​​Marketing Strategy​

BtoBマーケティングを「部分最適」で終わらせないためには何が必要か?

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当社マーケットワン・ジャパンは2021年から5年に渡り、本インサイトでBtoBマーケティングに関するコンテンツを配信し続けてきました。

当時と比較すると、デジタルマーケティングやABM、データ活用など、さまざまな手法やフレームワークが紹介され、実務の現場でもさらに導入が進んでいるように見受けられます。

しかし、その多くは「どの施策を採用するべきか」「どの手法が成果につながるのか」といった実行レベルの議論に焦点が当たりがちで、それらの取り組みがどのような事業構造や成長フェーズを前提としているのかについては、必ずしも十分に整理されていないと感じられます。

実際には、同じBtoBマーケティングという言葉で語られていても、企業が置かれている状況は大きく異なります。例えば「既存市場に既存製品を展開するフェーズ」と「新たな市場や価値を探索するフェーズ」とでは、マーケティングに期待される役割や成果の捉え方は大きく変わります。

にもかかわらず、日本のBtoB企業では、営業案件化支援を中心に発展してきたマーケティングの考え方が、一般的なモデルとして語られているきらいがあります。

本稿では、なぜBtoBマーケティングに関する議論が噛み合わなくなりやすい理由を整理した上で、企業の置かれているフェーズや組織構造との関係を踏まえ、BtoBマーケティングをどのような視点で捉え直すべきかを考えていきます

なぜBtoBマーケティングは目線合わせが難しいのか?

BtoBビジネスの基本構造から紐解くBtoBマーケティングの捉え方でも述べた通り、BtoBマーケティングについて議論する際、施策の是非やフレームワークの優劣を論じているにもかかわらず、前提が揃わないまま話が進んでしまう場面が散見されます。

その背景には、単なる知識不足ではなく、マーケティングという言葉の定義の広さに違いがあります。BtoBマーケティングを「営業案件化支援の延長」として捉える立場もあれば、事業設計や市場選定まで含む統合機能とみなす立場もあるため、同じ言葉を用いていても、想定しているロールが異なれば、議論は自然とずれていくのです。

加えて、問題はそれだけではありません。見落とされがちな点として「マーケティングのどの段階を成果として重視しているか」が部門ごとに違うということも挙げられます。

BtoBビジネスでは、成果が表面化するまでに時間がかかります。検討期間は長く、複数の関係者が段階的に関与します。そのため、どの時間軸を重視するかによって、マーケティングの評価は変わってくるのです。

営業にとっての関心ごとは、受注に近い領域にあります。案件化や商談化が進んでいるかどうかが重要であり、成果は比較的短期で測定される一方で、経営の重心は事業全体の成長曲線にあるため、市場ポジションや価格戦略、競争優位といった中長期の構造が問題となります。

マーケティング部門は、その中間に位置づけられることが多く、この「時間軸の違い」が明示されないまま議論が進めば、短期成果と中長期構造が同列に扱われ、評価軸は混線します。

特に、「認知度の向上」「引き合いの増加」などは、BtoBの交換単価な商材では時間がかかりがちです。案件獲得であれば比較的短期で成果を出せはしますが、それも商材に依存する部分もあり、例えば車載関連であれば「新規案件の獲得」に数年かかることは珍しくありません。

このように、一言にマーケティングといっても商材特性で大きく評価軸が異なってくるのです。

特に、日本のBtoB企業では、既存製品をいかに効率よく売るかという発想を起点にマーケティング機能が発展してきた背景があります。その結果、「あるものを売る」重心が強くなりやすく「市場そのものを再定義する」「ポートフォリオを組み替える」といった論点は、別の機能の役割として切り分けられる傾向があります。

マーケティングの使命の一つは「市場価値の創造」にある

BtoBマーケティングの議論が噛み合わない背景には、以上のような「ロール(役割)」の違いだけでなく、マーケティングの機能をどのように捉えるかという認識の差もあります。

