Marketing Strategy

なぜABM(アカウントベースドマーケティング)は製造業と相性がよいのか?(3) - ABM実行時のボトルネック -

ブログ記事一覧

ABMを実施するうえでのボトルネック 

ABM連載の第2回記事で筆者は、下記の4つの条件を満たしている企業はABMが有効に機能すると考えているとお話ししました 

  1. ABMのターゲット企業が特定でき、営業チームがカバーできる社数であること 
  2. 売上げの偏在性(かたより)が大きいこと 
  3. ABMのターゲットとなる企業の入れ替わりが少ないこと 
  4. ABMの推進によって顧客企業にも明確なメリット、付加価値を提供できること 

例えばプレイヤーが少なく、プレイヤー自体の入れ替わりも少ない自動車メーカーや、Tier1と呼ばれる上位の部品メーカーをターゲットとする製造業があげられます
また、自社が上記のような特定の顧客に対して集中して営業活動を行ってきている企業にとって、ABMという考え方アプローチは非常に親和性が高いです。 

しかし筆者の経験上、条件を満たしていてもABMで成果を出している企業は非常に少ないというのが実感です。 

では、なぜABMと親和性が高い企業においてABMで成果を出す=実行が機能しないことが多いのでしょうか? 

いろいろな要因があると考えますが、実行のhowがうまくいかない大きな要因=ボトルネックは、そもそもなぜ自社がABMに取り組むのかのwhyの部分、自社が目指すABMのゴール設定のwhatをきちんと定義し、社内に浸透していないことに起因していると考えます。
なぜwhywhatが浸透していないとどう実行実現するのかのhowが機能しないか、その理由を考えていきます  

ABMとパーパス・経営戦略との連携における重要性 

ABM関連のトピック記事といえば、ABMを成功させるためのツールや手法(how)に関するものは巷にあふれているかと思います。
一方で、ABMを通して何(what)を実現したいのか、なぜそこをめざすのか(why)という上流工程に踏み込んだトピックが少ないように感じます
自社でABMに取り組む際にはなぜ(why)ABMを行うのか、自社にとってのABMとは何なのか(what)を明確にして社内の全関係者が実現したい目指すべき姿(ゴール)を理解し、共通認識としてもつことが重要になります。

つまり、どのような手法、ツールを用いて関係者を巻き込んでABMを実現するのか(how)は、ゴール設定、why、whatの合意形成ができてからでないと実際には設計できないということになります
目指すABMのレベルによっては、営業、設計、製造などマーケティング以外の他部署との連携の必要性、度合いが大きく変わってきます。
キーステークホルダーの理解や協力を得てABMを実現するためにもゴール設定、whyに対する納得感・理解がないとABMの実現の可能性は大きく低下します。 

ABMは、各社ごとのパーパス(組織や企業の存在理由や存在意義、つまり「何のためにこの会社があり、何を実現するために事業をするのか」)および成長戦略や中期経営計画を実現するためのものなので、各社各様となります。
自社がどんな会社になっていきたいのか、存在意義はなにかのパーパスの設定がまずありそれを具現化するためのABMのゴール設定があって初めて、何のために(why)、何をするのか(what)が結びつきます。 

そのため、ABMのゴール設定はマーケティング単独で行うことではありません。
まず経営レイヤーのパーパス成長戦略などがあり、つぎにそれを実現するためのABMのゴールが来るという順序になります。
パーパスや成長戦略を実現するための手法=ABMであるからこそ、マーケティング部門単体ではなく、企業全体で取り組むべき理由になります。 

ABMの実行における司令塔の必要性 

弊社にご相談いただくメーカー様たちの多くは、ABMのゴールを自社の既存製品を特定の顧客に拡販したいという要望を持っております。
また特定の顧客の現在および将来に向けた顕在、潜在ニーズを把握し、それにフィットした製品の開発、販売をみすえたABMの実現を目指されています。
これを進めるためには他部門との連携が必要であり、場合には組織の改編も含めた社内変革も必須となります
他の部門と横並びであることが多いマーケティング部門ではなく、複数の部署を統括できるような機能を持った部門が指揮をとることが求められます。 

つまり、横並びの部門・機能ではなく、部門の垣根を超えた「司令塔」的役割・機能が必要になります
一方で、部門を超えた経営レベルでマーケティングを考え実行する役割の代表格であるCMOは日本企業の811%にしかいない 1という事実が、ABMを経営施策として実行する際の障害になっているともいえます。 

さらに、経営レベルのマーケティング機能の不在はマーケティング機能を一つの方向性にそろえることをも難しくします。
例えば、一口にマーケティングといっても、大企業になればブランド施策は広報、webマーケティングは情報システム、販促寄りのキャンペーンは各事業部の営業推進など機能が分散していることがほとんどです。
それぞれのマーケティング機能を統合する機能が無い限り、マーケティングの足並みをそろえることは難しいのが現実です。 

特定の顧客の現在および将来に向けた顕在、潜在ニーズを把握し、それにフィットした製品の開発、販売をみすえたABMの実現とは「自社の製品視点から、クライアントのニーズ視点、最終的にはクライアント企業の成長、挑戦に寄与するという視点」への移行だと言えます。 

上記を実現するためには、自社視点での技術のシーズを活かすプロダクトアウトという企業文化から、マーケットインテリジェンス(市場戦略情報)などの顧客視点をもとに顧客のニーズを汲みとって製品開発を行うマーケットインへの転換などが必要です。
ABMという名前であるもののマーケティングの部門・機能だけでなく全社的な取り組みを必要とします。 

実際に計測・制御機器メーカー大手である横河電機では、企業文化の核心をともなう企業変革のために従来のマーケティング機能に加え、中長期経営計画立案、R&D、新事業開発など経営企画機能の一部をマーケティング部門に移管しております。
マーケティング部門に大きな権限を与えることでマーケティング機能の強化を図っています。2 

上記のような理由で、ABMの推進には単独の部門だけでなく、機能を超えた全社的な取り組みが必要になります。
企業変革をともなうABM推進のボトルネックになるのは、根本的にはマーケティング組織以外の部門が自分事と取り組むべき挑戦として認識をしていないことです。
また、部門の利害調整を超えて取り組ませることのできる「司令塔」のような機能が必要だと経営側が認識していないことも原因だと筆者は考えます。 

つまり、全社的な取り組みであるABMで成果を出すために、まず実行(how)する前に以下のことが重要です
1. 自社のパーパス経営目標ときちんと紐づける(why)
2. 目指しているABMのレベルを具体化し、そのためには連携が必要な機能をきちんと定義、設計する(what)
3. 各組織のミッションに組み込む 

あわせてABM実行段階での各組織の利害を超えて全社を動かしていく権限を「司令塔」としての機能を持つ「組織、チーム」に持たせることが重要で、ABMの推進、成果を出せる可能性が飛躍的に高めることができると筆者は考えます。 

今回はABMのゴールと経営目標をリンクさせること、実行時における司令塔の役割の重要性に関してお話いたしました。
次回は、ABMの発展段階を、近江商人の三方よしという古くからある考え方とリンクさせながら考えていきます 


■注釈

  1. 日本型CMOの現状と展望 https://www.jstage.jst.go.jp/article/marketing/39/1/39_2019.023/_pdf[]
  2. BtoBマーケティング インタビュー Vol. 1 横河電機株式会社 常務執行役員 兼 マーケティング本部長 阿部 剛士 氏 https://www.b-forum.net/series/pages/btob_vol1/[]