米Salesforce社が提供するクラウド型ビジネスアプリケーション「Salesforce」は、「CRM(顧客管理)」や「SFA(営業支援)」などの機能を兼ね備えています。2025年現在は、多くのBtoB企業でも導入が進んでいるソリューションです。
Salesforceを自社に導入する場合、主に営業が主導することになるでしょう。一方で、マーケティングは別途、MA(マーケティングオートメーション)を導入する必要があります。
そういったケースでは、最終的にはSalesforceとMAツールを「連携」させて活用していかなければなりません。
しかし、実際の運用では「MAツールはMAツール」「SalesforceはSalesforce」と、個別に構築されてしまい「データがシームレスに統合されない」状態に陥ってしまうのが実情です。
特に、マーケティングの視点では、CRMツールへのアクセス権限が限られていることもあり、「Salesforceの構造が十分に理解できない」という声がたびたび聞かれます。
そこで今回は、マーケティングの立場でも最低限押さえておきたい、Salesforceの構造について解説します。
Salesforceのデータベースの基本構造
Salesforce(SFDC)に限らず、データベースの構造は複数の「オブジェクト(データの単位)」を相互に関連付けながら管理することが前提となります。
Salesforceのデータベース構造も同様で、「人」と「企業」でデータの単位が異なっています。
例えば「リード(見込み客)」を管理する際には「氏名」や「所属企業名」などの情報が必要です。一方で「取引先(企業)」の情報を管理する場合は、「企業名」「年商」「本社所在地」といった企業に関する情報が求められます。
このように「管理すべき情報の粒度」が異なるため、同じデータ構造で管理することは難しく、個別に管理しつつ相互に連携させなければなりません。
これはExcelを例に考えると、よりわかりやすくなります。Excelでは、1つのファイルの中に複数のシートが存在し、それぞれのシートに「人」に関する情報と「企業」に関する情報を分けて管理することが可能です。
Excelでは「AさんがX社に勤務しており、X社の年商が50億円である」といった情報は、2つのシートを突合(関数でのLOOKUPなどを活用)しながらデータを紐づけていきます。
データベースにおいても、複数のデータ同士の関係性を考慮しながら全体を設計する必要があります。
そのため、データ分析やレポート作成を依頼された際、単純にデータを出力しただけでは「必要な情報が取得できない」といった状況に陥りやすいのです。
こうした問題を解決するには、データの関係性を理解し、適切な連携構造を構築しなければなりません。
Salesforceにおける代表的なオブジェクト構造
営業はSalesforceを「活動の入力」「商談管理」の目的で運用します。
一方で、マーケティングの視点では「顧客情報の管理」「マーケティングキャンペーンの効果測定」などの観点から運用していくことになります。
その場合もCRMツールの全体像を把握する必要があります。加えて、MAツールを活用しているのであれば、MAツールのデータとSalesforce上でのデータを統合しなければなりません。
前述のとおり、Salesforceのデータベースの構造は各オブジェクトが相互関係で成り立っています。そのため、個々のデータをみるのではなく、より俯瞰した目線でデータベースを捉えることが必要です。
例えば、Salesforceの標準的なオブジェクト構造には、以下のようなものがあります。
- ①:リード(Lead)
- ②:取引先責任者(Contact)
- ③:取引先(Account)
- ④:商談(Opportunity)
- ⑤:キャンペーン(Campaign)
- ⑥:キャンペーンメンバー(Campaign Member)
それぞれ個別に解説します。
①:リード(Lead)
Salesforceでマーケティングの成果を測る際、最初に計測対象となるのが「リード(Lead)」、つまり「見込み客」です。これは、マーケティング活動を通じて新たに獲得した見込み客の情報を管理するためのオブジェクトとなります。
リード(Lead)は、まだ不確かなデータであるため、データベース全体のなかでも独立した存在として認識しましょう。例えば、資料請求があったとしても「その情報が本当に信頼できるものかどうか」は、その段階ではまだ確定できないためです。
リード(Lead)は、「架空の氏名」が入力されているケースも珍しくありません。例えば、ある企業のデータベースでは「坂本龍馬」という名前が最も多く登録されていたという事例もあります。
