2024年現在は、MA(マーケティングオートメーション)の普及に伴い、多くの企業がマーケティング施策として「メルマガ配信」を採用しはじめています。
MAの台頭で配信業務が自動化されたことにより、企業はより低いハードルで多様な顧客に対して情報を届けられるようになりました。
マーケットワン・ジャパンでは、日本におけるMAの黎明期である2013年から10年以上にわたり、MAとその主要機能であるメール配信のサポートを実施しています1。
MA普及の初期段階では、取り組みが早い外資系IT企業を中心に普及していた印象ですが、近年では日本の製造業においても普及が進んでいます。
その背景には、営業活動の効率化だけでなく、未知の顧客ニーズを探求し、PDCAサイクルを迅速に回していく上では、デジタル技術が非常に有効なツールであるという認識が広がっているという理由もあるでしょう。
今回は製造業におけるメルマガの有用性に加え、活用する際に求められる考え方を論考します。
アフターコロナでも引き続き重要なメールチャネル
コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行以降、テレワークのような在宅スタイルの働き方も普及しました。
しかし、一般社団法人日本ビジネスメール協会が公開している「ビジネスメール実態調査2023」をみるとメールは依然として主要なコミュニケーションツールとして最上位の地位を保っているとわかります2。
ビジネスコミュニケーションにおける主要なやり取りはメールを通じて行われており、多くの企業でメールが使用され続けているのが現状です。
コロナ禍以降は、ビジネスチャットの市場規模が大幅に増加しており、利用が増加している状況が伺えます3。ビジネスチャットの利用が全体のある割合まで拡大しており、メールでのやり取りがチャットに置き換わっているケースも見受けられます。
この変化は、特に「社内でのコミュニケーション」「即時性を要求されるやり取り」において顕著でしょう。
とはいえ、「複数の人とのやり取り」「正式な文書の交換」「外部パートナーや顧客とのコミュニケーション」には引き続きメールが選ばれていることが多い印象です。
これは、ビジネスチャットに比べてメールがよりフォーマルな手段として捉えられているためと考えられます。
マーケティングオペレーションズから紐解く「社内情報共有プラン」の成功ポイントでも解説したように、コロナ禍でなし崩し的にビジネスチャットを導入したため、メールの方が運用方針をしっかり定められているという事情もあるでしょう。
しかし、未だコミュニケーション手段としてメールの比重が大きい業界では、メールの受信箱に届く内容の量が増加し、自社が送った重要な情報が相手企業で埋もれてしまうリスクも高まっています。
これに対処するためには、送信するメールの内容をより目を引くものにする。あるいは情報の重要性を際立たせる工夫が必要になってきています。
つまり、メールを通じたコミュニケーションにおいては、受信者の注意を引き、重要な情報を効果的に伝達するための戦略がますます重要になっているのです。
製造業におけるメルマガのメリット
では、製造業において戦略的なメルマガ配信はどのようなメリットがあるのでしょうか。具体的には、以下のものが挙げられます。
- 情報提供の効率化
- 属人性の排除
- 自社の製品・技術に対する再評価
- スピード感のあるPDCAの実施
それぞれ個別に解説します。
情報提供の効率化
メルマガは、一度に大量の顧客に情報提供を行えるため、営業パーソンが1対1で情報提供を行う場合と比較して、はるかに多くの顧客に対して、同じ工数で情報を届けられます。
MAを使えば、1万通のメールを送るのも、1通を送るのも、基本的には同じ工数ですみます。これは、営業活動におけるコストと時間の大幅な節約に繋がりますので、販売管理費の削減にも貢献するでしょう。
Web会議や対面での「1対1の商談」も重要ですが、営業パーソン1人あたりが対応できる顧客数に限りがあります。メルマガを用いることで、それらの限界を超えて、より多くの顧客に対して効率的に情報提供を行っていけます。
現在は「パーパス」の重要性もいたるところで議論されており、「Webサイトの刷新」「自社の活動の外部への公開」を進めている企業も増えてきました。
一方で、そういった外部に向けた情報発信をしても、BtoBでは「思ったように顧客に届かない」というケースも多々あるでしょう。
例えば、Google検索経由で流入を図るSEO対策を行おうとしても、BtoB関連の検索キーワードは「そもそもとして各キーワードの検索ボリュームが少なく、流入が見込めない」ということが一般的です。
そこで、短期目線では「メールアドレスを保有している方は取引先」「イベント来場などで自社と何かしらの接点があるステークホルダー」への情報提供の方法として、メルマガ配信が有効な手段となります。
自社の配信先リストにいる段階で 自社名の認知がある可能性があり、有益な情報提供を続ければ自社のファンになっていただける確度も上がるでしょう。
属人性の排除
多くの企業、とりわけ製造業では複数の事業部によって企業運営がなされています。 M&Aや色々な技術の可能性から転用された事業部化・カンパニー制などが敷かれており、仮に特定の取引先企業であっても、事業部ごとで複数の営業がついているケースも珍しくありません。
