​​Marketing Strategy​

BtoBマーケティングのADRとは?Buying Group時代の役割を論考

インサイト一覧

2026年現在、BtoBマーケティングにおける意思決定の構造は、大きく変わりつつあります。 

かつては、導入担当者や決裁者といった限られた関係者を捉えれば、商談を前に進められる場面もありました。しかし現在は、利用部門、情報システム部門、財務部門、法務部門、経営層など、購買に関わる人の範囲が広がっています。

Forrester B2B Summit 2026レポート記事でも解説したように、2026年4月に米国フェニックスで開催された同カンファレンスでは、AIによって加速した購買行動の変化が、BtoBマーケティング・営業の前提を変えつつあることが示されました。 

意思決定は、もはや「特定の個人」では完結しません。複数人からなるBuying Groupに加え、社外のレビュー・コミュニティ・専門家、そしてAIまでを含む「Buying Network」へと拡張していくという論点が提示されたのです。

方向性としては、多くのBtoBマーケターが頷くところでしょう。しかし、いざ「Buying Groupで追え」と言われても、そもそも自社の仕組みが、それを追えるようには出来ていないことが課題となります。 

実際に、Buying Group単位で案件を追うには、マーケティングはMA上で「人」を追い、営業はSFA上で「案件」を追う管理単位の分断を解消していかなければなりません。

ここで必要になるのが、マーケティングが捉えた個人接点を、営業が扱える案件へと組み替える機能です。

資料ダウンロードや問い合わせをした一人を、そのまま営業へ渡すだけでは、Buying Group全体は見えてきません。その背後に誰が関わり、どの部門が確認し、どこで合意形成が止まりうるのかを見立てたうえで、案件として束ね直す役割が必要になります。

そこで本稿では、既存顧客の深耕やアカウント開拓など、複数の文脈で語られてきたADR(Account Development Representative)に着目し、Buying Group時代における「人」と「案件」をつなぐ役割として捉え、その実務上の役割を解説します。 

「人」と「案件」の分断が、Buying Group対応を難しくする 

Buying Groupで追う」と言っても、売り手側の仕組みがその前提に対応しているとは限りません。むしろ多くのBtoBの現場では、マーケティングと営業が見ている単位そのものが分かれているのが一般的です。

マーケティングは、MA(マーケティングオートメーション)の上でリード=「個人」をナーチャリングします。「誰がいつ何をダウンロードし、どのページを見たのか」について、個人単位の行動を追い、関心の高まりを捉えながら、次の接点を設計していきます。

一方の営業は、SFA(セールスフォースオートメーション)の上で「案件(Opportunity)」を追います。

つまり、「どの企業の、どの商談が、どのステージにあるのか」をみます。営業の主眼は、個人の行動履歴を育てることよりも、案件を前に進めることに置かれます。

この構造は、リードを営業へ引き渡す場面で問題になります。

マーケティング側では「個人」として管理されていた見込み顧客が、営業側では「企業」や「案件」の一部として扱われるようになる。つまり、同じ顧客接点でありながら、ある時点を境に、管理の単位が「人」から「案件」へ切り替わるのです。

例えば、当社マーケットワン・ジャパンがコンサルティング業務をしているなかでも、顧客企業の中で同様の現象がしばしばみられます。特に既存事業が強い企業の場合、「営業にとってのリードとは、見込み顧客ではなく引き合い=案件を指す」とマーケティング部門から言われることもあります。

前述のForresterイベントでは「購買プロセス開始時点で第一候補となっている企業は、約55%の確率で受注に至る」とのデータが示されていました。

つまり、勝負は商談化の前に始まっているにもかかわらず、売り手側の内部プロセスは、依然として「フォーム入力=人の登場」を起点に組まれたままなのです。

「人か案件か」「顧客視点か自社視点か」という分断は、以前BtoBマーケティングの理想と現実のジレンマ − 顧客視点 vs 自社視点 でも論じました。

問い合わせや資料ダウンロードなどの行動を起こした個人をリードとして管理し、一定の条件を満たした段階で営業へ渡す。この流れ自体は、マーケティング活動の運用としては自然です。

しかし、その個人の背後には、実際の意思決定者、利用部門、技術的な検証者、予算を確認する部門、あるいは導入に慎重な関係者がいるかもしれません。個人リードを起点にした管理だけでは、そうしたBuying Group全体の構造までは捉えきれないでしょう。

