2025年現在、多くの企業がBtoB領域におけるマーケティングを強化しています。なかでも、MA(マーケティングオートメーション)を活用し、顧客との接点を自動化・最適化する動きが加速しています。
MAを活用することで、単なる一斉配信にとどまらず、顧客の行動履歴や属性データを基にしたパーソナライズドなメルマガ配信が可能になります。
一方で、メルマガ配信に取り組もうとはするものの、どこから始めてよいかわからない、またはなかなか成果に繋がらず頓挫してしまうケースも見られます。
そこで今回は、メルマガ配信の初期段階で必要な準備物や、実際に配信をスタートするにあたって押さえておくべきポイントを解説します。
なぜメルマガ配信が重要なのか
製造業で「メルマガ配信」が有用な理由と、踏まえておくべき前提意識とはでも述べたとおり、メルマガ配信には「情報提供の効率化」「属人性の排除」といったメリットがあります。
メルマガ配信を通じて、顧客に対してタイムリーな情報提供や価値のあるコンテンツを届けることで、効率よくリードナーチャリングを実施できます。
また、ほかのチャネルと比較してコストパフォーマンスが高く、顧客ごとに合わせたパーソナライズ配信で内容を最適化しやすいことも踏まえると、「継続することに意義がある」施策といえます。
例えば、当社マーケットワン・ジャパンでも過去数年間にわたり「週に1回」の頻度でメールを配信し続けてきました。
そのなかで、プロジェクトを通じたお客様からのフィードバックや営業活動で「読んでいます」と声をいただけるようになり、効果を実感しています。
興味深いのは、配信先が直接的にメールを受け取るだけでなく、社内で転送されたり、メール内の記事やリンクがたどられてシェアされたりと、自然な形で情報が広まっている点です。こうした「口コミ的な広がり」は、メールマガジンが持つ独特の強みといえます。
そもそも、メルマガを配信する相手は、自社がすでにメールアドレスを保有している顧客である場合がほとんどです。すでにある程度の関係性が構築されており、顧客の温度感が高いことが期待できます。
そのような相手に対して記事やコンテンツを届けることは、単に情報を広めるだけでなく、信頼関係の強化やブランド認知の向上にも繋がるのです。
準備物①:メルマガの配信先
メルマガ配信にこれから取り組む場合、最初の障壁となるのが「配信先リストの不足」です。そのため、まずは社内に眠っている顧客情報を掘り起こすことが必要です。
マーケティングが「配信対象のリストを保有していない」というケースは珍しくありません。存在しないケースは多くみられます。
近年は新規事業を推進するチームや技術開発チームがメールマガジンの取り組みを担う例も増えていますが、いずれの場合も、まずは手元の顧客データを整理・集約することが求められます。
具体的には、以下のような方法があります。
<社内の顧客情報の収集方法>
- 営業が使用しているCRMや顧客管理ツールに格納されているデータの取りまとめ。
- 営業マンの机や引き出しに眠っている名刺の収集、デジタル化。
- 展示会で得た参加者リストの活用。
- Webサイト経由での問い合わせ情報の再利用。
こうした活動は一見手間がかかるように思えますが、新規で情報を獲得するよりもはるかに低コストで顧客データを集約することが可能です。
これらの情報を集約する上で、最低限必要なのはメールアドレスでしょう。しかし、可能であれば他の情報も収集しておく必要があります。
例えば、名刺レベルの情報(氏名、会社名、部署、役職、電話番号など)は、今後のマーケティング活動や顧客理解に役立つため、保有しておくべきです。
以下より、とりわけ将来的に重要になるものの、盲点になりやすい情報を2つ紹介します。
見落としやすい情報①:データの集約元(リードソース)
メルマガ配信を行う際には、各顧客データが「どのチャネルや接点から取得されたものか」を記録することが大切です。
