顧客志向のマーケティングを実現するための「Always On」とは何か?といった記事のなかで、MAを活用したメールマーケティングの最終的な姿として「Always On」のコンセプトを紹介してきました。
Always On型のマーケティングアプローチはMA(マーケティング・オートメーション)などのテクノロジーを使って常に自社で顧客対応ができる体制を構築する取り組みです。顧客が必要としている情報を「ライトタイミング・ライトコンテンツ」で提供することで、リードマネジメントの自動化を実現できます。
【セミナー記事】製造業がデジタルマーケティングで目指すべき姿とAlways On Programとは?で紹介したように、Always Onは複数プログラムで構成されています。なかでも、顧客との最初の接点にあたるのがWelcome Programです。
このWelcome Programでは、他のプログラムの中でも比較的取り組みやすく効果も出やすいため、各プロジェクトの最初に構築していくことを当社マーケットワン・ジャパンでは推奨しています。
今回は、Always On型の取り組みの「足掛かり」ともいえWelcome Programの概要や目的、与件整理について解説します。
目次
Always Onにおける「Welcome Program」とは
Welcome Programとは、文字通り自社MAのコンタクトデータベースに流入した顧客・見込み顧客に対して「最初に送るメール」です。
自社にとっては新規コンタクトであり、顧客視点でみてもWelcome Programが自社を知る初めての機会です。そのため、カスタマージャーニー上の「自社と顧客の最初の接点」となります。
Welcome Programのコンテンツ内容としては、イベント参加や各種資料のダウンロードなどで接点を持ったコンタクトに対して、「自社に興味を持っていただいた」ことの感謝を述べるとともに、自社の概要を伝えるものとなります。
Always OnにはほかにもWebページへのアクセスを誘導する「Intro」、パーソナライズされたメールを展開する「Trigger」などのプログラムがあります。
それらと比較すると、Welcome Programは、他プログラムよりも比較的取り組みやすいプログラムです。
例えば、顧客の興味関心ごとにコンテンツを切り替えるTriggerプログラムの場合、顧客の関心事項の棚卸しや、それに沿ったコンテンツの作成が必要になります。
一方で、Welcome Programは顧客との最初の接点ということもあり、まずは自社のブランドや自社の概要を伝えていくことが求められます。
そのため、各製品やソリューションの具体的な内容というよりも、自社全体の概要にあたるコンテンツを配信していきます。したがって、比較的コンテンツとしても準備しやすいものとなります。
Welcome Programの目的
Welcome Programの目的は以下の3つに分かれます。
- 初回コンタクト時のエンゲージメント向上
- クッキーの紐付け
- 購読情報の管理
それぞれ、個別に解説します。
初回コンタクト時のエンゲージメント向上
Welcome Programの目的の1つは、顧客が自社に興味を持った“ホットな”タイミングで、最初のコミュニケーションとしてメールを送り、エンゲージメントを高めることです。
Welcome Programで作成するのは、自社サービスの具体的な内容というよりも、自社のブランドやサービス認知を目的としたコンテンツです。
例えば、営業プロセスに置き換えてみましょう。初回の商談でいきなり冒頭から製品の紹介をするのは稀であり、最初の接点であれば自社の紹介をする。あるいは、概要から入るのが一般的です。
ことメールマガジンやAlways Onプログラムでも、顧客側の認知プロセスにおいて違和感のないように進めていく必要があります。
そのため、Welcome Programで自社に関心を持っていただき、より詳しく知っていただくための流れを作っていくのです。
クッキーの紐付け
MAの重要機能として、「顧客がWeb上で自社のどのサイトを閲覧しているのか」を確認できるWebトラッキングが挙げられます。そのWebトラッキングが有効に機能する条件としては2つあります。
1つ目は、「MAにホストしているフォームへの登録」です。これにより、クッキー情報と個人情報の両方を取得できます。
2つ目は、メールマガジンの配信をフックにした、リンククリックによる自社のトラッキングコードが挿入されたページへの遷移になります。
具体的な概要は<後編>マーケティングオートメーション(MA)の活用で知っておきたいメルマガ配信における重要指標にまとめていますが、Welcome Programで自社サイトへの遷移を促し、顧客接点の初期段階からWeb上の動向を可視化することは、Web上の情報を活用する上では非常に大切です。
購読情報の管理
メールマガジンの配信において、多くの担当者を悩ませる要素の1つが「購読解除」です。
しかし、【翻訳記事】BtoBにおけるメール配信を最適化するためのベストプラクティスで「購読解除は悪いとはいい切れない」と述べたとおり、メールコミュニケーションにおいては迷惑メールフォルダに入れられるくらいなら、配信を停止していただいた方が有益といえます。
これは、自社に興味のない方に対してメールを送り続けてしまうと、自社のレピュテーションが低くなったり、スパム認定されたりするリスクも出かねないことが理由です。
そのため、初回の段階から購読情報やリファレンスの管理をしていく必要があります。
Welcome Programの段階から「今後のメールコミュニケーションを希望しない人はこちらから購読解除できます」という「出口」を用意することも、遠回りに見えますが中長期的な配信管理においては重要です。
