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MAによるメール配信に取り入れたい標準化を目指す「次の一手」とは?

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2026年を迎えたいま、日本のBtoB領域ではMAツールを活用したメール配信を行い、PULL型・PUSH型の両側面からアプローチする手法がよりスタンダードになりつつあるように感じます。

一方で、テンプレートの使い方が担当者ごとに異なり、運用の流れが毎回変わる状況が続くケースも散見されます。そのように配信メールの構造が揃わない状態では、「件名の違いなのか」「それとも本文の影響なのか」など、どこが成果に作用したのか判別しにくくなり、改善に繋がりません。
そういった状態を解消するために求められるのがメール配信にかかるプロセスの「標準化」です。 

型を作り、運用手法にマニュアルに落とし込む標準化によって「どのメールでも同じ土台から作り始められる」状態が生まれ、比較可能なデータが蓄積しますので、検証結果を次の施策へ接続しやすくなります。 

*本記事では、Account Engagementのユーザー会にて当社青野が登壇して解説した内容を再構成して、メール運用の標準化を実現するための要素である「モジュラーテンプレート」「Event follow upの二つの打ち手の活用方法を解説します。なお、Account Enagement以外のマーケティングオートメーションでも使用できうる考え方および打ち手となりますので、他ツールをご使用の方もご覧いただける内容となっております。 

MAによるメール配信は「標準化」が必要 

昨今、多くの企業では、MAツールを導入し、日常的なメール配信に活用していることでしょう。そのなかで、リスト配信やステップメールなど、基礎的な運用はすでに定着していることが多いはずです。 

しかし、実際には「配信しているだけ」で終わっており、メール配信そのものが組織的な資産として機能していないケースが目立ちます。 

実際、当社クライアントからも、成果を安定して積み上げるための運用基盤が整わないまま、各担当者が個別に作業し、戦略的な活用ができないとのお悩みをたびたび耳にします。 

実務の現場では、メール作成に関する課題が繰り返し発生しています。「テンプレートを増殖させてしまう」「レイアウトが崩れる(特にOutlookでの表示)」など、MAをどれだけ使いこなしていても回避しにくい問題が頻発するのが実情です。 

特に、案件数の増加や展示会・ウェビナーなどの施策拡大に比例して、メール作成のオペレーションコストが肥大化していくことでしょう。

MAによるメール配信に取り入れたい標準化を目指す「次の一手」とは?

 

こうした背景から、MAのメール配信には「標準化」が不可欠となります。

標準化とは、単にテンプレートを用意することではなく、メールというアウトプットを構造化し、誰が作っても同じ品質・同じ手順で進められる状態を作ることです。構造を揃えることによって、作成時間の短縮、品質の均一化、表示崩れの防止、関係者間の認識合わせが容易になります。 

この標準化を具体的に推進するために当社が推奨している打ち手が「モジュラーテンプレート」「Event follow up」の活用です。以下、それぞれ個別に解説していきます。

標準化の打ち手①:モジュラーテンプレート 

MA配信のメール作成に効果的な「モジュラーテンプレート」とは?でも解説したように、モジュラーテンプレートは、メールを複数のパーツ(モジュール)に分解し、用途に応じて組み合わせていく設計手法です。 

レイアウトを一枚絵として固定する従来型テンプレートとは異なり、構造そのものをセクションごとにテンプレート化することで、汎用性と再利用性の両方を成り立たせる点に特徴があります。

メール配信の現場では、配信数や施策量が増えた途端に運用が追い付かなくなることもあります。特に展示会・ウェビナーなどの高頻度施策では、毎回レイアウトを作り直す手間や、差し替え作業に取られる時間が増え、品質保証(QA)にかかる負荷も大きくなります。 

これらは、メールの構造が統一されていないことが根本的な原因です。 

モジュラーテンプレートは、こうした問題に対する有効な打ち手になります。レイアウトを「ヒーローイメージ」「リード文」「テキストブロック」「CTA」「補足」「フッター」といった論理構造に分け、必要なパーツを選んで組み合わせることで、メール作成にかかる負担を大きく減らせます。 

MAによるメール配信に取り入れたい標準化を目指す「次の一手」とは?

