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[対談] パナソニック コネクト: アライメントと ”腹落ち感“が、グローバルマーケティングに必須

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グローバルマーケティングを推進しようとするものの、各国固有の慣習や文化、各国の組織風土や市場の異なることにより、思うように舵取りができないといった課題を抱えるご担当者も多いのではないでしょうか。

また、マーケティングがどのように自社のセールスや利益に貢献できているのかが証明できないがゆえに、経営陣の後ろ盾が得られないというケースもあるかもしれません。

今回は、パナソニック コネクト株式会社でデジタルマーケティングの変革に挑む、マーケティング本部デジタルカスタマーエクスペリエンス統括部長の関口昭如氏を訪ねました。

創業100年を超える大企業が変革中のなか、何を目標に、どんな手法を用いてグローバルマーケティングを牽引しているのかについてお話を伺います。

リージョンの特性を最適化しつつも、コアメッセージや活動のフレームワークの統一を図る

大橋:関口さんとは、過去にいらっしゃった企業でグローバルマーケティングのコンサルティングを担当させていただいて以来、定期的に情報交換をさせていただく間柄です。2018年より現職でご活躍ですが、いまご担当されている具体的な役割についてお聞かせいただけますか?

マーケットワン・ジャパン合同会社 執行役 ビジネス開発管掌 大橋慶太

関口:現在は3つの役割を担っています。まず、このパナソニック コネクト全社の横串のデジタルマーケティングやデジタルカスタマーエクスペリエンスの総括で、会社全体のスキルやナレッジを高めて、プロセス化もしながら高位平準化を目指すこと。2つ目は、国内外で販売しているパソコン機器の事業マーケティング。そして3つ目がITデジタル本部にて、これまでのIT活動を顧客起点、従業員起点へシフトしていくこと。これら3つのリーダーを担当しています。3つはすべて連携している話です。

大橋:これまでのご経験も踏まえて「パナソニックだからこそ実現したい」と感じられていることはありますか。

関口:グローバル企業のマーケティングと一言で言っても、さまざまなパターンがあり、たとえば、グローバルすべてをひとつのマーケティングに統一するやり方、あるいは逆にリージョンごとに最適化するというやり方があります。私がパナソニックで実現したいのは、リージョンごとの特性を生かして最適化しながらも、ある程度統一されたストラクチャーを目指すハイブリッド型です。例えば、商習慣や、ソリューションは地域ごとに場合によって異なることがありますが、商材の機能や我々のアイデンティティに関連する部分は、ある程度統一するべきだと私は考えています。

パナソニック コネクト株式会社 マーケティング本部デジタルカスタマーエクスペリエンス統括部長 関口 昭如氏

大橋:地域ごとにソリューションや強い商材が大きく異なる場合、アイデンティティ自体も地域によって際立ってしまうケースも多いように感じるのですが、ハイブリッド化しようとすると、方向性を揃えることは容易いことではないのではないでしょうか。

関口:そうですね。方向性を揃えるためには、第一にパーパスやコアバリューを社内の人間にしっかりと理解してもらうことが必要不可欠になります。当社はパナソニック コネクトとしての会社立ち上げのタイミングで、ブランディングチームが積極的にリージョンとのインターナルコミュニケーションを密に計ったことにより、「プロダクト、ソリューション自体は地域によって多少異なるものの、コアとなるメッセージはひとつ」という共通認識がかなり普及したと思います。具体的には、定期的にグローバル会議を開催して合意を形成しつつ、コアメッセージからリージョンごとのメッセージに落とし込むようなピラミッド ストラクチャーを築こうとしています。

マーケとセールスのアラインメントを強化-重要なのは”腹落ち感“

大橋:ひとつに共通化を目指す領域と、リージョンに任せる領域とがあるということですね。統一していくにあたっては、新しい形を開発してあてはめていくのでしょうか?そうすると、リージョン視点ではかなり負担だと思うのですが。

関口:先ほど「高位平準化を目指している」というお話をしましたが、高い成果を出しているリージョンのノウハウやスキル、コンテンツやプロセスを、人的パワーが足りていなく、アダプションが低いリージョンが再利用や活用できる形で進めています。たとえばデマンドジェネレーションで言うと、地域ごとにシステムやプロセスが違うことに関しては許容しますが、パイプラインを結ぶ際のKPIに関してはグローバルで見える化することやKGIは一緒になるようにと議論を進めています。

大橋:なるほど。とはいえ、マーケティングとセールスのプロセスや、外販パートナー活用の有無など、各国でマーケティングの機能と役割が異なると思います。すべてを統制して平準化することは現実的ではないですし、実効性もないのかと思いますが、実際にはどんなことを軸にして足並みを揃えていったのでしょうか?

