「ひたすらアポ取りコールをかけ続ける」
「MA (マーケティング・オートメーション)を使用してメールを送り続ける」
このように、施策の全体像がないままに既存の施策をルーティンのように繰り返していても、成果に繋がりづらいことは往々にしてあります。
そのため、マーケティング施策を実行する前段階として、マーケティングで実現したいビジョンとそれを実現するための戦略を考慮に入れながら、施策をどのように位置づけるか。まずはそこから考えていく必要があります。
今回はマーケティング施策を「アウトバウンド vs インバウンド」という大枠で捉えつつ、どのように考えていくのかについて整理しますので、自社で施策を実施する際の参考にしてください。
目次
アウトバウンドとインバウンド – それぞれの意味するもの
マーケティング施策は大きく「アウトバウンド」「インバウンド」の2種類に分けられます。
「アウトバウンドマーケティング」は、自社がターゲットとしている見込み顧客に対して、積極的に働きかける施策を指します。例えば「コールドコール」と言われる、自社と接点がない会社に対する電話でのアプローチなどが代表的です。
対する「インバウンドマーケティング」は、コンテンツ作成を通じて有益な情報の提供を続けることで、自社への問い合わせを増やす施策となります。インバウンドはデジタルの普及でポピュラーになってきており、具体例としては、Webサイトへの情報掲載を行い、興味を持ったユーザーを問い合わせフォームに誘導する仕掛けなどが考えられるでしょう。
マーケティング施策は、このような特性によりアウトバウンド/インバウンドに分けられるのですが、それぞれの施策は多面的に解釈ができるため、定義を厳密にすることが難しいケースも多々あります。
展示会を例にとると「出展して積極的に顧客に働きかける」という意味では、アウトバウンドに区分されるでしょう。他方で「広く告知して興味を持つ人を増やす」という観点ではインバウンドとも言えなくはありません。
マーケットワン・ジャパンではメールマーケティングに関して「情報提供をすることで”興味を引き出す”」との観点からインバウンドに位置付けていますが、「メールを能動的に送る」との視点からアウトバウンドと定義されることもあります。
つまり、施策を「アウトバウンドによるプッシュ」「インバウンドによるプル」のどちらに位置付けるべきかという判断基準は、自社のビジネス特性によって往々にして変化する場合があるのです。
例えばBtoCに近い低単価のビジネスモデルでは、コンテンツマーケティングであっても、アプリのプッシュ通知を出すだけでも「アウトバウンド」に区分される場合もあるでしょう。
一方で、高単価かつ商談サイクルの長い、いわゆる“BtoB商材”を扱ったマーケティング施策は、認知向けのインバウンドとして受け取られる局面も多いのではないでしょうか。
ビジネスモデルに合わせたマーケティング施策の考え方については、同ブログにおける「どの企業にも当てはまる「BtoBマーケティング」は存在しない」の記事内でも解説していますので合わせてご参照ください。
アウトバウンド施策は短期的な成果を見込みやすい
アウトバウンド施策について言えば、アプローチ対象は取引見込みの高いターゲットとなりますので、接点構築さえできれば見込み顧客の質は高くなり、短期的に成果が出やすい傾向があります。ただし、それは“ターゲット像が部門間ですり合っている”状態であることが条件です。
ここで強調したいのは、実際に多くの企業で社内におけるターゲットユーザー像のすり合わせができていないケースが多々見られることです。
アウトバウンドで成果をあげるためには、前提としてアプローチ対象に関する目線合わせが重要となります。そもそもの「ターゲット」の考え方については、「3つのコンセプトで考えるBtoBマーケティングのペルソナ設計」の記事でも解説していますので、こちらも合わせてご参照ください。
その前提があった上で、アウトバウンドで成果を出すためには、マーケティングと営業の「表面上の協力」だけではなく、営業の特性を踏まえ、それぞれの戦略・文化を加味した「深い意味での連携」が必須です。
一つ例を挙げると、マーケットワンでは「テレプロスペクティングサービス」を提供しており、「役員アポが欲しい」との依頼を受けてプロジェクト化することがあります。
そこでプロジェクトを進めていった際に浮き彫りになるのが、見込み顧客である役員の接点構築を試みるものの、営業フォローの段階で「相手方の役員と対等に会話ができない」「初回接点構築時に自社として提供できる情報がないため、結果的に関係構築や営業施策が続かない」といった課題です。
これは、表面上の事象に対処していても真の意味での課題解決にならない事例と言えます。
とは言え、アウトバウンドはアプローチがうまくいけば短期的に営業が動けるリード創出がしやすく、成果が出しやすい・見せやすいのも事実です。
従来はマーケティングに取り組んでこなかった会社であったとしても、「新規アプローチを行ってみる」というフェーズでアウトバウンド施策を組み込めば、戦略・施策の整合性といった上位指針の検証だけではなく、短期の成果創出の結果としてメンバーレベルの自信につながります。
「マーケティング変革を加速させるために必要な「7Sモデル」とは?」の記事でも述べている通り、「大きなゴールに向かう上での小さな成果」を実現するためにも、短期的に成果の出やすいアウトバウンドを上手く組み込むことは重要となります。
インバウンド施策は中・長期的な資産になる
インバウンドに関しては、取り組み初期は成果が見えづらいことが一般的です。
