筆者は、2026年4月、米国アリゾナ州フェニックスで開催された「Forrester B2B Summit 2026」に参加しました。今年のテーマは「Hello, Go-To-Market Singularity(GTMのシンギュラリティへようこそ)」です。

このタイトルからもわかるとおり、主題はBtoBマーケティングや営業が前提としてきた従来のモデルが限界を迎え、新しいルールに移行しつつあるという問題提起です。会場全体を通じて繰り返されていたのは、AIそのものの話ではありませんでした。
むしろ、AIによって見込み顧客の行動変化が一気に加速し、従来のGTM (Go To Market Strategy)戦略や、マーケティング・営業プロセスが現実に合わなくなっている、と述べられています。
今回はそんなForresterのイベントレポートを、筆者の見解も交えつつお届けします。日本のBtoBマーケティングシーンにとっても示唆に富んだ内容でしたので、ぜひご一読ください。
勝負は商談化の前に始まっている
今回のForresterイベントの特徴を1つ挙げるなら、それは 単に最新トレンドを学ぶ場ではなく、「自社に戻ったら何を問い直すべきか」「どの議論を社内に持ち帰るべきか」を考えさせられる場だったということです。
実際、「Keynote(イベント内の基調講演)」で提示された問いも、その場で完結するものではありませんでした。
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Q1: What is the Visibility Vacuum? (「可視性の空白」とは何か?)
- BtoBサイトへのオーガニック流入は25〜35%減、最終的には50〜75%減にまで進む可能性が示されています。見込み顧客はAnswer Engine(生成AIによる回答)で答えを得て、企業サイトを訪れずに意思決定を進めており、この「ゼロクリック化」により、検索順位や流入数、滞在時間といった従来の可視性指標そのものが成立しにくくなっています。
Q2: What should your Brand/Demand ratio be? (「ブランド」と「デマンド」の比率はどうあるべきか?)
- 問われているのは比率ではなく、BrandとDemandが別々に運用されている状態そのものが問題であり、両者が分断されている限り、投資は同期されません。
Q3: What is Preference Marketing? (「プリファレンスマーケティング」とは何か?)
- 現在のバイヤーは、購買プロセス開始時点で候補をほぼ決めています。BrandとDemandを分けるのではなく、「Preference(選好)」という共通のゴールで再統合することが求められているのです。
Q4. What should your AI/HI ratio be?
- AI・人間のシナジーで各業務をどのように分担していくのでしょうか。なお、AIを理由としたレイオフの多くは、実態としては事業整理であったという分析も示されています。
Q5. Which sponsor has your solution? (どのスポンサーがあなたの解を持っているか?)
- 自社の課題に対する解を、59社のスポンサーの中から見つけに行くべきだというメッセージです。裏を返せば、どの企業にも未解決の課題があり、それに対応するパートナーは必ず存在するという前提に立っています。
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これらは個別の問いに見えますが、根底には同じ論点があります。それは、「見込み顧客の購買行動が変わった今、売り手側のGTMをどのように組み替えるのか」というものです。
今回、最も印象的だったメッセージの一つは、BtoBの購買プロセスが「比較検討してから決める」ものではなく、かなり早い段階で候補が決まり、その後のプロセスは「確認と交渉」に近くなっている、という指摘でした。
Forresterが示したデータでは、BtoB見込み顧客の68%が、正式な購買プロセスの開始時点ですでにPreferred vendor、つまり有力候補を持っているとされています。そのうち80%が最終的にその企業を選びます。
かけ合わせると、購買プロセス開始時点で第一候補になっている企業は、55%の確率で受注に至るということになります。
