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<前編>「企業価値×社会的価値」を両立させる探索領域へのアプローチ方法とは?

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グローバル化やデジタル化、が急速に進展する2020年代の経済環境において、企業が持続的な成長を図る上では、新しい市場・事業に向けた「探索活動」が不可欠となっています。 

しかし、探索活動を真の企業価値向上に繋げるためには、社会課題に紐づいた事業創出が必要です。 

今回は、2024年6月に開催された「BtoBマーケティングフォーラム」で登壇した当社執行役 大橋 慶太の講演内容を記事化してお届けします。 

本稿では、日本の大企業が探索領域での事業創造を行う際に、単なる利益追求を超えた企業価値向上に繋げるための「両利きの経営+CSV経営」「2つのShared Value(共有価値)の考え方について解説します。 

なぜ「探索領域」での事業創造が重要なのか? 

探索領域での事業創造は、企業の「持続可能な成長」「組織全体のイノベーション能力の向上」に不可欠な取り組みです。特にVUCA時代と呼ばれる現代において、その重要性はますます高まっています。 

新しい価値を創る探索活動 ~ 具現化サイクルによる 持続的な変革の実現 ~にもあるように、大企業が探索領域で事業創造を行うためには、長年得意としてきた深化領域とは全く異なる組織構造・考え方が求められます。 

具体的にいうと「長期的な目標」「分権的な組織構造」「自主性と積極的な失敗を許容する文化」などであり、これらを実現する上では組織レベルでの構造改革が必要なのです。 

日本の大企業にとってはハードルが高いと思われる探索領域への取り組みですが、それでも挑戦する意義があります。 

なぜなら、探索領域の事業創造は、不確実性が高く成功確率は低いものの、成功した際のインパクトは非常に大きいからです。 

探索領域の事業創造は「新たな成長機会の獲得」です。新規事業が軌道に乗れば、それは大企業にとっても次の主力事業となり、長期的な成長を支える柱となります。 

加えて、探索領域での取り組みは、組織全体のイノベーション能力を高めるという効果もあります。新しい市場や技術に挑戦することで、従来の枠組みにとらわれない思考や行動を学びつつ、そのノウハウは既存事業にも波及するという好循環が生まれるのです。 

「両利きの経営」+CSV経営」が真の企業価値向上に繋がる 

現代社会において企業価値を真に高めるためには、経済的価値の追求だけでなく、社会的価値の創造も同時に実現する必要があります。 

探索領域の事業創造に加えて、CSVCreating Shared Value)経営」を追及することにより単なる利益追求を超えた存在意義を示しつつ、多様なステークホルダーからの信頼を獲得し、長期的な事業基盤を強化できるためです。 

CSVの本質は「社会課題を“事業機会”として捉え、その解決を通じて自社の競争力を高める」ことにあります。 

従来は、社会貢献を主軸として企業の社会的責任を果たす「CSRCorporate Social Responsibility)」の考え方が用いられてきました。 

CSRが事業活動とは別枠で行われる社会貢献活動であったのに対し、CSVは「事業活動そのものを通じて社会的価値を創造すること」を目指す概念です。

「企業価値×社会的価値」を両立させる探索領域へのアプローチ方法とは?

社会貢献を「単なるコストや義務」として捉えるのではなく「新たな事業機会」と考え、結果として自社の競争力向上にも繋がります。 

CSV経営も合わさった探索領域での事業創造は、単なる利益追求を超えた「自社のパーパス(存在意義)を体現するもの」となり、ステークホルダーからの信頼獲得も果たせるでしょう。 

探索領域で必要な2つのShared Value(共有価値)とは 

探索領域での事業創造を成功させるには、CSVの視点に加えて、「自社内のShared Value」「社外とのShared Value」という2つの価値の実現も不可欠です。 

そもそもShared Value(共有価値)とは、「企業が社会課題に取り組み社会的価値を創造することで、同時に経済的価値もされる」という考えです。 

Shared Valueの具現化を目指すことで、CSVにおける社会課題の解決を図りつつ、探索領域で新たな事業機会を見出せます。 

ただし、探索領域は不確実性が高く成功確率が低いため、大企業における既存の組織文化や業務プロセスそのままではShared Valueを実現しきれません。 

具現化による「社内キャズムの解消」こそが大企業におけるCXのカギでも述べたように、大企業が探索領域に挑戦する際には「深化の領域に携わっている主流派をいかに探索領域の事業推進に巻き込めるか」という課題が常についてまわります。 

加えて「社会課題の解決×経済的価値の創出」を両立させるためには、新たな市場や顧客ニーズの発見も必要です。 

こういった課題に対応するため、探索領域の事業創造では、目指すべきShared Value「自社内のShared Value」「社外とのShared Value」2つに切り分けて考え、それぞれを実現させるリーダーを擁立する手法を採ります。 

「企業価値×社会的価値」を両立させる探索領域へのアプローチ方法とは? 

①:自社内Shared Valueを醸成させるリーダー 

「自社内Shared Value」とは、探索領域の事業推進において、社内の理解と支持を得るための「共通の価値観・目標」を指します。 

自社内Shared Valueを醸成するリーダーには「新規事業のプランの構想→事業の具現化→全社浸透」の各過程で、「これでいける、これでいこう」という社内の確信と自信を醸成することが求められます。 

必要なのは「大企業の内側からイノベーションを先導する資質」「自社内ステークホルダーへの率先力、グリップ力」といった素養です。 

②:社外とのShared Valueを醸成させるリーダー 

「社外とのShared Value」は、「自社・社会間で共有される価値」を指し、社会課題の解決と企業の経済的価値創出を両立させる上では不可欠な要素といえます 

社外とのShared Valueを醸成するリーダーは「社内外を繋ぐリーダー」であり、自社と外部にそれぞれ自社が提供する価値を発信し、共感や理解を得る役割が求められます。 

このリーダーには、社会課題を事業機会として捉える視点を持ちつつ、社内に対してその課題解決が、いかに自社の経済的価値に繋がるのか」示さなければなりません 

社外のShared Valueを獲得するイノベーション実現のためには、社内人材だけに限定せず、外部人材を含めてリーダーを選出するのが効果的です。 

チーム自体も専門性・多様性の高い構成にすることで、価値の高いイノベーションを生み出せる可能性が高まります。 

企業価値向上のためには全社的な変革が必要 

探索領域での事業創造は、企業の持続的成長にとって極めて重要ですが、同時に大きな挑戦でもあります。 

探索領域の事業創造は不確実性が高く成功確率が低いものですので、CSVの観点も取り入れて社会課題と事業機会を結びつけつつ、2つのShared Valueを醸成することで組織全体の理解と支持を得ながら新たな価値を創出できます。

なお、「自社内のShared Value」「社外とのShared Value」という2つの価値はそれぞれ相互に作用し、補完し合う関係にあります。 

自社内のShared Valueを醸成して組織内の理解と支持を得ることで、社外とのShared Value創出のための活動がより円滑に進みます。 

一方、社外とのShared Value創出に成功したという事例は、自社内のShared Valueをさらに強化し、探索領域への取り組みに対する社内の機運をさらに高めるでしょう。 

今後、ますます不確実性が高まる経営環境において、探索領域での事業創造の重要性は一層増していくと予想されます。日本企業が国際競争力を維持し、持続的な成長を実現するため、経営層も含めた全社的な変革を進めていくことが必要です。 

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