Marketing Strategy

重点顧客の戦略的なアカウントプランとは?ABMとの関連性も解説

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近年「共創」というキーワードが多くのビジネスシーンで使われています。 

営業・マーケティングに取り組むうえでは、重要顧客と伴走しながら、顧客の期待に応え続けることで自社のオファーやサービス・製品をよりよくしていくことが求められます。 

そのビジョンを掲げることも重要ですが、同じく重要なことは、「どのようにたどり着くか」の戦略を描くことです。 

その重要顧客ごとの戦略にあたるものがアカウントプランとなります。海外企業や外資系企業では「当たり前」のように取り組まれていますが、筆者がコンサルティング業務に従事しているなかでは、日本企業においてはきちんと運用されている例はまだ多くないように感じられます。 

そこで今回は、アカウントプランにスポットをあてて解説をするとともに、マーケティングの視点から、ABMとどのように連動するかを論考していきます。 

重点顧客の攻略における「アカウントプランとは何か? 

そもそもアカウントプランとは何でしょうか? 

ガートナー社によると、アカウントプランとは「新規見込み顧客や既存の顧客に関する重要な内容を体系化するプロセス」であると述べられています。そこには顧客を獲得し、維持し、成長させるために、顧客の意思決定プロセス・競合している企業・全体的な戦略に関する情報」も含まれるとされています((GartnerAccount Planninghttps://www.gartner.com/en/sales/glossary/account-planning)) 

つまり、顧客のビジネス環境や課題ニーズを体系化し、自社サービス・製品におけるソリューションの展開プランを立案するそのうえで、戦略実行のための顧客のキーマン情報と自社との接点をまとめ、具体的なアクションプランに落とすプロセスこそがアカウントプランです。 

アカウントプランが重要な理由として、マーケティング的な思考で考えるとあらゆる提案の源は顧客ニーズであり、それに基づき自社の提案内容を精緻化しなければならないという点が挙げられます 

一方で、BtoBマーケティングでおさえておきたいニーズ vs ウォンツ vs デマンドの違いで解説したように、顧客ニーズを満たす対象がウォンツであり、そこに予算が付くとデマンドとなるのがマーケティング的な考えです 

特にソリューション型の提案をする場合は、顧客のニーズの多くが顕在化していないために、ウォンツにあたる自社の提案の複雑性が増すケースが多々あります。 

そのため、特に関係者が多い大企業ほど、各ステークホルダーの異なる思惑をまとめ上げつつ、攻略するための戦略が重要になるでしょう。 

アカウントプラン作成時のポイント 

戦略を立てるうえで重要になる顧客ニーズの多くは、経営などの上位方針を元に形成されます。しかし、顧客ニーズは上位にいくほど抽象度が高くなっていくため、顧客自身でさえ「ニーズを言語化できない」ケースも珍しくありません。 

それを引き出すうえでは、仮説設計が重要になります。受け手としてはオープンクエスチョンで「課題は何ですか?」と聞かれても自分でもわかっていない場合も多いため、課題を引き出すための「問い」を組み立てる必要があります。 

その問いを組み立てるうえでは、自社が保有する情報を整理し、出来うるだけの顧客理解をしつつ、仮説を作る必要があるのです。 

それにあたってはSWOT分析を用いた整理が有効です。仮説設計時に顧客の理解を深められるため、海外でもアカウントプラン作成時に高頻度で活用されています 

仮説設計を行う際には、前提となる情報のインプットで経営レベルのイニシアティブが載っている投資家向け情報を紐解きつつ、営業活動などで得た情報を集約します。そうして得られた情報にSWOT分析もかけ合わせると、より仮説の精度が深まるのです。 

ただし、社内における議論の際には、関係者間で「マーケティング視点」「営業視点」のSWOTと混同が頻発する点には留意しましょう 

ガートナー社のレポート((https://www.gartner.co.uk/en/sales/insights/b2b-buying-journey))によれば、顧客内の購買プロセスにおいてサプライヤー(営業)との対話に費やす時間は全体の17%に過ぎず、社内調整とそのための調査が主であり、その結果として77%の顧客が「自社の購買プロセスは複雑である」と感じているとのことです 

アカウントプラン作成時には、これらに留意しながら顧客内のDMU( Decision Making Unit:意思決定機関)やキーパーソンと自社との接点(人脈)を明らかにしていくことが重要であると言えます 

アカウントプラン実行時に求められる部門間連携 

アカウントプランを伴った営業はアカウントマネージャーと呼称される場合が多く、その名の通り「自分ですべてを行う」のではなく、自部門のトップや、各領域の専門家(Subject Matter Expert = SME)とコラボレーションをするハブの役割を持ちます。 

別のガートナーの調査((https://www.gartner.com/en/documents/4007210))では、社内において部門間連携がうまくできている場合と、そうでない場合を比べると、顧客の投資額に215%のインパクトを与えると述べられています 

