顧客ごとにパーソナライズされたキャンペーンを展開するBtoB マーケティングでは、質が高いデータの取得が必要です。
その際、役立つシステムの1つが「カスタマーデータプラットフォーム(CDP)」です。
CDPは欧米で近年注目を浴び続けており、多くのBtoB企業がパッケージアプリケーションに投資したり、マーテックスタックの一部として自社で開発を進めたりしています。
一方で、日本ではCDPの核となるその機能についてあまり理解が進んでいないように見受けられます。
そこで今回は、MarketOne InternationalでリリースされたHow can a Customer Data Platform (CDP) help my B2B business?を翻訳し、BtoB企業にとってのCDPのメリットを紹介します。
今、多くのBtoB企業がCDPに注目する理由
米Forrester社の市場概況レポート『New Tech: B2B Customer Data Platforms, Q3 2021』のなかでは、BtoBビジネスにとってCDPの重要性が増していると指摘されています1 。
この背景には、「データ統合には明確なメリットがあること」に加え、「AI精度向上」「AI関連サービスが発展し続けていること」にあります。
BtoB企業がよりよい顧客体験を提供する上でも、データ管理の重要性は増しているでしょう。
そのような状況下にあって、CDPはデータ管理を強化する機能を持ち合わせています。Forrester社のレポートでは、以下のように述べられています。
“統合された顧客プロファイルデータを構築するために、自社データとサードパーティデータを統合する必要があります。CDPの活用でBtoB企業は、自社データの質を高め、ターゲティングの精度を上げ、適切なタイミングにパーソナライズされた体験をユーザーに提供できるでしょう”
CDPが注目されているもう1つの理由として、「オムニチャネルマーケティング」の台頭も挙げられます。マーケティングにおけるオムニチャネルとは、自社の全チャネルを統合し、一貫性のある体験価値を顧客に提供する取り組みです。
この際、データマネジメントの観点から、以下のような課題が発生してしまいます。
- チャネルを超えた一貫性のある顧客体験の提供が出来ていない。
- マーケティング担当者が企業ターゲティング・分析をする上で、サイロ化されたデータを整理・統合する作業負荷が発生する。
実際にForrester社のレポートでも、自社のデータの質が担保されていると答えるBtoBのマーケティング担当者は全体の12%のみで、84%の担当者は自社のデータマネジメントがうまく出来ていないと述べられています。
このようなデータマネジメントの課題の解決策としてCDPが注目を浴びているのが2024年現在です。
CDPではデータを集約し、一元管理することで、ターゲットを絞ったメッセージを発信できるようになるだけでなく、営業・マーケティングの部門間連携にも役立てられます。
CDPはどのように機能するのか?
CDP Instituteによると「CDPとは、他のシステムからもアクセス可能な、永続的で統一された顧客データベースを作成するパッケージ・ソフトウェアである」と述べられています2。つまり、これは「顧客情報を一箇所に集めて管理できるソフト」ともいえます。
CDPは顧客ごとに一元化されたページビューを作成するため、あらゆるタッチポイントにおけるデータポイントを顧客ごとに整理し、データを集約させられます。
具体的には、「マーケティング・オートメーション(MA)」「CRM」などのマーケティングや営業管理システムが挙げられます。「ERP」「取引情報」「サポートコールログ」「チャットボット」などの自社データもあるでしょう。
加えて、CDPは「企業データ」「デモグラフィックデータ」「Web上での行動データ」「広告インプレッション」などといったサードパーティーのデータに至るまで、多岐にわたるデータポイントからデータを収集可能です。
BtoBビジネスの場合は「企業レベルのアカウントデータ」と、「個人レベルのコンタクトデータ」を紐づけて管理する必要があることが、一個人の顧客情報のみを管理するBtoCビジネスとの大きな違いといえます。
本来、セグメンテーションや、オムニチャネルにおけるコンタクトレベルでのOne to Oneキャンペーンは、このようにさまざまなソースから取得されたデータを管理・統合することではじめて実施できるようになるのです。
BtoBビジネスにおけるCDPの真価
「BtoBビジネスでの活用」にしぼってCDPの機能に着目すると、CDPがもたらすメリットとしては以下のようなものが挙げられます。
- 組織内におけるデータサイロ化の打破
- 「ID管理」の解決
- データ管理とセキュリティの強化
- 行動データの収集
- オーディエンス設計
