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BtoBビジネスの基本構造から紐解くBtoBマーケティングの捉え方

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2026年現在、日本でもBtoBマーケティングについては、さまざまな議論や方法論が提示されるようになりました。

しかし、その多くは「どの施策を選ぶべきか」「どの手法が有効か」といった実行レベルの話に集中しがちで、それらの議論が前提としているビジネス構造や事業フェーズについて、十分に整理される機会は多くないように見受けられます。

実際には、同じBtoBマーケティングであっても、企業が置かれている状況は大きく異なります。

例えば、既存市場に既存製品を提供するフェーズと、新たな市場や価値を創出しようとするフェーズとでは、マーケティングに求められる役割も、その設計思想も変わってくるにもかかわらず、日本のBtoBマーケティングシーンでは営業案件化支援を中心に発展してきたマーケティングの考え方が一般像として語られてきた側面があります。

その結果、多くの現場で「正しいとされる取り組みを行っているにもかかわらず、期待した成果につながらない」「他社の成功事例を取り入れても、同じようには機能しない」といった状態に陥っているようのではないでしょうか。

本稿では、こうした違和感の背景にあるBtoBビジネスの基本構造を踏まえつつ、ぜBtoBマーケティングの議論が噛み合わなくなりやすいのか。ゴール設定や組織構造との関係から、マーケティング戦略をどのように捉え直すべきかを考えていきます 

BtoBビジネスの基本構造 

まず、BtoBマーケティングについて議論する前に、BtoBビジネスの構造について整理していきましょう。

そもそも、BtoBビジネスの性質は「単に取引が企業と企業の間で行われる」と理解するだけでは不十分です。より本質的にいうと、意思決定が単一の主体によって完結しないビジネス構造になっています。

多くの場合、情報を収集する担当者、技術的・業務的な観点で検討する部門、最終的な意思決定を行う責任者が分かれており、さらに予算管理やリスク判断を担う立場が関与することもあります。 

BtoBビジネスの基本構造から紐解くBtoBマーケティングの捉え方

このような構造では、購買行動は直線的には進まず、関係者それぞれが異なる関心や評価軸を持ち、検討は段階的かつ反復的に行われます。その結果、意思決定には時間がかかり、外部からは判断基準が見えにくくなります。

また、BtoBビジネスでは代理店やパートナーを経由して、最終顧客に販売している場合も多く、さらに状況がつかみづらくなるのが現実です。

BtoBビジネスにおいて「売れる理由」を単純化しにくいのは、この意思決定プロセスが複層的であるためです

また、BtoBビジネスの取引は継続性を前提とするケースが多く見られます。これは一度の購入で完結するのではなく、長期的な取引関係や運用を見据えた判断がなされるためであり、結果的に、価格や機能といった要素だけでなく、信頼性、実績、サポート体制といった観点も意思決定に組み込まれやすくなります。

これらの要素は短期的な数値では捉えにくく、担当者ごとに重視するポイントが異なることも多々あります。

この構造を前提にすると、BtoBビジネスにおけるマーケティングは、「購入を促す施策」を積み重ねる行為だけでは説明しきれないとわかるでしょう。複数の関係者が関与する意思決定プロセスの中で「どの段階に、どの情報が、どの立場の人に必要とされているのか」を捉える必要があるのです。

逆に、構造を整理しないまま施策や手法の話に入ると、議論が抽象化し、実務との接点を失いやすくなります。 

いわゆる「BtoBマーケティング」について散見される誤解 

現状、日本で「BtoBマーケティング」として語られている議論の多くは、特定のビジネスモデルや業界構造を暗黙の前提としています。にもかかわらず、それが明示、あるいは理解されないまま一般論として扱われてしまっているため、本質的な部分を多くの方が誤解してしまっています。

代表的なのは、BtoBマーケティングは一つの確立した方法論として定義できる」という誤解でしょう。

日本で「BtoBマーケティング」と呼ばれているものの多くは、リードを獲得し、案件化し、営業活動につなげるという文脈の中で整理されてきました。いわば、営業成果への貢献を主目的としたセールスマーケティングの体系が、実務の成功体験とともに一般化してきた側面があります。

この整理自体が誤っているわけではありません。むしろ、既存市場に既存製品を提供し、営業活動を効率化・高度化する局面においては、有効に機能する考え方です。

しかし、事業が新規市場の開拓や新規製品の創出を求められるフェーズに入った場合、同じマーケティングの枠組みがそのまま適用できるとは限りません

BtoBビジネスの基本構造から紐解くBtoBマーケティングの捉え方

 

このように、営業案件化支援を中心に発展してきたマーケティングの考え方が、「BtoBマーケティング」の一般像として語られることで、他の文脈が見えにくくなっているのが現状です。その結果、事業開発や価値設計、市場定義といった論点までを含むマーケティングの役割が、営業支援の延長として矮小化されやすくなっています。

さらに付け加えると、日本ではBtoBマーケティングを「施策の集合」として理解してしまうきらいもあります

本来、マーケティングは事業や市場との関係性の中で位置づけられる活動であるはずですが、実務では手段が先行しやすい傾向があります。その結果、「どの施策をやるか」という議論ばかりが進み、「なぜそれが必要なのか」「どのような事業状況を前提としているのか」といった問いが後回しにされがちなのです。

こうした誤解が重なることで、同じ言葉を使いながら、想定しているビジネス構造やゴールが異なっている状が生まれ、BtoBマーケティングの議論は噛み合わなくなります。

つまり、「BtoBマーケティング」という言葉そのものが、議論を簡略化しすぎているともいえます。何を前提とし、どの文脈で語っているのかを明確にしない限り、理解は表層的なものにとどまり続けてしまうでしょう。

