2023年も終わりを迎えつつありますが、本年を振り返ってみると、ChatGPTの登場を皮切りに、テクノロジーを活用したマーケティング手法に対する議論がより深まった1年でした。
事実、日本のBtoB市場でもMA(マーケティング・オートメーション)を活用した施策が根付きつつあります。
一方で、デジタルマーケティングに先行する欧米諸国に比べるとまだまだガラパゴス化しているきらいがあり、海外情報には日本市場でも有用な知見が多く存在しています。
そこで今回はMarketOne Internationalで配信された「Optimizing B2B email marketing campaigns – best practices」の記事を翻訳してお届けします。本インサイトでもたびたび論考してきたMAを使ったメール配信について、最適化を図っていく上でのベストプラクティスを紹介しますので、ぜひお役立てください。
メール配信で大切なのは「やりっぱなしにして放置をしてしまうのをやめること」です。
定期的な検証を実施し、自動化されたキャンペーンを改善し続ければ、「開封率やクリック率の向上」「顧客とのエンゲージメントの強化」「ファネル全体でのコンバージョン改善」を促進できます。
目次
なぜ自動配信されるメールを改善し続けるべきなのか?
自動化されたメール配信のキャンペーンシナリオを構築する際には、「開封率・クリック率を向上させ、自動化キャンペーンを最適化させること」を、高い優先順位に置きましょう。
自動化されたキャンペーンの最大の利点は、「set and forget it」とも呼ばれます。つまり、一度セットさえすれば、自動で流れ続けてくれることに起因する、手離れの良さが挙げられます。
一方で、長時間放置し続けることは避けるべきです。自動化されたメールの配信フローを定期的に見直すことで、以下の要素の検証が行えます。
- ビジネスの目的に沿っているか
- 見込み顧客や既存顧客に対して、ブランド認知につながる設計はできているか
- ターゲットの顧客に対してのナーチャリングができているか
- 顧客にとって価値のある情報を提供できているか
これにより、マーケティングやセールスファネルにおいて、顧客に対して「自分たちがすべきアクションをとるための意思決定」を促せるのです。
この考えについては、 Holistic Email Marketingの著者、Kath Pay氏も次のように述べています1。
「メールはプッシュ型のマーケティングチャネルですので、より効果的に機能するように働かせる必要があります」
誤ったメッセージを誤ったタイミングで送信されないようにする
自動化されたメールの最適化は、他にもさまざまなメリットがあります。自動化メールの最適化は、「正しいメッセージを、正しい人に、正しいタイミングで届ける」ために不可欠です(=ライトパーソン・ライトタイミング・ライトメッセージ)。
逆に、「誤ったメッセージが、誤ったタイミングで、誤った人に送信される」ことを防ぐのにも役立ちます。大規模で洗練されている組織でさえ、配信のタイミングが重要な「タイムセンシティブなメッセージ」を、たびたび誤った日付に配信してしまいます。
あるいは、ユーザーからの購読解除に対応できず、コンプライアンスの違反につながるリスクを抱えている場合もあります。
BtoBのメールキャンペーンは長期間にわたるケースも往々にして存在します。ユーザー側の反応がないにも関わらずメールが送り続けていると、ISPからスパム認定され、スパムフォルダ(迷惑メールフォルダ)に送られてしまいかねません。
自動化されたメールとは、事前に定義されたトリガーやユーザーのアクションに基づいて配信されるマーケティングやセールスのメールで、「手動で【送信】を押す必要がないもの」を指します。
自動化されたメールには「戦略的な思考」「トリガーとして使用できる、自社で利用可能なデータに関する深い理解」が必要です。例えば、見込み顧客のWeb上の行動データをクッキー情報経由で検知し、そのページに含まれる詳細な情報を提供するメールキャンペーンを構築する手法などが挙げられます。
自動配信されるメールを効果的に活用できていますか?