MQLやSQLといった購買ステージは、結局のところサプライヤー側が勝手に引いた線に過ぎません。「人」と「案件」の分断も同様で、顧客が望んだ区切りではなく、自社とツールの都合で生まれた境界線なのです。

Buying Group構造はますます複雑になっている 

フォロー単位のミスマッチ自体は、新しい話ではありません。ではなぜ今、この分断が見過ごせなくなっているのかというと、それはBuying Groupそのものが、以前よりも複雑になっているからです。

かつてのBuying Groupは、導入担当者と決裁者を中心とした、比較的シンプルな構造として捉えられていました。しかし現在は、組織内で「NO」を出せる人が増え、合意形成のプロセスはより複雑化しています。

そのなかで、一人のハンドレイザーと呼ばれる手を挙げた人=問い合わせをした見込み顧客を追っているうちに、その背後にいる「NOを出し得る人々」を取りこぼすと、途端に案件が前に進まなくなります。

一方で、3つのコンセプトで考えるBtoBマーケティングのペルソナ設計では、Sirius Decisions(現Forrester)のDemand Waterfallが2017年に「Demand Unit Waterfall」へ改定され、Buying Group分析が重視されたと述べたように、Buying Groupという概念は、すでに十分に提示されてきました。

つまり、追いついていないのは「考え方」ではなく「それを実務で扱う担い手」なのです。

案件には、もともと複数の人が関わります。にもかかわらず、これまでは問い合わせや資料ダウンロードをした単独のリードを見込み顧客として捉え、一定の条件を満たした段階で営業へ渡す運用が一般的でした。

しかし、マーケティングが「人」を捉えるだけでは、案件形成に貢献しきれるとはいえません。Buying Groupを前提にするなら、その個人の背後にいる関係者まで含めて捉え直し、営業が扱える案件として束ねる機能が必要になるのです。 

Buying Groupを「案件」へ束ねる「ADR」の機能 

ここで必要になるのが、Buying Groupを営業が扱える「案件」へ束ね直す役割です。本稿では、その役割をADR(Account Development Representative)として捉えたいと思います。

インサイドセールスの分業についてはBtoB企業におけるインサイドセールスの役割とは?で、SDR(インバウンド中心、SMBが主戦場)とBDR(アウトバウンド中心、エンタープライズが主戦場)として整理しました。

今回論じたいのは、そのさらに先です。

SDRやBDRが接点を作ったリードを、個人のまま営業へ渡すのではなく、まずは複数の関与者を営業が追える「案件」へと変換する役割を、ADRが担う形です。

ただし、ADRという言葉には各者さまざまな定義を持っている点には注意しなければなりません。実際、海外でも大きく二つの意味に分かれています。

一つは、ADRを「既存顧客アカウントとの関係を深め、アップセル・クロスセルの機会を見つける役割」です。

HubSpotやClayの用語集はこの立場で、ADRを「新規開拓の “hunter”(まだ取引のない企業を開拓する役割)」ではなく、「既存顧客を耕す “farmer”(既存アカウントとの関係を深め、追加提案や取引拡大の機会を見つける役割)」として位置づけています。日本でADRという言葉から想起されやすいのも、この既存顧客深耕型のイメージかもしれません。

もう一つは、ADRを「ICPに合致する潜在アカウントを特定し、エンゲージし、クオリファイする役割」となります。

SalesforgeやSalesHiveの用語集では、ADRは「個人リードではなく、企業全体やバイイングコミッティ(購買委員会)を一つのまとまりとして捉え、商談を組成する役割」として説明されています。

本稿で注目したいのは、後者の「アカウント攻略型」の担い手(≒hunter機能)としてのADRです。

ただし、ここでいうアカウント攻略とは、単に企業単位でターゲットを管理することではありません。Buying Groupの時代には、その企業のなかで誰が検討に関わり、どのテーマで購買が動き、どこで合意形成が止まりうるのかまで見立てる必要があります。

Buying Group時代のADRは「案件の単位(コンテナ)」を設計する役割 

Buying Group時代に求められるADRは、インサイドセールス(SDRBDR)が生み出した個人接点を、そのまま営業へ渡す役割ではありません。複数の接点をBuying Group単位で捉え直し、営業が扱える「案件」として束ねる役割なのです。

