2023年現在、日本のBtoB企業でも、これまでは対面で行われていた営業領域において、デジタルセールス・リモートセールスと呼ばれるスタイルが日系大手も含め広まっています。そのうちの1つが、「インサイドセールス」です。
とはいえインサイドセールスと一口に言ってもさまざまな機能が存在します。実際、米ボストンに本社を置くマーケットワンでは、2006年に日本法人を設立し、インサイドセールスの黎明期から、テレプロスペクティングという多機能なサービスを提供してきました。
そこで今回は、当社の知見も交え、インサイドセールスが意味するものや機能、頻繁に比較されるテレマーケティングとの違いを解説します。
目次
インサイドセールスとは?誕生の経緯も交えて解説
そもそもインサイドセールスとは何なのでしょうか。米Forbsの記事によると「インサイドセールスの最も実用的な定義はシンプルであり、『インサイドセールスとはリモートセールス』といえる」と述べられています。1。
さらに、米Salesforceの情報を参照し、インサイドセールスの起源を辿ってみると、最初は米国で1950年代に始まったテレマーケティングに遡るとわかります2。
そもそも欧米は国土がとても広く、逐一営業担当が顧客企業を訪問していられないという事情があります。以前、筆者が米国で市場調査を行った際には、「訪問許諾のあった近場の顧客」を訪問するのに、ニューヨーク州から始まって車でニュージャージー州に移動し、最後フィラデルフィアの客先に訪問するという工程に丸1日を費やしたのを覚えています。
このことからも、日本の東京のような企業が密集する都市部で成り立っている対面式の営業方式は、米国では限界があると分かるでしょう。
そのような事情を抱える米国市場において、テレマーケティングは1970年代に普及し、1980年代になると、より複雑なコミュニケーションを電話口で行う手法として「インサイドセールス」が誕生したのが、大まかな流れです。
以上のように、「テレマーケティング」として誕生した後に、インサイドセールスは別軸で発展を遂げているといえます。
その後、1999年には、今やSFAやCRMツール最大手であるSalesforceが創業され、営業戦略をインサイドセールスベースで構築してきました。同社創業者のMarc Benioff氏は、著書『Behind the Cloud』のなかで「最初の5、6年間はテレセールス(またはインサイドセールス)モデルで会社を成長させた」と述べています3。
その営業戦略やプロセスは、現在も同社プラットフォームの思想に色濃く反映されているといわれています。
マーケティング・インサイドセールス・営業の分業制について語られるケースは日本のBtoB環境でもよく見受けられますが、そもそもSalesforce自体インサイドセールスで展開されてきたという歴史があるのです。
なお、インサイドセールスや架電(テレ)でのサービスを提供しているマーケットワン・ジャパンの本社であるMarketOne Internationalは1998年に設立されています。
インサイドセールスの2つの機能
インサイドセールスには複数の役割が存在します。ここからは、どのようなものがあるのか詳しくみていきましょう。
まず、インサイドセールスの機能は大きく「Sales Development Representative(SDRs)」「Business Development Representative(BDRs)」に分けられます2。
SDRとは営業開発担当者を指し、架電やメールなどを通じてインバウンドリストにアプローチし、反響を獲得していく役割があります。
一方のBDRは事業開発担当者とも定義される、アウトバウンドのターゲットリード群と接点構築を図り、新規開拓を図ることが目的です。
それぞれ対象企業の規模感も異なり、主に「SDR = SMB」「BDR = エンタープライズ」がターゲットとなる場合が多くなります。
SDR が担当するインバウンドリードの問い合わせに関しては、基本的にホットなリードから問い合わせがきます。基本的に、規模の大小など関わらず「自社に」興味のあるリードがコンタクトをとってくるため、企業分布的に母数の多いSMB(中小)企業からの問い合わせが増えるのです。
