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<前編> シリウスディシジョンズ・デマンドウォーターフォール(SiriusDecisions Demand Waterfall)モデル徹底解説

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はじめに

「デマンドウォーターフォール(Demand Waterfall)モデル」は、2001年にアメリカで創業されたBtoBマーケティング分野のリサーチ&アドバイザリーファームである「シリウスディシジョンズ(SiriusDecisions)」によって提唱されたフレームワークです。
同社は、2018年にフォレスタ(Forrester)社に買収されていますが、買収後も世界のBtoBマーケティングを牽引する理論を発信し続けています。

2017年に、デマンドウォーターフォールの改訂版である「デマンド“ユニット”ウォーターフォール(Demand Unit Waterfall)」が発表されました。
その頃台頭したABM(アカウントベースドマーケティング)の流れを反映して進化したフレームワークがデマンドユニットウォーターフォールです。

本稿では、発表から10年以上経過してなお世界のBtoBマーケティングで使用されるケースも多い2012年版のデマンドウォーターフォールについて解説します。
なお、本記事はマーケットワンインターナショナル(MarketOne International)で執筆された
The SiriusDecisions Demand Waterfall Explained Part 1」を日本語に翻訳したものです。
今回から全2回に渡り「デマンドウォーターフォールがどのように機能するか」「なぜ使い勝手がよいモデルと言われるか」について解説します。

2002年に発表され、2012年に改定されたシリウスディシジョンズ デマンドウォーターフォールモデルはデマンドジェネレーションの仕組みを最適化するための「デファクトスタンダード」となった。

2012 年、シリウスディシジョンズがデマンドウォーターフォールのフレームワークを“再構築(rearchitected)”して発表した際、このフレームワークが従来のものよりもさらに洗練され、成熟していることは誰の目にも明らかでした。
デマンドジェネレーションの施策を最適化するうえで、マーケターが考えるべき全ての要素が論理的に体系化されていたのです。

筆者にとって、このフレームワークの中でも特に興味深いポイントが3つありました。
それらを解説することで、デマンドウォーターフォールが広く使われている理由を理解いただけると考えています。
本記事では1つ目のポイントについて解説し、残りの2つのポイントは後編で解説していきます。

 

M1J-Marketing_202110_Demand Waterfall Part 1 

 

デマンドウォーターフォールのポイント1 – テレマーケティングを含めた包括的なマーケティングステージ 

営業やマーケティング部門は、長い間テレプロスぺクティング(電話などを使った見込み顧客の創出)に取り組んできました。
(訳者注:アメリカでは国土が広いため、対面だけではなく、電話を活用した営業活動が昔から主流になっている)
メールが登場する以前は、テレプロスぺクティングは幅広い層の見込み顧客へメッセージを届け、より少ない工数で営業部門へより多くのクオリファイドリード(絞り込まれたリード)を渡せるチャネルとして考えられていました。
しかし、ある時点から、企業組織のマーケティングファネルにおいて、テレプロスペクティングは見込み顧客へのフォローを加速させるためにさまざまな切り口で活用されるようになっていきました。

“「テレプロスぺクティングはいま最も注目されている」”-シリウスディシジョンズ

デマンドウォーターフォールで、シリウスディシジョンズは「デマンドジェネレーションプロセスにおいてテレプロスぺクティングがどのように組みこまれるべきか」を簡潔に説明しています。
その理由は、テレプロスペクティングの効果を新しいやり方で検証し、自社の取り組みや宣伝活動において素早くPDCAを回し、評価する必要があったためです。
この考えは、従来のウォーターフォール(Waterfall)においては、マーケティングでの絞り込み、いわゆるMQL(Marketing Qualified Leads)ステージに組みこまれていました。

しかし、元々は1つのステージとして扱われていたMQLを、シリウスディシジョンズは2012年に改訂されたフレームワークにおいて、4つのサブステージに分けるという大きな変更を加えました。
この変更がデマンドウォーターフォールのカギとなる要素ですので、それぞれのサブステージ同士が相互に関係し合うことで、どのように機能するのかについて理解する必要があります。 

 

AQL (Automation Qualified Leads) 

AQL (Automation Qualified Leads)は、マーケティングオートメーションを使って、問い合わせのあった顧客(図中のInquiry)をスコアリング、次のステップであるテレプロスぺクティングに送客するか否かを判断するステージです。