加えて、「ニュースレターは必要ないがイベント情報は必要である」などの購読情報に関する「興味関心(プリファレンス)」の管理もできるのであれば、その内容を含めることも検討の余地があります。
Welcome Program構築の与件整理
ここからは、 MAを使ったナーチャリングの自動化を実現するフレームワークを解説で紹介したフレームワークを基に、Welcome Program構築時の与件整理の方法を紹介します。
実際には、以下の5つのステップで整理していきます。
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①:Entry
MAに登録された新規リードを特定する。そのなかでマーケタブル(購読停止になっていない有効コンタクト)に対して送る。海外に関しては各法規制に沿う形になる形で、適切なオプトインの管理がとれている対象とする。
ただし、何かしらの形で複数回、同一のリードが作成された場合、過去一度でも送った場合には配信対象外とする。
②:Treatment
新規コンタクト作成後24時間以内の「営業日の営業時間」にメールを配信する。具体的には土日を除き、各国の現地時間における9:00-17:00のみに配信する。
③:Exit
オプトインが取れていないコンタクトは今後のメールコミュニケーションから除外する。その際、購読停止のフラグを立てる。 そのうえで、初回のメール配信において購読(プリファレンスの確認をする)。
④:Progression
メールが送られ、マーケタブルが確保されたコンタクトに関しては、Welcome後のナーチャリングプログラムへ移行する。
⑤:Hierarchy
すべてメールのなかで「必ず最初」に送られるように制御する。そのため、Welcomeメールが送られていないリードは他のメールコミュニケーションから除外する。
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これらは一例でありますが、このように与件整理をするとWelcomeプログラムの全体像が掴みやすくなります。
Welcome Programを取り組む意義
では、BtoBの企業に置いてWelcome Programに取り組むべき意義は何になるのでしょうか。
1つ目は、すでに述べたようにAlways Onのキャンペーンやプログラムよりも比較的導入がしやすいことです。これは冒頭述べているとおり、コンテンツが用意しやすく、複雑なデータによる分岐などが必要ありません。
複雑なプログラム構築では、データの整備を中心としたシステムの整備や、コンテンツ作成・整理などが整っていることが前提になります。一方で、このような前提条件が少ないことが、Welcome Programにおける最大の利点です。
2つ目は、目に見えた効果が出やすいことです。実際に、欧米ではさまざまな調査でも他のメール配信と比較したコンバージョンレートが高くなると述べられています。
当社クライアントでも事例がありますが、Welcome Programのコンバージョンレートはほかのメールよりも高くなる傾向があり、他のメールプログラムの2倍以上になるケースも珍しくありません。
それは自社と接点を持った初期段階の配信することで、コンタクトの関心度が高まっている「ライトタイミング」でのアプローチが必然的に実現できるためです。
3点目は、Welcome Programのプロジェクトを通じて多くの「Always On」に必要なデータ整備が可能になることです。データの取り扱いは、Always OnやMAの活用・運用において、最も基本となる部分といえます。
Welcome Programではデータの精査がポイント
ただし、Welcome Programはクイックに取り組める一方で、データ面においては検討が必要な要素が多々あります。
Welcome Programの条件として、新規コンタクトが発生したタイミングでメール配信をすることが必須となります。
この新規コンタクトを作成するに当たっては、MAでコンタクトの流入元を可視化しなければなりません。マーケティングにおいては、これをリードソースとも呼びます。
例えば、「MAへのデータ流入経路」には、以下のようなものがあります。
- Webフォームからの問い合わせ(例:ニュースレターの登録や資料ダウンロード)
- コーポレートサイトの問い合わせフォームからの流入
- オフラインデータの取り込み
- イベントや展示会に参加した際に、開催者からエクセル形式でデータを取得する
- システム連携していない他のデータベースからのデータの流入
など
また、CRMシステムと連携している場合、CRM側で作成されたメールアドレスを持ったコンタクトがMA側に自動生成される可能性もあります。
これらの状況を加味した場合に起き得ることの一例として、営業名刺情報に関しては商談をすでにしている可能性があることから「Welcomeメールを送りたくない」といったケースが考えられるでしょう。
この場合、Sales Generated (営業起点)のデータがリードソースの情報などで見分けがつくのであれば、事前にWelcome Programの配信対象から除外ができます。
MAは各マーケティング施策のハブとなるデータベースになるため、リードソースを精査することは、どのような取り組みをするにあたっても非常に重要です。
一方で、きちんとリードソースを精査できていれば、プロジェクトを通じて自社のデータと改めて向き合いながら、次の施策に必要なことを検討できるようになります。
Welcome Programでも同様の考え方を適用し、対外的にも分かりやすい成果を得るだけでなく、「マーケティング施策を運用する上での仕組み」を認識しつつ進めていきましょう。