Marketing Strategy

360度アプローチが顧客中心のマーケティングを実現させる理由とは?

インサイト一覧

新型コロナウイルスの流行が、新しい働き方の促進をもたらし、リモートワークやデジタル技術を活用したニューノーマルな業務体系が広がりました。直近では、Chat GPTをはじめとするAI技術の発展が、ビジネスの有り様を大きく変えるのではないかと話題になっています。

マーケティングや営業においてもそれは例外ではなく、顧客環境の変化への適応が求められ、これまでの画一的なアプローチからの脱却に迫られているのが実情です。

LPやオウンドメディア、メルマガ、テレアポなど、顧客と接点構築するための手法は、多岐にわたります。

しかし、ビジネスを取り巻く環境が急速に変化する現代においては、それぞれの取り組みを“単独かつ自社起点”で行っていては、事業の存続は図れないでしょう。

さまざまなマーケティング手法があるなかで、それらを「自社視点の施策」だけで捉えるのではなく、顧客の情報アクセスを中心とした「360度アプローチ」の視点で取り組む必要性が高まっているのです。

顧客中心の必要性は各所で唱えられるものの「自社にどのように適応させるか?」という点については、各社で模索を進めている状況でしょう。

本稿では、BtoB企業が自社のマーケティング施策に「360度アプローチ」を取り入れる際に必要な考え方、実行手順を解説します。

360度アプローチとは、どのようなマーケティング手法か?

「360度アプローチ」とは、顧客を中心とした形で360度のビューで、その周りに各マーケティング手法を置く考え方です。つまり「顧客一人ひとりにパーソナライズされた価値提供を行うこと」とも言い換えられるでしょう。

CMS image(360度マーケティング)

顧客がさまざまなチャネルを通して企業とつながっている現代では、多様なチャネルから流入する膨大な情報を、シームレスに連携させることが重要です。それこそが、「顧客中心」のマーケティング手法の基本でもあります。

360度マーケティングのキャンペーンは、統合マーケティング戦略を新たなレベルに引き上げ、すべてのタッチポイントやプラットフォーム、デバイスで一貫して「適切なタイミングで、適切な場所に、適切なメッセージでオファーを提供すること」を目的としています。

自社視点でマーケティング・キャンペーンを検討する際には「アウトバウンドか?インバウンドか?」など、“施策視点”に寄ってしまうのが一般的。

しかし、それは顧客視点では「どのチャネルで情報収集するのか?」の違いでしかありません。そのため、顧客視点に立ったキャンペーン立案をすることで、ライトタイミング、ライトコンテンツ(チャネル)を実現できるのです。

デマンドセンターとは?

360度アプローチの概要としては以上のとおりです。しかし、それを進める際には自社の各部門が個々に施策を行うのではなく、「デマンドセンター」を構築したうえで、包括的な戦略を練らなければなりません。

デマンドセンターとは「案件創出を目指して各種情報や顧客インテリジェンスを集約する組織機能」です。ここでいうデマンドとは「顧客案件の創出のために必要な情報・データ」のこと。センターは「セントラライズ(集約・一元化)」することを意味します。

CMS image(デマンドセンター)

つまり、デマンドセンターとは自社における「市場戦略を実行する仕組み」「顧客接点機能」を集結させた組織機能であるともいえます。

顧客情報はマーケティングだけでなく、営業をはじめとする社内の各部門に散らばっているため、それらを一元化しなければ、360度アプローチの実行は困難を極めるでしょう。

先に述べたとおり、顧客から適切な情報取得を図るうえでは、顧客視点に立つことが不可欠。しかし、BtoBマーケティングでは、顧客にアプローチする部門・人が分断してしまっていて、顧客情報・データが一元化されていない……、というケースも珍しくありません。

顧客管理が一元化されていない状況では、カスタマーエクスペリエンスを最大化できないため、デマンドセンターの構築が重要になるのです。

360度アプローチでは、デマンドセンターはどのように貢献するのか?

360度アプローチでは、顧客の「デマンド(=購買力が伴ったウォンツ)」に関わる情報を取得し、適切に活用していく方法を定義化しなければなりません。さらに、データや情報、管理スキームの構築まで含めた全体感の検討も必要です。

施策ベースの話になると、インバウンド・アウトバウンドのアプローチを軸にしつつも、適宜“顧客にとって必要なチャネル”を見極めて、施策を組み合わせていくことも求められます。

CMS image(デマンドセンター詳細)

その際、社内に散らばった情報を集約するためのデマンドセンター機能が構築されていれば、 社内に存在する顧客に関する“あらゆるデータ”を集めつつ、顧客ごとに最大化された体験価値を提供できるようになります。

