2025年現在、多くの企業でマーケティングや営業活動に関するDX(デジタルトランスフォーメーション)が進められています。
その一環として、SFAやCRMツールの導入が広く行われるようになりました。背景には「人材不足への対応」「営業プロセスの可視化・効率化」「企業全体の売上拡大をめざす取り組み」などが挙げられます。
そのなかで米Salesforce社のSales Cloud (セールスクラウド)に代表されるツールでは、SFAやCRMツールの機能が同一プラットフォーム上でカバーされているため「両方の機能や概念が曖昧で、最大限活用できない」というケースも見受けられます。
そこで今回はSFAとCRMに関して、それぞれの概念や機能の違いについて解説します。
SFAとは
そもそも「Sales Force(セールスフォース)」とは、企業の営業を推進する人や組織、戦略を指す概念を指すことが一般的です。
ツールとしての「SFA(Sales Force Automation)」は、そのような企業における営業活動である「セールスフォース」を効率化、強化するためのシステムとなります。
営業担当者が本来の業務である顧客対応に集中できるよう、商談の管理、業務の自動化、営業データの可視化などを支援します。
SFAは、営業プロセスの一元管理を可能にし、業務の属人化を防ぐとともに、データドリブンな営業戦略を実現するために活用されます。
<SFAの主な機能>
- 商談・案件管理:商談の進捗や成約確度の可視化
- 顧客接点管理:訪問履歴やアポイントの管理
- 営業データの可視化:KPI(商談数・成約率・売上見込み)の分析
- 業務の自動化:見積書・提案書の作成支援、日報の自動生成
- マネジメント支援:停滞商談の特定、営業アクティビティの分析
SFAがBtoBの営業活動に与える恩恵
営業活動には「客先訪問」「顧客フォローアップ」「アポイント獲得」といった顧客接点の確保に加え、「見積書の作成」「社内への報告」など、多岐にわたる業務が必要です。
これらの業務は、営業プロセスを円滑に進めるために不可欠ですが、一方で、営業担当者が顧客と直接向き合う時間を圧迫する要因にもなっています。
しかし、本質的には「顧客と向き合う時間をいかに増加させるか」が重要です。過去に発表された米Salesforce社の資料によれば、営業担当者は70%の時間を営業以外のタスクに取られていると述べられています1。
営業活動を強化するには、担当者だけでなくマネジメントレベルにおいても効率化を推進することが求められます。このような営業活動の支援を行うツールとして、SFAが存在します。
例えば、商談の管理や顧客との接点情報の一元化に加え、マネジメントの観点からは、各商談の停滞期間や今後の営業案件の進捗状況を把握することも可能です。
CRMとは
CRM(Customer Relationship Management)とは、企業が顧客との関係を長期的に構築・維持し、最大化させるための手法であり、 Kotler / Keller著の『Marketing Management』では以下のように定義されています2。
CRM is the process of carefully managing detailed information about individual customers and all customer “touch points” to maximize loyalty
CRMは顧客ロイヤリティを最大化するために、各顧客に関する情報や、それら顧客と自社とのすべての「タッチポイント」に関する情報を管理するプロセスである
これは営業活動だけでなく、マーケティングやカスタマーサポートなどの部門とも密接に関係し、「どのように顧客と関わり、最適な体験を提供するか」 を考えるものです。
国富論から紐解く「分業制」の本質的な機能でも取り上げたように、近年は営業だけでなく、マーケティング、インサイドセールス、カスタマーサクセスなど複数の部門が顧客と接するようになっています。
同じ顧客に対しても複数の社内ステークホルダーが関与するケースが増えているのが現状です。このような状況で、顧客情報が分散して管理されると、顧客インテリジェンスが分断され、最適な顧客体験を提供することが難しくなります。
米Gartner社の調査によると、BtoBマーケティングの分野では「顧客は営業担当者と接触する前に、購買プロセスの57%をすでに進めている」といわれています3。つまり、顧客は購入を決定する前に、自ら情報収集を行い、選択肢を比較検討しているのです。
CRMは、そのようなBtoBマーケティングで顧客を理解し、最適なタイミングで最適なアプローチを行い、信頼関係を築くための考え方といえます。
「CRMツール」はCRM構想を実現するシステムの1つ
CRMの考え方を実践するために活用されるのが「CRMツール」 です。営業支援という文脈からは、SFAと繋がる部分があります。
CRMツールは、顧客情報を統合管理し、営業・マーケティング・インサイドセールスの各部門が一貫した情報を活用できるようにします。
また、SFAと連携することで、営業活動で得られた商談データをCRMに統合し、マーケティング施策やアフターフォローの精度を向上させられます。
これにより、企業はリード(見込み顧客)から既存顧客までの情報を一元管理し、適切なタイミングで適切な対応を取ることが可能になります。
「MAツール」も概念としてのCRMに内包される存在
BtoBの購買プロセスでは、企業が営業担当と接触する前に、Webサイトや業界レポート、口コミ、競合他社の情報を調査し、ある程度の意思決定を進めるケースが多くなっています。
この段階で適切に顧客との接点を持ち、情報を管理するために活用されるのが MA(マーケティングオートメーション)ツール です。
MAツールは、ウェブ閲覧履歴、メールマガジンの開封・クリック履歴、問い合わせ情報などのデータを集約し、顧客の興味関心を可視化する機能を持ちます。
これにより、見込み顧客の行動データを基に、適切なタイミングでのアプローチが可能になります。
