マーケティング活動で成果創出に繋げるためには「ROI(投資対効果)」を正確に計測する必要があります。
なかでも、製品のマーケティングキャンペーンを展開する際には、「オウンドメディアで公開するコンテンツ」「キャンペーンのためのLP (ランディングページ)」を作成し、一件でも多くの見込み顧客に情報を届けるため、メルマガや広告などの複数チャネルを活用します。
実際、当社マーケットワン・ジャパンがクライアント企業のサポートを行うときには、リードジェネレーションのためのさまざまな打ち手を展開するケースがあります。
一方で、複数チャネルの活用に関する議論では、各施策のベストプラクティスは知られていても「MA(マーケティングオートメーション)を使ってどのように構成すべきか」という部分はあまり論じられていない印象です。
本稿では、そういった複数チャネルを用いてマーケティングキャンペーンを展開する際に管理効率を大幅に高められる「クエリパラメーター」の考え方について解説します。
「クエリパラメーター」とはマーケティングチャネルを区別するための情報コード
クエリパラメーターとは、URL末尾に追加される情報コードのことです。主にWebサイトやマーケティングキャンペーンで使用され、以下のような特徴があります。
- 構造:キーとバリューのペアで構成される。
- 形式:URLの末尾に「?」を付け、その後に「キー=バリュー」の形で追加される。複数のパラメーターで構成する場合は「&」でつなぐ。
- 目的:主に、Webサイトへのトラフィックの出所や種類を識別するために使用される。
例えば、以下のURLでは〈utm_source〉と〈utm_medium〉がクエリパラメーターで、それぞれ〈=〉のあとに続くのがパラメーターに対応するクエリバリューとなります。
“https://www.example.com/landing-page?utm_source=newsletter&utm_medium=email”
2024年現在、BtoBのデジタルマーケティングでは複数チャネルを活用するのがメジャーな手法です。以上を踏まえて、読者のみなさまのマーケティングの現場で、こんなシーンはありませんでしょうか?
- 自社イベントやウェビナーで集客のチャネルが知りたい。e.g. 営業の紹介、広告、メルマガなど。
- ホワイトペーパーダウンロード e.g. メルマガ、広告など (Google広告や外部媒体など複数のメディアに出稿するなど) 。
ハウスリストに対するMAでのメール配信は基本として、「さまざまな広告チャネルへの出稿」「営業にも依頼して個別で各営業先へフォローアップ」といった複数手段を用いて集客を図ることも多いでしょう。
この場合、各チャネルのコンバージョン数とROIを測定・報告を求められるケースがあります。
従来は、ROIはチャネルごとに個別のランディングページを作成していました。しかし、この方法では、キャンペーン内容の変更時に全てのページを個別に修正する必要があり、工数が多く、修正漏れのリスクも高くなります。
そこでクエリパラメーターを活用することで、単一のランディングページで各々のマーケティングチャネルの効果を正確に測定・比較することが可能です。
なお、クエリパラメーターには「アクティブパラメーター」「パッシブパラメーター」の2種類があります。
- アクティブパラメーター:パラメーターの値に伴って、Webコンテンツの表示内容が変わるもの。ECサイトなどでよくみられる。
- パッシブパラメーター:主に情報解析ツールなどで、アクセス経路やユーザー属性を把握する目的で使用されるもの。
本稿ではMAなどのシステムで流入元の切り分けとして使用されるパッシブパラメーターを前提に解説します。
BtoBマーケティングにおけるクエリパラメーターの活用例
ここでは、ランディングページ上での「個人情報入力→フォーム提出」と引き換えに資料提供を行うというオーソドックスなマーケティング手法をベースにして、BtoBにおけるクエリパラメーターの設定例を紹介します。
理解を深めるために「①:従来のURL設定例→②:クエリパラメーターを設定した場合の構成例」の順序でみていきましょう。
①:従来の URL設定例
ランディングページを活用したキャンペーンでよくあるパターンとしては、ハウスリストへのメール配信に、複数の広告メディアに出稿するケースです。
この際に活用するチャネルは、以下①〜③であると仮定し、MAのランディングページのURLを〈https://go.marketone.com/productA〉としましょう。
- ①:ハウスリストに対して配信するメール
- ②:広告メディアA
- ③:広告メディアB
実際にキャンペーンを運用するにあたって、上記①〜③のチャネルで遷移先のランディングページのURLを同一に展開した場合、「ハウスリスト経由で案内したユーザーからのフォーム提出」「広告メディアから流入したユーザーのフォーム提出」に関わらず、MAのアセット上に“同一のフォーム提出”として計測されます。
なお、ここでいうアセットとは、マーケティングやデジタル広告の文脈において、キャンペーンや戦略を実行するために使用される様々な素材や要素のことを指します(例:ランディングページや広告クリエイティブなど)。
そのため、フォーム提出者がどのチャネル経由でコンバージョンに至ったのかを判断できません。
この場合、一般的な解決策としてはランディングページを識別する末尾の「Vanity URL」をユニークとし、アセットごとに切り分けてしまうという方法が採られます。例えば、以下のようにURLを設定することになるでしょう。
<一般的な設定例>
- ハウスリストに対してのメール配信:https://go.marketone.com/productA-email
- 広告メディア1:https://go.marketone.com/productA-media1
- 広告メディア2:https://go.marketone.com/productA-media2
確かに、この方法ならMA上のフォームアセットは物理的に分かれていますので、各アセットのコンバージョン数を集計することで「チャネルごとのコンバージョンを知りたい」というROI レポーティングにかかる問題はクリアされます。
しかし、社内外を問わず、ステークホルダーの多いキャンペーンは往々にして途中で仕様変更によるアセットの内容修正が発生することも多く、1つの修正でも修正工数はチャネルの数だけ増加します。