 

パーツごとに構造が固定されているため、崩れやすい領域を最初から編集できない状態にすることも可能で、「表示崩れの防止」「ブランドガバナンスの維持」にも効果を発揮します。

モジュラーテンプレート活用の際の留意点 

モジュラーテンプレートを実装する際に重要なのは、単にレイアウトを細かく分けてテンプレート化することではありません。どの領域を編集可能にし、どの領域を固定すべきかという「運用と連動した構造設計」をあらかじめ定義することが前提になります。

例えば、Account Engagementではpardot-regionという”編集可能領域”を指定する仕組みや、逆にpardot-removableという”削除可能領域”を指定する仕組みがありますが、名称は異なっても同様の考え方は多くのMAツールに共通しています。 

MAによるメール配信に取り入れたい標準化を目指す「次の一手」とは?

 

モジュラーテンプレートを扱う際には、この領域設計の精度が、実務での運用のしやすさを左右します。こうして“壊れにくい構造”を先に組み立てておくことで、表示崩れや誤編集を防ぎ、現場が安心してテンプレートを扱えるようになるのです。 

加えて、モジュールの並び順や使用ルールをあらかじめ決めておくことも求められます。

例えば、展示会案内メールでは「Hero → 開催概要 → CTA」というように、使用するブロックを用途ごとに固定する手法です。 

当社の運用では、こうしたブロック構成は担当者の判断に委ねているのではなく、「インテイクドキュメント」と呼ばれる作業用ドキュメント上であらかじめ指定されており、誰が作成しても同じ構造で進められるようになっています。 

「どの場面で、どのブロックを使うか」が明確になれば、担当者がその都度判断する必要がなくなり、作業工程が標準化されます。レビューやQAでも確認ポイントが共有されるため、関係者との調整に発生しがちな手戻りを抑えられるでしょう。

標準化の打ち手②:Event follow up 

Event follow upテンプレートは、展示会やウェビナー後のフォローアップメールを、最小限の差し替えで迅速に配信するための専用テンプレートです。 

モジュラーテンプレートと同じく「本文構造の標準化」を目的としていますが、用途が明確に限定されていて、可変部分が非常に少ない点が異なっています。この性質から、運用負荷が高い企業ほど導入効果が早く出るため、あえてモジュラーテンプレートとは切り分けて扱う意義があります。 

MAによるメール配信に取り入れたい標準化を目指す「次の一手」とは?

 

Event follow upが独立した打ち手として成立している理由は、フォローアップメール特有の「量」と「スピード」にあります。展示会やウェビナーは年間を通じて複数回実施され、その都度イベント後のお礼や資料送付といったフォローアップメールを迅速に配信する必要が生じます。

これらはパターンがほぼ固定されているにもかかわらず、毎回ゼロから作り直しているケースも多く、作業時間、関係者調整、QA のいずれにも負荷がかかりやすい領域です。属人的な運用が最も露呈しやすいのも、このフォローアップメール群となります。 

Event follow upテンプレートの特徴は、可変箇所を3点前後にまで絞り込める点にあります。

セミナー名」「②日付・時間」「③資料ダウンロードリンク」など、イベント固有の要素だけを差し替えれば完成する構造にしておけば、メール作成は大幅に効率化できます。

差し替え項目が明確であるため、担当者が迷わず作業でき、レビューも短時間で済みます。実務では「認識合わせ」に最も時間が取られることも多いため、その課題をテンプレート側の設計で解消できる点に価値があるのです。 

特定キャンペーン下限定データの活用で更なる効率化が可能 

Event follow upの活用では、MAの内部で特定のキャンペーンやプログラムと紐づけて、その中でのみ使用できるデータをメール内に挿入することで、運用効率をさらに高められます。これは、メール内に差し込みたい情報をキャンペーンに「部品」として登録し、必要な場所に挿入できる仕組みのことで、大抵のMAツールでは特定のキャンペーン内でのみ使用できるデータ挿入機能が実装されています(例: Account Engagementでは「キャンペーンスニペット」が該当)。

MAによるメール配信に取り入れたい標準化を目指す「次の一手」とは?