つまりMAも顧客情報とデジタルを中心とした顧客とのタッチポイントの管理をしているため、広義のCRMの中に位置するツールともいえます。
実際に、多くのMAツールはCRMツールやSFAツールと連携が可能であり、リードナーチャリングの段階から営業活動まで一貫したデータ活用を支援します。
このように、CRMは単なる顧客管理システムではなく、マーケティングから営業、カスタマーサクセスまでの一連のプロセスを統合する概念を含むものです。
SFA・CRMで管理する2つのデータ属性
SFAとCRMは、それぞれ異なる役割を持つシステムですが、営業活動において密接に連携し、一体的に運用することが求められます。SFAは営業プロセスの最適化、CRMは顧客情報の統合・活用を目的としていますが、どちらのシステムにも「データ管理」という共通の必要性があります。
ここで重要なのが「顧客」という言葉が何を指しているのかです。CRMはマーケティングの文脈で語られることも多く、「顧客」の概念には広範な意味合いが含まれています。
一般的に「顧客」といえば個人を想像しがちですが、BtoBの営業においては、商談や案件、さらには取引先(企業)自体も「顧客」として管理される対象となります。
つまり、「顧客」という言葉は単なる個人情報だけではなく、商談や企業そのものを含むためSFAとCRMのデータ管理の主体も、「人」と「物」の2つに分かれるのです。
人(Person)単位→物(Thing)単位で管理主体は移行する
営業支援システムであるSalesforce社の製品であるセールスクラウドでは、標準的に用いられるデータ管理単位(オブジェクト)が「リード」「取引先責任者」「取引先商談」「取引先」に分類されます。
それらを「①:人(Person)単位」「②:物(Thing)単位」に分けると、以下のように分類できます。
<①:人(Person)単位のデータ>
- 属性情報(例:氏名やメールアドレスなど)のような、リードに関する個人レベルでの情報。
<②:物(Thing)単位のデータ>
- 取引先企業や商談(案件)など、個人ではなく企業や取引そのものに関する情報。
MAを活用した施策では、「人(Person)単位」のデータをもとに、メールマガジン配信やパーソナライズドコンテンツの提供を行い、見込み顧客との関係構築を促進します。
その後、商談が進展すると、顧客とのやり取りは個人レベルの「人(Person)単位」から企業や案件レベルの「物(Thing)単位」へと変化します。
例えば、顧客からの問い合わせがあった場合、最初は個人が問い合わせ窓口となりますが、商談が進むにつれて、企業内の複数のステークホルダー(意思決定者、使用ユーザー、導入検討者など)が関与するようになります。
こうした複雑な対応を円滑に進めるためには、営業担当者によるフォローアップが必要です。
営業担当者は、個々の顧客をサポートするだけでなく、複数の企業の商談を抱えるなかで、企業単位や商談単位で顧客情報を適切に管理しなければなりません。
結局、営業視点での効率化を求める正確の強いSFAですが、その強化を進める上では個々の顧客と向き合う必要があります。そのため、顧客情報・顧客接点を管理するためにはCRMの考え方が必要になります。
このように、商談を前進させるための管理体制はSFAに求められるものでありながら、全体的な顧客情報の一元管理も求められます。そのため、多くのSFAシステムはCRM機能も内装しており、またCRMを推進するためにはSFAの機能も不可欠になるのです。
SFAとCRMの運用では「顧客視点」も大切な要素
概念上の議論に留まらず、現実問題としてSFAとCRMは個々に運用するのではありません。実際に、営業支援のためにSFAを導入するなら、先に述べた通り同一プラットフォーム内でCRM機能を内包しているため、活用しながら顧客接点を強化していく必要があります。
つまり、両者は切っても切り離せない概念であり、機能といえます。
ただし、「営業強化」というゴールは一緒であっても、それぞれの考え方や目的、システムに落とし込んだ際に管理するデータ項目が異なる点には留意しましょう。
特に、これらのシステムは「本質的にはデータベース」であるため、マーケティング・営業が連携して、適切にデータ管理を行なっていかなければなりません。
実際に運用する場合、SFAでは商談や案件ごとの進捗管理が中心となり、CRMでは顧客情報を蓄積、活用していくことになります。
一方で、前述したとおり施策の初期に獲得した「人(Person)単位」のデータは、営業プロセスが進むと、企業や案件レベルの「物(Thing)単位」のデータに変わっていきます。
そのため、システム間のデータが分断されたままでは、営業活動の非効率化を招くだけでなく、顧客対応の一貫性も損なわれる可能性がありますので、それらを一気通貫で管理できるようにしなければなりません。
効果的な運用体制を構築するには、SFAで蓄積した商談データをCRMに統合する。その上で、部門間でデータの更新ルールや活用基準を明確にすることで、データを活用しやすい環境を整えることが求められます。
ただし、BtoB マーケティングの理想と現実のジレンマ – 顧客視点 vs 自社視点 –で述べたように、そういった「自社側の事情」は顧客にはいっさい関係ありません。
顧客が求めるのはあくまで「一貫した体験価値」です。分業体制の構築を優先するあまり、肝心の顧客対応がおざなりになってしまっては本末転倒といえます。
それを踏まえると、SFAなどの各種ツールを使ったCRM構想の実現においては、マーケティング・営業などの部門間が連携して営業戦略・プロセスを統合する。その上で、リードからパイプライン管理に至るまでの「データの取り扱い」に一貫性を持たせる必要があるといえます。
その上で、自社の収益を最大化するためには、「顧客視点」に立ち、接点強化を通じた活動が求められます。
- Salesforce「Salesforce、年次調査レポート『セールス最新事情』(第6版)日本語版を公開」 [↩]
- Kotler, Keller『Marketing Management』 [↩]
- Gartner「Sales Enablement Strategy」 [↩]