以上が、360度アプローチに対してデマンドセンターが貢献する理由です。デマンドセンターの概略部分のみの説明でも、全社的に顧客中心のマーケティングに取り組む際には、不可欠な機能であるとお分かりいただけたでしょう。

デマンドセンターについては、同ブログの別記事でも解説していますので、あわせてご参照ください。

関連記事:BtoBのデマンドセンターとは?今こそ顧客志向の仕組みづくりが必要な理由

関連記事:デマンドセンター構築を推進するフレームワークを解説

360度アプローチの実行フェーズ

ここからは、360度アプローチの実行手順についてみてきましょう。360度アプローチを推進する際にも、マーケティングの原理原則となるフレームワークに基づいた考え方が有効となります。

基本的に、マーケティングで成果を出すために、以下のように「誰に?」「何を?」「どのように?」届けるのかについて、一貫性が重要になるのです。

  • Phase1:誰に(Who)?
  • Phase2:何を(What)?
  • Phase3:どのように(How)?

上記のいずれかの要素にミスマッチがあれば、成果にはつながりません。そのため、施策を行う前に棚卸しをし、戦略を策定する必要があります。

では、以下よりそれぞれについてみていきましょう。

Phase1:誰に(Who)?

この段階では、マーケティングと営業が連携して「カスタマージャーニーと連動した顧客ステージの定義化」を行う必要があります。

それにあたっては「対象顧客のセグメンテーションの考え方」を理解しておかなければなりません。

顧客管理では、各セグメントで顧客分類することで、顧客の置かれた状況に寄り添ったコンテンツの作成、自社アクション、チャネル選定の整理が行いやすくなります。

例えば、同ブログで発信している記事コンテンツでは、あらかじめ分類した顧客セグメントを指針にして作成されています。

CMS image(リードステージ)

このようにして「自分たちがこれからアプローチするのはどんな人か?」を把握することで、次フェーズへの工程を進められるのです。

Phase 2:何を(What)?

このフェーズでは「仮説に沿った訴求メッセージの作成と検証」が求められます。まずは、顧客視点に立って、自社が“提供すべき”情報が何であるのかについて仮説立てを行いましょう。

そのうえで、「顧客のステージに対するコンテンツアセット一覧」とコンテンツタイプの可視化を目的とした「コンテンツマッピング」を作成します。

コンテンツマッピングのイメージとしては、以下のようなものです。

CMS image(コンテンツマップ)

ブログ記事やホワイトペーパーなど、各コンテンツをマッピングすることで、コンテンツ作成の方向性やキャンペーンの戦略設計に役立てやすくなります。

例えば、仮説を基にしてマーケティングメッセージを立案し、コンテンツへの落とし込みを行う……、などです。

マッピングが完了した後は、コンテンツ公開後の顧客からの反響や声を聞くなかで検証を行えば、仮説の精緻化につながります。さらには、今後制作するコンテンツが、よりパーソナライズされたものになっていくでしょう。

マッピングのポイントとなる論点は、以下のとおりです。

  • (A):どのようなコンテンツを選ぶのか?
  • (B):そのコンテンツは、どのようなフェーズの顧客に刺さるのか?
  • (C):そのフェーズにいる顧客は、どのような課題を抱えているのか?

“顧客が興味を持つ”コンテンツを作成するためには、上記のような問いに沿ってマッピングを行わなければ、アプローチするべき顧客像を明確化できないため、「当てようがない」といえます。

Phase3:どのように(How)?

この工程は、最も重要なフェーズといえます。冒頭で述べたとおり、ビジネスのセオリーが多様化するなかで、自社の目標を「どのように(How)?」実現すればいいかは、絶え間なく変化していく可能性があるためです。

そのため、常に「今自社にとってこのアプローチは正解なのか?」についても意識しておく必要があります。

それを踏まえて、実際にどのように360度アプローチを実現させるのかといえば「ビジネス機会に合わせた社内体制の構築」を目指すことになります。

各顧客に最適な体験価値を提供するためには、「持続可能な」社内体制の構築が必要となり、「どの部署が何を担当するのか?」については、以下のように各顧客での想定ビジネスサイズによって決定されます。

CMS image(リードマネジメント)

近年は、BtoBマーケティングのトレンドとして「デマンドセンターやThe Modelを導入しよう」という機運も高まっており、画一的な社内プロセスが作られがちですが、それだけで機能するとは限りません。

海外では「One size fits all(フリーサイズで作ればすべてに適用できる)」という考え方もありますが、こと社内プロセスにおいてOne size fits allは当てはまらないでしょう。

つまり、案件規模によっては「営業→インサイドセールス→マーケティング」の順で、顧客あたりにかけられる社内工数も変動するため、最適なチャネルを選定しなければならないのです。

