現在、BtoBマーケティングでは、MA(マーケティングオートメーション)やCRMなどを活用し、獲得したリードを育成して営業へ引き渡す仕組みが広く構築されています。
一方で、BtoBビジネスにおける顧客の購買行動は大きく変化しています。
複数の関係者が購買に関与し、売り手が把握するよりも前から情報収集や比較検討が進むなか、従来の「リード」を中心としたGo-to-Market(GTM)のあり方では、実際の購買行動を十分に捉えられないケースも出てきています。
そこで今回は、Marketone Internationalでリリースされた「B2B GTM is broken. Here’s how to fix it」を翻訳して紹介します。
原文の筆者であるMarketOne International CEOのEnricoは28年間にわたりデマンドジェネレーションに携わり、BtoBマーケティングの変化を最前線で見てきました。
本稿では、その経験と実際のクライアントワークから得られた知見をもとに、従来のリード中心のGTMが抱える課題を紐解きながら、「購買シグナル」「Buying Group」を起点としたアカウント中心のGTMへ、どのように転換していくべきかを考察します。
BtoBのGTMは構造そのものが崩壊している
筆者は 28年間、デマンドジェネレーションに携わってきました。この間、業界はアカウント中心のコールドコールからリード中心のデジタルマーケティングへ移り、そしてまたアカウント中心へ戻ってきました。
マーケティングオートメーション(MA)が革新的なツールから当たり前のものとなり、さらには成果を阻害する存在へと変わっていく過程も見てきました。
現在、BtoBマーケティングは再び大きな転換期を迎えています。しかし、多くの企業は、GTMの土台となる仕組みを見直さず、新しいツールの導入で対処しようとしています。
なかには、耳の痛い内容もあるでしょう。しかし、いずれも単なる理論ではなく、筆者が実際のクライアントワークで得た知見に基づく見解です。
妥協して「リードの獲得しやすさ」を選んだ結果、GTMは機能しなくなった
20年前のBtoB営業は、「顧客中心主義」が当たり前でした。
まずターゲット企業を定め、「Buying committee(購買委員会)」を調査し、荷電により信頼関係を築く。コストはかかりましたが、確かな成果につながる手法でした。
そこにMAが登場します。Eloqua、Marketo、Salesforceなどのプラットフォームによって、マーケティング活動をより効率的かつ大規模に展開できるようになりました。
加えて、MAはコスト面でも導入するメリットが大きく、多くの企業に普及していきました。
しかし、これらのプラットフォームでは、アカウントではなくリードを中心としたオブジェクト設計が採用されています。
その結果、多くのBtoB企業は、MAが測れる指標、つまり「リード数」「MQL」「コンバージョン率」の最適化を行うようになります。
私たちはSatisfice(妥協)注1し、「これで十分」という状態を受け入れてしまいました。なぜなら、ツールによって容易にマーケティング活動を管理・実践でき、指標によってその選択を正当化できたからです。
注1……Satisfice:最善あるいは完璧な解を追い求めるのではなく、最低限の要件を満たす「十分良い」解を選ぶこと
そして今、こうした選択の弊害が表面化しています。
デジタルチャネルは飽和状態で、顧客は大量の情報に晒され、マーケティング部門には膨大なデータが蓄積されているものの、それを具体的な施策やアクションにつなげられていません。
営業は「リードの質が悪い」と不満を漏らし、役員たちはマーケティングをコストセンターと見なしている状態です。
それに対し、BtoBマーケティングの現場ではABMプラットフォームを導入し、Buying Groupモデルを採用し、インテントデータを活用し始めました。
しかし多くの企業は、「アカウント中心」という言葉を取り入れただけで、根本的な仕組みは何も作り替えていません。
リード中心のCRMにインテントデータのプラットフォームを後付けしただけで、データモデルそのものは手つかずのままです。
つまり、問題はリードそのものにあるのではありません。リード単位の仕組みから、アカウント単位で顧客やデータを捉える仕組みに転換できていないことが問題なのです。
“実は、CRMを作り替えること自体は難しくありません。問題は、マーケティング部門やSDRが、いまだに獲得リード数で評価されていることです。まず評価制度を変えれば、データモデルも自ずと変わってきます”
顧客の購買プロセスについて、これまで語られてきたことはすべて間違っている
BtoBでは、売り手の働きかけによって顧客の購買プロセスに影響を与えられると考えられてきました。適切なコンテンツを用意し、ナーチャリングを行い、適切なタイミングでアプローチすれば、需要を創出できるという考え方です。
