近年、マーケティング・営業領域でSalesforce社が提唱する「The Model」に代表される分業制が広がっています。
ここでいう“分業制”の定義については諸説あると思われますが、マーケットワンの提唱するシリウスディシジョンズ(SiriusDecisions)社のデマンドウォーターフォールに沿って構築すると、各種役割に応じた分業体制になります。
デマンドセンターとは「市場戦略を実行する仕組み」「顧客接点機能」を“セントラライズ(集結)”させた組織機能です。
デマンドセンターのオペレーションを分業制で行うメリットは、リード獲得からクロージングまでの各工程を部門ごとに分担することで、効率的にマーケティング・営業活動が行える点です。
しかし、デマンドセンターにおける分業では、課題が発生するケースも珍しくありません。その発生要因は「組織間の壁」に起因するケースがほとんどです。実際に、福田康隆氏の著作『ザ・モデル』では、以下のように述べられています。1
“各部門が異なるグループとして分断され、異なる指標を与えられ、それを追求していくミッションを与えられる。協力するより敵対的な行動をとるのはむしろ自然なことだとすら言える”
筆者はマーケットワン・ジャパンで、クライアント企業におけるリードジェネレーションのキャンペーン施策の実行支援を担当しています。
「コンテンツ配信の企画」「インサイドセールスによるフォロー」「営業へとパスする工程」まで含めて、組織を横断して関係者を巻きこみながら一気通貫でマネジメントするなかで、部門間の分断が招くデマンドセンターの機能不全にたびたび直面してきました。
本稿では、筆者の経験から得た知見を基に、分業による部門間の壁を乗り越え、デマンドセンターの仕組みを円滑に回すための方法について論考します。デマンドセンター担当者の方は、ぜひお役立てください。
目次
なにがデマンドセンター運用の妨げになるのか?
デマンドセンターの仕組みを回す際に、多くのケースでボトルネックとなるのが「巻き込むべき関係者が多い」という点です。
マーケティングでは、日々ホットなリードを獲得するために、さまざまな施策を実行しています。一方で、コンテンツの配信1つとっても、リード獲得後のフォローまで想定すれば、施策推進はマーケティング以外の部門も巻き込まなければなりません。
以下の図は、実際にマーケットワンのプロジェクトにおいて、コンテンツ企画からリードフォローまでを実施した際の各工程と担当部門をまとめたものです。
上図のとおり、企画段階ではコンテンツオーナーとマーケティングが並走します。
しかし、コンテンツ配信によってマーケティング部門がリードを獲得すれば、そのリードをインサイドセールスにパスしてフォローを行う。その後、インサイドセールスが取り付けたアポイントや案件につながりそうなリードは営業へとパスする……、といった具合に、各工程で担当部門が変わってくるのです。
このように、デマンドセンターでは他部門を巻き込んだ分業が求められます。そのため、「次工程にパスする際に情報連携が不十分である」という点が弊害になりがちです。
伝言ゲームのように、次工程へとパスされる過程で、意図や目的がずれていってしまう。あるいは、引き継ぐべき情報が抜け落ちているにも関わらず、プロジェクトが進行し続けるケースは頻繁に見受けられます。
その結果として、各部門が自部門のKPIにフォーカスしすぎて、プロジェクト全体の意図や目的が理解されないまま、全体最適からはかけ離れた対応状態に陥ってしまうのです。
各フェーズで生じる弊害を乗り越えるポイント
以上のような課題を解決し、デマンドセンターの枠組みでコンテンツ配信によるリードの獲得からフォローにまでつなげるためには、「キャンペーン施策全体を俯瞰し、各部門を包括的に管理する担当者を置く」ことがポイントになります。
つまりは、“情報連携が円滑に進む枠組み”を作る必要があるのです。
デマンドセンター全体を統括する司令塔を設置し、各部門の関係者へ情報共有することで、必要な情報が抜け落ちることなく、連帯感をもってプロジェクトを進められるようになります。
以下より、デマンドセンターの司令塔となった際に意識するべきポイントについて、プロジェクトの各工程におけるポイントについて解説します。
1.コンテンツ企画から配信フェーズ
この段階では、配信する製品やサービスを熟知したコンテンツオーナー・マーケティングが並走することが多く、配信の目的やメッセージの切り口、ターゲットについてしっかりとすり合わせたうえで、コンテンツ内容を作成・配信します。
コンテンツ配信により創出されたリードは、インサイドセールス、営業へとパスしていくため、次工程にリードをパスする時の条件を企画段階から目線合わせしておくことは必須となります。
