2025年現在、多くのBtoB企業がデジタルマーケティングに取り組み、MA(マーケティングオートメーション)ツールやSFA、CRMシステムなどのデジタルツールを活用しながら、顕在的/潜在的な顧客へのマーケティング的アプローチを模索しています。
しかし、それらの活動の起点となる「顧客データ」に不備が存在すると、マーケティングキャンペーンの成果が不十分なものになります。
結果として、投資したリソースに対してROMI(マーケティング投資対効果)が最適化できないケースも少なくありません。
また「個人情報規制の強化」「グローバル市場におけるデータ統制の重要性」が高まっていますので、コンプライアンスの観点からも、一貫性のあるデータ管理・運用は不可欠です。
こうした背景から、適切なデータ管理の体制構築は、各社共通の課題であるといえるでしょう。
当社マーケットワン・ジャパンも、マーケティング活動におけるデータ管理は、その後の施策の成果を左右する重要要素として、さまざまなクライアント企業様とともに最適化を図ってきました。
本稿では、その知見を踏まえ、BtoBマーケティングでデータを管理する上で求められる「チェックイン」のベストプラクティスを紹介します。
目次
マーケティングキャンペーンでは「データのチェックイン体制」が不可欠
多くのBtoB企業にとって、MAによる大量のデータを用いた効率的なマーケティング施策は、事業拡大を図る上では有用な選択肢となります。
なぜなら、MAを活用すれば、顧客が発注に至るまでの検討プロセスに応じた自動プログラムにより、「適切な顧客に、適切なタイミングで、適切なコンテンツを届ける」ことに繋がるからです。
また、MAとSFA・CRMを連携することで、配信したマーケティングキャンペーンの商談化率などの「貢献度」も可視化できます。
ただし、それは「顧客のコンタクトデータが正しく収集・管理されていること」が前提となります。
例えば、データが正しく管理されていないと、以下のような事態に発展しかねません。
- キャンペーン配信を適切に顧客に届けられずに商談創出の機会損失になる
- 誤った顧客情報をもとに配信してしまい、顧客からの信頼棄損を招く
加えて「2018年施行のGDPR(欧州)」「2020年施行のCCPA(米国カリフォルニア州)」「2022年の改正個人情報保護法(日本)」に代表されるように、ここ数年世界各国で個人情報保護の規制が強化されています。
例えば、欧州に居住しているコンタクトからのメルマガ配信登録があった際、現地の法規制に対応せずメルマガを配信してしまうと、GDPR違反で罰則対象となる可能性があります。
このようなリスクを避けるため、MAを使ったマーケティング活動では「配信前の予防対応」「配信後の検知対応」の2軸に分けて、適切なデータ管理を実施しなければなりません。
それぞれの対応例は、以下とおりです。
<配信前の予防対応>
- MAのリスト管理やプログラム設計を適切に行い、異常値が発生しない環境を整える
- MAとSFA/CRMとのデータ連携ルールを定義し、データの統一性を確保する
<配信後の検知対応>
- MAやSFA/CRMとのデータ連携上で実行されるキャンペーンやプログラムを監視し、異常値を検知する
- 配信エラーやデータ不整合を定期的にチェックする
「配信前の予防対応」については、BtoBマーケティングで膨大なデータを有効活用するポイントとは?でも述べたように、データの品質とマーケティングキャンペーンの精度向上に直結する対策です。
しかし、実際の運用では「データの欠落やエラーが発生する」「顧客情報が古く有効でない」といった、キャンペーン配信後の異常を100%防ぐことは現実的には困難です。
そこで後者の「配信後の検知対応」で、施策実行後に発生するデータの異常を検知し、修正するための「定期的なデータのチェックイン体制」を設ける必要があります。
配信後もデータの異常を迅速に特定・修正しつつ、マーケティング施策の精度も高めていくことで、「ROMIの最大化」と「顧客との適切な関係維持」を実現できます。