しかし、実態は異なります。私たちが「デマンドジェネレーション(需要創出)」と呼んでいる活動の多くは、実際には「デマンドディテクション(需要検知)」に過ぎません。
購買意欲そのものを生み出しているのではなく、すでに購買意欲が生まれている顧客を捉えているだけなのです。
そして、購買意欲が生まれてからアプローチするのでは、すでに遅いといえます。その理由を、当社の調査結果からみてみましょう。
MarketOneは6senseと共同で、英国とアイルランドの購買担当者754名を対象とした最新の「BtoB Buyer Experience Study」を実施しました。
最終的に選ばれたベンダーの94%は、購買プロセスが始まった初日の時点ですでにショートリストに入っていました。
この結果が意味するのは「購買グループがベンダーの比較・評価を本格的に始める頃には、どのベンダーを選ぶかはおおむね固まっている」ということです。
顧客の選択を左右するのは、購買意欲を検知してから始めるナーチャリングではありません。顧客が購買を検討し始めるよりも前に、Preferenceを築けていたかどうかなのです。
AI時代のGTMとBtoBマーケティングでも解説したように、 Preferenceは顧客の「選好」のことで、現代のバイヤーはこれに基づき購買プロセス開始時点で候補をほぼ決めています。
そのため、企業にはまったく異なる2つのアプローチが求められます。
一つは、まだ購買を検討していない「out-of-market」のアカウントに対するアプローチです。TAM 注2 の60%以上を占めるこの層に対しては、Preferenceを築き、購買プロセスが始まった時点ですでにショートリストに入っている状態を目指します。
注2…… Total Addressable Market :想定される市場全体
もう一つは、すでに購買を検討している「in-market」のアカウントに対するアプローチです。購買グループが情報収集の段階から具体的な購買活動へ移ったときには、数週間ではなく数日単位で対応する必要があります。
しかし、多くの企業はこの2つを区別せず、同じ方法でアプローチしています。さらに、評価に用いる指標も同じです。
では、まだ購買を検討していないアカウントに対して、インサイドセールスのSDR機能は本当にアポイントの獲得を目指すべきなのでしょうか。
戦略的に狙うべきアカウントであれば、継続的に接点を持つことには意味があります。ただし、その目的はアポイントの獲得ではなく、関係構築や顧客企業に関する情報収集へと変わります。
その間、マーケティング部門はソートリーダーシップやイベントを通じて、Preferenceを築いていきます。
AIでパーソナライズしたメールは読まれずに埋もれている
MAで、過去5年間のメール配信実績を確認してみてください。開封率、クリック率、返信率は、どのように推移しているでしょうか。
おそらく、いずれも低下傾向にあるはずです。
デジタルチャネルそのものが機能しなくなったわけではありません。多くの企業が同じようにデジタルマーケティングを高度化した結果、差別化が難しくなっているのです。
10年前であれば、よく練られた配信シナリオを設計すること自体が競争優位になりました。
しかし現在、買い手のもとに届くのは、丁寧に設計された1通のメールだけではありません。「パーソナライズ」された大量のメールが届き、そのほとんどが他の情報に埋もれています。
さらにAIの普及によって、この状況は加速しました。これまでコストや工数のかかっていた一人ひとりに合わせたマーケティングも、容易に実行できるようになったからです。
しかし、その恩恵を受けたのは自社だけではありません。競合企業も同じようにパーソナライズされた施策を大規模に展開できるようになり、顧客へのアプローチ量は一気に増えました。その結果、パーソナライズは差別化の手段ではなく、実施していて当たり前でありながら、顧客からは意識されにくいものになっています。
皮肉なことに、この10年間、私たちはデジタル施策をいかに大規模に展開するかを追求してきました。しかし今、あらためて有効になっているのが、その過程で重視されなくなった架電です。
コールドコールという手法そのものに価値があるわけではありません。メールをはじめとするデジタル上のアプローチが大量に届くなかで、電話であれば相手と直接接点を持てるからです。
特に、まだ購買を検討していないout-of-marketのアカウントに対しては、事前に相手を十分に調べたうえで、適切なタイミングで電話をかけることで、認知を高め、Preferenceを醸成できます。
これは、決められたシーケンスに沿ったアプローチだけでは実現しにくいことです。実際、買い手の85%は、自らベンダーへ接触しています1。
しかし、買い手が問い合わせる頃には、すでに候補となるベンダーは絞り込まれ、そのなかでも第一候補が決まっています。その段階でアウトバウンドの量を増やしても、状況を大きく変えることはできません。