それに加えて、ナーチャリングと呼ばれる購買育成のプログラムが、AQLステージと連動しているべきだと筆者は付け加えます。
テレプロスペクティングに移行するのに十分なスコアを得られていない場合もあるため、AQLを通過するためにナーチャリングストリームを用意しておく必要があるのです。
(訳者注:MAを活用したナーチャリングフレームワークに関してはこちらのホワイトペーパーを参照) 

 

TAL (Teleprospecting Accepted Leads) 

TAL (Teleprospecting Accepted Leads)とは、テレプロスペクティングチームがAQLを確認し、リードとして受け入れるか、差し戻しをするかを判定するステージです。

その際、受け渡されたリードに関する情報の確認は目視のチェックで十分な場合もありますが、一度コールをしてみないとリードと判断がつかない場合もあります。
提供された情報やデータが正しく、電話番号が本当に繋がるかどうかに関しては、一度コールをして確認してみないとわかりません。
(訳者注:MAのフォーム等でデータが入力されていても、情報が正しくない場合もしばしばある) 

 

TQL(Teleprospecting Qualified Leads)

TQL(Teleprospecting Qualified Leads)は、コールが成功し、営業への受け渡すために絞り込まれたリードを指します。

弊社(マーケットワン)は、長年に渡りテレプロスペクティングを行ってきた経験から、TQL指標を達成するための要素(キードライバー)に関するノウハウを保有していますので、読者のみなさまにとって興味深いと思わるいくつかの事柄を共有します。
例えば、コールリストに対して、13回とコールをしていくと到達率はあがっていきますが、4回以上になると急激に非効率になります。そのような時には、「釣り竿を引き上げて、他の釣り場に行く」ことも必要です。 
また、正確なタイミングでコールを行うことも重要になります。短い間隔で何度も電話をかけると、相手に悪い印象を与えてしまいかねません。
一方で、コールの間隔を開けすぎてしまうと、せっかく顧客に興味・関心を持ってもらったのに、いつの間にか顧客からそれらが失われてしまっていたという状況も起きてしまいます。

ボイスメール(留守番電話)も重要な要素で、留守電を受け取る相手の関心のありそうな内容・分野に合わせ、簡潔に伝えなければなりません。
(訳者注:欧米ではボイスメールは電話の効率性を上げるためによく使われ、ボイスメールの改善をすることで到達率をあげる取り組みがしばしば見られます)

ここまでを見ると、シリウスディシジョンズが「テレプロスペクティングチームは営業ではなくマーケティングの機能としてあるべき」と強調する理由が見えてきます。
パイプライン金額や受注金額という営業指標だけにとらわれるのではなく、テレプロスペクティングチームとしての指標を持つことが重要なのです。 

 

TGL (Teleprospecting Generated Leads)

TGL(Teleprospecting Generated Leads)とは、テレプロスペクティングで獲得したリードのことで、このステージでは主に「コールドコール(訳者注:関係性のない/薄い顧客に代表番号等からアプローチすること)」を実施します。

筆者は、TGLが全体の中で一番運営が難しいステージだと考えています。
チームがアウトバウンドのコールドコールを行っていると社内に広まると、必然的に営業・マーケティングのいたる部門から、彼らが持っているリードにもコールをしてほしいと依頼されかねません。
インハウスチームの難しいところが「社内リソースであれば無料」との考えのもと、コールのプログラムを依頼してくる人たちが現れる点にあります。
(業務量が過剰にならないよう、社内でも工数振替などをして「アウトソース」という形式をとって運営する場合もあるでしょう)

このような問題の解決策は、活動に優先順位をつけることです。
多くの場合、活動の優先順位はチームの評価形態や報酬体系をもとにつけらます。
その際には、柔軟性を持ち、すべてのKPIをパイプラインに直結するものにする必要があります。柔軟性という観点から言えば、営業との連携が重要になりますので、まずは事前に営業によって精査されたアカウントリスト準備しましょう。
これにより、チームを多忙にさせる大量のマーケティングリストは必要なくなります。

KPIに関しては、追加の指標を作成していくことが求められ、パイプライン生成に関連のある「キーマンリストの作成(Name Development)」「イベントの案内と登録者数、ナーチャリングに関わる指標」などが含まれます。
営業との期待値セットも重要で、選定した顧客アカウントから案件が出るまで、数カ月、場合によっては1年以上かかることも覚悟する必要があります。
案件化しても、その見込案件がクローズするまでに、営業・マーケティング部門間を数か月も行き来するケースもあると念頭に置きましょう。