 

上図は、Account Engagementのキャンペーンスニペットの場合の説明となりますが、静的なテキストやリンクをひとつのパーツとして管理できるため、更新があった際はスニペット側を修正するだけで、関連するメール全体に変更内容を反映可能です。

イベント名や日付のように頻繁に繰り返される情報をスニペット化し、共通で管理しておくことで、複数メールにまたがって同じ情報を一括更新できます。メール単位ではなく「イベント単位」で情報を管理する運用に切り替えられるため、チーム全体で整合性を保ちやすくなります。

実装において重要なのは、テンプレートを「流用しやすくする」だけでなく、運用フローをあわせて固定化することです。

配信前に必ず埋めるべき項目をまとめたチェックリストを用意する、担当者ごとに編集可能領域を明確にする、レビュー工程の順序を固定する、といった運用の型を定義しておきましょう。

メールの構造が明確に定まっているからこそ、フローも合わせて整えておくことで、初めて「高速かつ安全に回る」フォローアップ運用が成立するのです。

作り上げた「型」は絶えずアップデートも必要 

なお、MAツールでのメール配信は、テンプレートを構築し、「型化」を果たした段階で完了するわけではありません。

むしろ、その後の運用のなかでテンプレートがどのように機能するのかが見えてきて、改善すべき点が順次明らかになってくるものです。

例えばレイアウトが乱れる箇所があったとすると「そのモジュールのHTML構造に無理がある」と判断できます。差し替え作業のたびに迷いが生じる部分があれば、「編集可能領域の設定が適切ではない」「あるいは文章構成や入力項目の整理を優先すべきである」と気づけるでしょう。

こうした「現場で発生する細かな使いづらさ」は設計段階では想定しきれず、実際にMA上で動かすことで初めて表面化する性質のものです。

過去、企業組織における「型化」は何を意味するのかでも解説しましたが、型化の肝は「守破離」にあります。

標準化とは、決めた型を守り続けることではなく、実務に合わせて「正しい型へ更新していく」取り組みです。

メール配信運用が順調に回っているように見える局面ほど、型に歪みがないかを検討する余地があります。「型はあくまで仮説」程度に捉え、テンプレートとプロセスを運用のなかで整え続けることが大切なのです。

基本は「顧客中心」でプロセスを設計しよう 

ここまでメール配信を標準化するための考え方について述べてきましたが、テンプレートやマニュアルを整備する目的を「単なる効率化」と捉えないようにしましょう。 

最終的に向き合う相手は、MAツールでも内部プロセスでもなく、メールを受け取る顧客です。

BtoBでは意思決定が段階的に進み、複数の関係者が関わるため、検討期間も長くなります。どれだけ効率的な運用体制を整えても、顧客との接点で価値を感じてもらえなければ、施策の効果は十分に発揮されません。

標準化されたテンプレートは、顧客にとって理解しやすい構造や、判断しやすい情報配置を実現するための手段でしかありません。訴求内容の明確さ、導線の一貫性、読みやすさといった基本的な要素は、内部の事情ではなく顧客の行動を起点に設計する必要があります。

モジュラーテンプレートやEvent follow upのような定型メールであっても、“片手間”で終わらせず、より響きやすい形式へと磨き込む余地があるでしょう。 

テンプレートやプロセスが整ってリソースに余裕ができるからこそ、「この構造は顧客にとって読みやすいのか」「意思決定に必要な情報がきちんと届いているのか」という視点で見直し続けていくことが大切なのです。 

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