「データのチェックインで観測する指標」は予め絞り込む必要がある
キャンペーンの配信前後にわたるデータ管理は、特に大規模なデータをマーケティングで取り扱う企業ほど、施策の安定運用に直結します。
ただし、闇雲に「あらゆるデータを管理しよう」と考えてはいけません。冒頭でも述べたとおり、リソースの観点から検知漏れなどのリスクが高まるためです。
そこで、「自社にとっての重要な指標は何か?」という視点で、重点的に観測すべき指標を予め定義し、具体的なチェック体制を設けておく必要があります。
例として、実際のマーケティングキャンペーンにおいて一般的である以下の主要要素をピックアップし、管理体制の例をご紹介します。
【例①:Opt-inデータを管理する場合】
目的:コンプライアンス遵守とキャンペーンリーチ数の最大化
<重点的に観測すべき指標>
- オプトイン/オプトアウト数推移(キャンペーンごと/期間ごと)
- オプトイン新規獲得率(リード獲得施策の評価)
- オプトアウト理由分類(配信頻度やコンテンツの適正判断)
<管理方法例>
- 月次・四半期ごとの推移を可視化し、異常な変動を検知する
- 地域・国別の法規制に準拠したオプトイン/ダブルオプトイン取得ルール管理と外れ値(例:GDPRなど)を検知する
- オプトアウトが急増した場合のコンテンツ内容・配信戦略を見直す
<検知情報に応じたチェック例>
✅短期間でオプトアウトが増加した
- 配信内容がセグメントに対して適切だったか?
- 不備や問題はなかったか?
✅特定の国でのオプトイン率が低下した
- 地理的事象や法規制変更などの変動要素がなかったか?
- オプトイン登録時に選択する国項目は最新の地理的内容に即しているか?
【例②:配信エラーを監視する場合】
目的:メール到達率の維持とキャンペーンパフォーマンス向上
<重点的に観測すべき指標>
- バウンス率(ハードバウンス・ソフトバウンス)
- 登録解除率(メール送信数に対する割合)
- メール到達率(ISP[Internet Service Provider]ごとの差分分析)
<管理方法例>
- バウンス率のしきい値を設定し、異常を早期に検知する
- ISPごとのバウンス発生率をトラッキングし、ブラックリスト化リスクを低減する
- 登録解除が一定以上を超えた場合、配信コンテンツや配信セグメントを再評価する
<検知情報に応じたチェック例>
✅バウンス率が突然上昇した
- 新規リストに不適切なアドレスが含まれていないか?
- 転籍や退職など人事イベントが多く発生する時期ではないか?
✅登録解除率が増加した
- 件名やメール内容が誤解を招くものになっていないか?
上記のように、実際にデータのチェックイン体制を構築する際には、取り組みごとの目的に応じた指標を定義した上で、チェックインの運用体制を準備しておくことで「マーケティング施策の意思決定」「PDCAサイクルの実施」の高速化が可能です。
データのチェックイン体制で役立つ「Admin」のフレームワーク
当社では、データ管理の観点から、定期的なチェックインにより異常値を検知、修正するベストプラクティスとして、MAのAdmin業務において定点観測すべきデータセットをフレームワークとしてまとめました。
Adminとは「重点的に観測すべき指標」を主要カテゴリごとに抜け漏れなく事前設定し、集約・一元化した上で、「異常が起きていないか」を定点的にモニタリングする仕組みです。
具体的には、以下のようなメリットが期待できます。
<Adminの恩恵>
- データ異常値を早期に検知し、マーケティング施策の損失を最小化できる
- MA/CRM間のデータ不整合を削減し、営業とマーケティングとの連携を円滑にできる
- MAの安定運用を実現し、施策のPDCAサイクルの最適化に繋がる
Adminは、データ管理を目的として設計されています。その中核となるのが、以下の4つの主要カテゴリです。
<Adminのカテゴリ分け>
- ①:Data(データ管理)
- ②:CRM Integrations(MAとCRMの連携)
