米Demand Spring社が公開している調査によると、「マーケティング部門はパイプライン全体で、25 ~40%の貢献度が期待される」とのことです1。一方で、マーケティング活動による獲得リードの案件化に繋がらないという問題は多くの企業で起こっており、望まれるほどの成果を創出できないケースも少なくありません。
リードジェネレーションは本来、リードとの接点構築後のリードナーチャリングと共に、さまざまな営業やマーケティング活動を通じて「将来の顧客化」に繋げるための施策です。
しかし、リードジェネレーションについて、リードの“ジェネレーション(創出)”という言葉から購買ファネルの“入り口”のみをイメージしてしまい、マーケティング単体で考えて施策を実施してしまうこともたびたび発生します。これでは、「マーケティングから渡されるリードの質が低い」と営業が感じる事態が発生してしまうのも頷けます。
そこで今回は、BtoBマーケティングのリードジェネレーションで成果を創出し、それを持続させていくための手順を7ステップに分けて解説します。
目次
Step1: リード獲得の目的を策定する
リードジェネレーションは、必ず全社戦略から逆算して目的を考える必要があります。なぜなら、成長戦略次第では獲得すべきリードや数、フォロー体制なども全く異なるためです。
経営戦略の父として有名な米経営学者、イゴール・アンゾフ氏が考案した「既存市場 ×既存製品 × 新規市場 × 新規製品」を組み合わせた事業多角化のためのフレームワークに『アンゾフの成長マトリクス』というものがあります。
4つの象限はそれぞれ特徴があり、自社のサービスや商品の状況に合わせて最適な戦略を実行することで成長していくといわれています。
- ①:市場への浸透戦略:既存市場 × 既存製品を扱う戦略
- ②:新製品の開発戦略:既存市場 × 新規製品を扱う戦略
- ③:新市場の開拓戦略:新規市場 × 既存製品を扱う戦略
- ④:多角化戦略:新規市場 × 新規製品を扱う戦略
例えば、自社が①の既存市場の浸透領域で成長戦略を考えているとしましょう。この場合、製品の認知度や市場シェアの面でまだまだ成長余地が見込まれると考えられ、より深化させていく戦略を採り得ます。
そのため、顧客数を増やしたい場合は、既存顧客が属する市場・属性を変えずに、まだ接点構築できていない顧客を探していくことがリード獲得の目的となります。
①の象限では、既存顧客へのアフターサービスなどによるアップセルで売上を伸ばすことも考えられるため、マーケティング施策での新規リード獲得だけでなく、フィールドセールスによるリード獲得施策も有効になります。
③の新市場の開拓戦略を考える場合、エリアや業種などについて既存顧客とは一致しない、新たな属性に設定して新規に顧客を探索する必要があります。 この際、新規コンタクトの獲得数はあまり問題ではなく、ニーズ把握のための示唆をいかに獲得できるかがリード獲得の目的となるでしょう。
このように自社がどの象限に属して成長戦略を取っていくのかによって、リード獲得の目的が異なります。
ただし、社内のマーケティングにおけるフェーズやリソースによってもリード獲得の目的が変わってくる点には留意が必要です。
例えば、リード獲得後のアフターフォローのフェーズが進み、自社のリソースを案件化に割きたい場合、これ以上新規のコンタクトを獲得してきてもフォローしきれず、無駄になってしまいます。こういったケースでは、長期的なナーチャリングによるクオリフィケーションを目的としたリード獲得施策が検討されるでしょう。
本ブログのBtoBのデマンドセンターとは?今こそ顧客志向の仕組みづくりが必要な理由にもありますが、多くの場合、営業は単年度の受注成果を求められることが多く、短期的な成果にフォーカスする傾向があります。
一方で、マーケティングまで同じ視点で「営業支援」のみを追い求めると、全社として中長期の成長を見据える機能がなくなってしまいます。そのため、 収益向上の視点では近視眼的にならずに、マーケティングがバランスを取った上でリード獲得の目的を定めることも必要です。
Step2: 目的から紐解き、”獲得すべきリード”とは何かを定義する
リード獲得の目的が決まれば、具体的に獲得するリードの定義(何をもって見込み客とするのかの定義)を行います。ここで大切なのは、マーケティング部署単体で定義するのではなく、営業部署と連携しながら行うことです。
BtoBではリード獲得後の案件化までのプロセスが長いことが一般的であるため、前段となるリードジェネレーションだけでなく、その後のナーチャリング・クオリフィケーションの工程まで視野に入れた上で取得すべきリードの定義をする必要があります。
BtoBマーケティングで重要なデマンドジェネレーションの基本的な考え方でも述べられているとおり、リードを定義する他に、リードを区分けするステージをいくつか設定することが大切です。
