目次
はじめに
インサイドセールスは、昨今のBtoB領域のマーケティングにおいて極めて重要な機能となっています。これまで先行して実施していた外資系企業やスタートアップ企業だけでなく、昨今では日系製造業でもインサイドセールスの機能を持つ企業も増えてきました。
一方で、インサイドセールスはしばしば「顧客から一方的に情報を得るためのテレアポ」との印象を持たれることがありますが、それはインサイドセールスの機能が果たすべき役割を捉えてはいません。本稿では、「インサイドセールスの在るべき姿」について、「情報」を軸として解説します。
そもそもインサイドセールスとは?MAや対面営業との関係性は?
昨今のビジネスシーンでは「①マーケティング活動→②インサイドセールス→③対面営業」と、マーケティング・営業のプロセスを分業し、それぞれの担当者が見込み顧客との接点を別に持つことが一般的になりつつあります。このうち、マーケティング活動に関しては「マーケティング・オートメーション(MA)」で施策を自動化している企業も多いのではないでしょうか。
MAを導入し、見込み顧客のフォーム提出の情報と引き換えに自社のコンテンツの提供をしながらデータベースを活用することで、定量的なデータ分析を用いて見込み顧客一人ひとりにマッチしたコミュニケーションが行えます。
対面営業は従来通りの訪問営業(フィールドセールス)で、顧客との細かな情報交換が可能です。特に、BtoB領域においては、MAで見込み顧客を発掘・ナーチャリング(育成)し、その後の対面営業で受注に繋げるクロージングを行う構図が一般的な手法となります。
それに対し、「インサイドセールス」とは、遠隔地にいる状態で顧客と電話やメールを使ってコミュニケーションを取るセールス手法を指します。いわゆる「内勤営業」であり、BtoB企業のマーケティングプロセスではMAと対面営業の間に入る活動です。
なぜ製造業のようなBtoB領域でインサイドセールスが重要なのか?
インサイドセールスでは電話が主要ツールとして顧客との情報交換を行うことが多く、アプローチ方法として大きく「テレセールス」「テレマーケティング」の2種類があります。
テレセールスは、顧客との情報交換を通じて製品受注までを目指す手法で、製品情報が複雑でなく、購買の意思決定まで辿り着きやすいBtoC領域で多く用いられます。例えば、保険の契約やクレジットカードの契約などはテレセールスが有効なアプローチ方法です。
対して、テレマーケティングは最終的に対面営業へ手渡すことを前提とした情報交換を行う手法を指します。BtoB領域で、対面営業によるクロージングに繋げることを前提としたマーケティングを行う場合、テレマーケティングはインサイドセールスだと言われることが多々あります。
ただし、BtoB領域であっても、従業員が使うIT機器や消耗品のような単価が低く、購入意思決定のハードルが低い商材の紹介を目的とする場合はテレセールスを活用することもあります。
インサイドセールスが製造業などのBtoB領域で必要な理由は「情報を軸とした等価交換により、詳細な顧客情報や顧客内のイニシアチブをあらかじめ把握しておくため」です。これは、インサイドセールスの次工程にあたる対面営業で、より顧客にマッチした詳細な情報を提供し、クロージングに繋げるために行います。
MAで獲得できる情報はあくまで定量データですので、例えば「顧客がなぜ資料をダウンロードしたのか?」などの細かなニーズまでは把握できません。
そのため、MAで入手した見込み顧客の情報をそのまま対面営業に手渡してしまうと、情報が漠然としたままセールスを行うことになります。それを解消する手段として、事前に顧客と情報の交換を行うインサイドセールスが求められるのです。
BtoBマーケティングの仕組みを作る上では、見込み顧客と情報の等価交換を行い、案件確度を適切に見極めた上で営業部門に繋げる「デマンドセンター」が必要となります。この「見込み顧客のデマンド(=需要)にまつわる情報を営業へ受け渡す」ために必要なのが、インサイドセールスの役割です。
インサイドセールスは情報の等価交換を前提に行う必要がある
インサイドセールスが一方的に情報を得るのではなく、情報交換を前提としているのは顧客・企業間で「Give and Take」の関係を成立させるためです。
経済学には「ホモ・エコノミクス理論」という考え方があり、「人は経済的合理性にのみ基づいて、個人主義的に行動する」と唱えられています。この説を元にすると、ビジネスでは「双方に利益があるかどうか」が大切で、成約に至るまでにお互いの「Give and Take」が釣り合っている状態が必要であると言えます。
マーケティング活動の最終目標は契約書面に基づき、金銭とサービス・製品の対価交換が行われる「受注」にあります。つまり、金銭を受け取る代わりに製品を納めることであり、これはまさにGive and Takeの関係です。