必要なのは、買い手が動き始めたときにすぐ対応できること、そして、その兆候を事前に捉えることです。
そこで必要になるのが、購買シグナルを起点としたGTM( Go to market )となります。
すべてのアカウントに対して、あらかじめ決められたスケジュールで同じ施策を実行するのではなく、Buying Groupの行動から購買シグナルを捉え、その状況に応じて適切なタイミングでアクションを起こします。
アカウントが購買意向を示した場合、対応できる時間は数週間ではなく、数日、場合によっては数時間しかありません。
in-marketとout-of-marketのアカウントに同じナーチャリングを続けていれば、予算を無駄にするリスクに加え、それまで数か月かけて築いてきた関係まで損なう可能性があります。
つまり、問うべきなのは「どのチャネルが有効か」ではないのです。「そのアカウントが今まさに購買に動いているのか」「まだその段階ではないのか」を見極め、それぞれに適したアプローチができるGTMになっているかなのです。
経営層の後ろ盾なしに、GTMの変革はなし得ない
マーケティングの責任者は、すでにアカウント中心の考え方を理解しています。個々のリードではなくBuying Groupを捉える必要があることも、MQLという指標に限界があることも認識しています。
しかし、マーケティング部門だけでGTMの変革を進めることはできません。その理由は3つあります。
1つ目の理由は、既存のシステムがリード中心に設計されていることです。
CRMはリードを中心としたオブジェクト設計になっており、MAPもアカウントではなくコンタクト単位でスコアリングします。そのため、アカウント中心のGTMへ移行しようとしても、土台となるデータモデルがその妨げになります。
2つ目に挙げられるのは、評価の時間軸です。
マーケティングの評価指標は、MQLからマーケティング起点のパイプラインへと変化してきました。一方で、四半期単位で成果を求められる点は変わっていません。CFOが求めるのがリードであっても、売上への貢献であっても、評価されるのは直近の成果です。
つまり、新しいGTMの仕組みを構築している途中でも、従来の仕組みで成果を出し続けなければなりません。
最後の理由は、営業は以前からアカウントを中心に活動していることです。
例えば、営業担当者が話すのは「シーメンスの案件」であって、「リード番号47291」ではありません。一方、マーケティングではシステムの設計上、個々のリードを中心に顧客を捉えてきました。
つまり、営業とマーケティングでは、そもそも顧客を捉える単位が異なっているのです。
こうした仕組みは、実際の購買プロセスとも合わなくなっています。当社の調査では、買い手の83%がベンダーへ接触する前に要件を固めていました。また、最終的に選ばれたベンダーの83%は、買い手企業と以前から何らかの関係を持っていました。
つまり、買い手はそれまで接点のなかったベンダーを、突然ショートリストに加えるわけではありません。購買シグナルを検知してから動き始めても、その時点ではすでにベンダーの選定が進んでいるのです。
とはいえ、企業はマーケティングに短期的な成果を求めています。あるCEOは最近、自社のチームに「自分の仕事がどのように売上につながるのかを説明できなければ、その仕事自体が危うくなる」と伝えたそうです。
マーケティング活動を売上への貢献で評価すること自体は間違っていません。これまで成果につながらない表面的な指標が使われてきたことを考えれば、売上への貢献を求めるのは当然でしょう。
問題は、評価する時間軸です。主要アカウントの購買サイクルが2〜3年に及ぶにもかかわらず、四半期単位の売上だけで評価していては、GTMの変革を進めることはできません。
だからといって、成果に対する説明責任をなくすべきという話ではないでしょう。パイプラインとして成果が現れるまでの間は、その過程を適切な指標で評価する必要があります。
「主要アカウントのBuying Groupとどれだけ接点を持てているのか」
「イベントや調査を起点とした対話を通じて、経営層との関係をどれだけ構築できているのか」
こうした変化を捉えることで、パイプラインが生まれる前の段階から、アカウントとの関係がどこまで構築できているのかを経営層に示せます。
ただし、GTMの仕組みを一度にすべて切り替えることはできません。既存のマーケティング活動で成果を出しながら、新しい仕組みへ段階的に移行する必要があります。
この点では、マーケティングの支援会社側にも課題があります。将来あるべき姿を提示する一方で、「既存の仕組みから新しいGTMへどのように移行するのか」という過程を十分に支援してこなかったからです。
だからこそ、GTMの変革には経営層の後押しが必須となります。経営層には変革の必要性を理解するだけでなく、移行期間に短期的な成果だけで判断せず、変革に必要な時間を確保することまで求められるのです。
