はじめに
「マーケティングってなんだと思う?」
筆者が新卒で日系メーカーに入社後、グローバルマーケティング部門に配属された初日に上司から問いかけられた言葉です。そのときは「製品が売れる仕組みを作ること」と答えたことを覚えています。 筆者は大手製造業で法人営業・グローバルマーケティングを経験後、現在はマーケットワン・ジャパンに入社し、日系企業のクライアント様のマーケティング変革・DXプロジェクトのお手伝いをしております。
「マーケティングには仕組みをつくることを期待する」とはコンサルティングの中でご一緒する企業の幹部の方々も口にする言葉で、当時の自分の認識と大きくズレはないと思っています。一方で「仕組みを作ること」と「仕組みを回し続けること」には大きな隔たりがある、ということをプロジェクトという形でクライアントと伴走する中で日々痛感します。
デジタルトランスフォーメーション(DX)という言葉が叫ばれて久しくなっているなか、「デジタルを活用しながら新しい仕組みを作り、回し続ける」ことにチャレンジしている企業が増えてきています。マーケットワンはBtoBマーケティングに特化したコンサルティング・実行サービスを提供しており、読者もビジネスサイドの方々が多いと思います。
そこでビジネスサイドという視点に立った際のDXへの取り組み方はどうあるべきかという観点で複数回に渡って連載していきます。
そもそもDXとは何か
経済産業省が2020年12月に発行したDXレポート2によると、現在DXに取り組んでいる企業の中の自己診断では95%が進んでいないと回答しています。
DXという言葉があふれかえっていますが、そもそもDXとは何を意味しているのでしょうか?経済産業省の同レポートでは以下のように述べられています。
“企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること “
また、DXは3レイヤーで構成されており、3つが合わさってDXと述べられています。
DXを進める上で確かに3つすべてが相互に連動しあう必要がある一方、現場での会話(時には経営レイヤーでも)を伺っていると、「デジタルトランスフォーメーション」x「マーケティング」という便利なビッグワード同士が絡み合い、様々なレイヤーの話が混ざっていることが多い印象です。
- コロナで変化した商習慣に対し、セールスのデジタル化で対応したい
- 「モノ売り」から「コト売り」へのシフトをデジタル化で推進したい
- 顧客体験最大化に向けてマーケティングをデジタル化したい
これらはよくあるトップオーダーの一例です。このようなミッションに対して、3つのレイヤーをまたがって様々な内容を内包してしまっているため、具体的にどこから手を付けるべきか、苦慮されているケースが多いのではないでしょうか。
DXでの要点はスコープ決め
今回の主な視点になる「ビジネス側」という観点で考えた場合、特に販売プロセスに関わるマーケティング・営業においては、「誰に – Who」「何を – What」「どう売るか – How」が相互作用しながら絡み合ってきます。
売る仕組みと聞くとHowの仕組み部分だけに目が行きがちになりますが、例えば上であげた「モノ売り」から「コト売り」にシフトする場合、売る物が変われば売り方が変わる。新製品が新コンセプトであれば売る相手も変わる。そのように相互依存関係が発生するため、いわば同時に動き続ける点を追いかけ続けなければならないのが実情です。これらに関しては、以前ホワイトペーパーの中で詳しく解説しています。
そのような状態で、変革の手段であるデジタル化の貢献領域をどこに設定していくべきか、そのスコープ決めが重要になります。新製品開発に向けて企画をするにしても、ニーズ情報が自社に全くなければデジタル基盤は使いようがない。また新しい顧客に売り込むにしても、顧客情報がなければデジタルをつかってアプローチもできない。自社が置かれたビジネス環境・全社/事業のイニシアチブから必要な要素を紐解き、DXのスコープを決めていくことが求められます。
DXにおけるプロジェクト設計の難しさ
DXはビジネスモデル「変革」というくらいなので、これまでと違った取り組みが必要になります。また、変革のイニシアチブは経営者が持っていることが多く、経営レベルにとっては具体的に見えても、現場レベルにとっては抽象度の高いものになります。そもそものビジネスの要件定義ができない中で、DXプロジェクト=システムプロジェクトととらえてしまうと、システムの要件定義が出来ない、もしくは無理やりシステム化に落とし込んだ末の無用の長物が出来上がります。
加えて、組織横断と定義づけられている通り、複数部門がまたがることも難易度が増す要素となります。あくまで、「自部門の立てたミッションに対して、活動をして評価をされる。」というのがインセンティブ設計の基本的な姿になりますが、部門ごとにアラインが取れていないとメンバーレベルでもチグハグになります。責任の所在が不明確になり、ボールの投げ合いにもなりえます。
こういった状況の中で大きく始めるのではなく、「小さな成功体験」を重ねるためにPoC (Proof of Concept)のサイクルを回しながら進めることが主流となっています。一方で、経済産業省が2018年に発行したDXレポートを見るとこういった取り組みが上手く機能していない状況が見て取れます。
こうした中で、例えば、経営者からビジネスをどのように変えるかについての明確な指示が示されないまま「AI を使って何かできないか」といった指示が出され、PoC が繰り返されるものの、ビジネスの改革に繋がらないといったケースも多いとの指摘がなされています。
それでは成果を出すためのDXプロジェクトの進め方はどのようなものになるのか?を我々のケーススタディから次回以降解説していきます。