また、仮に実在する人物であっても、BtoB向けの高額商材を扱う企業にとって、学生や個人事業主からの問い合わせは営業対象外となりやすいでしょう。
このような背景から、マーケティングとしては営業がフォローしない見込み客を直接管理するのではなく、一度「リード(Lead)」としてバッファ的に管理するのが有効です。
多くの企業では、「リードコンバージョン」によってリード(Lead)の中から営業が対応すべきものを「取引先責任者(Contact)」へと昇格させる仕組みが採られています。
②:取引先責任者(Contact)
「取引先責任者(Contact)」は、顧客企業内でプロジェクトを推進する担当者を指します。
「リード(Lead)→取引先責任者(Contact)」のプロセスにおいては、マーケティングやインサイドセールスで一度精査されて営業にパスするケースが多くあります。
それ以外にも、営業の商談で複数の関係者が同席する場合は、営業由来のコンタクトであり「すでに精査されているリード(Lead)」になるため、営業が取引先責任者(Contact)を作成するのが一般的です。
以上のことから、データの精度としてはリード(Lead)よりも、精査されている取引先責任者(Contact)を「是」とみなすことが一般的です。
例えば、MAツールとSalesforceをデータ連携していて、マーケティング・営業でそれぞれ「同一のメールアドレスを持ったリード(Lead)と取引先責任者(Contact)」を保有している場合で、例えば役職等のデータが異なる場合は、取引先責任者(Contact)のデータを優先します。
③:取引先 (Account)
リード(Lead)がリードコンバージョンのプロセスを経て転換された取引先責任者(Contact)は、その後「取引先 (Account)」と紐づきます。
取引先 (Account)は企業や組織といった「企業単位」の情報を管理するオブジェクトです。代表的な項目として以下が挙げられます。
- 企業名
- 所在地
- 年商
- 業種
- 従業員数
BtoBのビジネスでは、営業活動の対象となるのは企業である取引先(Account)ですが、実際にやり取りを行うのはその企業に勤める取引先責任者(Contact)です。
Salesforceでは、1つの取引先(Account)に対して、複数の取引先責任者(Contact)を紐づけられるため、営業活動を進める際に、企業全体の情報を管理しながら、個々の担当者との接点も整理できます。
昨今では副業をする人も増えていますが、一般的には「1人の担当者(Contact)は1つの企業(Account)に所属する」という前提で管理されます。
また、ABM(アカウントベースドマーケティング)を行う場合「主要ターゲット企業として取引先 (Account)を特定し、マーケティング施策を集中的に展開する」といった活用が可能です。
マーケティング活動で取得した見込み客を企業単位で整理・可視化するのに役立つため、取引先 (Account)の正確性が高まるほど、より精度の高いセグメント分けやアプローチを行えるようになります。
④:商談(Opportunity)
営業は「商談(Opportunity)」という単位で案件を管理します。商談(Opportunity)は、具体的なビジネスの取引(売上機会)を管理するオブジェクトです。
代表的な項目として以下のものが挙げられます。
- 商談名
- 金額
- ステージ(進捗状況)
- 商談担当者
- 予測収益
- クローズ日
通常、取引先 (Account)を起点にして、取引先責任者(Contact)が関与する形で商談が進められ、「契約締結」や「受注」などの成果に繋がります。
商談(Opportunity)は営業の案件管理にも活用されますが、マーケティング視点では「マーケティング施策が商談創出にどれほど貢献したか」のROIを測定する際の指標となります。
「いつ、どの施策がきっかけで商談が開始されたか」を追跡し、マーケティング活動と売上の関連性を可視化できます。
SalesforceとMAツールを連携し、商談(Opportunity)情報がリアルタイムで共有されれば、マーケターがリードナーチャリングや追加施策のタイミングを検討しやすくなるでしょう。
BtoBにおけるリードマネジメントの恩恵と運用上のポイントを解説でも述べたように、商談のステージを進めるには複数のステークホルダー関与が必要になります。
