BtoBマーケティングが日本でも浸透するにつれ、ホワイトペーパーなどのダウンロード資料を作成しメール配信で展開するといった方法で、リードナーチャリングに取り組む企業が増えてきました。
一方でこうした活動を進めるなかでは、「ダウンロード資料を掲載したページが増えるにつれて、気づけば数回利用したきりで放置していることが散見される」というコンテンツのサイロ化が少なからず発生するものです。
実はこうしたコンテンツは、Webサイト上で集約すれば、顧客にとっても自社にとっても“新たな価値”を生み出す仕組みである「リソースセンター」を構築できます。
そこで本稿では、リソースセンターについて、概念や導入メリット、MAを利用した際の効果を説明したうえで、運用に必要な3ステップを解説します。
マーケットワンで実際に制作プロジェクトを担当した筆者が、具体的な実例も交えてご紹介しますので、お役立てください。
リソースセンターは過去コンテンツを孤立させないための仕組み
メール配信をはじめとしたリードナーチャリングは、BtoBマーケティングで重要なデマンドジェネレーションの基本的な考え方でも解説しているとおり、顧客側の関心が高まるフェーズになるまで顧客接点を保ち、情報交換を続けていくための、デマンドジェネレーションにおける重要なステップです。
メール配信などのナーチャリングキャンペーンでは、見込み顧客の関心に合わせたセグメントを対象として、いわゆる“刺さる”コンテンツにフォーカスした施策がおこなわれます。
そのため、LP(ランディングページ)では特定のコンテンツのみを取り扱っていることに加え、離脱を防ぐ意図もあって他のページやコンテンツへの動線は意図的に取り除かれているケースが多々あります。
つまり、再配信などの施策をおこなわない限り、同じコンテンツが再び日の目を浴びることは稀なのです。これでは、施策を重ねるほどに増えていくコンテンツを網羅して、活用し続けることは、経年とともに困難になっていくでしょう。
このように、「利活用の流れから取りこぼされやすい貴重なコンテンツ=資源(リソース)」に、新たな価値を付加していく仕組みが「リソースセンター」です。
米Marketoの共同創業者であるJon Miller氏の記事1によると、リソースセンター の定義について、以下のように述べられています。
“a section of your website where you can organize and publish your content in a way that makes it easy to find and share the content they need”
「利用者が必要とするコンテンツを簡単に探して共有できるようにするために、自社側でコンテンツを整理し公開したWebサイト上のセクション(筆者訳)」
上記の“コンテンツ”には、ホワイトペーパーに限らず、たとえばウェビナー動画やインフォグラフィックのような画像、ヘルプガイドなど、さまざまなタイプの媒体が含まれます。
日本ではリソースセンターの名前こそ浸透の前段階ですが、いわゆる「お役立ち資料」「資料ダウンロード」といった、各資料のLPへのリンクをコンバージョンポイントとして設置する施策は多くの企業によって実施されています。
リソースセンターについて、メリットを「利用者(顧客)視点」「自社視点」で整理すると以下のようになります。
- 利用者(顧客)のメリット :複数のコンテンツを1か所で見られるため、必要な情報を簡単に取得できるなど、利便性が高い
- 自社のメリット :コンテンツがより多くのユーザーの目に触れる機会を得られ、コンテンツ間を横断したシナジーが生まれやすい
Webサイトの訪問者にとっては、特定のコンテンツに惹かれてリソースセンターに来訪した際に、他にも異なる内容を取り扱ったコンテンツをまとめて目にする機会を提供できます。
それらのコンテンツのなかに“追加”で興味関心を誘発するものが見つかれば、大量の情報から自力で取捨選択せずに、その場で“手軽”に情報収集が可能です。
他方で、自社にとっては、これらコンテンツの受け皿としてリソースセンターのセクションを設ければ、そこを基点にした回遊の動線が生まれるという恩恵が得られます。
たとえば、メール配信や広告施策などの別のマーケティング施策と併用すれば、1つのコンテンツをきっかけにユーザーが回遊する機会が増え、相乗効果を狙っていけるでしょう。