製品の売価は「受注にまつわるコスト+企業側の利益」であり、コストの部分には製品の原価に加えて、販管費としてそれまでの営業活動の工数が加えられます。
マーケティングの工数も販管費にあたることが多いのですが、マーケティングプロセスでは受注のように契約で定められた物理的な等価交換を行わないため、情報を対価としたGive and Takeを成立させます。
インサイドセールスもマーケティングプロセスに含まれますので、この情報を起点とした等価交換を前提としなければなりません。
インサイドセールスによる「情報交換の目的」はMA/対面営業とは異なる
インサイドセールスも「MA」「対面営業」のように顧客との情報交換を行う点は同様ですが、その目的は異なっています。
前述のように、MAで取得できる情報は「定量データ」ですので、「顧客が興味のある製品は?」「いつアクセスしたのか?」などはわかりますが、「なぜそのサイトにアクセスしたのか?」などの“動機”までは理解できません。
つまり、MA単体では広くリーチできるが、得られる情報はあくまでデータであり、それ単独で示唆に繋がる訳ではないのです。
対面営業は、NDAなどを結ぶことで機密情報レベルでより細かい情報交換ができる点がメリットですが、届けられる情報が深い分、アプローチできる顧客の数自体は少なくなってしまいます。
さらに、対面営業は一般的に短期的な指標(年間の受注額)で評価が決まりますので、時間が限られる中で情報交換を行うことになり、交換する情報の質は“短期目線で顧客にとって有益であるもの”にフォーカスされることが多いのです。
それに対し、インサイドセールスで情報交換を行う目的は、顧客とのリレーションを構築することで「有益な情報を提供する対価として顧客ニーズを引き出すこと」にあります。
そのため、MAでは果たせない細かなニーズの把握ができ、対面営業のように必ずしも短期的に有益な情報交換のみを行う必要もありません。さらには、営業が工数を割けないような、まだ案件の芽が出ていない潜在顧客や、短期的には見込みの低い顧客との接点が持てるようになります。
このとき留意しないといけないことは、顧客側からするとその会社とリレーションを構築する必然性はなく、ニーズを一方的に話すベネフィットもない、という点です。顧客にとってのベネフィットがなければ、前述したGive and Takeの関係が成立しません。
そのため、企業側としては顧客にとって有益な情報を提供する対価として、顧客のニーズ情報を引き出すことができる、と考えるべきです。
インサイドセールスで顧客と相互交換できる情報の特徴
インサイドセールスでは、MAのように「数万件のメールを送る」などは不可能ですが、Tele(遠隔)での対話形式のアプローチであるため、より詳細な情報交換ができ、顧客との接触回数は対面営業よりも多くなります。昨今はリモートワークが普及し、対面営業も“Tele”でのアプローチが増えています。
しかし、営業は「短期的な指標が多い」と前述した通り、短いスパンで成果に繋がると思われる領域以外の情報交換は、自社視点でインセンティブになりません。
一方で、インサイドセールスは”マーケティング”の側面も併せ持っており、短期での利益を気にすることなく実施できますので、より中長期も見据えたニーズに基づく自社のお役立ち情報の提供などが可能です。
インサイドセールスでは、定性的なコミュニケーションを通じてMAのデータセットレベルでは取れない粒度の高い顧客・企業情報を交換できますので、対面営業へ移行した際には企業だけでなく、顧客にとっても役立つはずです。
MAの資料は幅広い層向けに画一的に用意されることが一般的ですが、インサイドセールスを活用すれば、会話の中で発生する顧客の質問に対応することで、よりリアルな情報を提供できます。
ただし、インサイドセールスを実施するにしても、昨今のデジタル技術の発展により顧客が行う情報収集のプロセスはより複雑になっていて、顧客側の意思決定に必要な情報がますます増えてきている点は踏まえておきましょう。
例えば「NDAを結んでより細かい機密情報のやりとりをしないと意思決定ができない」などのケースでは、インサイドセールスで対応するのは難しいと言えます。
最後に
インサイドセールスでは、顧客の情報を「取得する」ということにフォーカスされるケースがよく見られますが、本来の在るべき姿は企業と顧客の間で情報の「等価交換」が成立した状態です。企業側と顧客側、双方向に対価交換を行いGive and Takeの関係を成立させることを意識しなければなりません。
自社の視点だけでなく顧客側の視点に立つことの重要性については、以前に公開した「BtoBマーケティングにおけるジレンマ」に関する記事でも解説していますので、こちらも合わせてご参照ください。