そこで、Salesforceにある取引先責任者(Contact)と商談(Opportunity)を関連付ける機能を使って「特定の商談にどの顧客が関与しているのか」を管理することも求められます。
⑤:キャンペーン(Campaign)
マーケティング施策の単位として、「キャンペーン(Campaign)」があります。キャンペーン(Campaign)は、Salesforce上で実施するマーケティング施策やイベントなどを管理するオブジェクトです。
展示会やウェビナー、メルマガ配信など、多様なマーケティング活動を「キャンペーン(Campaign)」として登録できます。これにより、各マーケティング施策に対して、費用や成果を記録・分析し、ROIを可視化できます。
また、施策の種類や目的に応じて、複数のターゲットリストも管理できるため、施策の効果測定が容易になります。
Salesforceには「商談(Opportunity)に結び付いたキャンペーン(Campaign)が何か」を判定できる機能があり、各商談(Opportunity)に対してひとつ選定できます。
具体的には、リード(Lead)や取引先責任者(Contact)がキャンペーン(Campaign)に参加した後に商談(Opportunity)へと進んだ場合、Salesforceは関連付けられたキャンペーンを「主キャンペーンソース(Primary Campaign Source)」として自動で設定します。
これにより「各キャンペーンがどれだけの売上に貢献したか」を可視化できますので、マーケティング施策のROI改善を図りやすくなります。
一方で、「商談の成立には、単一の要因だけでなく、複数のマーケティング施策が影響している」点には留意が必要です。
例えば、フォーム提出がトリガーとなり商談化はしているものの、それまで積み重ねたメルマガ配信やインサイドセールスでのナーチャリングも効果があった、といったケースも想定されます。
そのため「キャンペーンインフルエンス」という形で、複数のキャンペーン効果を勘定した上で、貢献度合いを測る方法もあります。
⑥:キャンペーンメンバー(Campaign Member)
キャンペーンメンバー(Campaign Member)とは、「あるリード(Lead)・取引先責任者(Contact)が、特定のキャンペーン(Campaign)にどのような形で関与したのか」を管理するオブジェクトです。
Salesforceでは、キャンペーン(Campaign)に対して、リード(Lead)や取引先責任者(Contact)といった個人のデータを紐づけられます。
キャンペーンは「物」を管理するオブジェクトであるため、キャンペーンの参加者の「人」を特定することができません。この問題を解決するために存在するのがSalesforceにはキャンペーンメンバー(Campaign Member)の中間オブジェクトです。
キャンペーンに参加した方をキャンペーンメンバーという形で紐づけることで、「どの施策に見込み顧客が反応し、商談創出に影響を与えたのか」を詳細に分析できるようになります。
ここから、マーケティングのROIを可視化し、より精度の高いリードナーチャリングを実施することが可能になります。
マーケティングとしてもSalesforceを活用していくことが大切
かつてのマーケティング施策は「スプレー&プレイ(大量に投下(Spray)し、うまく当たってくれることを祈る(Pray))」と揶揄されるほど、キャンペーンはするものの振り返りがない、あるいはできない状況と言われていました。
一方で、現代はデータを使った定量的な効果測定が可能になったことで「施策ごとの費用対効果」が求められるようになっています。
マーケティングが実施した施策(キャンペーン)から獲得したリードが、営業のフォローを経て商談・受注に至るまでのプロセスを一貫して追跡し、最終的な売上成果やROIを可視化する仕組みを「クローズドループレポート(Closed-Loop Reporting)」と呼びます。
「データをただ取る」だけではなく、リード(Lead)やキャンペーン(Campaign)といったデータを商談(Opportunity)から受注に至るまでに正しく紐づけて運用することが大切です。
この仕組みが確立できれば、マーケティング施策の効果を定量的に示し、営業との連携が強化されるだけでなく、経営層や社内外のステークホルダーへの説得材料としても大きく役立ちます。
結果として「より効果的な施策への投資」「売上拡大につながる戦略」をデータドリブンで立案できるようになります。
そのため、マーケティングとしても営業が活用するSalesforceの構造を理解し、活用できるようになっておきましょう。