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パーパスの変革期を見逃さない:グローバルマーケティングで勝つブランディングの力【対談】

               

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BtoB企業にとってのコーポレートブランディングとは、国内では創業時からの実績の積み重ねにおいておのずと育ったケースが多く、グローバル化や事業拡大などの転換期のタイミングを掴むことができないといった悩みもよく耳にします。今回は、明治大学准教授でグローバル・マーケティングを専門分野として活躍中の古川裕康氏を招き、どの事業成長段階でグローバルブランディングを強化すべきか、その投資価値も含めて突き詰めていきます。

目的地へ辿り着けるのは、最初に旗を立てた者のみである

大橋:古川先生とは、2015年に母校である明治大学のグローバルマーケティング研究会に参加したのがきっかけで、意見を交換させていただく間柄になりました。先生が学術的にグローバルマーケティングに関わっておられるのに対し、私はこのマーケットワンという企業で、いかに顧客にグローバルマーケティングを定着させるかというコンサルの実践面で携わっているというのが現在の立ち位置ですね。

マーケットワン 大橋 慶太

古川:私は、日本企業が海外進出をするにあたっていかに障壁をなくしていくかということに取り組んでいます。1990年代まで、日本は「ジャパン・アズ・ナンバーワン」と称されるほどでした。日本企業がグローバルで勇躍する時代になんとか元に戻せないかという一心でこの仕事に従事しています。最近はブランドパーパスやビジョンといった考え方が流行していますが、それらを制定するだけで満足している企業が多いように思います。いかに現実感を伴った長期的な利益につなげられるかといった課題を、国際的に検証しながら進めているというのがコアな研究テーマです。

大橋:今回は、グローバルマーケティングにおけるコーポレートブランディングを「どの段階から」始めるべきかについて、ご意見を交わしたいと考えています。コーポレートブランディングという観点においては、国内での実績においてブランディングを勝ち得た企業が多く、実績が国内と比べて少ないグローバル市場においては「当社はこんな企業です」といったパーパスやアイデンティティを打ち出していくタイミングを計り兼ねているという現状も多く目にします。

古川:事業成長の初期段階から「このようなブランドを作りたい」という前提を持ってから国外で浸透を目指したり、マーケティングを展開したりする必要があると考えています。というのも、目的地が決まらなければ、そこへたどり着くための道具も決まらないからです。将来どんな顧客にどんなブランドを提供したいのか、自分たちはどういう存在でありたいのか。そこが明確になることで、初めてゴールにたどり着くためのマーケティングツールが決まると思います。

明治大学准教授 古川裕康氏

大橋:ただ、たとえば「世界ナンバーワン企業になる」といったことは、言おうと思えば誰にでも言えてしまうわけですよね。Reason To Believeといった面では、なんらかの実績がなければどうしても信憑性がないというか……。まだ進出の段階で、自分たちが何者かも定まらないうちに、何をどう打ち出していくかを掲げるというのは、なかなか難しいようにも感じられます。

古川:かつてIBMの初代社長であるトーマス・J・ワトソン・シニアは、「一つの目的を持って会社を運営していかなければ、顧客に振り向いてもらえないだけでなく、従業員もついてこない」という言葉を残しています。IBMが常にグローバルシェアの上位を誇っている点を鑑みても、やはりこれは名言だと思うのです。ブランド構築において重要なのは、「売り上げをナンバーワンにする」といった狭い目標ではなく、「この商品やサービスを通してこうしたブランド、社会を作っていく」といったより波及的な目標を掲げることであり、このことで社外はもとより、社内の求心力が高まるといった事実が検証でも明らかにされています。

さらに忘れてはいけないことは、最初に旗を立てるのは経営者であったとしても、その後どのように浸透させていくのかについてはトップダウンだけでなく、メンバー全体で考えさせるということ。そのことで結束力が生まれますし、提供するサービスの品質が上がっていくと考えられます。