リソースセンターとMA活用
以上のとおり、リソースセンターを活用すれば自社だけでなく、顧客視点での恩恵があります。ここで、企業がリソースセンターを運用するうえで重要となるのがMA(マーケティング・オートメーション)の活用です。
MAを用いたリソースセンター運用について理解するための前提として、まずは企業のマーケティング活動で利用されるWebサイトを、「コーポレートサイト」「マイクロサイト」に分けて整理します。
コーポレートサイトは一般的に、“コーポレートレベル”で管理された企業の顔となるWebサイトです。たとえば「marketone.com」のような単一のドメイン上に、企業情報や製品・サービス情報などのページが設けられた構造を採ります。
一方で、マーケティング活動においては「engage.marketone.com」のようなサブドメインを利用したマイクロサイトを設け、その上にMAなどを利用してランディングページを設置するケースも多々あります。
コーポレートサイトとMAで管理したマイクロサイトをそれぞれ利用して、リソースセンターを設置した場合のメリットとデメリットを比較すると、以下のとおりです。
コーポレートサイト | MAで管理するマイクロサイト | |
メリット | 企業単位で統一されたドメインのため、SEOなどの相乗効果を得やすい | マーケティング主体で管理されており、企画・運用が比較的おこないやすい |
デメリット | コーポレートレベルで管理されており、マーケティング部門の一存では企画・運用できない場合がある | コーポレートサイトとはドメインが異なるため、SEOなどの相乗効果を得にくい |
コーポレートサイトの場合、(特に規模の大きな企業となるほど)サイトの想定利用者が取引先(顧客)だけでなく、投資家や求職者など、あらゆるステークホルダーが含まれます。すると必然的に、社内の関係者も多くなり、複数部門を跨いだ内容確認や承認、スケジュール調整が何度も生じかねません。
リソースセンターは“立ち上げて終わり”ではなく、コンテンツの増加に合わせて継続的に更新していく必要があります。追加更新のたびに確認・調整工数が発生することは、常に複数タスクを兼務し、多忙を極めるマーケティングや運用担当者にとっては可能な限り避けたい状況といえるでしょう。
この点において、MAを利用しマイクロサイトにリソースセンターを設置した場合、マーケティングが管理・運用を担当している場合が多いため、(一部でコーポレート側の承認が必要なことは想定されるものの)より“小回りが利く”運用が可能になりやすいといえます。
SEO観点でのデメリットも存在するものの、自部門で裁量を持って管理ができる環境は長期的な視点で無視できないメリットです。そのため、更新が停滞して本来の目的であるコンテンツ利活用が損なわれる状況を回避するためにも、MAは重要な選択肢としてあがるでしょう。
リソースセンター制作・活用の3ステップ
ここからは、M1が実際に自社で立ち上げたリソースセンター「コンテンツ一覧」を実例に、リソースセンターを制作し活用する際の流れとその注意点を、下記3ステップに整理・解説します。
- 企画・設計
- 実装
- 運用
1.企画・設計
プロジェクトの目的とその背景の整理(企画)から、サイトの要件・仕様の作成(設計)までのステップです。この工程は、リソースセンター制作において、最も注意して十分な時間をかけて進めるべき段階といえます。
MA(マーケティングオートメーション)で自動化を果たすための3つのポイントでも書いているように、マーケティングでは「“そもそも何のためにそれを行っているのか”というビジネス上の大目的」が非常に重要です。
もともとマーケットワンでも、冒頭の例に漏れず、既存のホワイトペーパーが散在し活用されていないという課題がありした。そこで「既存資料を集約し活用できるWebサイトを作る」という施策レベルの目的を踏まえつつ、チーム内で下記のようなビジネス背景などの大目的を整理することで、リソースセンターを構築しています。
<ビジネス背景の例>
- フォーム提出者の情報をもとに営業でリードフォローをおこなう際に、「このリードはどの資料をダウンロードしたか(何に興味があるか)」を参照できる必要がある
- 営業へのリード受け渡し時に、マーケティング側でリード情報をマニュアル加工する手間を可能な限り減らさなければならない