これは「リードソース」と呼ばれるもので、メルマガ配信に加え、広告や展示会などの施策において「どのチャネルから最も効果的にリードを生み出したか」を分析するための基礎データとなります。
具体的には、リードソースを把握することで、メールのエンゲージメントデータと照合し「どのチャネル経由の顧客がより高い開封率やクリック率を示しているか」を分析し、今後のコンテンツ戦略や配信スケジュールの調整に役立てられます。
稀なケースではありますが、顧客から「なぜ自分がメールを受け取っているのか」という問い合わせを受けた際に、データの出所を明示する上でもリードソースは役立ちます。
見落としやすい情報②:顧客の国・居住地情報
国内では見落とされがちですが、顧客が住んでいる国や地域情報も初期段階で取得しておくことは、自社の将来的なグローバル展開を見据えると非常に有益です。
特に、自動車や電子機器、化学製品、機械などの業界では、主要顧客が欧米・アジア地域に点在しているケースが多く、マーケティングや営業活動の一環として海外顧客へのアプローチが必要になる可能性もあります。
ただし、その際には各国の法規制に則った形で顧客情報を収集しなければなりません。
近年では「GDPR(EU一般データ保護規則)」「中国個人情報保護法」「カリフォルニア州消費者プライバシー法(CCPA)」など、各国・地域のデータ保護規制が厳格化しています。
例えば、GDPRではEU居住者へのメルマガ配信に明確なオプトイン(許可)の取得が必須です。国内の展示会でヨーロッパの方々が参加している場合、その居住地情報がわからないとGDPR違反になる可能性があります。
準備物②:配信用コンテンツ
メルマガ配信においては「顧客にみていただくためのコンテンツ」が必須です。
BtoBのメルマガ配信においては、基本的にはメール本文を読んでいただくだけでなく、次のアクション(Call To Action)に繋げることが目的です。例えば、メール本文のリンクから遷移できる自社サイトの閲覧や資料ダウンロードなどのアクションです。
メルマガ自体をコンテンツと捉える考え方もありますが、BtoBにおけるメルマガは情報を届けるための「チャンネルの1つ」の側面が強いと言えます。そのため、メールでPRするコンテンツそのものを準備する必要があります。
従来は、自社サイトに掲載している製品やソリューションの概要をコンテンツとして顧客に届けていました。
ただし、近年の変化の速いトレンドの移り変わりも相まって、BtoB企業の多くは自社サイトの構成に課題を抱えているのが実情です。
そのため、メルマガ配信の初期段階では「自社サイトが十分に整備されていない」状態も珍しくありません。
幸い、MAツールはLP(ランディングページ)やフォームを簡単に作成できる機能が充実しています。これにより、資料ダウンロード用のページを短期間で形にできます。
こうしたツールを活用して、初期段階では必要最低限のコンテンツを整えて、並行して自社サイトも整備していくのが有効です。
コンテンツのネタ集めの方法
一方、多くの企業は「そもそもコンテンツがない」という問題に直面します。しかし、「コンテンツがないから配信できない」と考えてしまうのはもったいないといえます。
メルマガ配信では、継続し続けて顧客と定期的なコミュニケーションをとることが何よりも重要です。週1回、最低でも月1回の配信を継続することで、顧客との接点を途切れさせないようにしましょう。
また、コンテンツの元ネタ自体は、自社内に蓄積されているものです。例えば、技術資料やプレゼン資料など、自社にすでに存在しているものを顧客向けにアレンジすることで、配信用のコンテンツが完成します。
具体的には、どの企業でも活用可能なコンテンツの元ネタには、以下のようなものが存在します。
- 社内ナレッジ
- プレスリリース
- イベント・セミナー情報
- 顧客の声・ケーススタディ
- 業界ニュースやトレンドまとめ
配信スケジュールも見越して社内に点在する「顧客にとって有益な情報」を収集しておくことで、安定感のある施策が可能になります。
効率化に繋がる「コンテンツマップ」とは