以上を踏まえると、360度アプローチでは、リード管理の方法(リードマネジメント)を再検討したうえでの自動化も必要になってくるでしょう。

関連記事:どの企業にも当てはまる「BtoBマーケティング」は存在しない

360度アプローチの「How?」を実現させるAlways Onの取り組み

360度マーケティングにおいては、前述の「How?」のフェーズが特に重要です。例えば、大手上位層になると、顧客に対して営業がかける工数が増すなかで、アカウントプランを描きながら、営業自身が顧客に認知・啓蒙していくことも必要となります。

あるいは、大手や中規模企業では、ある程度営業側の活動も重要になるものの、リードジェネレーション・クオリフィケーション(絞り込み)はマーケティング・インサイドセールスの役割になる……、といった形で、自社のビジネス環境に応じて、臨機応変にキャンペーンの進め方を調整していかなければなりません。

それはまさにデジタルテクノロジーを使いながら顧客接点を構築しつつ、常に自社で顧客対応を行っていく「Always Onマーケティング」の仕組みです。

Always Onは「自分の送りたい情報を送るのではなく、顧客の認知行動に沿った形で情報提供していく」マーケティング手法です。実現しようと考えた際のプログラムの全体像としては、以下のようなイメージです。

CMS image(Always On)

上図では、まず自社で扱うMA(マーケティング・オートメーション)のデータベースで流入した顧客に「WELCOME(ウェルカム)プログラム」の形で、今後情報提供する旨や自社紹介を送ります。

次に、会社の具体的な紹介として「イントロプログラム」を活用して自社サービスラインナップの周知を図っていきます。

その後、顧客の興味関心に基づいてソリューション群や具体的な製品の紹介をしていく過程を経て、具体的なスペックの紹介に入る……、という流れがAlways On Programの全体像です。

この手法を採用することにより、リード管理の工程を効率的な自動化が可能になります。Always On型のマーケティング手法については、下記の記事でも解説していますので、こちらもご参照ください。

関連記事:顧客志向のマーケティングを実現するための「Always On」とは何か?

どのようにして360度アプローチの「体制構築」をするべきか?

デマンドセンターを構築し、360度アプローチに多くの企業において既存のビジネスルール(戦略とそれに伴う体制)の変更が必要になるでしょう。

この際、判断軸となるのが新たな体制の「A:あるべき姿の定義」「B:施策をまずやってみる(実行)」のどちらを優先するのかという問題です。

例えば、360度アプローチに向けて、自社の「あるべき姿」の構想立案を終えた段階で実行に移すとしましょう。

CMS image(あるべき姿と実行右矢印)

この場合、新たな取り組みが成功する確度はあがるものの、キャンペーン全体のスピード感は下がってしまいます。

変化の速度が急速に速い現代において、慎重になりすぎていれば、市場競争で遅れをとってしまう可能性が高く、機会損失につながるといえます。

では、全体構想の前に、まずは「実行」を進める。このアプローチはどうなのでしょうか?

CMS image(あるべき姿と実行左矢印)

結論をいえば、キャンペーンのスピード感はアップするものの全体感を失い、各組織の活動がサイロ化してしまうことが懸念されます。

以上を踏まえると「全体設計と実行を同時に進め、キャンペーンを実行しながら見えてきたものを全体設計に取り組む」という、両軸による体制構築の推進が望ましいとわかるでしょう。

実際にマーケティングキャンペーンを実行しつつ、その効果を踏まえながら、全体の構想検討を進める方が、マーケティング活動実施の土台が整っている企業に対しては最適な場合が多いのです。

CMS image(あるべき姿と実行両軸推進)

ただし、これは「取り組みに対する難易度」「全体を見る組織(人)のかじ取り」に結果が左右される点は留意しなければなりません。

360度アプローチでは、前述のとおりキャンペーン実施時は、単一チャネルだけでなく「顧客に必要な情報を届ける上で最適なチャネル」の選択が大切です。

訴求メッセージなどを検証し、PDCAをまわしながらキャンペーンを実行して成果の最大化を目指さなければ、「より良い体制のあり方」も定義できないと踏まえておきましょう。

関連記事:なにがデマンドセンターの運用の妨げとなるのか?円滑な運用を達成するためのポイント

まとめ

360度アプローチを実行すれば、変化の激しい現代において顧客ごとに適した体験価値を届け、自社事業の存続性を高められます。

しかし、真に顧客中心のマーケティングを実現するためには、さまざまなチャネルから流入するあらゆる顧客情報を集約し、適切に活用していくための体制を構築しなければなりません。

360度アプローチの全体像については、以下のホワイトペーパーでも公開しています。無料でダウンロードできますので、あわせてお役立てください。

「顧客中心」マーケティング実現に向けた戦略立案の最適解とは