各社ごとで「マーケティング」に求められる範囲は曖昧で、ミッションは多岐に渡ります。その中でも、BtoBマーケティングにおいて重要な取り組みのひとつが「デマンドジェネレーション」です。
過去の記事で「デマンドとは購買力を伴ったウォンツである」と述べました。デマンドジェネレーションは「デマンドの創出」となりますので、見込み顧客を創出し、デマンドを伴った案件創出をするための活動を指します。
今回の記事では、そんな“BtoBマーケティング”の取り組みにおいて基礎となるデマンドジェネレーションについて解説します。
デマンドジェネレーションの基本となる3つの概念
企業の内部では、様々なミッションやそれに対応するためのプロジェクトが日々動いています。このような顧客企業が抱える「ペイン(課題)」「ゲイン(望み)」を解決するため、自社の製品やソリューションを提案し、活用して貰うことでBtoBビジネスは成り立っています。
こうした顧客の購買活動がある中で、見込み顧客を獲得し、案件化まで繋げる取り組みがデマンドジェネレーションです。 デマンドジェネレーションの取り組みで重要な概念が、マーケティングでは認知段階の顧客から、案件化が可能な顧客を絞り込んでいく過程を構想する「ファネル」です。
近年のBtoBマーケティングにおけるファネルは、シリウスディシジョンズ(Sirius Decisions)が提唱したデマンドウォーターフォール(Demand Waterfall)のフレームワークが主流となっています。詳しくは『<前編> シリウスディシジョンズ・デマンドウォーターフォール(SiriusDecisions Demand Waterfall)モデル徹底解説』で解説していますので、合わせてご参照ください。
デマンドウォーターフォールでは、ファネルを細かく分割して各ステージを定義しています。
これに対してデマンドジェネレーションについて解説しているCarlos Hidalgo著のDRIVING DEMAND内では「”Engage” → “Nurture” → “Convert”」の3フェーズで説明されています。
まずは見込み顧客をひきつけるEngageのフェーズに始まり、顧客に情報提供を続けるNurture、機が熟したタイミングで営業のフォローが始まるConvertです。
日本ではファネルを3分割する方法として
- リードジェネレーション
- リードナーチャリング
- リードクオリフィケーション
を用いるのが一般的です。ここからは、これらの単語を用いてデマンドジェネレーションについて解説します。
リードマネジメントでは適切なデータ運用が求められる
リードジェネレーションは見込み顧客に関わる情報を獲得する段階です。特に新型感染症のパンデミック以前のBtoB領域では、イベントなどの展示会での参加者情報の収集に取り組む日本企業も多かったのではないでしょうか。
感染症対策やそれに伴う新しい働き方が進む中では、ウェビナーやデジタル媒体の広告などを活用した施策も活発化しています。 一方で、これらイベントへの参加者は、すぐに案件化しない層が多いのも実情でしょう。
そのため、顧客側の関心が高まるフェーズになるまでは、リードナーチャリングとして顧客接点を保ちながら情報交換を続けていく必要があります。
従来の日本の伝統的な営業スタイルでも定期的に「挨拶がてら新製品の情報を提供する」アプローチが採られ続けていました。こういった活動に加え、近年ではMA(マーケティングオートメーション)の導入が進み、マーケティングの側面から、デジタルを活用した施策を行うことも主流になっています。
リードナーチャリングは、情報交換という切り口で見ると「コンテンツ提供と引き換えに関心の情報を得る」ことであると言えます。
ナーチャリングは「育成」という日本語があてがわれるケースが多々ありますが、真の意味で「顧客を育成する」ことは難しく、情報提供しながら機が熟すタイミングを見計らうことと捉える方がより適切でしょう。
新規コンセプトのサービス・製品の場合、顧客側の理解を深めることが必要な場面もありますが、そういったケースにおける情報提供は育成というよりも啓蒙に近いのではないでしょうか。
その際、見込み顧客に対して情報提供をしているのは自社だけではなく、競合にあたる複数の会社も同様の動きをしている可能性があるのは留意すべきです。他社の動きを想定しながらも、機が熟すタイミングを見つけることが、BtoBマーケティングを難易度の高いものにしているといえます。 (リードナーチャリングについて、詳細はこちらをご参考にしてください)
最終的にクロージングを担う営業のリソースも有限であるため、情報提供段階にある顧客の中から案件化が見込まれるリードの絞り込みが求められます。このフェーズがリードクオリフィケーションです。
リードクオリフィケーションは「自社 “に” 興味があるリード × 自社 “が” 興味のあるリード」のマッチングを図るフェーズとなります。この際、よく使われるマーケティングオートメーションの機能がリードスコアリングです。詳しくは『リードスコアリングとは何か?基礎知識や方法論を解説』でも解説していますが、スコアリングだけなく、リードクオリフィケーション全体の概念がご理解いただけると思います。
このようにリードスコアリングではデジタルデータの定量情報にもとづく絞り込みを行います。それに加えて、次工程の営業に受け渡す際の確度を上げたり、より営業がフォローしやすくするために、テレマーケティング(インサイドセールス)を活用した「情報の付加価値を付ける取り組み」の重要性も高まっています。(テレクオリフィケーション)
