるべきですが、AIが業界に変革をもたらすことも間違いありません。
ただし、短いメールであれ20ページのホワイトペーパーであれ、すべてのコンテンツが高い基準を満たすには、いくつかの前提条件が求められます。その前提条件とは「戦略とメッセージングの定義→トーンのトレーニング→詳細なプロンプトの作成→コンテンツのレビュー」に至るまでの、人間による継続的な関与のことです。
AIは過去10年間で最も胸を躍らせてくれるビジネスツールであることは明白でしょう。BtoBマーケティングで、コンテンツ制作をよりシンプルに、効率的に、生産的にするための無限の可能性を秘めています。
しかし、それは決して「魔法の弾丸」ではなく、人間の介入なしにはその力を発揮しないものです。すべてのコンテンツの質や関連性、独自性を保証するために、人間のクリエイターが主導権を握り続けましょう。