一方でBDRは自社から案件を作りに行くものの、コールド(自社に対して興味のない)リードへ主にアプローチをすることになります。その場合、問い合わせに対応するよりも工数がかかるため、投資対効果を考えると、必然的に期待される獲得案件規模は大きくなります。そのため、多くの場合で、BDRは期待される案件単価の大きい大手(エンタープライズ)向けへの対応がメインとなります。
SDR・BDRともに獲得したリードを内勤の営業にパスすることを目的にしています。その中で、SDRの場合は単にリードを獲得だけではなく、購買プロセスが複雑でない製品に関しては、「売り切りまで対応する」「製品デモなどに誘導する」ケースも、特に海外では見受けられます。
これは、SDRが対応する見込み顧客が、「ある程度の興味関心がある前提となる」ことから、購買プロセスの次のフェーズに誘導させやすいということも関連していると考えられます。
BtoBにおけるインサイドセールス機能の内製化事情
さて、各社ごとではインサイドセールス機能はどのように内製し、組織化されているのでしょうか。
全体的な傾向として、インサイドセールス機能を自社で保有する場合、BDR/SDRどちらも内製化する傾向も近年日本の企業においてみられてきました。
一方で、SDRについては自社で人材を育てて内製化しつつも、BDRについてはアウトソースしているという企業も少なくありません。
当社は、インサイドセールスのサポートサービスを提供していますが、すでにSDRの機能を持つ企業からご依頼していただくケースもあります。その背景は、アウトバウンドへのアプローチ機能は有していない企業も多々存在すると感じています。
その理由は、BDRは、ときにはコンタクトがなく何も関係性がない状態から接点を獲得する必要もあるため、ときには代表電話からの突破なども必要になることに起因するからだと考えられます。これはコールドコール(冷えた架電)とも呼ばれ、ニーズがホットになっていない対象にアプローチするがゆえに難易度が高いとされています。
別の軸としては、「常にアウトバウンドが必要である」ケースもありはしますが、営業のリソースが足りないと結局はフォローしないことになってしまい、コストが無駄になってしまいかねません。
例えば、イベントや展示会の後はSDRがコールすべきインバウンドリードが200〜300は存在することもあるため、そちらへのフォローを優先すると、アウトバウンドにアプローチの必要性は薄くなる可能性があります。
このように、インサイドセールス組織においては、案件獲得に向けた動きをする営業のパイプラインやリソースの状況から、バックキャスティングした活動の組み立てが必要になります。
そのため、状況に応じてBDRのみスポットで外注するというのは、自社でいちから人材を育成する時間やコストを鑑みると、理に適うケースも多いでしょう。
ただし、企業によっては時間をかけてでもノウハウを蓄積し、自社で内製化したいという考えもあります。
なぜならば、アウトバウンドで狙うアカウントは重点アカウントが多く、アウトソースばかりに頼っていると「顧客インテリジェンスがいっこうに蓄積されない」「アウトバウンドのノウハウが貯まらない」などの事態に繋がるため、内製化が必要な局面もあるためです。
例えば、重点顧客の戦略的なアカウントプランとは?ABMとの関連性も解説の記事で述べている通り、重点企業へのアプローチに向けてはアカウントプランの作成が求められます。その中で、「アポイントの有無」だけでなく、アプローチの過程で知りえた情報の蓄積なども重要です。例えば、人事異動やキーパーソンが誰に当たるかなど、プロセスにおける情報も戦略上重要になるのです。
弊社では、インタビュー獲得時にインタビューのレポートをクライアント企業に共有しますが、「アポイント獲得」だけなくインタビュー内の情報自体が重要であるとおっしゃるクライアント企業も少なくありません。
とはいえ、何もないところから立ち上げるとなると、成果が出るまで時間もかかるものですので、自社の状況に応じて判断する必要があるでしょう。
インサイドセールスが「テレマーケティング」と異なる点とは?