Omnisend社の 2022年のデータによると、ほぼ半数の海外企業が何らかの形でマーケティングを自動化するツールを使用しており、メールマーケティングの平均ROIは驚異の40倍に昇ると述べられています2。
自動化はBtoBのメールマーケティングの業務にしっかりと根付きつつあるものの、一方で多くの組織ではその豊富な機能を十分に活用しきれていません。Email on Acid社の調査では、「半分以上(58%)の企業が、わずか1~5種類の自動配信メールしか活用できていない」と指摘されています3。
これは、カスタマージャーニー・ステージ(例:リードナーチャリング、新規顧客のオンボーディング、アップセル/クロスセル、再エンゲージメント、サポートなど)において、メールによる有効なアプローチが十分にできていない可能性を示唆しています。
あるいは異なる顧客セグメントごとの特定のニーズ、趣向、購買行動にパーソナライゼーションすることが、限定的な効果しかないと意味しているかもしれません。
この点について、MarketOne Internationalで Digital Production & Client Services部門のVPを務める Catalina Dobreは次のように語っています。
「自動化されたメールマーケティングは、デジタルマーケティングキャンペーンの成功の核心ともいえますが、最も見過ごされがちで、管理が不十分になってしまっている資産ともいえます」
メールキャンペーン最適化のベストプラクティス
メールキャンペーンの最適化を検討する際には、繰り返し施策を行い改善することが有効です。
これにより前回の配信結果から「良かった点」「悪かった点」を学ぶことで、「次に何を調整していくべきか」を判断するのに役立ちます。
1:量より質を重視したメール配信リストを作成する
大量の受信者にメールを送るよりも、ターゲットを絞り、可能であればエンゲージメントの高い顧客リストを作ることに注力しましょう。
大量にメール配信をすると、各指標において「見栄えの良い数字」になるかもしれませんが、配信したユーザーが「製品の購入」に興味を持っていないことは明らかです。
結果的に、メールを開封せず、リンクをクリックせず、Webサイトを訪れないままになってしまいます。
アクションのないユーザーにメールを送り続けると、開封されないメールが最終的にメールサービスプロバイダーによってスパムに振り分けられるため、配信能力(Deliverability)に悪影響を及ぼす可能性があります。
そうすることで、コンバージョンを見込むためのコンタクトリストを無駄にしてしまいかねないのです。
2:自動配信キャンペーンフローをシンプルにする
営業プロセスにおけるナーチャリング施策は、施策の目標・ターゲット市場・顧客の購買ステージに基づいて設計することで、自動化されたトリガー(ドリップ)キャンペーンの構築が可能です。
例えば、特定のWebサイトに訪問した顧客に対して関連する資料を送付する手法が挙げられます。その際にはできるだけシンプルなフローを設計しつつ、それぞれの分岐はできるだけシンプルに保ちましょう。
長くて複雑なナーチャリングキャンペーンは、顧客を「置いてきぼり」にするだけでなく、設計しているうちにマーケティング担当者が当初の目的を見失う可能性があります。
この点について SendGrid社の Jacob Hanson氏は次のように語っています4。
「マーケティングオートメーションは、マーケティングプロセスの一部を自動化するだけのものではありません。
マーケティング担当者が顧客リストで誰をターゲットにするか、どのようなアプローチ方法を用いるかを決定するのに役立つ貴重なデータポイントを提供してくれるものなのです」
3:メールのデザインを最大化し、テキストを最小化する
メールを受信するユーザーは非常に多忙です。Litmus社の調べによると、マーケティングメールの50%以上が、読まれてから2秒以内に削除されるといわれています5。
つまり、メールのユーザーはじっくりではなく、流し見したいと考えているのです。件名を読んで開封してもらえるほどの説得力があるなら、本文は簡潔に要点だけに絞りましょう。
「1メール=1テーマ」「自社のトンマナ」に従った、欲をいえば英語の場合では60字以下の簡潔な段落、説得力のあるCTAがユーザーの注意を惹きつけます。