BtoBマーケティングで重要なデマンドジェネレーションの基本的な考え方でも解説したように、次工程に手渡すリードの質は一定に保たなければなりません。そのうえでは、「①どんな属性の人が」「②どのような状態になったらパスするのか」について、企画段階で定義化しておく必要があります。
それにより、「次工程にパスしたもののフォローしてもらえない」といった事態を防げます。
2.リード獲得からフォローのフェーズ
当然ながら、リード獲得につながったキャンペーンの違いによって、インサイドセールスがフォローする際のシナリオも変わってきます。目的からブレずにフォローシナリオを設計するためには、キャンペーンの目的やターゲット属性、コンテンツ内容について事前に共有しておくことが必要です。
「どのような情報が聞けていれば、営業にパスする対象になるのか」を、企画段階ですり合わせ、その内容をフォローシナリオに盛り込まなければなりません。
3.営業にリードをパスするフェーズ
インサイドセールスがフォローしたリードを営業にパスする際には、リードの詳細情報も共有すれば、営業はスムーズにフォローへとつなげられます。この際、CRMなどを活用し、記入する項目をフォーマット化しておけば、報告内容の抜け漏れを防げます。
デマンドセンターにおいては、インサイドセールスがフォローした結果「ニーズなし」と判定されたリードはクローズとなり、営業には手渡されません。
ただし、全体の司令塔となるデマンドセンター担当者は、クローズになったリードの詳細についても把握しておく必要があります。なぜなら、「ニーズなしと判定された理由」は今後のマーケティング戦略の立案やナーチャリングを行ううえで、非常に重要な情報となるためです。
このように、デマンドセンター全体をマネジメントする担当者を配置しておけば、クローズしたリード情報であっても今後に活かせるため、無駄がありません。
部門を横断した定期的なコミュニケーション
デマンドセンター運用時に発生する「部門間における情報の分断」を防ぐための施策としては、部門横断で集まって進捗状況をシェアするなど、定期的なコミュニケーションも効果的です。
部門ごとにデマンドセンターで担う工程は異なりますが、デマンドセンターに取り組む目的を紐解いていくと、最終的には「売上達成」に行き着きます。
そのため、情報も各工程で分断されているのではなく「全て繋がっている」という認識を各部門の垣根を超えた暗黙知として形成しておくことが、“一体感の醸成”という意味でも効果を発揮します。
このようにして部門間で連携をとり、情報を「セントラライズ(= 集約・一元化)」しておくことは、顧客視点でも重要な取り組みです。
BtoBのデマンドセンターとは?今こそ顧客志向の仕組みづくりが必要な理由の記事でも述べたように、顧客が求めているのはあくまで「最適な体験」であって、自社が分業であることの有無は求められていません。むしろ、情報連携がなされていない状況では、顧客視点での体験の価値低下につながってしまうでしょう。
それを避けるためにも、部門間が相互にコミュニケーションをとる体制構築が求められるのです。マーケットワンがプロジェクトに参画した際には、クライアント企業に対し、週1回、30分だけでも、定期的に進捗確認の場を設けることを推奨しています。
その際に全体の音頭をとる役割は、デマンドセンターの司令塔となるマーケティングが担うことになります。
仕組みを回した後の検証・改善で、運用面の精緻化、マーケティングメッセージの精緻化に繋がる
インバウンド施策で獲得したリードに対して、デマンドセンターの仕組みを回しながら円滑にフォローまで進めるためには、まずは実際に一連のプロセスを基に進めてみる。そのうえで、全工程が終わった後に活動全体を振り返り、部門間を跨いだフィードバックループを実施する必要があります。
デマンドセンターの分業制では、各工程の活動状況や行動量、それに伴う最終的な成果の見える化を可視化しやすいのが特徴となります。そのため、全体の中で発生したボトルネックの特定が容易に行えます。
デマンドセンター担当者としては、まずは運用を軌道に乗せ、「検証→改善→実行」を繰り返すことで運用をさらに精緻化をさせる意識を持たなければなりません。
さらに、インサイドセールスのフォロー段階で流したリード情報であっても、しっかりと自社に蓄積させることで、コンテンツ配信におけるメッセージをさらにブラッシュアップさせられます。
そのコンテンツの内容についても、「シナリオ通りにターゲットに刺さっていたのか」を検証し、今後のマーケティング戦略の立案やリードナーチャリング時の内容に反映させる。そのうえで、デマンドセンターの取り組み全体をさらにアップデートしていくことが重要となります。
- 福田康隆著「ザ・モデル」 翔泳社 [↩]