工数が増えると「特定のチャネルのアセットだけ修正が反映されないまま公開してしまう」「間違ったアセットを指定してしまい、想定していた配信プログラムが実行されていない」といったトラブルが発生しかねません。
②:クエリパラメーターを設定する場合の構成例
このようなリスクを回避するためにクエリパラメーターを活用する際には、そもそもとしてクエリパラメーター機能が使用中のMAツールに標準搭載されていないか確認しましょう。
もし標準機能がない場合は、ランディングページにJavaScriptを追加して、URLからクエリパラメーターを抽出し、フォーム送信時にその値を含める処理を実装します。あるいは、MAツールのカスタムフィールドを使用して、クエリパラメーターの値を保存する設定を行うのがメジャーな手法です。
準備ができたところで、クエリパラーメーター付きのURLが設定されたランディングページを各チャネルの遷移先として展開します。
当社では、〈lsrc〉〈cid〉 という2つのクエリパラメーターを設けており、以下のように構成しています。
項目 説明
lsrc Lead source (見込み顧客の情報取得元)
cid Campaign id (上記取得元の詳細)
構成例 https://go.marketone.com/productA?lsrc=Advertisement&cid=linkedin-202410
(※上記は運用上必要となる情報を取得しているため、一概にすべての企業において適用しうるパラメーターではない)
上記の例で実際に作成したアセットは〈https://go.marketone.com/productA〉の1つだけですが、実際にMA上のアセットでフォームごとのコンバージョンデータをみてみると、以下図1のような形でデータが取得できているとわかります。
図1.クエリパラメーターを付与したフォーム提出データの例
このアプローチにより、以下のような恩恵を得られます。
- アセットの作成工数を低減できる / 仮に仕様の修正があった場合でも修正コストが低減できる。
- 単一のランディングページ上のコンバージョンデータで各レコードがどのチャネル由来だったかを判別できる。
クエリパラメーターを活用すれば、別々のアセットを作るよりも、アセットの作成・編集工数と利便性の観点で大幅な運用の効率化を図れるでしょう。
応用レベルのクエリパラメーターの活用方法
ここからは、当社で実際に運用されているクエリパラメーターの応用レベルでの活用方法について、以下の2つを紹介します。
- Lead sourceの管理
- キャンペーンへの連携
次項より、詳しく解説します。
Lead sourceの管理
当社では〈lsrc〉〈cid〉のクエリパラメーターを活用していると前述しましたが、この2つのパラメーターをLead sourceの管理に活用しています。
具体的には、〈lsrc〉をマーケティング施策の「打ち手レベル」で分類し、〈cid〉は「その打ち手の詳細」を表すものと定義した上で、この2つのを合わせて見込み客のLead source(見込み顧客の獲得元)を把握できる状態を構築しています。
これらの値はJavaScriptを通じて取得され、「Lead Source – Most recent」と「Lead Source – Details」というフィールドに保存されます。
これによりどのような恩恵があるのかというと、以下例のようにコンバージョン元の「施策名」「経由したクリエイティブとその日付」をひと目で判別できるようになります。
クエリパラメーター | マッピング先 | 例 |
---|---|---|
lsrc | Lead Source – Most recent | Advertisement |
cid | Lead Source – Details | linkedin-202410 |
上記の場合、「Advertisementという施策の種類」「2024年10月にLinkedinの出稿経由でコンバージョンされた」という情報が整理されているとわかるでしょう。
このように、フィールドを用いてレポートを作成すれば「現在どの施策のコンバージョン数が多く、ROIが高い施策であるか」という分析も容易です。
とはいえ、クエリパラメーターのルールは複雑となりますので、実運用でヒューマンエラーを避けつつ使用するのは容易ではありません。
それを踏まえて、当社ではオペレーションの精度を担保するためパターンごとにクエリパラメーターの作成ルールを定義しています。
実際の運用では、定義したルールに則った「クエリパラメーター付きURLの作成テーブル」を活用して生成することで、担当者間で齟齬がでないようクエリパラメーター運用の標準化が可能です。
図1.M1Jで使用されているパラメーター構成ルール表
図2.クエリパラメーターURL生成テーブル例
キャンペーンへの連携
クエリパラメーターをすれば、異なるマーケティングチャネルからのコンバージョンを効果的に追跡・分析することも可能です。
以下、Salesforceを使用した例で解説します。
LinkedInとFacebookでそれぞれ広告キャンペーンを実施している場合、各広告にユニークな〈cid(キャンペーンID)〉を設定します(例:〈linkedin-202410〉〈facebook-202410〉)。
ユーザーが広告をクリックしてランディングページに到達し、フォームを送信すると、その〈cid〉の値に基づいて適切なSalesforceキャンペーンに自動的に振り分けられます。
具体的には「〈cid〉=〈linkedin-202410〉ならCampaign A」「〈cid〉=〈facebook-202410〉ならCampaign B」といった形です。
この仕組みにより、Salesforce上で各広告チャネルからのコンバージョン数を正確に把握し、チャネルごとの効果を簡単に比較できます。
結果として、どの広告がより効果的かを明確に理解し、マーケティング予算の最適な配分やROIの向上に繋げられます。
おわりに
クエリパラメーターは、複数のマーケティングチャネルを効果的に運用し、ROIを最大化する上では有用なツールです。
統一された設計とMAとの連携により、データの精度を高め、効果的なキャンペーン運営が可能になります。
マーケティングオペレーションの高度化に向けて、クエリパラメーターの有効活用を検討しましょう。