電話でのアプローチは、アメリカでは古くから行われていましたが、近年は”クラシックな”テレマーケティングよりも、最先端テクノロジーの活用によりフォーカスされていました。一方で筆者がアメリカでのシリウスディシジョンズのイベントに参加した際に、欧米企業においても原点回帰が起こり、テレマーケティングに対する重みづけが再度され始めた印象を受けます。
ファネルにおけるテレにおけるクオリフィケーションの重要性についてもデマンドウォーターフォールモデルの記事で解説されています。
冒頭で紹介したリードマネジメントは、上記三つの用語に比べると日本ではあまり議論されていない印象がありますが、非常に重要な考え方です。
リードマネジメントでは、保有するリード情報に対して「誰をナーチャリング対象とするか」「クオリフィケーションした場合、次は誰が何をする必要があるのか」などのルールを事前に決めておく必要があります。
ルールの整備がされていなければ、お互いで見送りをしたり、認識の齟齬が生まれたりします。特に、デマンドジェネレーションが部門をまたいで行われる場合には、上手く連携ができない“ミスアライメント”の状態に陥ります。
このような状況を避けるためには、事前にリードを区分けするステージをいくつか設定し、「どのような情報が揃えばリードを各ステージに割り振れるのか」「それをもとにした、各ステージに対応するオーナーと必要なアクションは何か」を定義します。
また、各ステージの中でもスコアリングの条件は?営業がフォローする条件は?など、属人化を防ぐために具体的な定義をすることが重要です。
リードマネジメントは、リード“データ”マネジメントとの側面が強く、デジタルを活用したデータ基盤の整備が求められます。
システム・データの基盤を考える上で、プラットフォームの整備は重要な要素です。多くの場合、マーケティングデータベースであるマーケティングオートメーション(MA)とCRM/SFAをシステム基盤にしているでしょう。
その上で、マーケティング・テクノロジー(マーテック)をAPI活用などで連携することでデータを集約します。
一方で、BtoBにおけるデータ活用について述べた記事にもある通り、ツールを導入したから成果が出る訳ではなく、全体の構想に基づくデータ整備がカギになります。ツールを支配するのではなく、ツールに支配される状況になっていないか?改めて考えてみることが重要です。
近年、“データドリブン”に取り組む企業も多くなっていますが、「データそのもの」に意味はありません。データを適切な”情報”として活用するためには、システムやデータの整備・拡充を行うことが重要です。
『米国特許における “information” と “data” の使用頻度と審査結果に与える影響について,及び,「情報」を “Information” と訳すことの妥当性についての考察』という資料では「Data 自体は人間に有用ではなく、Data は処理(Processed)されることで人間に有用な Information になる」と記載があります。
つまり、データドリブンで意思決定するためには、必要な「情報」と自社で出来る「処理」から逆算したデータ運用が求められます。
その前提としてどのようにリードデータを扱うかの運用ルールを定めるリードマネジメントが重要となるのです。
デマンドジェネレーションの「ベストプラクティス」とは?
ここまでデマンドジェネレーションの基本的な概念を述べました。それではその理想像とはどのようなものでしょうか?
前述したDRIVING DEMAND内では、戦略的なデマンドジェネレーションとして以下のように解説されています。
“A perpetual process that is both operationalized and optimized to Engage, Nurture, and Convert both prospects and customers along their buying process. A process that is designed to educate and qualify through the collaboration of marketing and sales activities with the goal of driving revenue and maximizing customer lifetime value.”
上記をまとめると、購買プロセスに寄り添いながらも、運用可能で永続的なプロセスがポイントと言えるしょう。
デマンドジェネレーションへの取り組みは絵に描いた餅ではなく、現場運用をきちんと見据えていなければなりません。
日本企業におけるセールスマーケティングアライメントの記事でも解説した通り、ジョブ型である海外では転職によりキャリアチェンジが一般的であるため、すでに担当者に左右されない非属人的なプロセス設計が必要となっています。
また、同著ではこれらを実現するために3つのキーワードが出てきます。
- Buyer-Centric (顧客中心):顧客視点にたち自社よがりでないか
- Revenue-Oriented (収益志向):顧客のライフタイムバリューの最大化ができるか
- Integrated and Orchestrated (連携と指揮): 顧客接点に関わる部門が連携できているか
キーワードで挙げると簡単そうに感じられますが、社内の戦略・仕組み・風土を変えていくことは大きなチャレンジであり、変革(トランスフォーメーション)としての取り組みが必要になります。
マーケットワンではデマンドジェネレーションを推進する上で、「デマンドセンター」の構築を推奨しています。デマンドセンターの全体像に関しては次回記事で解説します。