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なぜABM(アカウントベースドマーケティング)は製造業と相性がよいのか?(4) - BtoBマーケティングにおける三方よしとABM -

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三方よしとABMの関係性 

三方よしとは、商売において「自分よし」、「相手よし」、「世間よし」の三方を満足させるよう行わなければいけないという意味の言葉で江戸時代中期に全国的規模でビジネス活動を行い、時には海外へも進出していた近江商人の思想・哲学を伝えたものだといわれています。
「商売において売り手と買い手が満足するのは当然のこと、社会に貢献できてこそよい商売といえる」という考えで、古くからある名言というだけではなく現代においても伊藤忠商事をはじめ多くの日本企業の経営の考え方の根幹となっています。 

では、なぜこの三方よしがABMと関連してくるのでしょうか?
ABMを含むマーケティングそのものが経営方針を体現するものだという大枠の考え方もありますが、もう少し踏み込んで特にABMにおいての三方よしとは何か筆者の私見となりますが、以下にまとめてみました 

三方よし重点領域、関連キーワードABMで実現している状態
世間よし価値主導:製品単体ではなく、なぜその製品を作っている「企業」から製品を購入するのかという社会的な理由を重視 
関連キーワード:CSR、SDGs
ブランドアイデンティティ 
特定の製品の価格、機能優位性に留まらず、価値共創を行うパートナーとして顧客企業との関係性を築いている。自社の製品を使ってもらうことによって顧客企業のCSR、SDGsを推進できるような、価格、性能を超えた社会貢献に寄与できる製品の製造、営業活動が出来ている状態
期待成果:自社ブランドが社会に広く認知されている
相手よし顧客志向:顧客の求めるものニーズ収集を重視し、ニーズ起点にて差別化された製品を製造販売する
関連キーワード: STP 
顧客のニーズを複数の製品、部署に対して把握し、現状の自社の製品の販売だけでなく個別の顧客ニーズに応える製品の開発、製造を行うことにより「特定の顧客企業」との関係性を強化、競合他社に対する優位性を獲得できている状態
期待成果:顧客ニーズに副った製品の差別化による顧客企業との関係強化
自分よし製品中心:良いものを作って売る販売促進が中心
関連キーワード:4P 
顧客企業の複数事業部に対して自社の複数の製品販売するための各キーコンタクトと把握、競合製品に対する満足度、購買予定など自社製品の拡販に必要な情報の把握、製品訴求のためのキーコンタクトと関係性が構築できている状態
期待成果:短期的な売上・収益の向上

こうしてみてみると三方よしの考え方は、現代では当時とは違うキーワードで語られているものの、言っている内容は現代においても十分に通用するものであると思います。
ほとんどの場合、ABMの主要な目的の一つは「ターゲットとなっている個々のターゲット企業からの売上、収益を上げる」ことになると思います。
これはもちろん自社の経営にとっては非常に重要な点でありますが「この視点」だけですと、「自分よし」に止まってしまい自社の製品をより多く使ってもらうことによって「どんなメリット」が顧客企業にあるのかの「相手よし」、ABMを行うことで自社、顧客企業がどのように社会貢献できるのか「世間よし」の視点を取り込むことが非常に重要となります。 

 

三方よしのABMを具現化するための挑戦 

三方よしのABMをいかに具現化するかは非常に重要なポイントとなります
自分よしが具現化している状況はシンプルに売上収益が上がっているという状況であり、想像もしやすく必要な施策も具現化しやすいです

しかし、「相手よし」「世間よし」となってくるとそもそもどういう状況、状態を持って「相手よしを具現化しているのかを事前に社内で合意する必要がありまたそれを達成するための施策をどう設計するかが重要になります
この具現化、設計がきちんと定まっていないために、三方よしを目指したABMが掛け声倒れになっているケースが多いのも残念ながら事実です。
相手よし」「世間よしまでを目指す場合には、自分よしABM実現のために必要な機能が大きく変わってきます
自社がどこまでの段階を目指すのか明確な目標の設定とは何なのかを理解しそれを達成するために必要な組織を巻き込んでABMを実施することが非常に重要となります

下記に三方よしが実現している状態、そのために必要な挑戦を筆者の視点でまとめてみました

三方よしABMで実現している状態 ①実現するための挑戦
②最低限連携が必要な機能
③主な販売対象製品
世間よし 特定の製品の価格、機能優位性に留まらず、価値共創を行うパートナーとして顧客企業との関係性を築いている。自社の製品を使ってもらうことによって顧客企業のCSR、SDGsを推進できるような、価格、性能を超えた社会貢献に寄与できる製品の製造、営業活動が出来ている状態