マーケティングを「顧客需要を効率よく獲得する機能」と理解するのか、それとも「市場における顧客の評価軸や価値を再定義する機能」と理解するのか、つまり営業や製品開発など他の機能と連携しながら、その市場理解を後押しする役割としてマーケティングを位置づける考え方です。この前提が異なれば、成果の見せ方も評価軸も変わります。

本来、マーケティングの使命には市場価値の創造も含まれます。ここでいう市場価値とは、単なる受注件数やリード数ではありません。どの市場を定義し、どの評価軸で選ばれる存在になるのかを設計し、その基準を市場内に形成していく営みです。

BtoBマーケティングを「部分最適」で終わらせないためには何が必要か?

この視点で捉えると、「現場担当者」と「部長以上のマネジメント層」では、成果の見せ方も異なってくると理解できるでしょう。

現場では、施策単位の成果が求められます。リード数、商談化率、受注率といった指標は明確であり、短期で可視化できます。

一方で、部門責任者以上の層が問うのは、事業としての成長性や競争優位の持続可能性ですので、市場内でのポジション、価格決定力、将来的な拡張余地など、時間軸が異なれば見るべき市場も異なってきます。

どちらも誤りではありません。ただし、短期の成果指標だけでマーケティングを評価すれば、市場価値の創造という使命は見えにくくなります。市場内の評価軸が変わりつつあるのか、競争の基準が自社に有利な方向へ動いているのか、といった変化は、受注件数だけでは捉えられません。

既存需要への対応力は必要です。しかし、それに終始すれば、競争条件は他社が設定したままとなります。

つまり、市場価値の創造とは、比較の基準そのものに働きかけることともいえます。価格で比較される状況から脱するのか、機能優位を軸にするのか、それとも別の価値軸を提示するのか。その設計を担うのがマーケティングです。

したがって、マーケティングの使命の一つを市場価値の創造と定義することは、単に概念を高尚にすることではありません。現場の成果と経営の成果を接続する視点を持つことです。施策単位の成果が、どのように市場内の評価軸の変化につながっているのかを説明できなければ、組織内の目線は揃わないでしょう。

BtoBマーケティングを部分最適で終わらせないために必要な視点

ここまで見てきたように、BtoBマーケティングの議論が噛み合わなくなるのは、ロールや時間軸、成果の見せ方が異なるからです。

問題点を整理すると、それぞれの立場が合理的であるがゆえに、議論が部分最適に収束してしまっているのです。

営業は受注に近い指標を追い、現場のマーケティングは施策成果を示し、経営は中長期の競争優位を問います。どれも正しい視点です。しかし、その接続が設計されなければ、全体としてどの市場でどの価値軸を築こうとしているのかが見えなくなります。

ここで必要になるのが、ホリスティック(包括的)な視点です。

BtoBマーケティングを考えるうえで重要なのは、その活動が一つの領域に収まるものではないという点です。短期的には顧客の案件活動やチャネル構築といったテーマがあり、既存顧客への提案機会を増やす取り組みが求められます。

一方で、中期的には既存製品の拡販や市場でのポジション形成が課題となります。さらに長期的には、新製品の開発やアライアンスの検討、新しい市場領域への展開といったテーマも視野に入ります。

BtoBマーケティングを「部分最適」で終わらせないためには何が必要か?

