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BtoBマーケティングでおさえておきたいニーズ vs ウォンツ vs デマンドの違い

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はじめに 

マーケティングに関する議論において「ニーズ起点での製品開発」「ニーズ・ウォンツを獲得する」といった言葉がしばしば聞かれます。 

一方で、”ニーズ”という言葉をどれだけ正しく理解できているでしょうか? 

マーケティングの教科書ともされるコトラー・ケラーの「マーケティング・マネジメント」において、マーケティングのコンセプトについて論じる際に最初説明されるのがニーズ・ウォンツ・デマンドです。 

いずれもBtoB領域において受注確度を上げるためには把握しておくべき要素であるため、この記事では用語の定義を最初に確認します。その上で特にマーケティング起点となる上で重要な顧客ニーズを拾い上げるために必要な考え方について論考していきたいと思います。 

 

ニーズ vs ウォンツ vs デマンドの違い 

ニーズの拾い方について説明する前に、ニーズがウォンツ・デマンドとどう異なるのかについて整理します。前述したコトラーの「マーケティング・マネジメント」では、以下のように定義されています。 

“Needs are the basic requirements. These needs become wants when directed to specific objects that might satisfy the needs. Demands are wants for specific products backed by an ability to pay. 1

ポイントを要約すると以下となります。

  1. “ニーズ“は基本的な要件(必要性欲求)である 
  2. ニーズを満たすだろうものが特定の対象に向けられると“ウォンツ”になる 
  3. “ウォンツ”に対して購買力が伴うと“デマンド”になる 

以下の章では、それぞれについて具体的に解説します。 

 

ニーズ 

マーケティング・マネジメントにおいては、前述の「ニーズは基本的な必要性欲求である」ということに加えて、「ニーズはマーケターより先に存在する」とも述べられています。つまり、マーケティングではニーズを作り出すことはできないと言えるでしょう。 

マーケティングにおける一番のポイントは、ニーズを把握・理解することです。言い換えれば、マーケティングの始まりは顧客ニーズであると捉えられます。 

ただし顕在ニーズ・潜在ニーズという言葉がある通り、常に顧客がニーズを語ってくれるとは限らないため、顧客が抱えるニーズを理解することは簡単ではありません。 

 

ウォンツ 

ウォンツは具体化されたニーズそのものです。”ニーズ”に対して満足させるものが”ウォンツ”となりますが、マーケティング視点、つまり自社側にとって、ウォンツにあたる商材が常に存在するとは限りません。  

例えば、EV市場に対するニーズがあるといっても、自社にEVやその特定の用途に適応できる商材がない場合もあり得るでしょう。 

仮に顧客の課題などがわかったとしても、自社に無数に商材が存在したり、ソリューション型の営業をしていたりすると、「どれが顧客ニーズを満たすのか」に関する選定ができない可能性も考えられます。 

ニーズとウォンツを結び付ける上では、営業・マーケティングで協力しながら取り組む必要がある場合もあります。 

 

デマンド 

“デマンド”はウォンツに購買力が伴ったもので、「お金を払ってでも商品が欲しい」という段階まで高まっている状態です。 

しかし、何か欲しいものがあっても常に購入できるとは限りません。例えば、百貨店で「ラグジュアリー品が欲しい」と思っても、ウィンドウショッピングで終わるようなケースがわかりやすいのではないでしょうか。 

BtoBビジネスにおいては、各部門が使える予算はあらかじめ決められています。12月期決算の企業であれば夏ごろから、日本企業に多い3月期決算であれば秋ごろから翌年度の予算の議論が始まることが多いのではないでしょうか。 

期初の予算枠で考慮されていない用途に対する購買は、顧客にとってハードルが高くなります。その場合、ニーズ・ウォンツがあったとしても「購買力が伴わない状態(=デマンドがない状態)」になってしまいます。 

そのため、あらかじめアカウント戦略を立てている営業担当者は、予算執行の前段階である予算取りの段階から営業活動を強化することが多く見られます。 

こうしたデマンドの刈り取りは営業が行うことが一般的ですので、マーケティングは発掘したニーズ・ウォンツ、これらに関わる見込み顧客の情報を営業に渡し、連携を行えるような体制構築をしておく必要があります。 

 

「両利きの経営」で考えるマーケティングで拾うべきニーズとは? 

ウォンツ・デマンドを伴った顧客にアプローチするためには、その出発点である顧客ニーズを適切に理解することから始めることが求められます。さらに、取得したニーズ情報に関しては、社内で適切に管理する仕組みも必要です。 

その際、「取得・理解すべき顧客ニーズ」とは何でしょうか?

これに関する一義的な解はなく、会社の状況やビジネスモデルによって異なるのが実情です。 今回は「前提となる目的」の整理として、オライリー著「両利きの経営」で述べられている「深化(exploitation)」「探索(exploration)」の経営理論で整理してみましょう。 (「両利きの経営」に関して、詳しくはこちらで解説していますので、ご参考にしてください。)

深化の領域においては既存のビジネスの深堀りが求められるので、従来のマーケティングにおける取り組みのように、案件化になりそうな見込み顧客の短~中期のニーズが必要です。 

一方、探索の領域においては長期的なビジネスモデルの転換やイノベーションの源泉になるような、「遠い場所にある知」にあたる顧客ニーズの獲得が求められます。その多くは潜在ニーズになるのではないでしょうか。 

また、成熟しつつある業界に新規で取り組んでいく場合は、ニーズ具現化していても自社のケイパビリティを踏まえた際の「ウォンツの明確化」が課題となる場合もあります。 

新規領域に対して、ニーズを発掘・理解し、ウォンツ・デマンドと転換していくことはいずれも企業側にとってチャレンジがあります。それは顧客にとって「これまで組み合わせたことのない要素を組み合わせることによって新たな価値を創造すること」というシューンペーターが言う「新結合」が求められるためです。 

「新しい情報を取得する」「情報の組み合わせ方を変える」という点で、自社の取り組方を変える必要がありますが、こういった取り組みも社内での”イノベーション”と言えるのではないでしょうか。

 

ニーズ起点の情報取得のあり方  

ニーズに関わる情報を取得するにはどのようなアプローチが必要でしょうか?

ただ「お困りごとはありませんか?」と問いかけるだけではなかなか芯に迫った話は聞けません。自分が聞かれる立場になったら、と想像すると回答に窮してしまうのではないでしょうか。

顧客が内に抱える潜在ニーズを引きだすためには、適切な”問いの設計”が重要になります。 

インサイドセールスについて述べた記事では、顧客が抱える興味・課題を聞き出すために必要なのは“お土産”と解説しています。引き出す情報と対等な情報を提供することによって、はじめて有効な情報が手に入ります。 

これはインサイドセールスというアプローチで顧客ニーズを引き出す際だけでなく、その他ユーザーヒアリングなどのマーケット調査でも言えることです。 

その上で重要になるのが上位の仮説設計です。今ある情報をもとに顧客のシチュエーションやそのニーズを仮説立てて組み立てる必要があります。 

一方で顧客側の状況が全くわからず、仮説が立てられない場合もあると思います。その際は、仮説設計のための情報(ニーズ)集めが必要になります。ニーズを拾い上げ理解するためには、こういった積み重ねが重要です。 

また、前述の「探索」「深化」の各領域における取り組みでは大目的が異なるので、取得すべき情報・方法・組織体制が異なる場合があります。自社で取り組むべき領域は何か社内でコンセンサスを取った上で、マーケティングに取り組む必要があります。 

 

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■注釈

  1. Kotler, Keller / Marketing Management より抜粋 []