かねてより、自社イベントの主催は有効なマーケティング施策のひとつとされてきました。実際、当社マーケットワン・ジャパンも2018年より毎年開催しているBtoBマーケティングフォーラムをはじめとしたイベントを、さまざまなステークホルダーの方に向けて開催しています。
日本にはこのように、ウェビナーや展示会などのイベントを開催し、見込み顧客との接点を創出する企業も多く存在します。
その一方で、「集客したが参加率が低い」「イベント後のリードフォローが属人的」「次回に活かせるデータが残っていない」といった課題を抱えるケースも少なくありません。
せっかくリソースを使ってイベントを開催したとしても、商談創出や受注といった成果に繋がらなければ、投資対効果が悪化してしまいます。
もちろん「新規リードの獲得」「既存顧客のナーチャリング」という効果もイベント開催では期待できます。
しかし、これらは短期では成果が見えにくいものですし、マーケティングとして社内への説明責任を果たす必要があることも踏まえると、きちんとした戦略をもって施策に臨む必要があるといえます。
また、イベント施策は、単に一連の流れとして捉えるのではなく、「集客」「案内」「フォローアップ」の3つのフェーズに分けて考える必要があります。なぜなら、各フェーズで対象となる顧客や求められる対応、判断軸が大きく異なるためです。
そこで本稿では、マーケティングオートメーション(MA)の利用を前提として各フェーズにおけるマネジメントのポイントを解説します。
イベントマネジメントを3フェーズに分けて考えるべき理由
BtoBイベントは一見すると「申し込みを集めて、当日開催して、お礼メールを送る」という単純な流れに見えるかもしれません。しかし実際には、イベントの主催形態(自社/外部)や対象顧客の属性によって、必要な対応や判断が大きく異なります。
イベント施策は大きく「集客」「案内」「フォローアップ」の3フェーズに分けられますが、それぞれ「ただメールを送ればいい」というわけではなく、以下のように各フェーズごとに細かな対応が求められます。
- 集客フェーズ:イベント申し込み前の段階。配信リストの整備、ターゲットの選定、チャネルごとの訴求方法の決定などが中心となる。
- 案内フェーズ:申し込みを済ませた参加予定者に向けた対応。リマインド配信のタイミング設計、URLや開催情報の通知、キャンセル者の除外など、誤配信リスクへの配慮が必要。特に、定員調整や競合排除などでお断りの案内が必要なケースでは、セグメント分けや社内確認のプロセスが不可欠となる。
- フォローアップフェーズ:イベント後の対応全般。参加者・不参加者ごとの対応分岐、適切なコンテンツ選定、営業へのパス条件の判断などを行う。
このように、各フェーズで扱う対象者や判断軸が明確に異なっており、顧客の属性やイベントの主催形態(自社開催か外部開催か)によっても運用設計が変わるため、「イベント全体」と一括で捉えてマネジメントしようとすると、「抜け漏れ」「誤配信」「対応の重複」といったリスクが生じやすくなるのです。
そのため、3フェーズごとに検討すべきポイントを整理し、それぞれに応じたシナリオ設計・運用を行う必要があります。
なお、各フェーズでマーケティングオートメーション(MA)を活用すれば、リスト管理や配信の設計、行動データの蓄積といった作業を効率化でき、再現性のある運用体制が構築しやすくなります。
次項より、自社開催セミナーを中心に、外部開催のイベントも視野に入れながら、3フェーズそれぞれにおける設計とMAの活用ポイントを実務ベースで解説していきます。
集客フェーズ ― リストとチャネルの最適化
イベントの成否を左右する要素のひとつが、集客フェーズの設計です。
「できるだけ多くの見込み顧客に対して、適切なメッセージを、最適なチャネルを通じて届ける」と言葉にすればシンプルに聞こえるでしょう。
しかし、実務においては「リストの精度が低い」「対象外の層にも配信してしまった」「主催者と想定ターゲットがずれていた」といった、初期段階の設計ミスがそのまま本番の集客不振に繋がります。