大橋:つまり成長段階の初期においては、ブランディングをする一番の相手は社外というよりは社員、ということなのですね。

古川:そう思います。初期においてはインターナルブランディングがメインであり、徐々に信頼に足るサービスが展開できるようになった段階でエクスターナルへ移行していくのが望ましいでしょう。「Journal of Marketing」という学術誌に掲載された研究によると、1986年の時点で既に、ブランディングはプロダクトサイクル、つまり市場に初めて出た段階/認知が得られた段階/成熟段階、それぞれに応じて柔軟に変化させていく必要があると指摘されています。理念自体は変わらないが、それを具体化させるパーパスの内容は少しずつ変化させていく必要がある、と。むしろ柔軟な変化が行われないと、外部環境が変化した際に自然淘汰されてしまう危険も出てくるでしょう。

リーダーの信じるブランドパーパスが、事業そのものを牽引していく

大橋:実感として、グローバル進出している大手企業のリーダーなかにも、みずからのブランドパーパスを心から信じきれていないところも多いように感じられます。そもそもリーダー自身が未来を信じることができなければ、求心力はおろか浸透には程遠いですよね。

古川:そうですね。CEOクラスがしっかりとパーパスを信じて、社内外に対してコミュニケーションをとっている企業とそうでない企業では、大きなパフォーマンスの差が出てくるという検証結果も出ています。とある大阪の運送会社では、モノを運ぶだけにとどまらず、どのような社会をつくりたいかを考えたところ、トラックの荷台に子どもたちに絵を描いてもらう施策に辿り着いたといいます。この施策は報道番組でも紹介され、話題になりました。

大橋:なるほど。とはいえ、「自社の活動をもって社会を変える」というブランドパーパスを掲げることは、たとえ大手企業だとしても容易なことではない気がします。そのパーパスが“つくって終わり”ではなく、ブランドとしてグローバルに浸透させるところまで含めて考えると、なおさらハードルが高いのではないでしょうか。

古川:その通りです。しかしハードルが高いからといって、それを避けて通る事はできません。今やどのような企業であっても国際的に経営を展開せざるを得ない世の中です。世界的に見ると特に欧州地域のBtoB企業ではここ10年くらいの間に、ある程度ESGを考慮した企業のランキング上位に入っていないとそもそも取引を行わないというムーブメントにも入っています。

大橋:日本との違いを感じますね。

古川:特にこのコロナ禍においては、多くの人が苦境に立たされているなかで、ステークホルダーキャピタリズムという考え方が世界的に着目されています。これは企業活動によって,自社だけでなく環境や社会を含む各種ステークホルダーの利益をも考えるというものです。対従業員・対顧客だけにとどまらず、あらゆるステークホルダーに向けて視野を広げる必要性があると思います。そうしなければ企業の存続も危ぶまれる可能性があります。

策定したパーパスをいかに再構築できるかがサバイバルの鍵

大橋:パーパス自体を企業活動の初期から設定する必要性についてはよく理解できました。その上で、時代や企業のフェーズにおいて柔軟に変化・リインストールし、しっかり仕組みとして機能させていく必要があるということですね。

古川:そうですね。そして、強いパーパスというのは必ずしも十分な「競争優位」にはならないということも忘れてはいけないと思います。もちろんパーパスというのは必須条件であり、欠けてしまってはグローバルでの競争は難しい。ですが、強いパーパスがあるからといって必ずしも市場競争に勝てるとは言い切れません。

大橋:なるほど。考えてみると、写真のデジタル化という時代の潮流への対応の差として良く事例に出てくる、コダックと富士フィルムの例においても、一度作ったパーパスを変える事がいかに難しいのかを占める一例では無いかと思います。。

古川:たとえばトヨタ自動車はもともと織機を扱っていた会社です。そしていまは車を売っている。しかしこの先内燃機関が廃れるようなことがあれば、もしかしたらまた別のものを売る会社になっているかもしれない。しかし、トヨタ自動車の掲げている「幸せを量産する」というパーパスさえ達成できていれば、その時点でブレていないわけです。そう考えると、先ほどもお話しましたが、あまり具体的なところにパーパスを落とし込みすぎてしまうと、時代ともに変化していくことが必要になってくるでしょうね。

大橋:実情とReason To Believeとのギャップが開いてしまうことを懸念すると、なおさら長期的に変えないものと、ある程度短期的に変えていくものが必要ですね。