必要なのはAIエージェントの追加ではなく、マーケティングオーケストレートである
現在のRevOps基盤では、複数のプラットフォームが技術的に連携し、相互にデータをやり取りできるようになっています。
しかし、そこで共有されているのは、あくまでリード単位の活動データです。
アカウントやBuying Groupのシグナルを一つにまとめて捉えられているわけではありません。ツール同士はつながっていても、顧客の動きをアカウント全体で把握できる状態にはなっていないのです。
この問題を解決しないままAIを導入すると、どうなるでしょうか。
現在、多くのベンダーが、メール作成やアカウント調査、リードスコアリングなどを担うAIエージェントを提供しています。しかし、それぞれのAIエージェントは担当する業務を個別に最適化するだけで、ほかのエージェントの動きまでは把握していないでしょう
その結果、適切な除外設定がなければ、同じ企業のエンジニアリング担当VPに対して、以下のような事態が起こります。
「午前9時にはマーケティング部門からナーチャリングメールが届く」
「11時には営業部門からAIが生成した“パーソナライズされた”LinkedInメッセージが届く」
「14時にはパートナー施策からイベントの案内が届く」
しかも、すべて同じベンダーからのアプローチです。それぞれのAIエージェントは、ほかのエージェントがすでに同じ相手へアプローチしていることを認識していません。
これでは、AIによってGTMを効率化するどころか、既存の問題をさらに拡大することになるでしょう。
その間にも、Buying Groupはベンダーのショートリストを形成しています。買い手にとって、売り手側のシステムやデータ構造の問題は関係ありません。
同じベンダーの複数の部門から、連携されていないアプローチが次々と届けば、「社内で顧客へのアプローチを統制できていない企業」と見られてしまいます。
こうした問題を解決する方法として、現在注目されているのが「オーケストレーションレイヤー」です。
これは、個別の課題に対応するツールをさらに追加するという考え方ではありません。既存のテクノロジースタックを横断し、どの施策を、誰に、どのタイミングで実行するのかを統制する仕組みです。
これによって、各部門やツールがそれぞれ独立して顧客へアプローチするのではなく、Buying Groupに対して一貫したコミュニケーションを行えるようになります。すでに、この考え方を前提としてRevOps基盤を設計している企業もあります。
私は今後2年以内に、マーケティングではオーケストレーションレイヤーが一つの明確なカテゴリーとして確立され、競争が進んでいくと考えています。
現時点で成果を上げているのも、AIエージェントを数多く導入している企業ではありません。既存のRevOps基盤を連携させ、全体を一つのシステムとして機能させている企業です。
そのためには、新しいツールを追加するよりも、既存の仕組みを整理し、不要なものを減らすことが必要になる場合もあります。
商談の半分は、人を介さずに進めるべきである
すべての商談で、複雑な購買プロセスが発生するわけではありません。意思決定者が一人で、提供価値が明確であり、導入までのプロセスもシンプルな商材であれば、従来のリード中心のアプローチでも十分に機能します。
こうした商談では、すでに購買プロセスの大部分を自動化できています。必要に応じて人が対応することはあっても、あくまで例外的なケースです。
一方、多くの企業では、商談の特性に応じてマーケティングの仕組みを使い分けられていません。営業チャネルは分けていても、その前段にあるマーケティングでは、同じナーチャリングやアプローチ、評価指標を使い続けています。
一人の意思決定者だけで完結する商談と、10人のBuying Groupが12か月かけて意思決定する商談では、本来必要なアプローチが異なるはずです。しかし、マーケティングでは両者を同じ仕組みで扱っているのです。
問題は、MAそのものにあるわけではありません。MAはもともと、複数の関係者が関与する複雑なBuying Groupを捉えるために設計されたものではないにもかかわらず、複雑な商談にもリード中心の仕組みをそのまま適用してきたことが問題なのです。
実際、BtoBにおける購買の40〜60%は、Buying Group内で合意形成に至らず、途中で中断されています2。
ただし、ここで見落としてはならないのは、購買が中断されたからといって、そのアカウントとの商談機会まで失われたわけではないということです。
一度はBuying Groupが形成され、実際に検討が進められていたのであれば、誰が購買に関与していたのかを把握できています。購買意向が存在していたことも確認できています。
Buying Group単位で状況を捉えている企業であれば、こうしたアカウントを単純な失注として扱わず、次の購買サイクルに向けてPreferenceを醸成する機会として捉えられます。