加えて、メルマガ配信の初期段階でおすすめしたいのが「コンテンツマップ」の作成です。
コンテンツマップとは、既存のコンテンツを一覧化し「それぞれがどのようなテーマや目的を持っているのか」を整理したものです。
このマップがあれば、今後のメールマガジンやキャンペーンで活用できるリソースが一目で分かりますので、チーム内での情報共有も効率的に行えます。
コンテンツマップをベースとして「配信カレンダー」「キャンペーンカレンダー」を作成すれば、スケジュールや目標を明確にし、計画的なメルマガ配信が可能になります。
実際にメルマガ配信を行う際のポイント
マーケティング領域で求められるプロジェクトマネジメントの定石でも述べたように、多くの業務は「プロジェクト(期間限定の取り組み)」と「定常業務」に分かれます。
多くのケースで、メルマガ配信の初期段階では、限られた有識者が定常業務をこなしつつ、何とか運営していくことになるでしょう。しかし、それでは次第に疲弊していってしまいます。
ここからは、そういった状況を避けるためのポイントを2つ解説します。
ポイント①:徐々に業務の「型化」を行う
メルマガ配信にかかる業務は、徐々に「型化」を進め、チーム全体の生産性を最大化していく必要があります。
企業組織における「型化」は何を意味するのかでも解説したように、施策の型化を行えば、効率性やクリエイティビティの向上を実現できます。
MA(マーケティングオートメーション)におけるメール配信を標準化するためのポイントを解説でも述べましたが、メルマガ配信業務は、準備からフォローアップまで含めると多くの工程を要します。
なかでも、以下の業務を型化しておくと、運営がスムーズになります。
- 配信準備:リストの精査、コンテンツ作成、承認プロセスの確立。
- 配信実行:ツールを使用した配信、配信テスト、スケジュールの確認。
- フォローアップ:開封率やクリック率の分析、配信停止の対応、次回の改善策検討。
ただし、初期段階から型化にこだわりすぎると、作業負担が増え、肝心の配信自体が滞るリスクがあります。最初は柔軟に取り組みつつ、徐々に型化を進めましょう。
ポイント②:配信リストを適正化する
メルマガの効果を最大化するためには、配信リストの精査が不可欠です。
例えば「競合他社」「営業部門が配信を希望しない顧客」「過去にクレームを申し立てた顧客」を除外することで、無駄な接触を防ぎつつ、配信による効果を高められます。
なお、配信リストの適正化はマーケティングだけで行うのではなく、営業やカスタマーサポートなどの関連部門と連携するとより効果的です。
例えば、営業部門は日々の商談や顧客対応を通じて得た最新のニーズや状況を把握しています。
それを活用すれば、現在積極的に商談が進行中の顧客に対しては、特定のキャンペーン情報を重点的に提供し、一方で関心が低い顧客には定期的なフォローコンテンツを送るなど、より最適なアプローチに繋げられます。
メルマガ配信も継続し続けることが大切
意識すべきポイントやテクニックは多くありますが、メルマガ配信は「継続すること」が何よりも大切です。
初期段階では「完璧なもの」を求め過ぎず、まずはできる範囲で配信を開始し、徐々に内容を充実させていくことが求められます。
配信回数を重ねるなかで改善点や顧客ニーズがみえてくるものであるため、まずは小さくても良いので動き出す必要があります。週1回、最低でも月1回の定期的な配信を心がけ、顧客との接点を維持することが重要です。
配信の初期段階では、顧客情報を収集・整理は必ず行っておきましょう。これにより、将来的な手間やリスクを大幅に削減できます。
例えば、国内の展示会で獲得したリードに欧米諸国の居住者が含まれている場合、規制に応じた配信ルールを適用する必要があります。これらの情報を初期段階から管理しておけば、スムーズに対応可能です。
メルマガ配信の成果は一朝一夕で現れるものではありません。粘り強く取り組み、配信を続けるなかで得たデータやフィードバックを活用し、次第に運用を最適化していきましょう。