このように時間軸が変われば、取り組む内容も見ている市場も変わります。短期では既存顧客の案件が中心になりますが、中長期では市場そのものの広がりや新しい価値領域が問題になります。BtoBマーケティングとは、こうした異なる時間軸の活動が重なり合う領域です。

さらに、新しい領域を検討する際には、自社がどのような存在として市場に価値を提供していくのかという視点も問われます。どの市場で、どのような役割を果たす企業でありたいのか。その方向性は、単に売上機会だけでなく、社会や顧客に対してどのような意義を持つのかという観点とも関わってきます。

こうした視点を組織の中で共有し、実際の行動につなげていくには、営業、製品開発、経営など、異なる立場のメンバーが同じ方向を向いて動けるようにすることも必須です。広い意味では、マーケティングの重要な役割のひとつといえます。

このようにBtoBマーケティングには、短期の案件活動から長期の市場形成まで、多様なテーマが存在します。個々の施策だけを切り出して議論すると部分最適に陥りやすくなりますが、それぞれの活動を時間軸の中で位置づけて捉えることで、初めてマーケティングの全体像がみえてくるのです。

包括的な視点を戦略に落とし込むにはどうすればいいのか?

以上のような使命を掲げても、それが戦略に転換されなければ意味を持ちません。問うべきは、自社がどの成長領域へ進もうとしているのかです。

多くのBtoB企業は、既存市場に既存製品を最適化する領域で成果を積み上げています。これは合理的な選択です。しかし、その枠内での改善を続けるだけでは、競争の基準そのものは変わりません。市場での評価軸を動かすには、どの市場と製品の組み合わせで勝ちにいくのかを明確にする必要があります。

アンゾフのマトリクスというフレームワークがありますが、「既存市場の深耕を続けるのか」「新市場へ広げるのか」「新製品で市場を拡張するのか」といった選択肢が挙がったとしても、いきなり新市場×新製品へ進むことは現実的ではありません。だからこそ、自社の能力と市場理解を踏まえ、どの象限へ段階的に移るのかを定めていく必要があります。

BtoBマーケティングを「部分最適」で終わらせないためには何が必要か?

ただし、戦略の方向性を定めるだけでなく、組織が同じ方向を向かなければ、戦略は絵に描いた餅にとどまります。

ここで必要になるのが、社内における共通言語の形成です。「インターナル・マーケティング」がマーケット・イン型の事業開発を加速させるで解説したように、どの市場で、どの評価軸で選ばれたいのか。その定義が営業、プロダクト、経営の間で共有されているかが問われます。

現実的には、全社を巻き込むことは容易ではないと重々承知しています。

しかし、戦略の核を簡潔に言語化し、日常の意思決定に反映させる仕組みは実際問題として今後ますます重要になってくるでしょう。議体、評価制度、情報共有の流れのどこかに、その戦略意図が組み込まれているかどうかが競争優位性を確立する上での分水嶺となります。

市場価値の視座を戦略に落とすとは、理論を増やすことではありません。戦略の方向性を定め、それを組織内で共有し、意思決定の回路に埋め込むことではじめて、施策は一つの方向へ収束し始めます。

まずは自社内でマーケティングに期待されている機能を整理しよう

ここまでいくつかのフレームワークに触れてきましたが、フレームワークがあるだけで戦略が作れるわけでも、成果が出るわけでもありません。フレームワークはあくまで思考を整理するための道具であり、それ自体が答えになるわけではないからです。

ただし、体系立てられたフレームワークを用いることには意味があります。自社がどの方向を目指しているのか、そして関係者がそれをどのように理解しているのかを言語化し、すり合わせる際のたたき台として機能するためです。

営業、製品開発、経営など立場が異なるメンバーが同じ構造で議論できるようになるだけでも、戦略の解像度は大きく変わります。

また、具体的な施策から着手すること自体が悪いわけではありません。しかし、その施策が全体の中でどのような位置づけにあるのかを整理しないまま進めてしまうと、活動は個別最適の集合になりやすくなります。

そのため、まず確認しておきたいのは、自社の中でマーケティングにどのような機能が期待されているのかという点です。案件創出を中心とした営業支援なのか、市場理解を深めて製品戦略に反映させる役割なのか、あるいは事業全体の方向性を検討するための情報基盤なのか。

マーケティングの役割がどこまで求められているのかを整理することによって、どの施策に優先順位を置くべきかも自ずと見えてくるでしょう。

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