そもそも、イベントマネジメントは開催形態によって前提条件がまったく異なります。
自社で主催するセミナーと、外部が主催するイベントとでは、リードの取得方法・タイミング・接触経路に大きな差があります。特に、外部イベントでは、申込者データがリアルタイムで手に入らないケースもあり、MA上での管理や再配信の判断に混乱を招きがちです。
加えて、チャネル設計も属人化や慣習のまま運用されやすい領域です。メール配信だけでなく、Webサイト・SNS・広告など複数のタッチポイントを設計しないと、訴求の幅が限定されてしまいかねません。
こうした前提を踏まえると、集客フェーズでは次の3つの観点から取り組みを分解しておくと、再現性のある成果設計が可能になります。
集客フェーズのポイント①:セグメント設計の明確化
イベントのリスト活用は、開催形態によって前提が大きく異なります。自社で主催するセミナーであれば、保有する顧客データベースを起点に、業種や役職、過去の接点情報などをもとにセグメントを抽出できます。
MAを使えば、反応スコアや商談ステータスなども条件に加えて、優先度の高い層を特定することも可能です。
また、複数回にわたってメールで集客を行う場合、すでに申し込み済みのユーザーに対して、同じ案内を繰り返し送ってしまうリスクがあります。MAで申し込みステータスを管理できる場合は、申し込み済ユーザーを除外したセグメントを作成すれば、不要な配信を防ぐことが可能です。
一方、外部イベントでは、申し込みデータは基本的に主催者側が保有しており、自社ではリアルタイムに取得できないケースもあります。
この場合、既知のターゲットに複数回案内メールを送る際には、すでに申し込み済みの人に重ねて案内が届くリスクがあるため、文面に「すでに登録済みの方にもご案内しています」といった注記を入れるなど、配信上の配慮が求められます。
こうした条件の違いを踏まえたうえで、配信対象の粒度や優先順位を明確にし、セグメント設計を行いましょう。
集客フェーズのポイント②:反応データをもとにしたチャネルの最適化
集客活動をメール配信のみに依存してしまうと、リーチできる範囲や反応が限定されますので、以下のような接点を意図的に増やすことが求められます。
- 社内外のイベントページ
- SNSでの投稿
- Webバナー告知
- 共催企業からのメール配信(共催イベントの場合)
- 外部媒体の広告出稿 など
これらをバラバラに実行するのではなく、MAツールを活用して一元的に管理します。
複数チャネルの展開で有効な「クエリパラメーター」とは?BtoBマーケティングでの活用例を解説でも述べているように、クエリパラメーター(URL末尾に追加される情報コード)を適切に設定することで、チャネルごとの効果(開封率・クリック率・申し込み率など)を可視化できます。
その上で、各タッチポイントの反応をもとに、次回以降の施策を見直していくことで、集客全体の精度を継続的に高められます。
事前にチャネル別の集客計画を立て、「開催1か月前から週次でメルマガ配信→2週間前にSNS広告を集中配信→他社セミナーで案内チラシを配布」などの形で、接触機会を複層的に設計しておくと、リーチと反応が安定します。
集客フェーズのポイント③:営業・インサイドセールスとの連携体制の構築
集客段階から営業部門やインサイドセールスと連携することで、重点ターゲットへのアプローチ精度をさらに高められます。MA上で高スコアの見込み顧客や、戦略的に来場させたい企業群を抽出し、個別のフォローを依頼する流れを事前にすり合わせておくことが理想です。
誰にどのチャネルで届け、どのような優先順位で個別対応を行うか。マーケと営業で集客戦略を共有しておくことで、イベント自体の質も大きく向上します。
案内フェーズ ― 案内・リマインド戦略による「参加率」と「運用効率」の両立
イベントの申し込みが完了した後に直面するのが、いかに確実に参加してもらうかという課題です。参加率が低ければ、獲得したリードを活かせずROIも下がりかねません。
案内フェーズは単なる通知作業ではなく、イベント種別に応じた設計やタイミングの調整といった運用の工夫が求められるのです。
