近年、自社でインサイドセールの体制構築を図る企業は増加しています。一方で、「アポイントを取っても、営業が動いてくれない」「案件化につながらない」「そもそもアポイントが取れない」といった声も多く聞かれます。
本稿では、日本のBtoB企業においてインサイドセールスを“いちから”立ち上げ、内製化するために求められる考え方や、インサイドセールスを担う人材に必要なスキルを解説します。
「アポ取り vsインサイドセールス」の違い
インサイドセールスが上手くいかないと悩む企業にヒアリングをした際、「アポ取り」「インサイドセールス」を混同してしているケースは多々あります。
では、アポ取りとインサイドセールスの違いと何なのでしょうか?
ここでいう「アポ取り」とは文字通り、「とにかくアポイントを取って、営業の商談機会をどれだけ多く作りだすのか」に焦点をあてた考え方です。
組織の中で、「何件のアポイントを取れるのか?」との目標設定がされているケースは珍しくありません。もちろん、インサイドセールスの役割として、アポイントを取ることは重要です。しかし、“アポ取りそのもの”を目的にインサイドセールスを立ち上げても上手くいかないでしょう。
そもそも「インサイドセールス」とは、「ターゲット企業のキーマン」「各社の課題や現状の取り組み」「今後の方針」といった営業をおこなうのに必要となる情報を得る。その上で、営業戦略に応じた、アクションを取ることになります。
インサイドセールスにおいては、とにかくアポイントを取るのではなく、案件になり得るかどうかを判断し、「アポイントを取得すべきか」「インサイドセールス内でのフォローに留めるか」といった、次のアクションの判断が求められます。
つまり、アポイントを取得すること自体は、インサイドセールスに求められる業務の一部に過ぎないのです。
たとえば、案件化の可能性が低い(= 自社に決定権がない、決定フローに関わらないなど)リードからアポイントを取得してしまうと、その後にフォローする営業の工数が無駄になる可能性が高まります。
そういった状況が続けば、営業から「インサイドセールスで取得したアポイントのフォローは優先度が低い」とみなされかねません。
誤解を生まないよう補足しますが、案件化の可能性が高くなかったとしても、自社として狙うべき企業であれば、面識を作る目的でアポイントを取得する価値は十分にあります。それも含めて、“営業戦略に応じてアポイントを取得する”ということです。
インサイドセールスとはマーケティングからリード情報を受け取り、精査し、営業戦略に応じてアポイントを取得する。そういった、マーケティングと営業の間を橋渡することが、インサイドセールスに本来求められる役割です。
インサイドセールスを成功させるポイント
以上のインサイドセールスの役割を踏まえたうえで、日本企業においてインサイドセールスを成功させるためには、大別して2つの観点が必要になります。
①組織のマネジメント層がインサイドセールスの考えを持ち、組織で共有する
インサイドセールスを実行する際には、マネジメント層が前述したインサイドセールスの役割について理解をし、それを自部門のメンバーに対して伝えるだけでなく、関連部門や全社的にインサイドセールスの考え方を共有し、形式知化しておく必要があります。
前述したとおり、インサイドセールスにはマーケティング・営業間を繋ぐ役割が求められます。そのためには、自部門のメンバーに対してだけではなく、自社内の各部門がインサイドセールスの機能について理解しておくことが重要です。
②実務担当者が「営業 + マーケティング」の考えを持っている
インサイドセールス実務担当者を選抜する際に、営業やマーケティングの経験者を選抜する。あるいは、中途採用という手段を選択している企業も多いでしょう。
それ自体は間違いではありません。ただし、注意すべき点として、インサイドセールスに求められる人材は「営業 + マーケティング」の考え方が求められるというものがあげられます。
情報を取得し、次のアクションをどうすべきか判断するという「営業の考え方」に加え、市場にある隠れたニーズを想定する「マーケティングの考え方」の両方を併せ持つ人材が必要であり、どちらか一方だけではインサイドセールスたり得ないのです。
さらに、それらの考えを持ったうえで、面識がなく、表情も見えない初対面の相手から、情報を取得できるだけの「架電におけるコミュニケーションスキル」も必要になるでしょう。
カスタマーサポートなどでの電話コミュニケーションの経験。あるいは、営業経験があって、既存の取引先と架電によるコミュニケーションを取っていた経験があったとしても、インサイドセールスで求められるコミュニケーションスキルが備わっているとは限りません。
さらに、「アポ取り = 新卒」という観点から、インサイドセールスに新卒をメンバーに入れる企業も少なくありませんが、これもインサイドセールスが成果につながりにくい要因の1つです。
インサイドセールスの成功率を上げるための仮説構築とは?でも解説したように、インサイドセールスでは「ターゲット企業はどのような課題を抱えていそうか」「何に興味を持っていそうか」といった仮説構築が前提となります。
仮説を構築するためには、業界や組織に関する知識、社会経験も必要であることを踏まえると、新卒に対してインサイドセールスの成果を求めるのは難しいといえるでしょう。
一方で、“新卒教育”という観点からは、インサイドセールスは営業・マーケティングの知見を得られるため、非常に優れているポジションであることは事実です。
そのため、インサイドセールスの成果と教育の両方のバランスを取ることが重要になります。
インサイドセールスの人材確保、社内教育の障壁
インサイドセールスを担うためには多様なスキルが求められるにも関わらず、インサイドセールスの考え方自体は近年になってやっと広がってきたばかりであるため、経験のある人材は希少であり、人材確保は難しいのが実情です。
それがネックとなり、自社でインサイドセールスを立ち上げ、内製化で行おうと思っても、躓いてしまっている企業は少なくありません。
そのため、単純に架電が上手くできるだけでなく、マーケティングを理解できるようになるための教育やニーズを想定するための仮説構築ができるようになるための教育、そのうえで音声のみで適切な情報提供ができる人材の教育が必要となります。
また、情報提供においても自社サービス、プロダクトの優位性などを伝えるだけではなく、相手にとって有益な情報を提供する観点で電話を架ける視点を持てるように教育するとことがインサイドセールスを構築する上で求められます。
成功するインサイドセールスを構築するためには、人のアサインや組織、仕組みをつくるだけでなく、適切な教育による人・組織能力の向上が重要なポイントとなります。