通常、MAで取得したリード情報は資料ごと、つまりLPのフォームごとにシステムでまとめられます。そのため、取得できる情報は「この資料をダウンロードしたのは誰か」が軸であり、各リードの行動全体を追うには、個別のリード情報を掘り下げて取りまとめる必要があります。
そういったビジネス背景を踏まえた要件定義の例としては、以下のとおりです。
<ビジネス背景を踏まえた要件の例>
- フォーム提出者の情報を「ユーザー情報 × ダウンロードした全ての資料」でまとめたレポートが自動で作成される
- レポートが関係者へ定期的に自動送信される
このように、要件を明確にしておくことで、具体的な仕様作成をすぐに開始できるほか、意図と異なる仕様や取りこぼしの発生を防げます。
なお、これらのビジネス背景や要件は、後の工程で重要となるため、資料としてまとめておかなければなりません。
詳細は割愛しますが、マーケットワンでは「要件定義書」として、プロジェクト背景から要件や仕様、他のプロジェクトへの影響などをまとめた資料を作成する取り組みを実施しています。
リソースセンターに限らず、施策は“あくまで手段”であり、達成すべきビジネス上の大目的のためのもの。目指す姿をしっかり捉えたうえでチームや社内の関係者と十分に協議し、合意した内容を明確に要件と仕様に落とし込んでいくことが不可欠なのです。
実際に、筆者がクライアント業務と並行しながらプロジェクトを遂行できたときは、企画が不十分なために生じる手戻り工数がほとんど発生しなかったと記憶しています。
2.実装
「1.企画・設計」で作成した仕様をもとに、実際のサイトを制作し公開するまでのステップです。一般的に、サイト制作は協力部門に依頼することが多いため、自社では全体のスケジュール調整や納品されるアセットの検収を担当することが主となるでしょう。
このステップの注意点としては、1の段階で作成した要件や仕様などを明文化していないと、サイトが意図どおりに実装されているかどうかの判断が困難となる点です。
こういったトラブルを回避するためにも、実装する仕様内容をドキュメント化した仕様書のような資料は“必ず”用意しておくことが推奨されます。
3.運用
リソースセンターの公開後、コンテンツ追加などの継続的な運用と活用の段階です。
最後となるこのステップでは、獲得したリードの営業によるフォローから、サイト利活用のための施策やコンテンツの追加、分析によるPDCAなど、継続的な運用に関わるさまざまな事柄が含まれます。
マーケットワンでは、先述した通り、獲得したリード情報を関係者宛てに毎日自動配信できるようあらかじめ設計しています。それにより、日々の手間をかけることなく営業へ情報を受け渡すことが可能です。
サイト利活用の促進の観点では、展示会やウェビナーなどのイベントの後に、参加者へのフォローメール内でリソースセンターを紹介することも効果的です。
それにより、イベント参加直後で感度の高い状態のユーザーへのフォロー手段として有効活用が可能になります。実際にマーケットワンでも、マーケティングイベント後のメールをきっかけに多くのユーザーにより資料がダウンロードされたため、ほかの施策との相乗効果が得られたよい例といえるでしょう。
このような施策ごとに効果検証をおこない最適化していくプロセスも忘れずに組み込むことが、非常に重要になります。
さいごに
本稿では、リソースセンターとはなにか、また実際の制作・活用のステップと注意すべき点をマーケットワンの実例とともに解説してきました。日本においてはリソースセンターという単語はまだ馴染みがないかもしれませんが、コンテンツを有効活用し“続ける”ための有用な施策です。
前半でも述べたとおり、リソースセンターは、ただ制作しコンテンツを掲載するだけで終わりの施策ではありません。サイトを基点として自社のあらゆる施策と連動し、マーケティング活動を支えるプラットフォームの1つとして活用していくことで真価を発揮する仕組みです。
リソースセンター実現のためには、企画・実装に少なくない人的リソースが求められます。マーケットワンでは、リソースセンター構築も含めた、マーケティング活動全体の戦略設計を踏まえた企画策定からサポートいたします。
M1のリソースセンター「コンテンツ一覧」をまだご覧になっていない方は、ぜひこちらもご参照のうえ、お気軽にお問合せください。