2024年現在は、日本でも「BtoBマーケティングの取り組みを行なっていこう」という機運が高まっています。
しかし、モデルケースや調査が多く公開されているBtoCマーケティングとは異なり、BtoBマーケティングは最終的な取引条件の機密性の高さから、なかなか具体的な事例が世に公開されず、ノウハウを学びづらいのが現状です。
BtoBビジネスは企業間取引が主であり、購買プロセス全体を捉えるにはマーケティングだけでなく営業活動まで考慮する必要があります。加えて、最終的な購買条件などが一般に公開されることも少ないため、どうしてもBtoCに比べて研究が進みづらい印象です。
実際に、BtoC領域から転向してきたばかりのマーケターのなかには、BtoBならではのマーケティングの勘所を掴むのに苦労するケースも少なくありません。
そこで今回は、BtoBにおいて求められるマーケティング機能と役割を解説します。
目次
BtoCとは異なる、BtoBマーケティングの「難しさ」
そもそもBtoBマーケティングの最大の特徴は「限られた市場のなかで、能動的なアプローチが必要となる」点にあります。日本においては、企業数が令和元年の中小企業庁の調査1では、大手と中小企業を合わせて359万社と有限であり、その中から自社のターゲット企業を見極め、アプローチしていく必要があります。
これは、一般消費者を対象とするBtoCマーケティングとは大きく異なる特徴といえます。BtoCの場合、日本の人口である1億人以上の個人がターゲットとなり得る上、InstagramやECサイトなどを通じて消費者が自然に商品と出会い、購入へと至ります。
一方、BtoBの場合は企業規模や業種などで絞り込みを行うため、さらにターゲット市場は限定されます。
例えば、製造業の中堅企業のIT部門というように、具体的な条件を設定した場合、実際のターゲット企業数は数千社程度まで絞られることも珍しくありません。
こうした特性により、BtoBマーケティングでは戦略的かつ計画的なアプローチが不可欠となります。
ターゲット企業との関係構築から、具体的な商談、そして成約に至るまでのプロセスを、戦略的に設計し、運用していくことが求められるのです。
BtoBマーケティングファネルの全体像
BtoBマーケティングでは、見込み顧客の獲得から商談化までのプロセスを示して「ファネル」と表現されます。
ファネルは「認知→興味→検討→購買」の段階で構成され、各段階で異なるアプローチを行なっていきます。
例えば、認知の段階では顧客はまだ自社の存在すら知らない状態にありますので、展示会やウェビナー、デジタル広告などを通じて、まずは接点を創出することが必要です。
このファネルをより実践的に運用するために、米シリウスディシジョンズは2012年に「デマンドウォーターフォール」というモデルを提唱しました。
これはバージョンが更新されながらも、2024年現在の日本のBtoBマーケティングでも、一般的に用いられている考え方です。
<前編> シリウスディシジョンズ・デマンドウォーターフォール(SiriusDecisions Demand Waterfall)モデル徹底解説でも紹介したように、デマンドウォーターフォールモデルではBtoBマーケティングで必要な要素が以下のように体系化されています。
<①:Inquiry(問い合わせ)>
- 企業が商品やサービスに興味を持ち、問い合わせをする段階。広告、ウェブ、展示会などからの反応を得ていく。
<②:Marketing Qualification(マーケティングの絞り込み)>
- マーケティングチームが、問い合わせ企業が見込み客(リード)として適切かを評価。興味の度合いやニーズを確認し、次のステップに進むか決定する。
<③:Sales Qualification(営業による絞り込み)>
- 営業チームが、さらに深く企業を評価し、商談が成立しそうなリードに絞り込む。ここでは具体的な要件確認や提案が行われる。
<④:Close(成約)>
- 最終的に、商談が成立して契約が締結され、商品やサービスが購入される段階。
BtoBビジネスの場合、顧客が①→④まで通過する時間が長期化する傾向にあります。