BtoBビジネスでは見込み顧客が最初の「Intent signal(検討開始を示す行動シグナル)」を出した時点で、すでにポールポジションに並んでいる企業が存在し、他の企業はその後ろから追いかけることになります。
場合によっては、そもそも競争に参加させてもらえない企業も出てきます。
つまり、商談が発生した時点で勝負が始まるのではなく、見込み顧客が課題を認識し、解決策を調べ、候補を頭のなかに並べ始める時点で、競争はすでに始まっているのです。
今回のイベントでは、「ショートリスト」という言葉も頻繁に使われていました。見込み顧客は、営業に接触する前に情報収集を進め、AIに問い、第三者のレビューを読み、同業他社や専門家の意見に触れながら、すでに候補企業(=ショートリスト)を絞り込んでいます。
これは欧州でも同じ傾向があることがMarketOne Internationalの調査レポート「The UK & Ireland B2B Buyer Journey Revealed」されています。
つまり、売り手側が「リードが来た」「問い合わせが来た」と認識する前に、見込み顧客側ではショートリストが形成されている可能性が高いのです。
これは、BtoBマーケティングにとって非常に重要な変化です。従来は、リードが発生してからナーチャリングし、営業に引き渡し、商談化を目指すという考え方が中心でした。
しかし、見込み顧客が先にショートリストを作っているのであれば、マーケティングの役割は「リードを獲得すること」だけでは不十分です。
実際に、イベント中も以下のように述べられていました。

“すでに失注しているも同然の案件を追うのはやめましょう。
顧客の購買行動は、もはや「選定」 ではなく「確認」 のプロセスになっているのです”
むしろ、「見込み顧客がショートリスト作成前に自社が候補として認識されているか」「課題を調べ始めた段階で、自社の考え方や実績に触れているか」「AIや外部情報源の中で、自社が有力な選択肢として扱われているか」が問われるようになっています。
プリファレンスマーケティングが「Brand」と「Demand」を繋ぐ
この文脈で大きく取り上げられていたのが、「プリファレンスマーケティング(Preference Marketing)」です。
プリファレンスマーケティングとは、見込み顧客が正式な購買プロセスに入る前から、自社を「選びたい候補」として認識してもらうためのマーケティング手法で、単なる「認知獲得」や「リード獲得」だけではありません。
見込み顧客のなかに、信頼、期待、納得感を積み上げ、いざ購買プロセスが始まったときに第一候補として並んでいる状態を作ることです。
ここで重要なのは、Q2にあったとおり、「Brand」と「Demand」を分けて考えないことです(注1)。
従来、Brandは認知を作る活動、Demandはリードや商談を作る活動として分けられがちでした。
しかし、購買開始時点で第一候補が決まっているなら、Brandは単なる上流施策ではありません。商談化前の勝率を左右する活動です。
一方で、Demandも短期的なリード獲得だけを追っていると、すでに勝てない案件を後追いすることになります。Demandは、すでに顕在化したニーズを拾っていくだけでなく、プレファレンス(好み)を具体的な接点や商談に転換する役割を担う必要があります。
登壇していたWorkday社の事例は象徴的でした。同社は当初、ブランド投資の効果を「Brand ROI」として説明しようとしていました。
しかし、この呼び方では経営層に「Brandだけの話」と受け取られ、Demandとの二項対立に引き戻されやすかったため「Marketing Mix」と再定義。BrandとDemandを統合した投資最適化の議論に変えたことがゲームチェンジだったと述べています。
これは単なるネーミングの変更ではありません。社内の議論の土俵を変える重要なピボットととらえるべきでしょう。
見込み顧客は購買プロセスの後半に進むほど、「なぜそれが必要なのか」「何が違うのか」「自社にどう役立つのか」を知りたがります
こういった顧客の意思決定は、製品資料やいわゆる「刈り取り型」の施策だけでは動かせません。自社の独自視点、顧客の声、専門家の発信、イベントやコミュニティなど、自社ならではの付加価値を以て、対話を続けていく必要があるのです。
(注1:Brandとは、単なる認知施策やブランディングではなく、商談前に「選ばれる状態」をつくるための投資を指す。一方のDemandは、リード獲得にとどまらず、商談化や売上への転換までを含む活動)
MQL中心の施策はもはや時代遅れ?