- ③:Active Programs(稼働プログラムの監視)
- ④:Campaigns(キャンペーン運用)
このカテゴリ分けにより、マーケティングのデータ管理における主要な領域を明確にし、それぞれの課題に応じた適切な管理手法を適用できるようになります。
なお、「①:Data」のカテゴリはさらに以下の4つの中カテゴリに細分化されており、より精緻に分析する仕様になっています。
<①:Dataの中カテゴリ>
- ①-1.Deliverability:メールの配信・到達に関わるデータ不整合検知
- ①-2.Compliance:ダブルオプトインの適用状況などコンプライアンス管理における配信上の重要項目の適正管理
- ①-3.SystemMaintenance:データプラットフォーム管理運用上のメンテナンス
- ①-4.Utilization:今後の施策・データ活用に向けた分析・示唆
<Adminの運用方法>
当社では、重点的に観測すべき指標を定義した上で、「指標項目」「作業担当者」「指標項目についてのPass(合格)条件」「Pass/or not」といった項目を表形式でまとめ、Adminモデルを運用しています。
観測頻度は「月次」「四半期」の2パターンあり、それぞれ以下のように目的が異なっています。
- 月次Admin:より絞られた主要項目について定常管理する
- 四半期Admin:より広範囲かつ詳細な項目について定常管理する
月次Adminは、短期間での異常値の特定と即時対応を目的としており、特にキャンペーン配信後のデータの整合性や配信エラーの監視に重点を置いています。
一方で、四半期Adminは、短期間の変動では見えにくいデータの傾向を分析し、次の四半期に向けた戦略の最適化を行うためのものです。
このように、2パターンの管理手法を組み合わせることで「短期的な異常検知」と「長期的な戦略最適化」を両立できます。結果的に、日々の施策の安定運用を確保しながら、より精度の高いマーケティング戦略の策定に繋げられます。
データのチェックイン最適化に必要な取り組み
大規模かつ複数のキャンペーンを展開する企業であるほど、データ管理はマーケティングキャンペーンの効果測定には不可欠ですので、効率的な方法で取り組むほかありません。
確かに労力はかかりますが、自社にとって重要度の高いデータを定期的にチェックできる体制を設けることで、データの管理工数を最適化しつつ、コンプライアンス順守とROMI最適化を図れるでしょう。
データ管理の実践に必要なステップを細分化すると、以下の4ステップに分けられます。
【Step1】マーケティングデータのチェック体制の確認
- 現在のデータ管理は「事前の予防対応」と「事後の検知対応」の両方が十分にできているか?
- データ管理において定期的なデータ品質チェックが実施されているか?またその実行体制があるか?
【Step2】重要指標の定義&チェックポイントの設定
- 自社にとってはどの指標が重要か?
- 定期的に観測すべき異常値のしきい値はどの程度が適切か?
【Step3】定期的なチェックイン体制の設計・導入
- チェックイン頻度は、施策ごとまたは一定期間ごとなど、どのような頻度とするか?
- チェックイン項目は具体的にプラットフォーム上のどこの情報を参照するのか?
【Step4】異常検知後の対応フローの明確化
- 異常値を検知した際に、いつ誰がどのように対処するか?
- 社内関係者(MA/CRMの管理者、マーケティング担当者、営業チーム等)との情報連携・対応フローはどのように標準化するか?
なお、実際には、こうしたデータ管理のチェック体制は必ずしもマーケティング担当だけで構築できるものではありません。
CRMやMAのデータは営業やカスタマーサクセス、企業によってはITや法務部門とも連携して運用されるため、全社的な仕組みとして確立することが求められます。
データの正確性やコンプライアンス対応を徹底する上でも、各部門と協力しながら運用ルールや対応フローの整備を目指すことが重要となります。