期待成果:自社ブランドが社会に広く認知されている
①実現するための挑戦
特定製品のサプライヤーという立場ではなく、東レとファーストリテイリングに代表されるような「共創パートナー」として認知されるために、技術交流会の実施に加え、顧客企業の開発ロードマップの共有が行われ、自社のリソースを顧客企業の付加価値向上に寄与できる企業としての価値提供の実現

②最低限連携が必要な機能
マーケティング、営業、研究、事業推進、開発、経営財務などの全社機能

③主な販売対象製品
既存、新規関わらず顧客企業の価値向上に寄与できる製品および、複数製品の組み合わせ
相手よし顧客のニーズを複数の製品、部署に対して把握し、現状の自社の製品の販売だけでなく個別の顧客ニーズに応える製品の開発、製造を行うことにより「特定の顧客企業」との関係性を強化、競合他社に対する優位性を獲得できている状態

期待成果:顧客ニーズに副った製品の差別化による顧客企業との関係強化
①実現するための挑戦
様々な製品技術を対象に定期的な技術交流会の実施などを通して顧客企業が既に拡販に成功している製品だけはなく、これから設計、製造する企画段階でのニーズを収集し、自社のシーズ段階の製品とのマッチング、研究開発テーマのアジャストメントを図る施策の実施。既存製品の量販パートナーという位置づけから開発、企画段階から声がかかるパートナーであるという認識を社内外から得るためのマーケティング活動

②最低限連携が必要な機能
マーケティング、営業、研究、事業推進、開発機能etc

③主な販売対象製品
既存製品 + シーズ段階の製品
自分よし顧客企業の複数事業部に対して自社の複数の製品販売するための各キーコンタクトと把握、競合製品に対する満足度、購買予定など自社製品の拡販に必要な情報の把握、製品訴求のためのキーコンタクトと関係性が構築できている状態

期待成果:短期的な売上げ・収益の向上
①実現するための挑戦
マーケティング、営業が連携しターゲットとなる顧客企業に対し、自社の既存製品に対するニーズ、キーコンタクト情報の収集と販売、継続的な関係の構築

②最低限連携が必要な機能
マーケティング、営業機能

③主な販売対象製品
既存製品

自社の既存製品を特定企業に拡販することがABMにおける「自分よし」だとすれば、特定企業のニーズに基づき自社の技術を活用し、競合他社と差別化を得た状態で製品の提供、開発が出来ていることが「相手よし」となります。
また、自社の製品を使ってもらうことによって顧客企業の
CSRおよび、SDGsを推進できるような、価格、性能を超えた社会貢献に寄与できる企業姿勢、製品の製造、販売が出来ている状態を「世間よし」と表わすことができます

少し異なるかもしれませんが、半導体メーカーであるインテル社の製品を使っていることを完成品メーカーであるパソコン会社がこぞってPRしていた時代がありました。
それがある種の「相手よし
の状態を体現していたのかと思います。
インテルからすれば顧客企業であるパソコン会社がインテルの製品を使っていることが顧客企業の製品に対する性能の高さの証明になると思ったからこそ、CMなどでわざわざ「インテル入ってる」とキャッチコピーを入れ、自社の製品にはインテル社製の半導体が使われていることを大いに宣伝し、活用していました。
これは消費者がインテルという「企業」の製品に高い信頼をおいているからこそ成立していた構図であり、自社の製品が顧客企業の価値向上に寄与している代表的な例と言えます。 

「自分よし」のステージを脱却して、「相手よし」「世間よし」のABMを目指す場合には、自社視点での技術のシーズを活かすプロダクトアウトという企業文化から、マーケットインテリジェンス、ニーズを基にマーケットインへの転換などABMという名前ではあるもののマーケティング部門・機能だけではなく全社的な取り組みを必要とします。 

前述の通り、ABMの推進には単独の部門、機能を超えた全社的な取り組みが必要です。
ABM推進のために必要なマーケティング組織以外の部門が自分ごととして取り組むべき挑戦として理解、協力を得るためにも、社会貢献まで見据えた三方よしの考え方を基本としたABMの構築、また、自社内に発信し意義付けすることは非常に重要なことだと筆者は考えます。 

次回は、ターゲット企業から必要な情報を取得するための、ステップと全体像を弊社が提唱しているモデルを基に解説いたします 。