例えば、「どのような顧客の情報が揃えば、リードを各ステージに割り振れるのか」「各ステージでは、誰がどのようなアクションをする必要があるのか」などのリードマネジメントのルールを事前に決めておくことで、マーケティング・営業間の認識合わせが行えます。
Step3. ペルソナを設定する (セグメント/ICP/DMU/個人ペルソナ)
リード獲得の目的やリードステージが定まれば、次に行うのは、具体的に接点構築していきたいターゲット層となるペルソナの設定です。ペルソナとは、自社がこれから売り込みたい顧客像について、架空の人物設定を行なったものとなります。
よくある問題として、マーケティング部門が設定するペルソナが、営業部門が対面している実際の顧客像と乖離しているため、ペルソナ自体が「机上の空論」になってしまうことがあります。
マーケットワン・ジャパンでは、その解決策としてマーケティングと営業の合同ワークショップを実施し、両部門で議論しながらペルソナ設定を進めることを推奨しています。
顧客と対峙する営業と会話することで顧客が抱えている課題が明確になり、それを元にどのような情報を提供すべきかなどが整理しつつ、両部門で共通の認識を持てるようになります。
なお、BtoBにおけるペルソナは「セグメント→ICP→DMU→個人レベルペルソナ」と、順番に抽象度を下げて考えていくのが効果的です。
セグメント
BtoBにおけるペルソナのセグメントでは、業界や業種、企業規模、社風や自社製品・サービスの購入歴などで市場を分けたターゲットグループを作ります。
例えば、PC市場を考える場合、「個人か法人か」「室内利用か移動での利用メインか」など利用者や使うシーンによって、市場の細分化を行います。
ICP(Ideal Customer Profile)
ICPとは企業版のペルソナで、既存顧客企業を分析して、大きな利益創出となる最適な顧客を定義するために活用します。セグメント設定を最初に行うのが難しい場合は、まずはこの具体的な既存顧客から紐解くICPを設定し、その後ICPの属性(業界や企業規模など)をセグメントとして設定する方法もあります。
DMU(Desicion Making Unit)
BtoCであれば、DMUは本来なら顧客1人を指します。しかし、BtoBにおいては窓口である担当者から承認者である上司、実際に決裁権を持つ経営陣までの複数人という意味です。
そもそも、BtoBでは「担当者 = 決裁者」という構図は珍しく、大半は担当者を通じて社内稟議を回す、あるいは、担当者の上司に購買の判断を委ねるため、その構図を理解し設定しましょう。
個人レベルのペルソナ
3つのコンセプトで考えるBtoBマーケティングのペルソナ設計で述べているとおり、BtoBにおける 個人レベルのペルソナは、個人の意思よりも、会社のルールや文化が購買に影響します。
そのため、ペルソナ個人の課題ではなく、法人や事業ベースの属性・課題やそのペルソナが置かれている社会的な立場としてのプレッシャーなどを考慮してペルソナ設定する必要があります。
Step4. 自社製品・商品の顧客価値を定義する
ペルソナによりターゲット選定が終われば、次は自社が提供できる価値を定義しましょう。顧客が自社で導入する製品・サービスを選定する際には「製品が自分たちのニーズをどれだけ満たしているか」「自分達の課題をどの程度解決できるか」といった評価基準が発生します。
本ブログのBtoB新規事業・製品のプライシングの方法と「顧客の声」の重要性にもありますが、まずはペルソナ設定のプロセスを通して、顧客の課題やニーズを明確化する。その上で、自社製品・サービスがペルソナに対して「どのようなベネフィットがあるか」を整理し、定義することが必要です。
当社では、「案件化前の潜在顧客と対峙している営業の意見」「デプス調査」から潜在顧客の課題やニーズを拾っています。ほかにも、既存顧客へのNPS調査なども実施し、当社への期待や感じている価値の言語化を行うこと、顧客価値の定義を行っています。
Step5. 自社の価値を適切なメッセージに落とし込む
ペルソナに合致したリードを獲得していくには、Step4で定義した自社の顧客価値を適切に伝える必要があります。そのため、ペルソナの興味関心を引き、魅力的だと感じてもらえるようなメッセージを検討することが大切です。
BtoB向けだからといって、メッセージの対象は「企業全体」ではありません。誤解しがちですが、メッセージを読むのは個人個人です。
ペルソナ設定した特定の“その人”を説得するために、ペルソナが属する業界、競合他社、対象顧客層などについて徹底的に調査し、特定のニーズや問題点をより深く理解した上で、それに合わせてメッセージを最適化します。
業界や企業ごとの文化・使われている言葉(ワーディング)も調査した上で、共感してもらえるメッセージを作成しましょう。
Step6. 自社が採るべき施策を検討する(PUSH or PULL)
リードジェネレーション施策はさまざまなものがありますが、これまでの手順で前提条件をしっかり詰めるとことで、実施すべき施策をきちんと取捨選択できます。