ここでもMAを活用すれば、こうした案内プロセスをシナリオ化・自動化でき、属人性やミスを抑えながら参加率を底上げできます。
案内フェーズのポイント①:イベント種別に応じた案内設計
イベント案内には大きく2つのパターンがあります。
1つは、「申し込みフォームの送信をトリガーに即時で案内(イベント概要やアクセスURLなど)を送る方法」で、定員制限や競合排除の必要がない場合に適しています。
もう1つは、「申し込み後に内容を確認し、競合排除や定員調整などの目的で案内・お断りをセグメントごとに配信する方法」です。
後者は、申し込み情報をもとに社内での確認・承認プロセスが発生し、誰に案内を送るか、誰にお断りを入れるかといったセグメントの設計と振り分けが重要になります。
セグメント設定においては「部門間での条件のすり合わせ」「対象リストの精査」「配信タイミングの調整」など細かな対応が必要となり、時間とリソースがかかる点に注意が必要です。
このように、案内方法によって対応すべきことが異なりますが、自社開催イベントなら、登録情報がMA上に自動で蓄積されるため、スムーズな案内・管理が可能でしょう。一方、外部開催イベントでは、MAと自社データベースがリアルタイムで連携できないことが多く、データ突合や後工程の対応に手間がかかるのが実情です。
これら案内方法の選択は、「どの層を確実に集客したいのか」「参加可否の裁量がどこにあるのか」を基準に決めると、運用の迷いを減らせます。
案内フェーズのポイント②:リマインド配信のシナリオ設計で参加率を高める
開催日までに複数回リマインドを送ることで「参加忘れ」「当日の急なキャンセル」を防ぐことが可能です。「開催1週間前」「前日」「当日朝/1時間前」など、接点のタイミングを分散させるのが効果的です。
こうした配信はMAのステップメール機能を使えば自動化可能で、事前に設計したシナリオどおりに送信されます。メール本文には、再度参加URLを明記するだけでなく、事前準備の確認や問い合わせ先も記載しておきましょう。
フォローアップフェーズ ― 商談化を見据えた戦略的アプローチ
イベントは「開催して終わり」ではありません。イベントを通じて獲得したリードにアプローチし、商談化や次のマーケティングアクションへとつなげていくフォローアップも必要です。
このフェーズでは、イベント後の反応を素早く把握し「適切なタイミング、適切な手法」で再度参加者にアプローチを図ります。
フォローアップフェーズのポイント①:参加者・欠席者それぞれに最適なアプローチを行う
イベント後のフォローアップを効果的に行うためには、参加者と不参加者の情報を正確に取得できるかどうかが重要なポイントとなります。この情報が取得できれば、以下のように参加状況に応じたメッセージの出し分けが可能となります:
- 参加者向け:「ご参加ありがとうございました。当日の資料はこちらからご確認いただけます。」
- 不参加者向け:「今回はご参加いただけませんでしたが、資料をお送りします。ぜひご覧ください。」
特に参加者には翌日中を目安にお礼メールを送信し、次の行動につなげるCTA(Call-To-Action)を明記します。
具体的には、以下のような導線が考えられます。
- 個別相談会への案内
- 製品デモや資料請求フォームへのリンク
- 関連サービス紹介ページの掲載 など
MAを使えば、テンプレートにパーソナライズ要素(例:参加セッション名や担当営業の署名など)を差し込み、手間なく迅速に対応できます。自社開催のウェビナーであれば製品紹介に直結するCTAを、外部開催イベントであれば関連資料やホワイトペーパーへの誘導が有効です。
さらに、アンケートを送ることで「イベントの満足度や改善点を把握」「参加者の関心度やニーズの深掘り」にも繋がります。
また、欠席者に対しても確実にフォローを行います。欠席者向けには「資料ダウンロード」や「アーカイブ視聴リンク」の案内メールを送り、興味・関心を逃さず補完することが重要です。その際も、参加者同様に次のステップを促す導線を用意しましょう。