- パーソナライゼーション
- アクティベーション
- 顧客ごとの単一のページビュー生成
それぞれ個別に解説します。
1. 組織内におけるデータサイロ化の打破
BtoBビジネスにおいては、「既存顧客情報」「見込み顧客のデータ」が複数プラットフォーム間に“登録されているだけ”で、データ連携されていないケースが多々みられます。例えば、MAやDWH(データウェアハウス)、CRMシステムなどです。
こういった社内に散らばったデータを統合可能になることが、CDP導入を検討する最大の理由といえます。
CDPを導入することで、営業やマーケティング、カスタマーサポートといった部門全体で同一の統合されたデータにアクセスできるようになります。
チーム全体で質の高いデータを共有し、正確なデータベースをもとに業務を進められるようになれば、部門間での「取り組んでいること」「施策の優先順位」の可視化が可能です。 これにより、事業戦略やKPIなどの理解が深まるため、部門間連携をより推進できるでしょう。
2. 「ID管理」の解決
2024年現在はBtoBビジネスの商流が複雑化し、決裁者の特定や意思決定の流れも多様になりつつあるなかで、「IDリソリューション」の重要度が増してきています。
IDリソリューションとは、複数のソースから「メールアドレス」「ログインデータ」「IP番号」などの顧客データを、正確かつ一元的に照合・統合することです。 CDPではIDリソリューションの機能を使って、収集したすべてのデータを1つのBtoB顧客プロファイルにまとめられます。
これにより、営業、マーケティング、その他の事業部門がそれぞれの顧客に対して“共通認識”を持てるようになり、顧客インサイトの共有に繋げられます。
3. データ管理とセキュリティの強化
2023年は「サードパーティークッキーの死」とも呼ばれ、大々的な利用に終止符が打たれました。
「プライバシー第一主義」になった世界では、パーソナライズされた体験をどのように届けるべきか、マーケティング担当者は悩ましい状況でしょう。 このような状況下でCDPを利用することで、データ保護法を順守しながらユーザーデータを収集・蓄積し、管理し続けられます。
「厳格化されたプライバシーへの配慮」「デジタル上のパーソナライズされた体験向上」の“両取り”が可能になるのです。
4. 行動データの収集
McKinsey & Company社の調査では、「顧客の行動データを活用する組織は、売上成長率で85%、粗利益率で25%以上、同業他社を上回る」と述べられています3。
行動データは、見込み客・既存顧客と自社との細かなやりとりすべてを指します。顧客の行動データはSNS、MA、Webサイト、モバイルアプリ、CRM、コールセンター、電子メールから収集可能です。
もちろん、CRMでも顧客と直接行ったやり取りを照合できはしますが、CDPのようにさまざまなチャネルから取得した行動データを分析に反映することまでは叶いません。
CDPを利用すれば、各顧客の全体像を把握し、チャーン(解約)しそうなタイミングを察知するのみならず、カスタマーリテンション(顧客維持)の改善も期待できるのです。
英SnowPlow社は行動データの活用について次のように述べています4。
“行動データは高度な分析やAIモデルやアプリケーションの構築に最も役立つ情報源です。顧客、社外のステークホルダー、社内のチームメンバーの日々の行動。彼らが取った行動や意思決定の結果のみならず、その結果に至った背景まで、秒単位レベルのきわめて詳細なデータを取得し、活用できます”
5. オーディエンス設計
CDPはアカウントベースドマーケティング(ABM)を実施する際のセグメンテーションでも極めて有効です。
ABMでは、より有効なセグメンテーションができれば、その分よりよいターゲティングやオーディエンスの構築ができ、成果に繋がります。
CDPでは、見込み客属性の特徴や行動データから、Webサイト・そのほかのプラットフォーム上での“購買意欲の兆候”をほぼリアルタイムで察知できます。つまり、購入意欲が高いものの、まだマーケティングや営業部門からのアプローチを受けていない潜在顧客を見つけ出せるのです。
このように蓄積されたデータのもと、さまざまな切り口からオーディエンスのセグメンテーションが可能なCDPは、ABMのみならずBtoBマーケティング全体で非常に有益でしょう。
6. パーソナライゼーション
米Salesforce社は「個人の興味関心に合わせたコンテンツを閲覧したBtoBビジネスの顧客は、そうでない顧客に比べて5倍以上のエンゲージメントが期待できる」と述べています5。
CDPに蓄積されたデータを用いることで、パーソナライゼーションされた顧客体験に必要な無数のデータを、さまざまな切り口でセグメンテーションできるようになります。