デマンドセンター構築を推進するフレームワークを解説でも解説していますが、リードジェネレーション施策は2種類に大別されます。
自社 “が” 興味を持っている見込み顧客に対してアプローチを行う「PUSH型のアウトバウンド」と、自社 “に” 対して興味を持っている顧客へのアプローチである「PULL型のインバウンド」です。
PUSH型のアウトバウンド施策は、受け取り手の意思に関係なく、企業側から情報を与えることになるため、ネガティブな印象を与える恐れがあります。チャネルとしては、コールドコールやダイレクトメール、広告などです。
アウトバウンド施策の代表例はABMですが、個社単位での戦略やコンテンツの作成が求められるため、効果は大きいものの、コストが高くなりやすいというデメリットがあります。
PULL型のインバウンド施策では、見込み顧客に役立つ自社コンテンツを拡充・発信し、顧客側から見つけてもらう取り組みであるため、企業側から直接的な営業をかける必要があります。例えば、展示会やウェビナー、リソースセンターなどです。
PULL型は短期的に成果が出にくいというデメリットがあるものの、コンテンツが蓄積されていくと、そのコンテンツ自体が営業の役割をしてくれる可能性も高まります。デジタル化が進み、購買活動が大きく変わった2024年現在においては非常に重要なアプローチといえます。
このように、リード獲得の目的やペルソナをしっかりと定義し、各施策の特徴を理解しておけば、実施すべき施策は絞られてきます。
例えば、1か月以内に「指定企業の役職者の新規コンタクト獲得をすること」が目的であるなら、短期間で特定企業のみにアプローチする必要があるためPUSH型の広告施策が有効です。
指定企業のペルソナが普段どのように情報収集をしているかを想定する。その上で、「どのような形式や媒体でアプローチをすれば興味を持ってくれ、接点を作れるのか」を考え、具体的な施策を検討しましょう。
Step7.施策を評価し、改善していく
リードジェネレーション施策は、“実施して終わり”にするのではなく、そのパフォーマンスを評価し、改善し続ける必要があります。
リード獲得の目的やペルソナが明確であれば、実施後の結果から適切な振り返りも容易ですので、それを基にメッセージや施策を改善していきましょう。
例えば、施策ごとのMQL・SQL数や商談に繋がった件数などの定量データから、「Web上の各CVからの案件化率はどのくらいか」「展示会で接点を持ったリードはどの程度商談化に至ったのか」などを振り返ります。
そうすることで特定の施策の結果が芳しくなかったときでも、過去の類似施策と比較することで、「施策の内容が潜在顧客のニーズにマッチしていなかったのか」「タイミングが適切ではなかっただけなのか」など議論しながら、改善に繋げることが可能です。
一方で、施策で何百件とリード獲得ができたとしても、その中でキーパーソンはほんの数名で、リードのほとんどが「情報収集目的の人」「競合や販売パートナー」であるケースも存在します。
つまり、定量的なデータのみから安易に施策結果を判断し、改善策を決めることは早計なのです。
そのため、施策の改善段階においても、マーケティング・営業間の連携が求められます。商談に繋がる、自社が積極的にインサイトを知るべき顧客に対峙しているのは営業であるため、数値からは読み解けない、以下のような事柄をヒアリングしましょう。
- ペルソナ設定時の課題仮説は妥当だったか
- チャネルはペルソナに適切だったか
- コンテンツをみて何を感じたか
など
このような営業からのフィードバックを次の施策企画へと反映させていくことで、より質の高いリードの獲得が見込めるようになります。
リードジェネレーションで躓きやすいポイント
本稿で解説したリードジェネレーションのプロセス全体において重要なのは、マーケティングだけで実施するのではなく全社を巻き込むことです。この際、各部署の中でも役職の違いなどから、見据えるステージやゴール設定が異なるため、連携するキーパーソンは見定める必要があります。
リードジェネレーションで躓きやすいポイントとして、逆説的にはなりますが、連携した部署の意見・要望をすべて取り入れようとして、リード獲得の本来の目的を忘れてしまうことが挙げられます。
そのため、「マーケティングとしてどうしたいのか」は初期段階に明確にした上で、部署間のバランスをとって期待値調整をしながら、常に目的に立ち帰れるようコントロールしていかなければいけません。
こうすることで、各部署の期待している結果が“定量的な数値”として得られなかったとしても、施策の目的や意図について理解を得ている状態であるため「マーケティング活動によるリードが案件化しない」と評価される可能性を低減できます。
それにより、全社的な合意のもと、リードジェネレーション施策を“続けていける”ようになり、将来的な施策の改善・パフォーマンスの向上にも繋げられるのです。
- Demand Spring「2022 Revenue Marketing B2B Benchmark Report」 [↩]