2020年代は、事業部間シナジー創出を目指した「アカウント営業体制」を構築するため、複数の事業をまとめる選任者の「アカウントマネージャー」を置く動きも見受けられます。
この体制は、顧客に対して一貫性のあるアプローチを可能にしますが、それでもなお各営業担当者の得意分野に偏った情報提供が行われる可能性があります。
筆者は、クライアント企業からメルマガの有用性について「企業は全ての顧客に対して、営業の属人性を排除して、統一された情報を効率的に提供できる」とお伺いしたことがあります。
つまり、製造業でメルマガを活用すれば、「特定の製品やサービスに偏らない、幅広い情報提供」が可能となり、顧客の興味関心やニーズに基づいたクロスセルの機会を増やせるのです。
自社の製品・技術に対する再評価
顧客企業に対するメルマガ配信を行う際には、その内容が「受け手にとって有益で魅力的である」ことが大前提です。
特に、製造業でよくみられる自社の技術や製品にフォーカスした内容ではなく、顧客のニーズやベネフィットを中心に据えた内容のコンテンツを作成することで、顧客の関心をより惹きつけられるでしょう。
つまり、顧客がどのような課題に直面しているかを深く理解し、それを解決し得る情報提供をメルマガで行うということです。このような顧客のニーズに寄り添った情報提供が、結果的に顧客からの自社製品・技術への信頼獲得にも繋がります。
ただし、「顧客の課題への気づき→自社製品・技術への再評価」という流れを作るためには、自社側でも製品やサービスが顧客にもたらす具体的なメリット・価値を明確にしておかなければなりません。
この際、ただ技術の優位性を伝えるのではなく、それが顧客の業務効率向上、コスト削減、品質向上など、具体的な利益にどのように貢献するかを言語化することが大切です。
メルマガという「1つのコンテンツ」を作成する過程は、あらためて顧客視点で自社の価値を見つめ直すよい機会になるでしょう。
加えて、メルマガで流す内容は何かしらの新規性がある場合が多く、外部の顧客だけでなく、社内の啓蒙(インターナルマーケティング)にも活用できます。
企業組織で新規市場への参入や技術開発などの「新しい取り組み」をする上では、社内の“腹落ち感”も求められます。メルマガのような「わかりやすい」取り組みは、社内での目線合わせでも効果を発揮するのです。
関連記事:「インターナル・マーケティング」がマーケット・イン型の事業開発を加速させる
スピード感のあるPDCAの実施
マーケティング施策でメルマガ配信を活用するメリットにはアジリティの獲得、つまり市場の反応を迅速に得られる点も挙げられます。
訪問営業や展示会と比較して、メルマガ配信は「どのトピックが、どの程度開封・クリックされたのか」という情報を得やすいので、PDCAサイクルを速やかに回すことが可能です。
何か新しいコンセプトがあった場合に、これまでのような営業が「足で稼いだ」情報を集めて、定量的に分析するといった対応をしていると、結局は効果検証に数か月かかってしまいます。それに対して、定量データをすぐに獲得できる点は、MAを活用するメルマガ配信ならではのメリットです。
このスピード感は、「新製品のリリース」「新しいコンセプトのテスト」「技術開発の方向性の検討」において、顧客インサイトを獲得していく上で大いに役立ちます。
例えばメルマガと一緒に資料ダウンロードのフォームを活用することで、顧客ニーズや用途情報を収集することができます。
新製品やサービスを市場に投入した際の反応を迅速に得られれば、製品開発やサービス提供の方向性を早期に調整していけるでしょう。
メルマガ配信では「ハードルを上げ過ぎない」ことも重要
BtoB環境におけるメルマガ配信では、顧客の興味や関心に沿った情報提供が大切です。しかし、顧客一人ひとりの興味や関心は多様であり、そのニーズを正確に捉えることは容易ではありません。
顧客の関心やニーズは、経年により変化するものです。そのため、定期的に顧客データを分析し、顧客の「現状の興味関心」に合わせて、コンテンツを最適化していく必要があります。
しかし、現実的には、顧客のニーズに完全に合致するコンテンツを常に提供することは困難でしょう。特に、技術や製品に関する情報は、企業が開示できる内容には限りがあります。
とはいえ、メルマガ配信では顧客の興味に完全に合致しない情報を提供してしまう可能性があったとしても、それでもコンテンツを配信していかなければ、顧客の反応は得られないままです。
そこで求められるのは、完璧を目指すことではなく、可能な限り顧客の興味やニーズに近づけていく意識です。1通ずつ配信するなかで、顧客の反応を検証し、コンテンツを調整していくという泥臭い取り組みが、大きな成果を生み出します。
BtoBマーケティングにおけるメルマガ配信の成否は、パーソナライズされたコンテンツの有無に依存することは事実です。
しかし、この体制は一朝一夕には構築できるものではなく、継続的な検証と分析、改善が求められます。自社に合った最適なコンテンツ提供方法を模索しながら、顧客との関係を深めていく意識を持つことが大事になります。
- 日経XTECH「今、マーケティングオートメーションが熱い」 [↩]
- 一般社団法人日本ビジネスメール協会「ビジネスメール実態調査2023」 [↩]
- BUSINESS NETWORK「ビジネスチャット市場は106億円規模に、今後は淘汰進む」 [↩]