関口:3つの条件があると考えています。1つ目は、各国のビジネス戦略とマーケティング戦略の整合。特に「To whom/What/How/顧客便益を明確にする」ということ、またそれをセールス、サポートと整合することは重要です。顧客の誰向けに、どんな手法を用いて、何を訴求するのかということを設計図(Blueprintと社内では呼んでいます)に落としてから進めるという手法を各地域に広めています。また、顧客便益に紐づいた自社ソリューションの独自性を明確にすることが極めて重要ですが、弊社ではグローバルでワークショップを行い、この考え方を共有しながら各地域の議論しながら高めあっている最中です。また、最近では顧客便益と独自性という点では、マーケティングは、コミュニケーションだけではなく、商品、ソリューションの企画にもかなり入り込むように促進しています。さらに、これらがひとりよがりではなく、事業、営業、サポート部隊と整合できていることも大変重要な側面です。

2つ目が先ほどの「KPI 」で、すべてを統一することはできなくともここだけは定義を合わせよう、といった目標設定の地域間での足並みをそろえることを徐々にしています。絵にかいた餅にならないように、常にリアリティをもってKPIをみながらPDCAを回すプロセス、カルチャーが重要と思います。

そして3つ目は「コンテンツの再利用」で、こちらも一部はリージョナイズすることはあっても、使えるコンテンツはグローバルで統一したものにするという考え方です。各地域で得意分野が違うというのもDiverseという点では活かしていけそうです。

大橋:KPIの定義合わせについて言うと、そもそもリージョンごとにあまりにも乖離していたり、各国としても現状の方針を大きく変えていくことは躊躇すると思いますが、解決策としてはどのようなことが考えられるのでしょうか。

関口:私が今担当しているパソコン商材においてお話すると、グローバルマーケティングミーティングでは、各地域のセールス部門にも入ってもらいました。大きな考えとしては、まずは各国のセールスとマーケ(地域によってはによってはカスタマサクセスも)のKGIをそろえることだと思います。現在の大きなディスカッションテーマは、大きく2つ、「マーケティングとセールスのアライメント」「活動のデジタルシフト」です。

大橋:デジタルシフトというと?

関口:ここでは、ウェブやデジタルメディアを使うといったことに限らず、Face to Faceも含め、データを見ながら全体でPDCAを回す活動のことを指します。この際に各地域の営業部門に入ってもらうことで、議論の幅が大きく広がりました。カスタマーエクスペリエンスの文脈においても、マーケティングがメッセージを出したが実際に顧客に会うのは営業担当であるといった場合に、マーケティングとセールスが互いのアライメントを深めることによって、顧客に対する説得力が増すことにもつながります。

顧客対応最前線に立つ カスタマーサービスを巻き込む重要性

大橋:グローバルマーケティングとローカルマーケティング、そしてマーケティングとセールスとの間で足並みを揃えるといった施策を通して、平準的にマーケティングの機能が上がっていく、と。ではその中で、マーケティングのメンバーの成果をどのように評価し、満足度を向上させているのですか?

関口:パナソニックのように、何度も組織編成を経て100年以上続いている日系グローバルの製造業になると、一般的な外資系企業のように、どこを向いても同じようなトップダウン型の構造になっているわけではありません。そうした意味では、まずは地域ごとに成果を上げてもらうことを一番に優先して考えています。なおかつ、ローカルマーケの人たちが効率よく成果を出せるよう日本本社のチームがサポートしたり、逆にサポートしてもらったりしながら、良い関係性を築いていくことが私の目指すところです。

大橋:最近日系企業に、欧米系グローバル企業の日本支社にいた人材が次々と流入しているトレンドがありますが、外資系企業のカルチャーと日系企業のカルチャーは大きく違うのでインターナルコミュニケーションの面では難しい面もありそうです。

関口:それは否めませんね。外資から転職してきた人が、いかに社内にアジャストできるかといった点は大きなポイントだと考えています。私も含め外からきた人間が、パナソニックという会社に新しいプロセスやカルチャーを持ち込むことは大きな意味を持ちますが、「これが正義だ」という姿勢では決して受け入れられないでしょう。私が入社してからは、セールスアラインメント、Blueprintに関するワークショップを定期的に開催するようにしています。このことで、いきなり180度変わることはなくても、徐々に腹落ちしていくはずだと考えています。

大橋:同じマーケティングといっても、地域ごとにミッションもHowの部分も、求められるKPI・KGIも異なるなかでは、やはりインターナルマーケティングを通して外部と内部の足並みを揃えることは非常に大事なのですね。冒頭でおっしゃっていたように、リージョンごとの特性を最適化しながらも統一されたストラクチャーを目指すハイブリッド型を進めるにあたり、目下の課題についてはどのようなことが挙げられますか。

関口:やはり、カスタマーエクスペリエンスの部分が大きいですね。地域をまたいでガチガチに固めることは難しいのですが、ある程度の統合していきたい。ウェブを通して顧客に可視化される世界観が、地域ごとにあまりにも異なるというのは問題であると感じています。またシステム統合に関してはいまのところ考えてはいませんが、同じ物差しで評価し、判断できるようにキーとなるデータは整えていきたいと思っています。そしてもう一つ付け加えたいのが、これまでマーケティングとは離れた世界と認識されてきたカスタマーサポートの重要性についてです。

大橋:カスタマーサポートというと、品質保証やオペレーションといった、また別の文化を持つ部門ではありますよね。とはいえ、実はある意味では顧客対応の一番フロントを担う部門でもあり、もっとも情報を持っている部門です。