インサイドセールスと同様の文脈で語られる用語として、「テレマーケティング」が挙げられます。
テレマーケティングとインサイドセールスの違いについてまとめると、それぞれの手段や目的は以下のように異なります4。
上記のとおり、テレマーケティングは、スクリプトに基づく、一度の電話でのクロージングを目指すものであり、ほぼ常に低価格の商品やサービスを対象としたBtoC向けのアプローチ方法です。
一方で、インサイドセールスはスクリプトに基づかないやり取りが必要な点で、テレマーケティングとは大きく異なっています。
さらに、インサイドセールスでは膨大なデータを必要とするため、テレマーケティングとは異なり双方向の情報のトランザクションが必要です。
加えて、インサイドセールスを成立させるためには複数回のコールや「タッチ」が必要であり、中〜高価格の商品やサービスを取り扱うことも特徴の1つです。
一方で、マーケットワンが依頼され、提供しているのは、マーケティング領域のものが主になります。ただし、スクリプトベースでのアプローチは存在せず、顧客の状況に応じたBANTに代表される情報の引き出しがメインの取り組みです。そのため、上図の内容がミックスされた「テレプロスペクティング」というサービスを提供しています。
プロスペクティングとは以下のように説明されます5。
「Prospecting is the first step of the sales process, which involves identifying and contacting potential customers. The goal of prospecting is to create a database of likely customers」
つまり、営業の最初の段階で、潜在的な顧客層に対して、電話というテレ(遠隔)でアプローチを実施し、それらの顧客情報を集めてデータベース化していくものです。
その上で、マーケティングインサイトからきちんと仮説構築を行い、各社・見込み顧客に対して戦略を立てることで情報の獲得を目指しています。
そのため、インサイドセールスの成功率を上げるための仮説構築とは?の記事にあるように、仮説構築が重要になり、各社、各コールで異なるシナリオを持たなければならなくなります。そのため、必然的にスクリプトのコールではなくなるのです。
インサイドセールスとテレマーケティングに共通して必要な考え方
インサイドセールスとテレマーケティングに共通するのは、架電のみのチャネルがすべてではなく、デジタル化が進んだ現代においては、あらゆる方法で顧客は情報を集めているという点です。そのため、BtoBマーケティングで膨大なデータを有効活用するポイントとは?にもあるように「データの統合・整理」も求められます。
テレプロスペクティングではデータベース化を行うと解説しましたが、顧客情報が重要になってくるため、インサイドセールスにしろ、テレマーケティングにしろ、「データ獲得の方法」「インサイトの活用」が肝心な部分です。
上記のとおり、複数のチャネルで顧客情報を集めることになるため、「顧客視点」で適切な情報提供を行なっていく必要があります。
その際に有効なのが、360度アプローチが顧客中心のマーケティングを実現させる理由とは?で解説した360度アプローチの考え方です。
マーケットワンではここにテレプロスペクティングの考え方も組み合わせて、サービス提供しています。
昨今は、多くの企業で新規事業の創出が求められていますが、「新規事業がターゲットとする顧客基盤やその接点がない」という課題が発生するケースは多々見受けられます。
こういった状況では、ターゲットを定めて、ペルソナごとに必要なアプローチを検討する必要があります。新規案件を生み出すインサイドセールス機能や、マーケティングの視点も備えたテレプロスペクティング機能を問わず、自ら顧客に働きかけることが重要になります。
インサイドセールスでは「情報軸」による施策の切り分けが重要
インサイドセールスで見込み客にアプローチしていく場合、「電話だけ」や「デジタルだけ」などの、その手段やチャネルのみをとらえるのではなく、「情報を軸にして、どのように戦略設計すべきか」を考えることが重要といえます。
その上では「顧客にとって役立つであろう」と仮説立てたコンテンツを提供し、顧客のニーズを取得する。その反響をもとに、仮説の解像度を上げていくというサイクルを回すことが大切なのです。
こういった「情報のトランザクション‘=取引)」を、いかに効率よく行うか、そしてその情報を関連部門で共有するかを考えるかが、「遠隔・リモート」によるアプローチの肝になってくるでしょう。
- Forbs「What Is Inside Sales? The Definition Of Inside Sales」https://www.forbes.com/sites/kenkrogue/2013/02/26/what-is-inside-sales-the-definition-of-inside-sales/?sh=64a706a366d8 [↩]
- Salesforce「What is Inside Sales?」https://www.salesforce.com/eu/learning-centre/sales/what-is-inside-sales/ [↩] [↩]
- Marc R. Benioff「Behind the Cloud: The Untold Story of How Salesforce.com Went from Idea to Billion-Dollar Company-and Revolutionized an Industry」https://www.amazon.co.jp/Behind-Cloud-Salesforce-com-Billion-Dollar-Company/dp/0470521163 [↩]
- Forbs「What Is Inside Sales? The Definition Of Inside Sales」https://www.forbes.com/sites/kenkrogue/2013/02/26/what-is-inside-sales-the-definition-of-inside-sales/?sh=64a706a366d8 [↩]
- Gartner「Prospecting」https://www.gartner.com/en/sales/glossary/prospecting [↩]