ゴール設定次第では取り組むべき方向性は異なる  

以上のように、同じ「マーケティング」という言葉を使っていても、企業や組織が目指している状態は必ずしも一致していないことを踏まえると、各社で「施策のゴール設定」をあらためて見直すことが求められます。

どの企業にも当てはまる「BtoBマーケティング」は存在しないでも述べたように、「自社のビジネスモデル」「マーケティングの目的」「企業文化・風土」などから、目指すべき目的地を紐解いていかなければなりません。

例えば、ある企業では、マーケティングのゴールが新規案件の創出に置かれる一方で、別の企業では既存顧客との関係深化や、営業活動を支える情報基盤の整備が主目的となっている場合もあります。さらに言えば、価格戦略や提供価値の再定義といった、事業そのものに関わるテーマをマーケティングの射程に含めているケースもあるでしょう。

これらは優劣の問題ではありません。事業フェーズや市場環境、組織構造によって、マーケティングに求められる方向性が自然に分かれているだけです。

問題になるのは、ゴールが他者と異なっているにもかかわらず、同一のフレームワークや施策論で議論を進めてしまう場合です。その結果、「その施策は意味があるのか」「なぜ成果が出ないのか」といった問いが、前提を共有しないまま投げ交わされることになります。

BtoBのデマンドセンターとは?今こそ顧客志向の仕組みづくりが必要な理由でも述べているように、マーケティングのミッションが曖昧なままでは、トップ層が描く成果には繋がらないでしょう。

そもそもマーケティングとは、単一の機能として固定的に捉えられるものではなく、事業の中で果たす役割によって形を変えるものです。

優れたマーケターに求められる「需要創出を統合的に捉える考え方」「社内におけるマーケティングの役割を再定義する視点」「価格を含めた価値設計をマーケティングの議論に組み込む姿勢」などは、いずれも何を成果と定義するのか、どこに到達したいのかというゴールの置き方によって必要性が決まります。

「何をやるべきか」は、ゴールが決まらなければ定まりません。逆に言えば、ゴールが曖昧なままでは、施策の是非を判断する基準を持てないままなのです。

リード数なのか、商談の質なのか、営業活動の再現性なのか、あるいは価格決定における説得力なのか。どこを目指すのかによって、マーケティングが担うべき役割も変えていかなければなりません。

BtoBマーケティングで成果を出すには何が必要か? 

ここまでの内容を踏まえると、BtoBマーケティングにおける成果は、施策の巧拙以前に、組織としてどのような条件が整っているかによって左右されるとわかります。

ここで言う成果とは、短期的な数値改善に限ったものではありません。長期的な事業活動のなかで、マーケティングがいかに意味のある役割を果たし、貢献しているかも含まれます。

では何を意識すればいいのかというと、まず重要になるのが、本インサイトでもたびたび述べている「社内アライメントでしょう。

BtoBマーケティングは、単一の部門で完結する活動ではありません。営業、事業企画、プロダクト、経営層など、複数の立場がそれぞれ異なる形で顧客と接点を持っています。

そのなかで、マーケティングだけが独立して動いても、意思決定プロセス全体に影響を与えることは難しくなります。特に、マーケティング起点の企業変革で必須となる「変革ビジョンの具現化」とは?で述べたような企業変革レベルの取り組みとなると、誰がどの段階に関与し、どの情報を必要としているのかが共有されているかどうかが、成果を左右するのです。

加えて、「部門間における役割の整理」も必要となります。前述のとおり、マーケティングが担う役割が、リード獲得なのか、営業活動を支える情報基盤の整備なのか、あるいは事業の方向性や価値設計への関与なのかが曖昧なままでは、成果の評価軸も定まりません。

その結果、数値は出ているものの評価されない、もしくは評価はされているが事業に影響していない、といった状況が生じやすくなります。

BtoBビジネスでは、顧客が接する情報は多岐にわたります。「マーケティング資料」「営業資料」「オウンドメディア」「価格説明」など、それぞれで語られているメッセージングに一貫性がなければ、顧客側の理解は進みません。

部門ごとに異なる言葉で価値を語っている状態は、顧客内の意思決定を遅らせる要因となります。

これらの条件が整っていない状態で、個別の施策やツールを導入しても、「経営層や関係部門が期待している成果とズレた結果になりやすくなります

逆に言えば、こういった社内の関係性や役割、メッセージが整理されていれば、取り組むべき施策は自ずと絞られていくでしょう。 

まずは自社のビジネス構造・事業ゴールを精緻に理解する 

再度の強調ですが、意思決定構造が複層的であり、事業フェーズや市場環境によってゴール設定が各社で異なるBtoBビジネスで、その違いが十分に共有されないまま議論が進んでしまうことが、「正しいはずの取り組みをしているのに成果につながらない状況」を生み出している要因です。

こうした前提を踏まえれば、BtoBマーケティングに「これをやればうまくいく」といった普遍的な正解を求めること自体が難しいとわかります。日本で一般化してきた営業案件化支援を中心としたマーケティングの考え方も、特定の事業状況では有効に機能しますが、あらゆる企業、事業フェーズで当てはまるものではありません。

BtoBマーケティングの「基本」とは、新しい知識や手法を学ぶことではなく、自社の事業がどのような構造の中にあり、どのような意思決定プロセスを経て価値が選択されているのかを理解することです。

構造理解を欠いたまま施策を積み重ねても、成果は偶発的なものになってしまいます。一方で、事業・組織・市場の構造を正しく捉えられれば、取り組むべき施策や優先順位は自然とみえてくるものです。

BtoBマーケティングを戦略として機能させるためには、まずこの構造理解に立ち返る必要があるのではないでしょうか。

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