例えば、新入社員が興味を持った製品であっても「実際の購買決定権は上位職階の社員が持っている」といったケースも多く、即座の購買決定には至りません。製品の価格帯や企業の規模によっては、最初の接触から成約まで数年を要することも多々あります。
この長期化するプロセスを効果的に運用するために求められるのが「ファネル上のリード(=見込み客)を管理する」という考え方です。
BtoBにおいてリードとは「将来的に自社の製品やサービスを購入する可能性のある企業や個人」を指し、その単位はBtoCよりも広範になります。
BtoBとBtoCで大きく異なるのが、リード管理の「継続性」です。BtoB では、一度接点を持ったリードを見失わないよう、定期的なコミュニケーションを通じて、企業のニーズや課題の変化を把握し続けなければなりません。
BtoBでもファネルの各段階において、リードの状態を適切に把握し、次のステージに進めていくための施策を実施していくことになります。
BtoBにおけるリードジェネレーションの3ステップ
BtoBマーケティングにおけるリードジェネレーションは、「見込み顧客を創出し、育成し、質の高い商談へと導くプロセス」を指します。
このプロセスは、大きく「リードジェネレーション」「リードナーチャリング」「リードクオリフィケーション」の3つのステップで構成されます。
Step1.リードジェネレーション
ファネルの最上部に位置する最初のステップでは、見込み顧客に関わる情報を獲得することが目的となります。
そのため「リードジェネレーション」により、将来的な見込み顧客となり得る企業や担当者との最初の接点を作り、基本的な情報を獲得していきます。
BtoCマーケティングであれば、ECサイトやSNSを通じて消費者が自然に商品をみつけ、購入に至るケースも多いでしょう。
しかし、BtoBの場合は異なります。より能動的なアプローチが必要となり、企業の担当者との接点を意図的に創出していく必要があります。
特にデジタル化が進む現代では、展示会やウェビナーといったイベント、デジタル広告などを通じた接点形成が主流となっています。広く認知を獲得するのではなく、より厳選された対象に対して、専門性の高いアプローチを行うのが特徴です。
ただし、この段階での参加者は必ずしもすぐに案件化につながる層ではない点には留意しましょう。BtoBの場合、情報収集段階の企業や、具体的な購買意向を持たない層が大半を占めるものです。
そのため、次のステップである「リードナーチャリング」において、時間をかけて関係性を築いていく必要があります。
Step2.リードナーチャリング
「リードナーチャリング」とは、獲得した見込み顧客に対して、継続的な情報提供や接点維持を行いながら、購買検討の機会を待つプロセスです。
顧客側の関心が高まるフェーズまでは、定期的な接点維持を通じて情報交換を継続していく必要があります。実務的には、専門性の高いコンテンツ提供と引き換えに、顧客の関心度合いや具体的なニーズを把握していくことになります。
なお、「ナーチャリング」は日本語では「育成」と訳されることが多くあります。しかし、リードナーチャリングのあるべき姿 – 顧客は“育成”するものなのか?でも述べているように、これは自社視点の解釈に過ぎません。
実際には、顧客を育成するというよりも、適切な情報提供を続けながら、顧客のニーズと自社のソリューションが合致するタイミングを見計らうプロセスと捉えましょう。
また、この段階では自社だけでなく競合他社も同様のアプローチを行っている可能性が大いにあります。そのため、業界動向や最新技術といった一般的な情報だけでなく、自社ならではの知見や実践的な課題解決手法など「差別化された情報提供」を行うことが必要です。
Step3.リードクオリフィケーション
最後のステップであるリードクオリフィケーションでは、多くの見込み顧客の中から、商談化の可能性が高い優良な見込み顧客を選別していきます。
重要なのは「自社”に”興味があるリード × 自社”が”興味のあるリード」というマッチングの視点です。
BtoBマーケティングで重要なデマンドジェネレーションの基本的な考え方でも述べたように、BtoBのクオリフィケーションでは、“データを起点にした“絞り込みを行います。