同調査では、営業責任者(CSO)は重点顧客の売上向上に重要な要素が担当営業でありつつも売上向上に重要な部門間連携を自社の人脈だけに頼る営業は全体の76%を占めるというデータが示されています。  

つまり、アカウントプランの実行にあたっては担当営業のみですべてを担えない現実を踏まえ、アカウントプラン作成時に上位役職者協力の元、具体的なアクションと他部門への依頼事項についての全社合意を形成しておくことが重要です。 

アカウントプランにおけるパイプライン管理の重要性 

アカウントプランを策定し、重点顧客に対する営業活動を行なったとしても、商談中の案件すべてを獲得できるわけではありません。しかし、その中でも業績管理の確からしさを高めていく必要があります。 

それにあたって、各顧客における案件の総量を可視化し、案件フェーズごとにグルーピングすることで、各フェーズの想定受注確率で重みづけする方法がパイプライン管理です。 

企業では持続的な成長が求められることから、既存の案件を追うだけではなく継続した新規案件の創出が重要となります(重要顧客においては特に)。そのため、アカウントプラン実行時には、案件レベルごとに区分けしながら、その都度進捗状況を管理しなければなりません。 


アカウントプランを持続的に実行するための会議設計 

アカウントプランは作成して終わりではなく、市況・社内状況の変化に合わせてローリングで改訂していくPDCAサイクルも実施しなければなりません。 

そのためには、レビュー対象(決裁者)と目的を明確にしたうえで、監査を行う会議体の設計が必要です。 

VUCA時代である昨今はビジネス状況の変化が激しいため、各会議を待つのではなく、SFAを活用したパイプライン・活動状況のリアルタイムの共有も求められます。 

アカウントプランとABMはどう連動するのか? 

ABM(Account Based Marketing)正しい理解と社内推進の方法とは?の記事では、ABMを社内で推進するためには「全社合意」がキーワードであると解説しました。 

それに加え、ABMは下記の条件がそろったうえで、会社対会社の関係性構築のために、マーケティング・営業の視点で統合的な戦略の作成・実行を行わなければなりません。 

  • (AM = Account Manager / AE = Account Executive)が配置されている 
  • 自社のアカウントと紐づくコンタクトの情報が集約されている 
  • 特に重点顧客においてはアカウント戦略のベースとなるアカウントプランが作成されている 
  • ABM攻略に向けたマーケティングのリソースが確保されている 

このように、ABMの実施にあたってはアカウントプラン作成が必須となりアカウント攻略においてはマーケティングが重要な役割を担うことになります。 

特に、前述の記事内で解説したフレームワークにおける、Strategic(1to1) ABMのセグメントでは、アカウントプランに基づいてABMプランを立てていくため、よりアカウントプラン作成の重要度は高いと言えます。 

アカウント攻略において、メインのオーナーはアカウント営業(AM/AE)ですが、マーケティングは短期の営業目標のみに縛られることなく活動できる立場でもあります。そのため、重点顧客における中長期での関係性構築や「将来的な重点顧客」の開拓に向けた活動を、営業と連携しながら行えます。 

しかし、アカウントプラン作成では仮説構築が重要である一方、アカウントプランの作成が「したくてもできない」ケースは多々あるでしょうそれは、そもそも「仮説」とは既知の情報をベースとするとして組み立てるものだからです。 

たとえば、「未取引の企業で公開情報以上の情報がなく、キーマンが誰か不明である」「すでに取引がある企業でも、未取引部門に関しては営業の顧客接点がないため」といった、顧客に関するキーとなる情報がないケースでは「仮説」になり得ず、アカウントプランの作成も難しくなります。 

重点顧客の中でも戦略的に一番重要なセグメント(Strategic)は、アカウントプランに基づいてABMのプログラムを設計し実行することです。 

それ以外のセグメントで前述した「アカウントプランが作れない状況」においてABMを推進するためには、マーケティング活動での情報収集を通じたアカウントプランの作成が重要になります。 

重点顧客攻略ではまずはABMの目標設定からはじめる 

以上のとおり、重点顧客は全社的に定義するものであるため、ビジネス環境とそれにともなう経営・営業戦略によって大きく左右されます。 

加えてアカウントプランの完成度は営業部や各アカウント営業(AM/AE)によっても濃淡が大きく分かれるのが実情です。

重点顧客攻略を実施するにあたっては、これらの変動要素を踏まえつつ、ABMの目的セットと全社合意から始めることが重要です。

なお、マーケットワンではアカウントプランについて詳細を図解した資料を作成しております。「アカウントプランの構成要素として、どういった項目を含めるべきか」「ABMとアカウントプランはどう連動するのか」について解説していますので、ぜひ以下よりご覧ください。

重要顧客攻略に必要なアカウントプランとは?-ABMとはどのように連動するのか