Forresterイベントでは、Buying Groupを「CRM/SFA上でどう運用するか」が議論されました。

そこで強調されていたのが、Buying GroupはAccount(企業)単位ではなく、Opportunity(案件)単位で組み立てるべきだという考え方です。これはつまり、「手を挙げた一人(ハンドレイザー)だけを追ってはいけない」ということでした。

一つの大企業の中には、事業部・製品・タイミングの異なる複数の検討が並走している場合があります。つまり、同じAccount中に、別々のBuying Groupが存在し得るということです。

これに対しForresterで述べられていたのは、提案商材が固まった段階で初めて案件化するのではなく、その前段階での「空のコンテナ」の重要性です

まだ具体的な商談名や提案内容が明確でなくても、顧客側で動き始めているBuying Groupとニーズを受け止める器を先に作る。いわば、案件化をStage1とするならば、その前段階にある「Stage 0」のような単位です。

問い合わせや資料ダウンロードをした一人は、単独の見込み顧客ではありません。むしろ、社内で購買サイクルが動き始めたことを示す入口として捉えるべきです。

そのため、「同じ企業の別部門が同じテーマのウェビナーに参加している」「過去商談で関与していた部門がある」「上位役職者が関連コンテンツに反応している」といった接点を、同じ案件に関わる可能性のある人物として紐づけていきます。

ただし、Buying Group構造はデータだけで完全に特定できるものではありません。MAやSFA上の行動データから仮説を立てることはできますが、「実際に誰が意思決定に関わるのか」「誰の確認が必要なのか」「どこで合意形成が止まりうるのか」は、顧客窓口との会話を通じて確認していく必要があります。

紐づけの確からしさは、「automated(自動紐づけで人の目は未確認)」「likely(おそらく関与)」「verified(接触して確認済み)」といった段階で管理しながら、Buying Groupの輪郭を徐々に明らかにしていく。こうして拡張したBuying Group全体を、一つの案件として営業へ引き渡していくのです。

ADRは能動的にコンテナの中身を満たしていく役割 

この「コンテナ」という言葉の含意を、もう少し掘り下げてみたいと思います。

経済史家マルク・レビンソンの『コンテナ物語』は、20世紀の物流を一変させた規格化コンテナの歴史を描いた一冊です。その革命の本質は、輸送技術そのものよりも、「中身が何であるかを問わず、規格化された箱に収めて運べるようにした」という発想の転換にありました。

コーヒー豆だろうが機械部品だろうが、いったんコンテナに収めれば、同じ規格・同じ仕組みで効率的に運べる。箱を標準化したことが、モノの流れそのものを変えたのです。

BtoBのGTMにも、 案件における「空のコンテナ」の発想が求められます。

これまで私たちは、製品や関連コンテンツへの興味軸でリードを捉えていました。

「この製品に興味がありそうな人」を集め、製品ごとに育て、営業へ渡す。しかし、購買の主体がBuying Groupへ拡張した今、運ぶべきは個々のリードではなく、Buying Groupごとのニーズを収めた「案件という規格化された箱」です。

製品軸で案件を構成するのではなく、顧客ニーズを起点にコンテナを用意し、そこに関与者を収めていく。箱を先に作るという発想の転換にこそ、意味があります。

ただし、ここで一つ強調しておきたいことがあります。ADRは、受け取ったリードを待ちの姿勢で束ねるだけの存在ではありません。むしろ、能動的に空のコンテナを用意する役割を担う必要があります。

複雑化した意思決定構造を前に進めるには、賛成者を増やすだけでなく、ブレーキを踏みうる人々を巻き込んでおく必要があるからです。

そして見落としてはならないのが、「施策にいたるまでのリードの供給」「コンテナを埋めるためのバリュープロポジションのシナリオ」は、マーケティングが供給しなければならないという点です。誰を招くべきか、何を語るべきか、その場でどんな関心や懸念が引き出されたか。こうした情報のインプットなしに、ADRが用意したコンテナは空のままになってしまいます。

要は、ADRは、マーケティングと営業の間に新たな結節点を置く考え方です。

これまではマーケティングと営業の間をインサイドセールスがつないできました。しかし、Buying Groupを前提にすると、それだけでは十分ではありません。SDRやBDRが生み出した接点を、営業が扱える案件へ束ね直す役割が、インサイドセールスと営業の間に必要になります。