最後にリファラル(紹介された見込み顧客)の扱いを決めておく必要があるということについても触れておきましょう。
リファラルの扱いを決める際には、「TQL/TGLのどちらに区分すべきか?」「ワークフローの設計や、テレチームが生み出した新規顧客の”扱い”をどうしていくか」などを考えていかなければなりません。 

 

スコアリングとテレプロスペクティングの連動性

デマンドウォーターフォールでは、スコアリングモデルに対して「どのリードが条件を満たしているか(むしろ満たしていないことを確認する方が重要なのですが)」を判定するだけでなく、テレプロスペクティングチームを活用してスコアリングのシナリオに関する検証をA/Bテスト等を通じて実施していく必要があると述べられています。
これは、Q&Aにおいてシリウスディシジョンズも回答しておりますが、スコアリングによるリード評価に加えて、その後の対面営業を見据えてリードを評価・コンタクトへとコンバートさせていくために(訳者注:確度があがるとSFA内の操作でリードからコンタクトへのコンバージョンを実施する)、テレプロスペクティングが必要であると意味しています。

“Q.スコアリングを実施していても、テレクオリフィケーションは必要ですか?”

“A.はい、必要です!”-シリウスディシジョンズ 

 

“ミスアライメント”の問題  

テレプロスペクティングとスコアリングの連携は、キャンペーン企画の早い段階で調整をすることが重要になり、キャンペーン自体の成功可否を左右します。
マーケティングチームは、スコアリングの閾値を決め、スコアリングの結果を左右するデータソースを保有した上で、リードを”Accept” or “Reject”する役目を持っています。
それにより、数日・数週間のうちに「どのチャネルが勢いを増しているか」「適切なスコアリングモデルでこれらのチャネルを評価できているか」などの全体像がわかるようになります。

こういった活動により、マーケティング活動においてキャンペーン全体のPDCAを素早く回せるようになります。
その結果、質の良いリードが提供できるようになり、パフォーマンスの悪いキャンペーンで営業を疲弊させることもなくなります。

一方で、テレプロスペクティングとスコアリングの連携が問題になりうる場合があります。
マーケットワンはクライアントとともに「①営業とマーケティングの連携→②MAにリードを送るリードマネージメントワークフロー(リードの管理体制)の構築→③スコアリング設定→④条件を満たしたリードのみをSFAに流してインサイドセールスに受け渡す」とのワークフローを構築してきました。

この際に生じたトラブルは、既存のインサイドセールスのリソースを活用したため、リードのクオリフィケーション(絞り込み)の専用リソースを置かなかったことでした。
片手間で実施していたため、新しいワークフローを構築した際の前提が崩れてしまったのです。
スコアリングによって絞り込まれたリードは高いコンバージョンレートになりましたが、スコアリングモデルの検証と、キャンペーンの早い段階での成功要因の分析というコンセプトが実現できていませんでした。
結果として、インサイドセールスは、受け取ったリードをフォローするのではなく、その中からめぼしいものだけを「チェリーピック」するだけに終わっています。

ワークフローの一貫性がなくなったことに加え、マーケティングチームが軌道修正をしなかったことも問題でした。
マーケットワンが仕組み設計をした後、マーケティングチームに対して、トレーニングツールとともにクライアントサイドへの引継ぎを実施し、そのタイミングでコンサルティング契約を終了し、クライアント側が自走する形になりました。

これが、クライアント側で新しいワークフローに対するKPIの全社浸透がされていないタイミングだったことから、マーケティングチームが営業との連携に苦しむことは明らかでした。
結局、そのまま別のマーケティング施策に目が向き、MQLの数値だけを追うようになっていまい、この記事で解説してきたようなファネルを構成する要素の検証が行われなくなってしまいました。
(訳者注:このような背景からマーケットワンではグローバルで”Guru with Hands”というスローガンをかかげ、知識や機能提供だけをするのではなく、伴走をしながらマーケティングPDCAを回すことを重視しています)

企業組織が考えなければいけないのは、マーケティングチームの傘下に、アウトバウンド・インバウンド両方を管轄する専属のテレチームを配置することです。
そしてABMやイベント、チャネル、製品マーケティングといった各施策を結び付けていく必要があります。

最後に、前述している通り、社内の各部門から「便利屋」のような扱いを受けないように注意しつつ、社内でも業務委託を受ける形式にするなど、アウトソースのような形態の検討をおすすめします。