デザインは、メールを通じてユーザーの目線をCTAへ誘導するようなものにしなければなりません。つまり、「読んだ後に次に何をすべきか」を迷わせてはいけないのです。
併せて、Hustler社の調べによるとメールの85%はモバイルデバイスで開封されるといわれていますので、メールデザインがモバイルにも最適化されていることも忘れず確認しましょう6。
メールコンテンツに関する他のベストプラクティスは次のとおりです。
- ユーザーが共有可能なリンクを追加して、メールを簡単に転送できるようにする
- スクロールさせることなくCTAボタンへ誘導するため、ページの上部に配置する
- CTAボタンのテキスト動詞など動的な表現を使用し、ユーザーに次に何をすべきかを伝える
- GDPRや米国CAN-SPAM法などの各国の法規制を遵守するために購読解除リンクを含める
4:メッセージをパーソナライゼーションする
メールのパーソナライゼーションは、従来以上に重要度が増しています。
McKinsey & Company社の調べによると、ユーザーの71%が企業とのパーソナライズされたやり取りを期待しています。一方で、それができていない場合76%の人々が不満に感じてしまうとのことです7。
では、競合他社に勝つためには何をすべきでしょうか。同じくMcKinsey& Company社の調査によると急成長している企業の収益の40%がパーソナライズによってもたらされたと述べられています。
ここからわかるようにパーソナライゼーションの取り組みへの重要度が増しているのです。
MAでパーソナライゼーションに取り組む上では、セグメントを絞り、ユーザーの課題感に訴えかけるようなターゲティングされたメールを作成しましょう。そうすればユーザーがメールを自分事として感じるようになります。
ユーザーの行動に基づくトリガーを設定した自動化プログラムを構築することも有効です。例えば、見込み顧客がWebサイトの特定の製品ページを訪れることが、より詳細な情報と無料トライアルを含むメールのトリガーになるかもしれません。
加えて、ダイナミックコンテンツ(個人の興味に従い動的にコンテンツを切り分ける設定)を使い、メールを開くたびにリアルタイムでメール内の情報が更新されるようにもしましょう。
具体的には、カウントダウン・タイマーを使えば、見込み客に対して「契約切れまであと何時間か」「イベントのチケットがあと何枚残っているか」などの情報を表示できます。
ダイナミックコンテンツでは、最新のSNS投稿やブログ記事や事例を見てもらうために、自動RSSまたはXMLフィードを活用し、ニュースレターのユーザーに最新情報を提供可能です。金融関連の記事の場合、ヨーロッパではユーロ通貨の画像を、アメリカではドル通貨の画像を使用するなど、顧客属性に応じてメールの画像をパーソナライズできます。
認知度合いに基づいた条件付きコンテンツを使用すれば、顧客のバイヤージャーニーステージに応じてメールをより効果的なものにしていけるでしょう。
5:購読解除は悪いとはいい切れない
ユーザーに【配信停止】ボタンの場所を把握させ、メールの内容ごとの受信設定ができる「プリファレンスセンター」へのリンクを明示することで、ユーザーが簡単に受信したい内容設定への更新が可能です。
これにより、自社視点ではユーザーが興味を持っているコンテンツの種類を知ることができます。
スムーズに購読解除させたほうがいい理由は、そもそも自社コンテンツやビジネスにユーザー全員が興味あるわけではないという理由があります。加えて無関心なユーザーに関係ないメールを送信し続けることにより、開封率、長期のエンゲージメント、およびブランド評価が損なわれ、ISPよりスパムメールとして認識されかねません。
データの健全性を保つ上では、自社に関心のないユーザーには配信購読をしてもらう方が重要なのです。
6:最適な送信タイミングのために自動化と機械学習を使用する
MAのスケジュール機能を使えば、ユーザーが世界中どこのタイムゾーンにいても、メールを適切なタイミングで配信できます。
機械学習は各セグメントにおける最適な送信時間等を学習データとして、メールのエンゲージメントを検証、分析、改善することに適しています。海外の具体的な事例を挙げると、Seventh Sense社では開封率を上げるために、繰り返しコンタクト情報やエンゲージメント履歴を分析し、「ユーザーがメールを読む可能性が最も高いタイミング」を予測しています8。