MA(マーケティングオートメーション)を活用したデジタルデータの分析による定量評価と、インサイドセールスによる人的接触を通じた定性評価を組み合わせて実施します。
なお、3つのステップを効果的に運用するためには、適切な「リードマネジメント」が求められます。リードマネジメントは、部門間で定めた、明確なリード管理のルールです。
「誰をナーチャリング対象とするか」「クオリフィケーションした場合、次は誰が何をする必要があるのか」といった基準を事前に定義し、マーケティング部門と営業部門の連携を円滑にすることがBtoBマーケティングでは求められます。
ファネル管理のために必要な「BANT情報」とは
ここまで述べたBtoBマーケティングのファネルにおいて、リードの質を評価し、次のステージに進めるべきかを判断する基準が必要となります。
その代表的な評価指標が「BANT」です。
BANTとは、「Budget(予算)」「Authority(決裁権)」「Needs(ニーズ・需要)」「Time frame(導入時期)」の略称で、リードの質を評価する重要な指標として広く活用されています。
例えば「予算の確保状況や意思決定者の特定」「導入に向けた具体的なニーズの有無」など、商談化の可能性を判断する上で重要な要素を体系的に整理したものといえます。
ただし、すべてのBANT要素を最初から揃えることは現実的には難しいものです。
特に商談の初期段階では「予算が未確定である」「意思決定者との接点がまだない」といった、場合も多くあります。
むしろ、各要素の特性を理解し、自社のビジネスモデルに合わせて優先順位をつけることが重要となります。
なお、BANT要素は、マーケティング視点でBANTを再考するで紹介しているとおり、その性質から大きく「マーケティングでコントロールしやすい要素」「しづらい要素」の2つに分類できますので、あらかじめ把握しておきましょう。
BANTの4要素の内、Authorityは変動しづらい「静的な情報」となります。一方で、それ以外の3要素は変動しやすい「動的な情報」であるため、実際にアプローチを行わなければわからないことも多く、定期的な情報更新も求められます。
<マーケティングでコントロールしやすい要素>
- Authority(比較的静的な情報)
<マーケティングでコントロールが難しい要素>
- Budget(動的で顧客依存)
- Needs(潜在的で発掘が必要)
- Time Frame(顧客の事情に依存)
そのため、BtoBマーケティングでは「まずはAuthorityについての仮説立て」をして見込み客企業にアプローチを行います。
その上で、リードナーチャリングなどで「Needsの獲得」「顧客に依存するBudget/Time Frameの見極め」を行い、ライトタイミング・ライトコンテンツの訴求で購買に繋げていきます。
BtoBマーケティングでは「目指すべきゴール」の具体化が大切
BtoBマーケティングの本質は、一度の取引で完結するのではなく、顧客と長期的な関係を構築することにあるといえます。
そのなかでキーワードとなるのが、BtoBマーケティングで重要なデマンドジェネレーションの基本的な考え方でも述べた「顧客中心」「収益志向」「部門の連動」の3要素です。
顧客のニーズや課題を深く理解した上で、長期的な収益につながる施策を展開することを目指す。ただし、それは、マーケティング・営業・インサイドセールスの連携が前提になければならないということです。
それを踏まえると、BtoB “マーケティング“とはいえ、「マーケティング部門単独」で音頭をとったからといって簡単に実現されるものではないとわかります。
ときにはトップダウンでの文化の醸成や組織作りも必要で、組織全体で顧客との長期的な関係構築を目指し、その実現に向けて明確なゴールと指標を設定する必要があります。
そもそも、日本のBtoBマーケティングでは「施策のゴール(=成果)」について、なんとなくの暗黙知のまま進められているケースも多々あります。
長期にわたるBtoBのマーケティング活動では、いち部門単位ではなく、社内の関係者を巻き込みながら、目指すべき成果について具体的に議論した上で戦略を描くことが大切なのです。