プリファレンスマーケティングの重要性が高まる一方で、従来のMQL中心のプロセスには限界が見えています。
Forresterのアナリストで、 旧SiriusDecisions時代に MQLという概念を業界に普及させた張本人であるTerry Flaherty氏は「MQL is obsolete(もはやMQLは時代遅れ)」と語っていたこと自体が、今回のイベントを象徴していたように思います。
SiriusDecisionsでMQLが提唱されたのは、20年以上も前です。
そこから見込み顧客は大きく変わったにも関わらず、多くの企業のプロセスは今も「フォーム入力」「スコアリング」「MQL化」「営業への引き渡し」を中心に動いています1。
ところが、現在の見込み顧客は、できるだけ自分自身で情報収集を完結したいと考えているようになっています。
―――営業と話すのは、本当に必要になってからでよい。それまでは放っておいてほしい。
フォームには偽の電話番号を入れることもあれば、匿名で調べ、AIに要約させた上で社内外の関係者に確認しながら、かなり早い段階で候補を絞り込んでいます。
また、容易に情報が獲得できる現在ではBuying Groupも拡大しているといいます。購買に対して「Yes」と言う人数は大きく変わらない一方で、「No」と言える人数が増えているというのです。
これは、つまり、意思決定を前に進める人だけでなく、止める人が増えているということです。このような購買行動に対して、個人のフォーム入力を起点にリードを判定し、営業に渡すだけでは、見込み顧客の実態を捉えきれません。
だからこそ、いきなりMQLを全廃するかどうかを議論するではなく、まずは「Buying Group Capable(購買グループ単位で顧客を捉え、対応できる状態)」を構築することが大切です。
3つのコンセプトで考えるBtoBマーケティングのペルソナ設計でも述べたようにペルソナを適切な単位で設定し、どの企業のどの課題に対して、どのBuying Groupが動いているのかを見えるようにする。
その上で、1人の行動ではなく、複数人の行動、関心テーマ、役割、タイミングを束ねて捉えることで、MQL中心のプロセスから、Buying Groupを中心としたアプローチへ移行していけるようになります。
顧客が発したシグナルをどう活用するか?
加えて、今回のイベントは、「シグナル」という言葉も多く使われていました。これはMarketOneグループ全体でも重視しているテーマであり、今後のBtoBマーケティングを考えるうえで重要な視点です。
従来のBtoBマーケティングでは、フォーム入力やイベント参加など、顕在化した行動をリードとして扱うことが中心でした。しかし、見込み顧客が匿名で情報収集し、営業に会う前にショートリストを形成しているなら、見るべき対象はフォーム入力だけではありません。
例えば、以下のようなものです。
- 特定企業の複数人が同じテーマのコンテンツに触れている。
- 特定の課題に関する検索や外部メディアでの行動が増えている。
- 競合比較や導入事例に関心が移っている。過去の接点がある企業で、別部門から同じテーマの反応が出ている。
こうした行動は、単体のリードではなく、Buying Groupが形成されつつあるシグナルとして捉える必要があります。
求められるのは、顧客シグナルを「スコアリングの材料」に留めず、次に何をすべきかを判断材料とすることです。
そのためには、まずはシグナルを「アカウント」「課題」「ソリューション」「Buying Group」に紐づける必要があります。
「誰が反応したか」だけではなく、どの企業で、どのテーマに、どの役割の人が、どのタイミングで反応しているのかを見る。その上で、営業、マーケティング、インサイドセールス、カスタマーサクセスが同じ理解を持たなければなりません。
シグナルの活用には、少なくとも3つの方向があります。
- 優先順位付け:営業やマーケティングが見るべきアカウントを、過去の取引規模や企業属性だけでなく、現在の関心や変化の兆しから判断する。
- メッセージの具体化:どの課題に関するシグナルが出ているかによって、届けるべきコンテンツや提案の切り口は変わるため、パーソナライズされたメッセージ発信を行う。
- Buying Groupを中核に置く:1人のリードだけを追うのではなく、同じ企業内で他に誰が関与しているのかを見つける。2人目、3人目の反応を「重複リード」として扱う(2nd lead syndrome)のではなく、購買検討が進んでいることの証左として扱う。
シグナルは、見込み顧客の見えにくい行動を完全に可視化するものではありません。しかし、見込み顧客が営業に話しかける前に何を考え、どの課題に関心を持ち、誰が関与し始めているのかを推定するための手がかりにはなります。
戦略が変われば、プロセスは変わり、それにともないシステムも改修していかないといけません。