例えば「特定の製品ページを閲覧したことがある」「過去にライブチャットでコメントや反応があった」といった具体的な行動を基に分類可能です。
CDPで一元管理できるデータはABMの戦略策定時に真価を発揮します。例えば、BtoBマーケティング担当者が特定のターゲット層に刺さるキラーワードを用いたメッセージを発信するなど、効果的な施策を実行できるようになるのです。
ABMの性質上、こういったアプローチを機能させるためには、大量のデータが必要になります。「顧客ニーズ」「過去のアプローチにおける最適なチャネル」「過去の取引履歴」「企業間のやり取り」といった、顧客企業と自社の接点を構築する上でありとあらゆるデータが求められます。
CDPでは、オンライン・オフライン問わず収集したデータを統合し、それを基にセグメンテーションできるため、詳細なターゲティングが可能になります。 具体的には、「顧客が使用しているツール」「業界」「企業規模」といった基準でターゲットを絞り込めるため、それぞれアプローチしたいターゲットに対して、パーソナライズされた施策の設計を行えます。
7. アクティベーション
CDPではコンタクト単位、あるいは企業単位のデータを転用できるため、CDP上のデータをほかのデジタルツールに転用することも可能です。
例えばメールキャンペーンツールや、広告プラットフォームにもデータを転用できるため、各ツール・システム間におけるマーケティングキャンペーン全体のメッセージングの調整などをリアルタイムで行えます。
8. 顧客ごとの単一のページビュー生成
CDPはコンタクト単位で360度全方位の顧客情報を蓄積し、単一のページビューで一覧にできるため、各部門が成果を出す上で役立つ情報を得られます。
CDPで確認できる詳細な顧客データを基にすれば、BtoB企業の役員層ならより正確な意思決定が可能になり、マーケティング担当者であれば収益貢献度が高いキャンペーンの展開が可能になります。ほかにも、カスタマーサポート担当者であれば、トラブルシューティング対応の迅速化も期待できるでしょう。
米Aquia社が実施した調査によると、2021年時点でマーケティング担当者の93%が「自社のオーディエンスの理解を深めるため、ファーストパーティーデータを収集することの重要度が増している」と感じているとのことです6。
「ファーストパーティ(自社)」「セカンドパーティ(委託するとベンダーなど)」「サードパーティー(第三者)」のデータを複数のチャネルから収集することが、CDPの活用ではさまざまな利点があります。
特に、顧客ビューの取得のみならず、データの統合、突合、クレンジングを通し、CDPという単一のプラットフォームに情報を集約できるため、「顧客の次の行動予測」「ほかのマーケティングプラットフォームへの連携」といったことを行えます。これにより、データドリブンなキャンペーン展開が可能になります。
CDPは高性能であるものの、あらゆるビジネスに適している訳ではない
CDPを“正しく”導入できれば、あらゆる顧客関連データを一元的に管理でき、データのサイロ化を解決するだけでなく、深い顧客インサイトの取得まで実現可能です。
見込み顧客や既存顧客の全体像を把握し、顧客理解を深めることで、マーケティングキャンペーンの改善のみならず、オファリングや今後発生する顧客とのやり取りすべてをよりよいものにできるでしょう。
しかしながら、すべてのBtoBビジネスでCDPが万能に機能するわけではありません。
なぜなら、CDPは導入費用が嵩むだけでなく、導入に求められる技術要件も高いため、多大なリソースを投資する必要があるためです。 また実際のところCDPで得られる恩恵の大半は、よりシンプルな手法で再現できることも珍しくないでしょう。 したがって、CDPの導入が、「ナッツを割るのにハンマーを使う」がごとく、過剰な設備投資になる可能性もあるのです。
CDPというツールに飛びつくのではなく、本格的な導入の前に「本当に必要な要件は何なのか」「それを実現するために利用可能な潜在的なソリューションはほかにないか」など、自社のニーズから紐解いた計画を策定することが大切です。
- Forrester「New Tech: B2B Customer Data Platforms, Q3 2021」 [↩]
- CDP Institute「CDP Basics」 [↩]
- McKinsey & Company「Capturing value from your customer data」 [↩]
- Medium「Which Behavioral Data Platform is Right for Your Company」 [↩]
- Avaus「Salesforce Customer 360 Audiences – The long awaited Salesforce CDP」 [↩]
- Acquia「Acquia 2021 CX Report」 [↩]