一方、個々のMQLだけで評価している企業には、購買が止まった時点で「商談につながらなかったリード」にしか見えないでしょう。
購買シグナル起点のGTMとは何か
MQLの構造的な問題は、単一のMQLを実際の商談機会とみなし、その背後にいるBuying Groupの動きを十分に捉えられていないことです。
MQLを営業へ引き渡す際には、その一人の担当者が実際の商談につながることを前提としています。
しかし、MQLとして評価しているのはあくまで個人です。意思決定者や利用部門、その他の関係者など、購買に必要なメンバーがどこまで関与しているのかまでは確認できていません。
その多くでは、MQLとして評価されたコンタクトが存在していました。つまり、個人としては有望なリードを獲得できていても、Buying Group全体の動きまでは捉えられていなかったのです。
その結果、マーケティングが生み出したリードが商談につながらず、営業からの信頼も失われ、パイプラインが停滞します。そして最終的には、受注率やパイプラインカバレッジ、売上予測の精度といった事業成果に近い指標にも影響が及びます。
一見すると、マーケティングや営業の施策に問題があるように見えるかもしれません。しかし、本質的な問題は、個々のリードを中心にGTMを設計していることにあります。
そこで必要になるのが、購買シグナルを起点とし、アカウント中心で顧客を捉え、AIによって対応範囲を広げていくGTMです。
購買シグナル起点とは、「どのアカウントが、いつ、なぜ動き始めているのかをデータから捉える」ことです。
アカウント中心とは、一人ひとりのコンタクトを別々に評価するのではなく、それぞれの活動をBuying Group単位で結びつけて把握することを意味します。
そのうえでAIを活用し、数か月にわたってBuying Group内のさまざまなメンバーとの接点を広げ、次の購買サイクルが始まる前からPreferenceを醸成します。
これに対し、人はAIでは代替しにくい役割を担います。顧客企業内の力関係を読み、表面化していない課題を捉え、相手との信頼関係を構築することです。
購買シグナルをもとに、人が深く関与すべきタイミングを判断し、AIによる継続的なアプローチから人による対応へと適切につなぐ。その一連の動きを調整するのが、前述したオーケストレーションです。
複雑なBtoBの購買では、Buying Groupがいつ本格的な検討を始めるのかを、売り手側でコントロールすることはできません。新しい経営層の着任やM&A、法規制の変更など、顧客企業側に何らかの変化が起きることで、購買が動き始めます。
こうしたきっかけがなければ、RFPが実施されても現状維持という結論に至る場合があります。それでも、候補となるベンダーとして声をかけられることには意味があるでしょう。
マーケティングが購買プロセスの始まる前からPreferenceを醸成し、営業が実際の検討段階でその関係を深める。
そうすることで、顧客企業の購買条件が整ったとき、今回のRFPであっても次回のRFPであっても、最初に相談されるベンダーになることを目指すのです。
ここで、MQLそのものを廃止する必要はありません。変えるべきなのは、MQLの位置づけです。
トランザクション型の商談であれば、一人のコンタクトが一つのBuying Groupと考えることもできます。一方、複雑な商談では、Buying Groupに8〜14人、あるいはそれ以上の関係者が含まれます。
そのため、複雑な商談では一人のリードが有望かどうかを見るだけでは十分ではありません。
Buying Groupの中で、購買に必要な役割を持つ人が関与し、それぞれが適切な購買シグナルを示しているかを確認する必要があります。評価の単位を、リードからBuying Groupへと広げるのです。
そして、このような転換は新しいツールを導入するだけでは実現できません。組織の行動は、どのような成果を評価するかによって変わるためです。
この10年以上、多くの企業ではMQLの獲得数がマーケティングの評価指標として使われてきました。MQLを多く獲得するほど評価される仕組みが残ったままであれば、データやツールを変えても、現場の行動は変わりません。
購買シグナル起点のGTMへ移行するためには、従来のリード中心のモデルを前提としてきたプロセス、データ、評価制度をあわせて見直す必要があります。
だからこそ、GTMを立て直すために必要なのは、アプローチの量を増やすことでも、ナーチャリングのシーケンスを改善することでもありません。
すでに自社のプラットフォームに蓄積されているシグナルを捉え、それに応じて適切なアクションを取れるようにGTMの仕組みを再設計することです。
- 参考研究:6sence「B2B Buyer Experience Report」 [↩]
- 参考研究:Linkedin「The real job of B2B Marketing is to give the Buyer Group permission to agree」 [↩]