そして、この構造を設計すること自体も、マーケティングの役割です。どのアカウントを狙うのか」「どの関係者にどのような問題提起を届けるのか」「ADRがどのような情報を受け取り、何を営業へ引き渡すのかまで含めて、GTM全体の流れを設計する必要があります。

ADRの活動は、ソートリーダーシップコンテンツ後押しになる 

ADRが整理する案件のコンテナは「空のまま」ではいけません。ではありません。そこには、「誰が何に関心を持ち、どこに懸念があり、どのような合意形成が必要なのか」という情報が入っている必要があります。

その中身をつくる上で鍵になるのが、ソートリーダーシップです。

ソートリーダーシップは、しばしばBrand(認知)の領域、あるいはファネル上流で認知を広げるための活動として捉えられてきました。

しかしForresterのイベントで提示された「プリファレンスマーケティング」の考え方は、BrandとDemandを別々に運用するのではなく、「Preference(比較検討の前から第一候補になっている状態)」に再統合する必要があるというものでした。 

この発想は、ADRがBuying Groupを束ねる場面でも役立ちます。たとえば、エグゼクティブ・ラウンドテーブルを考えてみます。

これは、単に役職者を集めて接点を作る場ではありません。「自社がどのように市場や課題を見ているのか」「顧客企業がこれから何を考えるべきなのか」を提示し、意思決定に関わる人たちと議論する場です。

その場で、「自社の考え方に共感する人」もいれば、「予算、既存システム、社内調整、導入後の運用に懸念を示す人」も出てきます。つまり、ソートリーダーシップを届ける場であると同時に、Buying Groupの中で誰が何を気にしているのかを把握する場にもなるのです。

この際、ABM(アカウントベースドマーケティング)との接続も重要になってきます。

ABMで「アプローチ対象の企業とペルソナ像」を定め、ソートリーダーシップで「プリファレンスを醸成し、関与者を可視化」し、ADRが「それを案件というコンテナに収める」。この流れがつながって初めて、Buying Groupを追う仕組みが実務として機能し始めます。

これを一枚の絵にすると、全体像が見えてきます。インバウンド(問い合わせフォーム、メディア、ウェビナー、イベント、展示会など)をSDRが受け持ち、 アウトバウンド(重点アカウント、購買シグナル、製品テーマ)をBDRが担う。そのうえで、両系統の接点をPre Sales QualificationフェーズのADRへ集約していきます。

ADRはそこで、ステークホルダーを特定し、マーケティングが提示するビジョンや問題提起をBuying Groupに当て、その反応を通じて関心や懸念を引き出していく。そうして見えてきたステークホルダーとニーズを案件というコンテナに収め、営業へ送り出すというモデル案です。 

つまり、ADRとは、リードをそのまま営業へ渡すのではなく、複数の関与者、関心、懸念をBuying Group単位で捉え直し、営業が扱える案件へと束ねる、橋渡しの機能だといえます。

問うべきは、自社でADRを誰が担うのか 

一方で、本稿の論旨は「ADRという役職を新たに設けるべきかどうか」ではありません。

企業によっては独立した役割として置く場合もあれば、既存のインサイドセールス、デマンドセンター、マーケティング組織の中に機能として組み込む場合もあるでしょう。

問うべきは、その名称ではなく、自社におけるADR的機能の有無です。

  • 自社のGTMにおいて、マーケティングが追う「人」と、営業が追う「案件」をつなぐ役割を、今は誰が担っているのか。 
  • Buying Groupの関与者を見立て、ソートリーダーシップによってPreferenceを醸成しながら、営業が扱える案件へ束ねる役割は、どこに存在しているのか。 

ABMに取り組み、アプローチすべき企業やキーパーソンを定めても、それをBuying Group単位の案件へ変換する機能がなければ、ABMは営業活動やナーチャリング施策と分断されたままになります。

「Buying Groupで案件を追う」という考え方は、今後さらにセオリーになっていくはずです。そのなかで、ADRという名称を使うかどうかは、企業ごとの判断でよいでしょう。

ADR機能は単独では成立しません。どの市場・アカウント・課題を狙うのかというGTM戦略の設計と、その設計に基づいて関係者を特定し、案件化の材料を集めるADR機能の実行が、両輪として必要になります。

メールマガジン登録