関口:はい。導入の際には顧客のところへ行き、導入が落ち着くまでケアするといった重要なポジションを担っています。営業やマーケティングとは一見役割がまったく異なるように思われるカスタマーサービスですが、切磋琢磨しつつもいずれは同じ方向を向いて仕事をすることができれば、より顧客に一貫して寄り添った価値を展開していけるのではと思います。

顧客に寄り添い伴走し、グローバルマーケティングの可能性を指し示す

大橋:関口さんのようにグローバルでチームを引っ張った経験があったり、リージョンを回って直にアラインメントを取ったりしたことのあるマーケティング担当者はそういないと思います。こと日系企業の場合、外から経験のある人材を採用してゴールを達成しようというよりは、既存のメンバーでグローバルマーケティングに挑もうとするところも多いですよね。

関口:そうでしょうね。しかしその弊害として、当然のことながら学べる対象が誰もいないという問題が出てきてしまう。

大橋:社内にノウハウやスキルが足りないというところでつまずいて、そのまま挑戦が頓挫してしまうケースは多々見られます。マーケットワンとしては、そうした企業に足りていない機能やツールを提供することで、「実はここまでのことが実現できるんだ」と可能性を指し示す存在になりたいと考えています。同時に、本社の求める方向性とローカルの事情や持っているテクノロジー、どちらのことも理解できるハブ的機能としても十分に役立てるはずだと思っています。

関口:以前一緒にお仕事をした際に感じたことですが、マーケットワンは外資系コンサルティング企業ならではのグローバルで統一されたメソドロジーを持ちつつも、どちらかというと顧客に寄り添うようなコンサルティングを提供する会社という印象がありますよね。

大橋:たしかに、ベストプラクティスを嵌めにいくタイプのコンサルティング会社ではないですね。私たちの一番の強みが何かと言えば、営業側の視点とマーケティング視点、どちらをも兼ね備えているという点です。かけ離れた部署のように見えて、どちらも顧客に「接する・伝える・引っ張っていく」という点では共通の役割を担っている。先ほど関口さんのお話にもありましたが、マーケティングをレベルアップしていく上で、セールスアライメントは必要不可欠です。マーケットワンはどちらの言語もわかる翻訳者となり、クライアントに伴走していくことができるのではないかと、本日あらためて実感することができました。貴重なお話をありがとうございました。

対談まとめ

本社を中心とする厳格なトップダウン体制を持つことの多い外資系企業と比較すると、日本企業は各地域にゆだねる部分を多く持つ「ゆるやかな統制」を選ぶ企業が多いという印象をもっていました。

これは、慣習や文化の違いを尊重しつつ各リージョンの自主性を育むというメリットがある一方、グローバルレベルでの統制や成長という意味では、足並みをそろえにくい環境であることも事実です。

今回うかがったパナソニック コネクト社の「高位平準化」のコンセプトは、これらの「いいとこ取り」をしてビジネス成長に転換している画期的なモデルです。そして、実践を積み重ねながら現場での「腹落ち」を重視する手法は、持続性のある変革と成長の基礎となるのだと強く感じました。

しかし、これらはリーダー側、現場側ともに、多大なコミットメントを必要とするものです。短期的な目に見える成果の創出だけに走らず、根底をそろえ土台をつくるための時間と労力、そして想いのコミットメントが重なりあって初めて動き出すものなのでしょう。

今後、カスタマーエクスペリエンス向上に向けての部門横断の取り組みも、これまでの様々な現場の「当たり前」を組み合わせて転換をしていく、大きな変革となっていくことでしょう。

関係者が想いを共有し、小さな成功体験と腹落ちを重ねながら変革のうねりが高まっていく、そんな次のパナソニック コネクト社の姿を想像してワクワクしています。関口さん、ありがとうございました!

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プロフィール

関口 昭如
パナソニック コネクト株式会社 マーケティング本部デジタルカスタマーエクスペリエンス統括部長
(兼)モバイルソリューションズ事業部マーケティング部長(兼) IT・デジタル本部 CX統括
総合電機メーカーに入社後、複数のBtoB事業製造業企業において、デジタルを中心とした、グローバルマーケティング、デマンドジェネレーション、カスタマーエクスペリエンスを牽引。2018年10月よりパナソニック株式会社 コネクティッドソリューションズ社にてデジタルマーケティング変革を断行中。また、筑波国立大学院等複数の教育機関にて教鞭も執る。博士(工学)。

大橋 慶太
マーケットワン・ジャパン合同会社 執行役 ビジネス開発管掌
BtoB企業のマーケティング・コンサルティングに15年以上従事。大手製造業向けに、マーケティングを軸にした新規事業探索、デジタルトランスフォーメーション等の戦略立案と実行支援のアドバイザリ役を務める一方、日本におけるマーケットワンの事業開発を管掌する。日本アドバタイザーズ協会 デジタルマーケティング研究機構BtoBマーケティング委員会の副委員長

Text:Tomoko Hatano
Photo:Takumi Hatano