Phrasee社やPersado社などのツールでもAIが活用され、エンゲージメントデータに基づいてメールの件名やコピーをテストしています9 10。
7:テストを行い、アプローチ手法を学ぶ
MAのA/Bテスト機能を使用することは、「何が機能しているか(または機能していないか)」を把握する上で不可欠です。メールの各要素を検証し、結果をまとめておくことで、何がユーザーに最も響く要素かを理解できるでしょう。
Campaign Monitor社では古いデザインと新しいデザインをテストし、メールを魅力的なデザインに変更するだけでクリックスルー率が127%向上したと報告されています11。
メール配信では、以下の要素がテスト対象として挙げられます。
- 件名
- プリヘッダーテキスト
- CTAボタンの色やテキスト(例:「続きを読む」 のような一般的な言葉と、「メールキャンペーンの最適化方法3つを学びましょう」のような利点に焦点を当てたコピー)
- 本文の長さ
- コピーのトーン
重要なのは「自社が今何をテストしているのか」「なぜテストしているのか」を意識することです。一度にテストする要素を2つにまで絞ることで、A/Bテストの「勝者」の判断を付けやすくなり、継続してテストできるようになります。
A/Bテストは継続的に実施し、改善に取り組みましょう。
8:データを把握する
メールにトラッキング可能なリンクを活用し、そこから得られたデータを確認。得られたインサイトを次回配信に反映させることで、MAやレポートダッシュボードの機能を最大限活用しましょう。
定期的にレポートを確認し、メール自動化の取り組みにおけるデータの全体感を把握しておくことが重要です。
まとめ:すべてのメールの成果を最大限に活用する
自動化されたBtoBメールマーケティングキャンペーンの継続的な改善は、ユーザーのエンゲージメントを促進し、開封率やクリックスルー率、最終的なコンバージョンを高める上では不可欠です。
「やりっぱなしにして放置する」心構えだと、効果は限定的になってしまうでしょう。
自動化されたキャンペーンを定期的にテストし改良することで、ビジネス上の目標に即しているだけでなく、ターゲット層をナーチャリングし、マーケティング・営業プロセスのあらゆるフェーズにいる見込み顧客に対して、価値ある情報を提供しているかを確認する必要があります。
メールを最適化することで、パーソナライゼーションを強化し、配信ミスを防ぐだけでなく、「正しいコンテンツを、正しいタイミングで、正しい人に届ける」ことで、メッセージの効果を最大化できます。
同様に、メールの到達率をチェックしない、あるいは適切なユーザーに送信しないことによるブランド評価毀損やリソースの浪費を、メールの最適化により防ぐことができるのです。
- Kath PayKath Pay「Holistic Email Marketing: A practical philosophy to revolutionise your business and delight your customers」Rethink Press (2020/11/13) [↩]
- Omnisend「Sell more with better email & SMS」 [↩]
- Email On Acid Logo「B2B Email Automation: 13 Campaign Ideas for Customers and Leads」 [↩]
- twillo sendgrid「Email Marketing Automation Best Practices in 2023」 [↩]
- CISION「Email Metrics Reveal 50% of Marketing Emails Are Deleted Within Two Seconds」 [↩]
- Hustler「10 Email Marketing Statistics You Need to Know In 2021」 [↩]
- McKinsey & Company「The value of getting personalization right—or wrong—is multiplying」 [↩]
- Seventh Sense [↩]
- Phrasee [↩]
- Persado [↩]
- Campaign Monitor「How We Got a 127% Increase in Our Click-Through Rate」 [↩]