「Salesforce」でマーケティング担当者が知っておくべき構造とは?で解説したように、これまでのBtoBマーケティングはリードオブジェクトを中心とした設計が前提でした。しかし、今回のイベントでは、その重要性は相対的に低下しつつあると指摘されていると実感しました。
今後は、Account(取引先)に紐づくContact(取引先責任者)を起点とし、 Contact Role (取引先責任者の役割) を踏まえてBuying Group全体を捉えることが重要になってくるのでしょう。つまり、個々のリードではなく、企業単位でどのような意思決定体制が形成されているかを前提に分析する必要があるということです。
ただし、こうした前提に合わせて営業が利用するCRM/SFAを変更することは容易ではなく、海外でも実務としてどのように適応していくかが盛んに議論されていました。
Buying NetworkとAI検索時代のコンテンツ戦略
もう一つ重要な概念が、昨年Forresterが導入した「Buying Network」のです。
従来のBuying Groupは、見込み顧客企業のなかにいる意思決定者、利用者、評価者、承認者などの集団を指していました。一方、Buying Networkはその外側にあります。
競合他社やインフルエンサー、元従業員、専門家、レビュー、コミュニティなど、見込み顧客企業の外部にありながら購買判断に影響する存在です。
本年は、この概念がさらに進化し、AIも単なる情報検索ツールの枠を超えて、Buying Networkの一員になりつつあります。
見込み顧客はAIに、「この領域で有力な企業はどこか」「A社とB社の違いは何か」「自社のような企業にはどの選択肢が適しているか」と問いかけます。その答えのなかに自社がどう登場するか、あるいは登場しないかが、購買の初期段階に影響を与えます。
従来は「検索結果への露出→クリック→自社サイトへの流入→フォーム入力」などの一連の数値を通じて、ある程度見込み顧客の行動を把握できました。しかしAI検索では、見込み顧客がAI上で答えを得て、クリックせずに理解を進めることが増えます。
これは単に自然検索経由での流入が減るという話ではありません。より大きな問題は、見込み顧客がどこで何を見て、何を信じ、自社がどう説明されているのかが見えにくくなる点です。
そのため、AI検索時代には、自社名で検索されたときに出てくるかどうかだけでは不十分といえます。
課題名、比較、要件定義、導入判断の問いに対して、自社がどう扱われるかを見る必要があります。これは、Keynoteで問われた「見込み顧客からどう見つけられるのか」という問いの核心でもあります。
AI検索時代には、コンテンツのあり方も変わります。イベント中、印象的だったのは「それはコンテンツ戦略なのか、それともPublishing Addiction=リリース中毒なのか」という問いです。
多くの企業は「コンテンツ戦略がある」と言いながら、実際にはただ作って出しているだけになっている。コンテンツから事業インパクトまで線が引けないなら、それは戦略ではなく、予算を圧迫するだけの習慣である。そうした問題提起でした。
コンテンツの量を増やすこと自体は、AIによって容易になります。しかし、量が増えるほど、メッセージの不整合や情報の重複、顧客体験の分断も増えるリスクが増していきます。
これからは、人間にもAIにも読まれ、理解され、再利用されるように、メッセージ、証拠、事例、FAQ、比較情報を構造化することが、より求められていくのです。
AIは人を置き換えるのではなく、人の役割を変える
AI活用についていえば、ARCという概念を提唱していました。「Augmented (拡張)」「Resilient (しなやかな強さ)」「Collaborative (協同)」の三つの頭文字をとっています。
Augmentedは、AIで人間の能力を拡張するということで、AIは人間を代替するものではなく、人間がより高い価値を出すためのものとして設計しなければなりません。AI時代におけるBtoBリードナーチャリングの進化論の記事でも、AIはメールナーチャリングを代替するものではなく、進化するものだと解説しました。
Resilientは、変化に強く、適応できることです。購買行動、チャネル、データ、AIの使われ方が変わる中で、固定的なプロセスでは対応できません。
最後の、Collaborativeは機能横断で各部門が連携して動くことです。マーケティングや営業、プロダクト、カスタマーサクセス、RevOpsが、それぞれ別のKPIや判断基準で動いていては見込み顧客の変化に対応できないため、目線合わせを行なっておくことが大前提です。
さらに、イベントでは人間とAIの関係について「Agency (実行主体)」「Adaptability (適応性)」「Authenticity (本物感)」という3つの観点も提示されました。