フォローアップフェーズのポイント②:営業連携によるリード活用と分業体制を敷く
イベントで収集したリード情報を営業部門に適切に引き継ぐことも大切です。MAとCRMシステムを連携させ、リードの参加履歴やスコア情報を営業に渡すことで、すぐにフォローを開始できる体制を整えます。
一方で、スコアや属性によっては営業対象外と判断されるリードもあるため、マーケティング部門が継続フォローを担う体制を設けることも必要です。リードスコアリングを機能させるための部門間連携・データ戦略とは?でも解説しているように、部門間連携をとりつつ必要なリードデータを定義することで、非効率アプローチを避けつつ、確度の高いリードに集中できます。
加えて、リードの状態や関心度に応じて、「1 to 1の個別対応」と「MAによるナーチャリング」を柔軟に使い分ける視点も求められます。
具体例を挙げると、自社がターゲットとする特定の業種や役職など、戦略的に重要なリードには、営業やインサイドセールスといった1 to 1の個別対応により、優先的にアプローチする。その他のリードに対しては、MAで継続的に情報提供を行いながらナーチャリングするといった形です。
イベント開催の効果を最大化するには「日頃のデータ整備」が重要
イベントマネジメントにおいて、集客・案内・フォローアップの各フェーズでMAを最大限に活用するためには、事前のデータ整備と管理体制の構築が不可欠です。
どれほど優れたシナリオやコンテンツを用意しても、基盤となるデータが不正確・未整理であれば、適切なアプローチや活用ができず、成果に直結しません。
まず、MAに取り込む顧客データは、最新かつ正確であることが大前提です。部署名や役職、業種、過去の接点履歴などの属性情報が整っていれば、集客フェーズでのセグメント配信やパーソナライズが可能になります。逆に、重複や欠損が多いデータでは、誤配信や機会損失のリスクが高まります。
特に重要なのが、「情報の一貫性」と「更新性」の確保といえます。
一例を挙げると、役職名の表記揺れや部署名の分類違いがあると、適切なリスト抽出ができず、ターゲットに対する訴求がぼやけかねません。また、外部開催イベントなどで自社のデータベースやMAと連携できない場合、イベント申し込み者の情報がリアルタイムでMAに反映されないため、「キャンセル者への誤配信」「同一人物への重複送信」といった問題が発生する可能性があります。
このようなケースでは、事後に提供される参加者リストをもとに手動でデータを取り込まなければならず、配信設計やセグメント管理にかかる業務負荷もより大きくなります。
特に、複数ツールを同時使用している場合は、こういった問題が顕著に現れます。BtoBマーケティングで膨大なデータを有効活用するポイントとは?でも解説されているように、複数チャネルから流入するデータを「綺麗に」整え、常に最新の状態にアップデートする体制を築きましょう。
イベントマネジメントは常に仮説を持って臨むことが大切
イベントを通じたマーケティング活動では、「こうすればうまくいく」という絶対的な正解はありません。
特に「集客」「案内」「フォローアップ」の各フェーズでは、対象となる顧客の属性や反応が異なり(例:登録済みか否か、競合排除の必要性、参加・不参加・申し込み無しの当日参加など)、対応パターンは多岐にわたります。
これらを踏まえて、「誰に、何を、どう届けるか」をその都度設計し、MA上で正確に運用することは容易ではありません。だからこそ、あらかじめ仮説を立て、現場での反応やデータをもとに検証・改善を繰り返す姿勢が不可欠なのです。
ウェビナーやカンファレンスといった施策は「あくまで手段」であり、その成果は運用の設計と実行次第で大きく左右されます。
実際に、ある施策で想定した反応が得られなければ、配信タイミングや訴求軸、ターゲットの絞り方などを見直すことで、次回の成果に繋がるヒントが得られることもあります。
一度作った仕組みやシナリオに満足せず、常に「もっと良いやり方があるのではないか」という視点を持ち続けることこそが、「次に繋がるイベントマネジメント」の根幹なのです。