古川:そう思います。具体的に説明すると、パーパスというのはより普遍的なものだと思うんですね。それを具体化したものがブランド・ビジョンです。例えばハウス食品は「家庭が幸福であり、そこにはいつも温かい、家庭の味ハウスがある」というパーパスを掲げています。一方でタイを中心に展開されているC-Vittというドリンク商品のブランド・ビジョンは「いつでも・どこでも・誰でも楽しめる、ビタミンCパートナー」。旗の位置がずいぶん手前にあるように感じられますよね。こうした例を見ても、ブランド・ビジョンというのはプロダクトを展開する地域によっても異なりますし、やはり事業フェーズや時代とともに変化していくものだと感じます。

ミドル層が自分ごと化したときに、初めてパーパスの変革が始まる

大橋:いまのお話を聞いて、まさにそのブランド・ビジョンの変革・書き換えを丁寧に支援していくのがマーケットワンの事業そのものだな、と感じました。企業の中には、「書き換えました」という状態で満足してしまっているところも少なくありませんが、私たちはその変革に際して素晴らしい将来像を描くというよりも、その変革に伴走できる存在でいたいと考えています。先ほど先生のご指摘されたインターナルの求心力をさらに強固なものにするためにも、パーパス書き換えの転換期を見逃さないことが、我々に課された使命でもあると感じています。

古川:パーパスの変革やリインストールに伴走してくれる相手がいるかいないかというのは、企業にとって大きな違いになってくるかもしれませんね。大橋さんのおっしゃっている「伴走する」という言葉の意味は、恐らくトップを啓発するということだけではなく、ミドル層からの変革を促すという意味合いが強いのではないかと感じます。いくらトップが旗を立てても、ミドル層を巻き込まなければ何も変わらないですから。

大橋:そうですね。私たちの事業は極めて“ミドル型・現場型”だと思います。私が感じている現場感としては、重要な変革期に、トップからミドル層になかなかそのサインは送られていない。ミドル層が、あまり自分ごととしてパーパスの書き換えの必要性を感じていないケースが多々見られるんです。そこに私たちが横串を通すような形で関わっていきたい。

古川:パーパスを「絵に描いた餅」にしないために、ですね。

大橋:はい。変革の実現のためにはまさに、グローバル・マーケティングにおいて自社打ち出すコーポレートブランディングに現場=ミドル層を巻き込む仕組み、体験が必要が必須になると考えています。そのために実際に変革を体験するための仕組みづくりを支援していく。大きな変革ではなく、小さな成功を積み重ねていただくことをミッションに事業に取り組み続けたいと、今回改めて感じることができました。ありがとうございました。

対談のまとめ

創業期はもとより、新しい市場への進出や事業の転換などの変革期こそ、パーパスが大きな役割を果たすことを改めて感じました。そして、その「書き換え」と「リインストール」を大胆にかつ丁寧に行うこと、現場レベルで地道に小さな実感を積み上げること。我々マーケットワンが常に大切にしている、現場での成功体験と実感の醸成、そして未来への期待を組織のなかにつくっていくということが、組織を一枚岩にして変革を実現させるためのカギになるのだなと改めて実感しました。常に旗を見失わずというのが重要ですね。古川先生、ありがとうございました!

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プロフィール

古川 裕康
明治大学経営学部准教授。専門はグローバル・マーケティング論,グローバル・ブランド・イメージ管理。Journal of Global MarketingやJournal of International Consumer Marketing誌をはじめ国内外のジャーナルに多数の論文を掲載している。著書に『グローバル・マーケティング論(文眞堂)』,『グローバル・ブランド・イメージ戦略:異なる文化圏ごとにマーケティングの最適化を探る(白桃書房)』等がある。異文化経営学会賞(著書の部),多国籍企業学会若手研究者最優秀論文賞,研究奨励賞,日本流通学会奨励賞等。

大橋 慶太
BtoB企業のマーケティング・コンサルティングに15年以上従事。大手製造業向けに、マーケティングを軸にした新規事業探索、デジタルトランスフォーメーション等の戦略立案と実行支援のアドバイザリ役を務める一方、日本におけるマーケットワンの事業開発を管掌する。日本アドバタイザーズ協会 デジタルマーケティング研究機構BtoBマーケティング委員会の副委員長