まず、インバウンド施策を行うためには、それを支えるコンテンツの準備が求められます。例えば、マーケットワンが日系メーカー様と仕事をする際にしばしば直面する課題が「技術資料はあるものの、顧客に伝える形にアウトプットできていない」ことです。
この場合、既存の資料などを活用しながらコンテンツ作成をすることが第一ステップになります。
加えて、コンテンツを載せるWebサイトやマイクロサイト(ランディングページ)の整備と、それを発信するチャネルの構築も必要です。
昨今はDXの必要性が叫ばれていますが、多くの企業ではデジタル化が果たされているとは言い切れないのが現状です。例えば、メールマーケティングを始めるにあたって「営業マンの机に眠っている名刺を電子化する」ところから着手するケースも往々にしてあるでしょう。
さらに、インバウンド施策は新規コンセプトであればあるほど、そもそもとして“キーワードがWeb検索がされない”課題に直面し、せっかくコンテンツを作成したとしても、ターゲットユーザーに届かないと言うジレンマも発生しがちです。
しかし、一度作ったコンテンツは、「複利のように」後から効いてくるメリットもあります。
特に販売サイクルが長いBtoB商材では、コンテンツ内容が陳腐化しづらいため、数年たってもそのまま活用できるケースも多々あります。そのような中でも時勢の変化に影響されにくいコンテンツは「エバーグリーンコンテンツ」と言われます。
さらに、コンテンツが顧客企業で社内転送されれば、それは「勝手に出回ってくれる」状態であるため、ある種の営業マン的な役割も担ってくれるようになります。そのため、近年はソーシャルメディアなどでの拡散がBtoBでも重要になりつつあります。
スタートアップ企業で多くみられる「1社1事業」であれば社内での目線合わせも行いやすいのですが、大企業では一人の営業が見ている事業や製品数が多くなってしまいます。
筆者も前職で複数商材を抱える営業を経験しましたが、製品担当者は顧客だけでなく、「いかに自社の営業に、自分の担当製品を提案してもらうか」に力をいれていました。
そのような性質を持つ大企業においては、インバウンドで体系立てられたコンテンツは社外だけでなく、社内の啓蒙にも活用できます。
MA(マーケティングオートメーション)を活用する上で、コンテンツを載せるランディングページやメールを「アセット(資産)」と呼びますが、インバウンド施策の成果物はまさに自社資産であると言えるでしょう。
「短期的な成果 vs 持続的な成果」を“両利き”のように追い求める
これまでマーケットワンでは「デマンドセンターの構築」に関する記事をインサイトとして掲載しています。デマンドセンターでは「アウトバウンドのプッシュ型施策」「インバウンドのプル型施策」を組み合わせたマーケティング成果の創出が求められます。
短期的な成果を出すためにアウトバウンドの施策を追求する。これ自体は間違いではないでしょう。
一方で、アウトバウンド施策を継続して行う上で、施策が進めば進むほど、大幅に見直さない限りターゲット先は目減りし続けてしまうのも事実です。
加えて、コールドコールに代表される通り、アウトバウンド施策の実施では恒常的にある程度のマンパワーが必要になるため、中長期で見ると投資対効果は下がることはあっても上がることはありません。
前述の通り、インバウンドは効果が出るまで時間がかかるため、どうしてもアウトバウンドに優先順位を置いて後回しにしがちです。
しかし、成果が出るまで時間がかかるからといって、動き出しを後回しにしていたら、いつまでたっても成果が出ないことは言うまでもありません。
そのため、BtoBにおけるマーケティング施策では、これらの難しい2つの施策を“両利き”のように両立させる必要があります。
経営学ではAmbidexterityを訳して「両利きの経営」という単語があてがわれています。この理論においては既存事業の「深化」と新規領域の「探索」の両立であり、その重要性が近年しきりに唱えられています。
BtoBマーケティングにおいても、自社のビジネスモデルからアウトバウンド/インバウンドそれぞれの施策の重要度と優先順位を紐解き、それらに対する実行戦略をまるで両利きのように策定していく必要があります。
前述の両利きの経営が解説された、『両利きの経営―「二兎を追う」戦略が未来を切り拓く』内では「既存の組織能力を新規領域に活用できる」ことが強みになると書かれています。
いずれの施策を採るにしても、コアになるのは「顧客の課題やニーズに対して自社がどのような価値を提供できるか」という、バリュー・プロポジション(価値提案)に当たる物です。
アウトバウンドにおいて得た顧客インサイトをもとに、コンテンツの作成をする。インバウンドでの顧客の反応を見ながら、アウトバウンドのメッセージや場合によってはターゲティングから変える。
マーケティング施策においても、アウトバウンドとインバウンドを別物として考えるのではなく、各施策で得た知見を相互循環させることで、コアとなる顧客ニーズの理解や自社価値のあり方を考える必要があります。
マーケティングで成果を出している弊社のクライアントも、このような発想で取り組んでいるケースが多い印象です。
両利きの経営に関しては、「単語は経営陣から聞くものの概要がわかっていない」という方向けに、概要についてまとめたマーケットワン作成の資料内で、図解をしながら解説しています。
その中でマーケティングが果たせる役割と進め方に関しても触れていますので、両利きの経営についてより詳しく知りたい方は下記よりご覧ください。