AIに自律性を与えるほど、人間側の説明責任は大きくなります。 AI時代にマーケティングが差別化を図っていくために何が求められるのか?でも述べた論点ですが、人間の役割は、手を動かして作業することから、何を目指すのかを決め、条件を整理し、最終的な成果をまとめることへと変わっていくのです。
一方で、従業員がAIを活用するための教育に投資がされていないという課題もあるでしょう。
AI導入が人間への投資を上回ると、イノベーションではなく不協和音が生まれ、強力な技術が組織の力になるのではなく、組織のノイズになる。
これは多くの日本企業にも当てはまるのではないでしょうか。
AIツールのPoC(試験導入)は確かに増えています。しかし、業務プロセス、データ、役割、評価指標、人材育成が追いついていない状態では、AIは成果ではなく混乱を増やします。
問題は、見込み顧客の変化に企業のプロセスが追いついていないこと
ここまでの内容も踏まえ、筆者が重要だと感じたのは「見込み顧客の購買行動が大きく変わっているにもかかわらず、売り手側の内部プロセスが追いついていない」ということです。
見込み顧客は、AIと外部インターネットを使って、営業に会う前に要件を定義し、候補を絞り込んでいます。購買プロセスが始まったように見える時点で、実際にはかなり意思決定が進んでいます。
一方で、企業側は今も「フォーム入力」「MQL」「スコアリング」「営業引き渡し」といった従来通りの指標を起点に動いています。
BrandとDemandは分断され、コンテンツは部署ごとに作られ、営業とマーケティングは異なる指標で評価される。見込み顧客の行動は変化したのに、売り手側の組織・データ・プロセス・評価は過去の延長線上に残っているのです。
このズレは、単にマーケティング施策の問題だけではなくい、組織の問題でもあります。
あるパネルディスカッションでは「入社前に組織構造や人材の問題と思っていたが、実は信頼と信頼性の欠如が課題だった」と語られていました。
実際、「組織を変えなければならない」「人材が足りない」「体制が悪い」という訴えの裏に、意思決定権と信頼の問題が隠れていることは珍しくありません。
誰が何を決めるのかが曖昧で、部門間に信頼がなく、同じ顧客を見ているはずなのに判断基準が違う。その状態で新しいプロセスやAIツールの導入だけをしても、成果にはつながりにくいのは自明といえます。
筆者と同じイベントに参加した01GROWTH社のレポートでも、以下のように述べられています2 。
“GTMの特異点とは市場自体が壊れたのではなく、市場を捉えるモデルが壊れたということだと思います。そしてモデルを更新する作業はツール導入で完結するものではなく、測定指標、組織構造、マーケティング戦略、マーケティングコンテンツ、人間とAIの役割分担、などすべてに及びます。
今回のイベントの意義は、この再設計の射程を業界全体で言語化したことにあったのではだと感じました”
こうした指摘は、マーケティングの文脈にとどまらず、より本質的な経営の問題としても捉えることができます。
楠木建氏の著作『楠木建の頭の中 戦略と経営についての論考』では、「非連続な変化」を意味するイノベーションについて次のように解説されています3。
“提供価値そのものが非連続であっても、人間の本性を鷲掴みにするようなものであければイノベーションにならない。<中略>最新の技術ばかり気をとられて、人間が本来的に抱えている需要を掴めなくなる。これでは革新的なビジネスが生まれるはずがない”
見込み顧客は、変わらず「信頼できる選択肢を選びたい」「失敗したくない」「自社の課題に合う解を見つけたい」と感じ続けているでしょう。
しかし、その需要を満たすための行動は大きく変わりました。AIで調べ、外部情報を参照し、営業と話す前に候補を絞り込む。ここには明らかな非連続性があります。
つまり、変わっているのは需要そのものではなく、需要を満たすための購買行動なのです。にもかかわらず、売り手側が過去の連続線上でプロセス改善を続けていると、見込み顧客とのズレは広がっていきかねません。
筆者は、今回のイベントを通じて「AI時代のBtoBマーケティングは、ただ単にリードを増やす営みではなく、見込み顧客の“変わらない需要”に対して、非連続に変化した購買行動に適応できるGTMを作れるかどうか」であると痛感しました。
- A History of Marketing 「Kerry Cunningham: The MQL Industrial Complex & Where B2B Marketing Went Wrong」 [↩]
- 01GROWTH「Forrester B2B Summit 2026レポート GTM特異点と視認性の空白」 [↩]
- 楠木建『楠木建の頭の中 戦略と経営についての論考』日本経済新聞 [↩]
